出典:Safe Rooms for Tornadoes and Hurricanes(Fema)

先日、埼玉県草加市新田保育園、幼稚園、小学校、中学校の保育士や先生方、約80名に対して、「本気の学校防災〜あなたのもしも!?が子供を守る〜」と題し、自然災害対策(地震、水害、噴火)と不審者対応、校内テロの対処法などの内容でワークショップを行った。

その中である先生から「昨年、竜巻を経験したのですが、もし巨大な竜巻が校舎に向かってきたら、生徒をどう守ったらいいのでしょうか?学校の竜巻対策について教えてください」というご質問を戴いた。

竜巻災害はあまり話題にならないが、2017年には日本国内で11万6192回も竜巻注意情報が発表されており、月別では8月が9万4927回と1年で一番多く発生しているが、地域によっては9月が最も多い場所もある。

下記の「竜巻注意情報データベース」によると毎月、日本のどこかで竜巻が発生していることがわかる。

■竜巻注意情報データベース
http://agora.ex.nii.ac.jp/cps/weather/tornado/


Incredible footage of Fire Tornado 'Firenado' in UK (出典:Youtube)

さて、校舎に竜巻が向かってきたらどうするか?FEMA(米国連邦緊急事態管理庁)が作った下記の「竜巻から生徒を守る方法」の資料によると、次のことが書かれていた。

出典:Safe Rooms for Tornadoes and Hurricanes(Fema)

■Protecting School Children fromTornadoes(FEMA)
https://www.fema.gov/media-library-data/20130726-1529-20490-7021/ks_schools_cs.pdf

まず予防対策として、各学校に自然災害から生徒を守るためのセーフルームを作ることを紹介している。このセーフルームは、ハリケーン、トルネード(竜巻)が来たときに素早く逃げ込み、生徒を守る目的の建物だが、設計方法から寸法、部材の種類まで詳細に書かれている。

 

また、竜巻から身を守る方法については竜巻が多くなる時期の前、地域によっても違うが6月くらいに「竜巻対応訓練」を行い、生徒に竜巻についての様々な情報を教ている。家に居る時に竜巻を発見したら、通学中のスクールバス内で竜巻を見たら、どのように自分の身を守るかを教えている。

大人であれば、スマホを持っていたり、防災アプリなどで竜巻警報などを瞬時に知ることが出来るが、そのようなアプリを持っていない子供達は、自分たちの五感を使って、身を守る必要がある。アメリカでは以下のように子供たちに「竜巻の見分け方」を教えている。

アメリカで子供に教えている「竜巻の見分け方」

1、色の特徴
非常に暗い(黒い)雷雨または不気味な外観(茶色、緑色、または黄色の雲色)を帯びるものは、激しい雷雨の兆候となる可能性がある。

雲の色と闇は、嵐の巨大な勢力と太陽光線の遮断によって引き起こされる。
また、強烈な嵐は、雹、非常に激しい雨、そして風を巻き起こす。

2、音の特徴
貨物列車が通り過ぎるときのように、木々や建物に強風が衝突すると轟音が発生する。音が大きくなるほど竜巻が近づいているため、迅速に強固な建物の1階に逃げ込み、壁沿いで姿勢をできるだけ低くし、通り過ぎるのを待つ。

3、雲の特徴

漏斗雲(出典:Wikipwdia)

漏斗雲(ろうとうん)は小さな回転する漏斗状の雲で、地面や水面に接触する状態になり、地上の場合、時速36㎞ほどから速い場合は時速100㎞ほどで移動しながら、ゴミ、ガラスやも木材の破片、葉、塵が次々に空気中に浮かん行くのが見える。吸い上げ渦が鉛直方向に伸びていき、勢力が増すと幅も広くなり、家や車が吸い上げられることもある。

危険なのは、竜巻の影響で破壊された建物の損壊物が飛散し、吸い上げ渦に混じることで、巨大な渦巻きが危険な凶器を集めながら、次々に破壊しながら進むこと。

下記のビデオでは、竜巻で飛散したガラスや木片が身体に刺さった人たちの救急処置訓練ビデオが紹介されている。


Disaster Drill 2018 (出典:Youtube)

4、スコールライン
ときには雷雨が「スコールライン」と呼ばれる黒い嵐の実線を形成することがある。また、スコールラインが近づくにつれて、急に冷たい風が吹いて来ることが多く、雲の上の方は、キノコの傘状に見える。

竜巻から身を守る方法

校舎内の場合
・窓から離れ、できるだけ飛散物のない廊下に頭を壁に向ける。頭部と頸部を守りながら、目を閉じ、顎を引いて身を低くし、竜巻が通り過ぎる約3分ぐらいをジッと待つ。目を閉じるのはホコリや飛散物から目を守るため。

・身を低くしている姿勢で大切なのは、つま先を立てておくこと。倒壊物に下敷きになったときに正座のようなつま先が寝ている状態だと、背中に乗った倒壊物を持ち上げることが出来ない。つま先を立てた状態を出来るだけ保つことで、倒壊物を背中で持ち上げたり、自力脱出を有利にする。

・竜巻が近づいてきたら、轟音と強風で身体が飛ばされそうになる。それでも決して走って逃げず、廊下に腹が付くくらいに身を低くすることで強風への抵抗を低くし、吹き飛ばされることを防ぐ。立つと吹き飛ばされやすくなるばかりか、ガラスや飛散物が刺さりやすくなるだけでなく、壁に叩きつけられて、骨折したり、衝突外傷と呼ばれる大けがをしたりする確率が高くなる。

自宅にいる場合
・竜巻が近づいてきたら、玄関から勝手口まで家中の全てのドアを閉じて鍵を掛け、ドアの補強力を最大にして風の抵抗を少しでも防ぐ。

・自宅で一番、ガラスや木片など、飛散物が少ないところで、屋根などが飛ばされない1階の安全なところで身を低くし、竜巻が過ぎるのを守る。バスルームや地下室などは、他の部屋に比べると比較的安全と言える。

・小さな弟や妹、ペットが居る場合は自分の腹の下に入れて守る。

・竜巻が去った後は、近所の川などの氾濫などに気をつける。

竜巻災害の二次災害としては、川の氾濫や浸水など広範囲で大きな被害を引き起こす恐れがあり、がけ崩れや土石流のような2次災害にも注意しなければなならない。

■リーフレット「竜巻から身を守る~竜巻注意情報~」(気象庁)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/tatsumaki/index.html

日本で、竜巻が全く発生しない月はない。日本の竜巻は、寒冷前線に沿って発生する寒気竜巻と、台風や発達した低気圧に伴って発生する暖気竜巻があるが、日本列島に台風が接近すると、台風の前面に暖かい空気が流れ込んで大気の状態が不安定になり、台風接近時には竜巻が次々と発生しやすくなる傾向がある。 

気象庁の災害データによると、1999年9月の台風18号の影響で、愛知県豊橋市で起きた竜巻は住宅全壊41、半壊2619、負傷者384名という大きな被害を出した。

今後の課題として、事前に竜巻警報が出たら、規模にもよるが医師1名、看護師3名がDisaster Medical Response Team (DMRT:災害医療対応チーム)となって、竜巻用救急キットを持ち寄り、各病院毎の複数チームが竜巻被害が起こった場所へ駆けつけるような体制を作ることができば、理想なのかもしれない。

巨大竜巻が発生することが予想される場合、数十名の負傷者が出ることを予測すると消防だけでは対応できないことが明らかだ。各病院が持つ救急車で緊急走行してDMRTが現場に出動する仕組みが全国に出来れば、竜巻以外にもテロや他の自然災害における医療対応もできると思う。

(了)


一般社団法人 日本防災教育訓練センター
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