アメリカのコネチカット大学大学院で運動生理学を専攻しスポーツにおける熱中症を専門に研究してきた立命館大学講師の細川由梨氏は、直腸温が40.5℃を超えて10分~15分以内に氷水浸漬を開始することをポイントに掲げる。水温はできれば2℃、高くても14℃以下の水に浸すことが重要。仮に氷水浸漬ができなければ、効果は低くなるが、6~8枚の冷えた濡れタオルを取り替えながら全身を冷却し続けるローテイティング・タオル・メソッドという方法もあるようだ。が、ポイントは、なるべく冷やす体の表面積を大きくすることだとする。「日本では、患者を氷水に浸すことに抵抗感を感じる人が多いが、まず専門家の意識を変え、氷水浸漬に対するコンセンサスを得ることが重要」とする。永田氏も「氷水法は、AEDによる蘇生措置と同様、事前の訓練が必要で、かつ直腸温度を測るモニターも必要」と語る。ただし、もし家庭で熱中症が疑われる患者が出たら「勇気をもって家庭の体温計で直腸温度を測り、40.5℃を超えていたら、とにかく体全体を流水で冷やしてほしい」と強調する。

写真を拡大 出典:細川氏のレポートThe Timing of Exertional Heat Stroke Survival Starts prior to Collapse(Current Sports Medicine Reports. 2015. 14(4): 273-274.)。生存が確実されるのは30分以内に39℃以下になる灰色の部分で、黒線は、水温を示す。Aのように40.5℃を超えてから10分以内に冷却を開始すれば水温が14℃でも体温を39℃以下にすることが可能。
写真を拡大 (出典:「熱中症 防ぎ得た死」九州大学大学院助教准教授 永田高志氏著)

複数因子をつくらない事前対策


ただし、労作性も非労作性も、熱中症を未然に防ぐにこしたことはない。細川氏は、「熱中症は、複数因子が重なることで起きる病気。天候だけでなく、体調、寝不足、水分不足など、さまざまな要因が重なって、引き起こされる。日常的に気を付けることで予防するは可能」とする。

エアコンの設置や水分・適度の塩分の補給、十分な休息も、熱中症の基本的な対策だ。さらに、暑さ指数(WBGT)などを参考に、外での運動を控えることで熱中症になる確率を下げることが可能になる。

暑さ指数は、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射などの周辺の環境、③気温の3つを入れた指標。計算式は多少複雑だが、危険なレベルとしては、雲がなく晴れた日の外気温35℃・湿度60%に対して、WBGTはおおよそ31℃といった具合になる。アメリカでは1975年にスポーツ医学会がWBGTを用いた長距離走のための指針を公表しており、WBGT28℃以上の場合は、10マイル以上の長距離走を禁止することになっている。オリンピック競技の実施については、組織委員会が実施の可否は判断するが、観客や大会関連の業務、あるいはボランティア参加する際、こうした指数を参考にすることは自分の安全を確保する上では大いに参考にできそうだ。

(了)

リスク対策.com:中澤幸介