【カイロ時事】イランの核開発で中心的な役割を担ってきたといわれる科学者モフセン・ファクリザデ氏が27日、首都テヘラン郊外の幹線道路で暗殺された。何者の仕業かは不明だが、潜在的脅威となる人物を緻密な諜報網で常にマークし、周到な準備で殺害もいとわない手口はイスラエルや米国の常とう手段ともいえる。イランは報復も辞さない構えで、米国などとの緊張は一段と激化しそうだ。
 イラン最高指導者ハメネイ師は28日の声明で「実行犯と責任者への厳罰が重要だ」と報復を警告。さらに、ファクリザデ氏が推進した核開発を継続する必要性を強調した。ロウハニ大統領は28日、イスラエルの暗殺への関与を強く示唆したが、イスラエルは沈黙を保っている。
 「ファクリザデという名前を覚えていてほしい」。イスラエルのネタニヤフ首相は2018年4月、イランから秘密裏に持ち出した核開発関連資料の公表に際し、ファクリザデ氏を名指しで批判。03年まで行われていたという核開発計画に深く関わり、現在も核兵器技術の取得を目指していると非難していた。
 さらに米紙ニューヨーク・タイムズはかつて、核兵器開発を積極的に推進してきたとされる同氏を、「原爆開発の父」とも称される米物理学者オッペンハイマー博士となぞらえて報道。周辺の人物が多く殺害される中、「何度も暗殺を逃れている」と伝えていた。
 イランでは今年6月以降、核関連や発電所など重要施設での不審な火災や爆発が続発。中部ナタンツのウラン濃縮施設で起きた爆発では、イスラエルの関与が疑われた。一時は対抗措置も検討されたとみられるが、対イラン敵視のトランプ米大統領が大統領選で再選に失敗する事態に期待し、米国を刺激しないよう抑制的な対応を取ってきた。
 トランプ氏は選挙後もイラン核施設への攻撃を模索するなど、来年1月の任期切れ前に駆け込みでイランとの対立を強める可能性も排除できない。一方、バイデン次期米大統領は核合意への復帰を含め、条件付きでイラン政策を見直したい考えだ。
 イランとしては制裁で疲弊する国内経済の立て直しに向け、次期米政権と制裁解除や関係改善の糸口を見つけたいのが本音だ。イラン側は「実行犯を見つけ、処罰するまで休まない」(バゲリ軍参謀総長)と強硬だが、報復措置の規模や時期によっては本格的な軍事衝突に至る懸念もあるだけに、対応を慎重に見極めるとみられる。 
〔写真説明〕テヘラン郊外で、襲撃されたイランの核科学者ファクリザデ氏の車=27日、イラン国営テレビ提供(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)