東北地方を中心に今年度のクマによる人的被害が過去最多となる中、自治体の対策が追い付いていない。餌となるブナの実の不作が主な原因とされるが、過疎化に伴う耕作放棄地の拡大も背景にあり、根本的な対策は難しい。クマを駆除した自治体には「かわいそう」との批判が集まるケースもある。事態の深刻さを伝えようと、東北の知事らは国にクマ対策の緊急要望を行った。
 環境省によると、今年度、クマによる被害を受けた人は10月末時点で180人で、既に過去最多を更新。ブナの不作でクマが人里に近づいたためとみているが、担当者は「過疎化で人間の土地利用が減り、クマの生息域が拡大している」とも指摘する。
 全国最多の秋田県では、今年度の被害人数が今月17日時点で69人に上る。県自然保護課は餌不足に加え、耕作放棄地の増加もクマ出没の一因と分析。県内の2015年の耕作放棄地は9530ヘクタールで5年前から3割近く増えた。県林業研究研修センター幹部は「里山が減少して耕作放棄地が増え、そこにクマが住むことで森林と人が住む空間の境目があいまいになっている」と語る。
 県は5月、「ツキノワグマ出没警報」を発令。その後延長を繰り返し、現在は今月末を期限とする。発令中の駆除費用として地元猟友会に1頭当たり5000円の支給を検討している。
 秋田に次いで被害が多い岩手県では、来年度のツキノワグマの捕獲上限数を過去最多の796頭に引き上げた。ただ、担当者は「大量に出没した次の年も同じくらい出没するとは限らない」と対策の難しさを語る。
 駆除へのクレームにも悩まされる。秋田県内のある自治体では駆除後に「殺す必要があるのか」といった抗議の電話が殺到。県自然保護課も「駆除後2、3日は通常業務ができないほど電話が鳴りやまなかった」と明かす。
 「人命への危険が差し迫っている」。北海道東北地方知事会の達増拓也会長(岩手県知事)らは今月13日、伊藤信太郎環境相に緊急要望。頭数管理に必要な経費の支援が受けられる「指定管理鳥獣」にクマを加えることや、建物内に侵入したクマへの麻酔銃使用の許可を求めた。達増氏は記者団に「クマの市街地への出没は日本共通の課題で、新たな局面に入った」と訴えた。環境省はクマの指定管理鳥獣への追加指定に向け、検討を本格化させる。
 酪農学園大学の佐藤喜和教授(野生動物生態学)は「クマが市街地の近くに住んでいる状況はリスクが高い。人の生活圏の近くに定着させないことが大事だ。クマに罪はないが安全のために捕獲せざるを得ない」としている。 
〔写真説明〕クマの出没を想定し訓練を行う関係者ら=4月21日、秋田県鹿角市(県自然保護課提供)

(ニュース提供元:時事通信社)