NPO 法人広報駆け込み寺代表 


三隅説夫氏

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江戸川大学教授 
濱田逸郎氏

 

東日本大震災では、ツイッターやフェイスブックなど誰もが手軽に情報発信できるソーシャルメディアが注目を集めた一方で、被災地では手書きで避難所に張り出された石巻日日新聞の壁新聞や、コミュニティFMなどアナログ媒体が大きな役割を果たした。そして、これらのメディアを通じて伝えられた情報の中には、現地での生活に不可欠なものもあれば、真実とは違うデマや、何が真実か分からないあいまいなものも多く含まれていた。今後のメディアコミュニケーションのあり方を、江戸川大学の濱田逸郎教授とNPO 法人広報駆け込み寺の三隅説夫代表に対談していただいた。聞き手は本誌編集長・中澤幸介。

Q  東日本大震災ではインターネットを活用したツイッターなどが情報をいち早く伝えました。濱田先生はどのように評価されていますか。

濱田:日本でインターネットが普及したきっかけの1つが阪神・淡路大震災だったと言えます。電話も携帯電話もつながらない状況の中、神戸にあったいくつかの大学や研究機関のサイトがつながったことで、インターネットのパケット通信は災害に強い、という一般的な認識に結びつきました。今回の大地震でも、携帯電話や固定電話がつながりにくい状況の中、ツイッターやスカイプなどインターネットを活用した通信手段が活躍しました。

そもそもインターネットのベースとなったARPANET(Advanced Research Projects Agency Network)という仕組みは、米国が旧ソ連に対する軍事警戒として、電話などの通信網が爆撃を受けた場合にも耐え得る通信網として開発、整備されたものですから、災害時には強いわけです。

Q  一方で、被災現場では新聞などローカル・メディアが重要な役割を果たしました。

三隅:被災地では停電でテレビを見ることができなかったため、新聞やラジオが大変役に立ったという話を多く聞きました。地元の新聞社やラジオ局がものすごく頑張って安否情報を伝え続けたのです。固定電話も携帯電話も駄目で、日本全土で見ればインターネットが優位であったことは事実でしょうが、現地ではそれすら使える状況ではなかった。そこには全く逆のアナログの世界があったということです。

濱田:炊き出しや生活用品の配布など地域のきめ細かな情報が求められたことから、県レベルの地方紙より、もっとローカルの媒体が力を発揮したと言えます。ワシントンの博物館に保存されることになった石巻日日新聞の壁新聞、そのほかにもコミュニティFM や臨時災害放送局が有効に機能しました。

危機管理にはコミュニティの視点が重要

■3つの「C」が力になる
Q  IT によるボーダレス社会が広がる一方で、危機管理には「コミュニティ」という視点が重要になるということでしょうか。

三隅 今後、危機管理では3つの「C」が注目されてくると考えています。1つは、コミュニティ、2つ目がコミュニティの中でのコミュニケーション、そして3つ目がコラボレーションです。コミュニティをつくって、それを上手く活用すれば大きな力になるはずです。その大きな力に加えて、例えば中央の企業と現地の企業がコラボレーションして復旧や復興に取り組めれば、コミュニティ力をさらに増幅させることが可能になります。

濱田:災害そのものを無くすことはできませんが、被害を減らすことはできます。キーワードは「減災」です。コミュニティの力は減災につながります。三隅さんの言う通り、今、まさに3つのCが重要になっています。

デマ=「重大性」×「あいまいさ」

Q  ソーシャルメディアをめぐっては、震災後、デマやあいまいな情報がツイッターやチェーンメールで流れ大きな社会的な問題になりました。

濱田:確かにそうした現象はありました。ただ、実はツイッターなどに流れたデマ情報は、多くの人が見ているために、すぐに打ち消されています。ところが、知り合いから送られてくるメールの場合は、受け取った人が信じてしまう。つまり、ツイッターに代表されるソーシャルメディアではあまりデマが拡散する危険性は少ないのですが、チェーンメールはとても危ない側面を持っているということです。

デマというのは、ものごとの「重大性」×「あいまいさ」で大きくなります。あいまいな話であればあるほど、しかも話題が大きければ大きいほど広がりやすい。福島第一原発事故による放射能漏れの情報は、重大で、かつあいまいであるが故に風評につながってしまったと言えます。

 

ホリエモン効果で実証された
ソーシャルメディアの有効性

Q  情報を受け取る側も、さまざまな情報が飛び交う中で、それらをどう処理するかが重要になります。

濱田:今回の東日本大震災では、新聞やテレビのほうが「大本営発表」をそのまま流してしまったという面も否定できません。逆にツイッターは3月15日ぐらいから、福島第一原発について「メルトダウンしているのではないか」など危険性を指摘していました。まだ十分な検証はできていませんし、デマが多くあったことも確かですが、少なくとも大手メディアのような「大本営発表」にはなっていなかったように思います。

三隅:今やツイッターなどのソーシャルメディアは、色々な情報を発信していますが、現場に一番近い人の情報が、より正確なことは言うまでもありません。しかし、中には裏をとっていない、不正確な情報が含まれることも多々ある点に注意をする必要があります。

濱田:今回の大震災でツイッターの性格は大きく変わったと、私は考えています。ツイッターというのは140 字に限られた文字数で、これまでは「いま、虎ノ門にいる」などと、仲間同士がつぶやきながら情報交換するためのツールでした。ところが今は、何かあったらすぐに要件を知らせる情報発信のためのメディアになったと思うのです。

例えば、ホリエモン(堀江貴文)のツイッターには、彼が刑務所に収監されている今でも73 万人以上がフォローしていますが、今回の震災に関連して彼のフォロアーが被災地で不足しているものや、困っていることなどをツイッターに書き込むと、ホリエモンがそれをリツイート(RT)機能を使って転送して、それが彼のフォロアーすべてにつながり、さらにフォロアーが再びそれをRT して、そのまたフォロアーへと広がるという情報拡散が見られました。

今や一般市民はもちろん、首相官邸、多くの市町村、あるいは企業でもツイッターを情報発信の手段として普通に使っています。情報化社会においては、危機の際にツイッターを使うことは、ある意味必須になったと言えるかもしれません。

■フェイスブックの台頭

ツイッターが情報発信のツールになった理由の1つに、仲間同士の情報交換のツールとしてフェイスブックが使われるようになったことが挙げられます。フェイスブックのほうが、仲間同士で連絡しあうメディアとしては使いやすいと考えられるようになったわけです。今回の震災でも、フェイスブックを活用して連絡を取り合った人は多いと思います。

メディアの特性を使い分けて、広報戦略を考えていくことも必要です。

Q  誰もが情報発信ができるようになったことの半面、例えば「想定外」が流行語のように使われているように、安易に言葉が使われすぎ、それがまた風評の原因になるようなことも起きているのではないでしょうか。

三隅:今「想定外」と「一定の目途がついたら」というのが、小学生の間で流行っている言葉だそうです。お母さんが「宿題をやりなさい」と言うと、子どもが「一定の目途がついたらやる」と言う。

そもそも「想定したくない」から「想定外」と言い逃れをする。もちろん、津波の高さや大きさが予測を上回ったということは事実でしょうが、最悪の事態を考え、徹底的にあらゆることを考えておくのが危機管理ですから「想定外」などと軽々しく言ってはいけないのです。

■問われる企業のマスコミ対応
Q  言葉のあいまいさに加え、誰が発表すべきことなのか、担当者のあいまいさも問題でした。

三隅:危機管理の対策としては、普通、司令塔が3人は必要といわれます。会長、社長、副社長というように。3人のうち、必ず1人は社内にいなければなりません。ところが、3.11 の地震が起きたときに東電では、会長と社長が不在でした。はたして3番手を決めていたのかどうかは疑問です。あの時、右往左往して、結局、時間を費やして対応に遅れが生じてしまったことは否定できません。情報の発信窓口をあらかじめ定めておいて、危機発生時にはそれが機能するようにしなければなりません。当たり前のことですが、これができるか、できないかはトップの姿勢によります。

ただ、東電に同情するのは、会見での発表内容は国や原子力安全・保安院にかなり制約されていたと思われます。

個人的には、民間企業のリーダーとして、本来なら社長が自発的に発表すべきだったと思います。国の危機管理という側面から言えば、理想的なのは国と原子力安全・保安院と東電が一緒になって記者会見をして情報発信することでしょうが、そうした体制を構築するまでにも1カ月近くかかってしまいました。

Q 会見の際、特に重要なことは?

三隅:会見ではスポークスマンを固定しなければなりません。いつも同じ人が会見することで、「ラポール」といってスポークスマンと記者の間に“コミュニケーションの橋”が架かるのです。ところが、今回は当初、東電は入れ替わり立ち替わり色々な人が出てきて広報窓口を一本化していませんでした。

その後の計画停電の説明はあまりにひどかったように思います。

濱田:最近では、会見でフリーの記者の質問が厳しくなってきているようです。ラポールの裏返しになりますが、フリー記者の場合は、既存メディアの記者のように締め切り時間や記事の文字数制約がありませんから、いつまでも聞き続ける。その内容は、すべてネットを活用したユーストリームやニコニコ動画などで生中継されるわけです。

今後はこうした報道が普通になってくる可能性が十分にあるわけで、企業の広報担当者はこうした対応も考えていかねばなりません。

■予測不可能な時代の企業経営

Q  今後、企業経営にはどのような危機管理の視点が求められてくるとお考えですか。

三隅:予測不可能な時代が来ています。地震は来るだろうと思われていたが、これほどの被害にまでなるとは考えられていなかった。民主党がこの程度だとは誰も思っていなかった。去年のことで言えば、リーマンショックが終わったのに円がどんどん上がって収束しないことも予想できなかった。そして気候変動による夏の猛暑。おまけにロッテが優勝し、今年は(7月7日現在)ヤクルトが首位を走っている(笑)。

こんなふうに全く予測できないことが起きている時代に企業に求められるのは3つのパワーです。

1つは危機管理能力。「想定外」なんて“逃げ言葉”を使わない、最悪の事態を想定した対策が必要です。

2つ目は情報発信力。的確な情報をいつ、どんなタイミングでどう発信するのかが問われます。そして3つ目はCSR(企業の社会的責任)力です。今回の大震災では企業のCSR 力がものすごく問われたと思います。本業はもちろん、本業以外でのCSR も重要でしょう。

これらを実現するために「現場力」と「実行力」が求められています。現場の状況をいかにスピーディに捉えるか。そして、それに対応する実行力をいかに確保するか、です。

濱田:今回の震災で世の中も人々の心理も大きく変わったと思います。人のつながりを大切に思う傾向になってきているように思います。おそらく、結婚したいという人も増えてくるでしょう。人の消費パターンも変わります。何か社会のためになる、そんなコンセプトに対して消費ニーズが高まってくるでしょう。企業のビジネススタイルも当然、変化していかなくてはいけません。それに併せて、情報発信のあり方も変えていく必要があると思います。