PSCユーザー企業が語る危機管理の最前線

 

損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社ERM部部長 落合正人氏(左上)
株式会社マインドパレット代表取締役 神尾隆昌氏(右上)
日本マイクロソフト株式会社パートナーセールス統括本部パートナーテクノロジー本部 
シニアパートナーテクノロジーストラテジスト 澤木俊彦氏(左下)
【モデレーター】株式会社ピーエスシーICTコンサルティング事業部部長 中村晃久氏(右下)

 

中村:まず、不測の事態にどうマネジメントしていくか、どう不測の事態をなくしていくか、落合様からお話いただきたいと思います。

落合:不測の事態をなくすとはどういうことなのか。危機管理の観点から考えると、管理の対象とすべき危機事態そのものが予測や定義をされていない状況をなくす、これが一番の根っこになるのではないでしょうか。そのマネジメントの目的は、混乱事態の収束と立て直しの「スピードアップ」に資するためです。 

一方、不測の事態をなくすことをBCPの観点から考えると、事態が予測通りの内容ではない状況をなくす、つまり、危機事態の内容を予測して準備する、ということになりそうですが、内容予測なんて無理ですよね。予測の通りの内容にはなりません。そこでBCPでは危機が発生した際に時間的に弱点となるかもしれない事態に対して、対処の選択肢をより多く準備して応用力を養うことが行われています。そのマネジメントの目的も、混乱収束と立て直しの「スピードアップ」に資することです。危機管理もBCPも、何のためにやっているかというと、結局はスピードアップのためなのです。では、有事の際、何が対応スピードの差になりうるのか。大きく3つの要素があります。 

①コミュニケーション・・・・急いで伝えなければならないこと、聞かなければならないことがある
②蓄積データ利用・・・・急いで確認しなければならないデータがある 
③ICT作業環境・・・・急いで作成し使用しなければならない資料がある

ICTが進化して「手段」の選択肢が増加している中で、この3点がスピードアップで他社と差がついてくるポイントとしてクローズアップされてくるのではないでしょうか。

中村:マイクロソフトは、3.11の時にはメーカーならではの強みで対応されたと聞いておりますが、そのあたりについてお聞かせください。

澤木:3.11の2カ月前に、本社が品川に移転しました。そこで目指したのが、フリーアドレス、ペーパーレス、テレワークでした。3.11の当日はセミナーをやっていて、380人のお客様が会議室に足止め状態となりました。実は、品川に移ってきたときに社員食堂を作ったのですが、それが備蓄基地になってお客様に食糧の提供ができました。 

弊社は、2010年からAzureによるWebサイトを構築するクラウドサービスを提供しています。このAzureを使うと10秒でWebサイトを立ち上げることができるのです。3月14日にはAzureによる「計画停電カレンダー」を、3月15日にはWindowsPCの節電対策Webサイトを、3月18日には文科省の放射線情報提供サイトの構築を開始しました。 

社内の危機管理面では、地震発生後すぐに震災対策本部を設置し、安否確認を行いました。インターネットと弊社のツールを活用し、当日のうちに2000人の社員の安否確認ができました。足止めを食ったり出勤できないという社員には、メール、インスタントメッセージ、Webなどで「在宅するように」通知を出しました。85%の社員が在宅勤務状態になりましたが、新しいオフィスに移転したときにテレワーク作りを進めていたため、期せずしてこの体制が功を奏したといえるのではないかと思っています。 

契約書類をやりとりしなければならないということになると、その社員はオフィスに行かないと印鑑が押せませんが、移転とともにペーパーレスもかなり進めていましたので、在宅勤務者が85%も出ても対応できました。 

顧客をサポートする部署が調布にありましたが、計画停電の地域に指定されたので、サポート要員を大阪、名古屋に移してサポートを続けました。通常業務に1週間ほどで復帰できたのも、新社屋への移転を機に、テレワークやペーパーレスなどの取り組みを進めていたからではないかと考えています。

中村:ベンチャー企業の立場で、神尾様から話を聞きたいと思います。

神尾:弊社は2011年5月に、エンジニア2人で立ち上げた会社です。いまは30人ほどの社員がおり、スマートフォンのアプリを開発しています。写真を共有するソーシャルメディアを手がけており、ユーザーは世界中に900万人います。サービス対象は世界中に広がっており、災害が起こればシャットダウンする恐れがあります。ユーザーの情報も預かっているということで、危機管理に関しては頭が痛いことばかりでした。何から手をつけるかというより、行き当たりばったりで対応してきたというのが実情でした。 

3.11の時はベータ版の開発をしていて、本式のリリースをする直前。3人でレンタルオフィスで仕事をしていました。それまではPCサーバで開発していましたが危険なので、急遽クラウドに上げ、それ以後はオンラインで仕事を進めてきました。社員が30人になった今、期せずして在宅で仕事ができるような体制ができあがっています。 

これまでは、不測の事態に備えるどころか、目の前に起きたトラブルを乗り越えることで精一杯の状態でした。いま振り返ってみると、何から着手したらいいかわかりませんでした。優先順位のつけ方というのはあるのでしょうか。

落合:まず「夜も眠れないほどの心配事・最も起きて欲しくない事態」から着手していくことが大前提になると思います。そして、なぜそれに優先的に着手するのかの理由をきちんと整理しておく。心配事が沢山あるならそれらを洗い出した上で、少しずつ着手していけばいいでしょう。 

社員が数十人というケースであれば、有事の時に早くコミュニケーションがとれ、早く蓄積データを利用でき、早く作業環境を作れる状況がそろえば、後の手段はみなさんの頭の中に入っているので、話し合いで意志決定できていくのではないでしょうか。もっと人が増えてスキルや専門性のばらつきが大きくなってきたら、引き継ぎ書に近いものを作ったり、訓練を通じて社員が自ら動けるようにしたり、ということになってくるのではないでしょうか。

中村:今お話にあがったコミュニケーションであったりICTの作業環境作りについては、マイクロソフト社もツールをお持ちだと思いますが。

澤木:危機管理に対しては、「どこでもオフィス」ということで、どこでも仕事ができる環境作りを提唱しています。「クラウド」にすべてデータを上げて、それをつなぐ「ポータル」と「社内SNS・メール」などとの連携で、万が一の時の代替機やサテライトオフィスが実現できます。 

コミュニケーションの面で、弊社が有事の際に一番役に立ったということで紹介しているのがオンライン会議やチャットなどでリアルタイムの対話ができる「Lync」です。3.11の時は、仙台支店との連絡はチャットを使うことで、無事であることがその日に確認できました。Lyncというツールから右クリックすれば、電話もできるし、Skypeも使える。インスタントメッセージもやりとりできるし、最大250人までのビデオ会議もできます。コミュニケーションツールとして多くの企業様のお手伝いをさせていただいています。

中村:マインドパレットでは、ユーザーとして利用なされていますが、こういったツールはいかがですか。

神尾:既に作業環境もサービスの実行環境もクラウドに上げてあります。アジアにユーザーが多いので、シンガポールにデータセンターを置き、リスクに備えたIT環境が構築できています。コスト削減をしなければいけないという理由もあり、信頼性とサービスの継続性が優れていることで、昨年の12月からマイクロソフト社のAzureを使っています。安心して、他のところに手が回せるようになりました。

中村:落合さんからこれからの課題などについてまとめていただけますか。

落合:コミュニケーション、蓄積データの利用、ICTの作業環境という3つの観点でのクラウド利用やツールが整いつつあると感じています。電気、ガス、水道、交通、通信などのインフラがだめになって、仮にそれぞれが「イッセーノセ」で立ち上がるとき、内部、外部とのコミュニケーションがとれる、蓄積データが利用できる、ICTの作業環境がある・・・・こういう選択肢を持っていることが、他社にスピードで差別化できるということになりそうですね。 

これら3つの要素全部を1つで実現するツールは非常に高いけれど、パーツに分けて導入するのであればかなり安価になっています。技術進化が激しく、サービスもリーズナブルになり、細切れのツールが出始めているので、危機管理やBCPの目線でスピードアップが目的であるなら、これらのツールの利用は非常に大事な観点ではないかと思っています。