「隠蔽」が暴露されたとき、当該企業は消滅への道をたどることになります

1.社内調査の端緒と社内調査を取り巻くリスク

内調査の端緒には、内部通報、財務監査を主とする定期監査などがあります。捜査機関による捜査によって社内調査をする必要性が発生する場合もあります。官公庁、例えば国税庁による査察等によって社内調査をしなければならなくなる場合もあり、さらにマスコミによる報道なども調査の端緒となり得ます。こうした社内調査の端緒については次のように2つの類型に分けて考えるのが有意義です。

第一の類型は、会社内の内部的な契機によって始まる社内調査です。内部通報、定期的な財務監査等で発覚するような場合がこれにあたります。第二の類型は、捜査機関による捜査によって、いわば外部的な契機によって始まる社内調査です。

2つの類型に分けて調査を検討する必要があるのは、同じ社内調査であっても、この2つの類型ではそれを取り巻くリスク状況が全く異なるからです。通常、社内調査におけるリスクには、(1) 調査するかしないかのリスク(2) 調査の過程におけるリスク(3) 調査結果(公表)に関するリスク、さらに(4) その結果保存に関するリスク等があります。第二類型の社内調査、つまり捜査機関による捜査や国税庁による査察等、外部的な契機によって始まる社内調査にあっては、特別なリスク要因があります。

まず「証拠隠滅リスク」があげられます。捜査機関が介入する切羽詰まった状態になった会社自体が捜査機関の捜査拡大を恐れて、罪証隠滅行為に走る可能性があります。典型的には、関係書類を捜索・差し押さえされる前にシュので、レッダーにかけたり、関係する文書を他の場所、倉庫などに移動したりするというようなことが行われます。それが「証拠隠滅リスク」となります。

また「捜査拡大リスク」というのがあります。一旦外部の捜査機関によって捜査が始まると会社のコントロールは及ばず、余罪と見られる不祥事が次から次へと露見し、捜査が当初想定していなかった方向へと拡大していきます。

さらに、外部的契機によって不祥事が明らかになった場合、会社の対応が後手に回り、慌てて記者会見を開いて不適切な対応をしてしまうことがあります。記者会見それ自体が不祥事になってしまい、イメージダウンとなるというリスク、すなわち「記者会見リスク」があります。

社内調査におけるリスクというのは、2つの類型では全く異なったリスク状況を検討しなければならないことがわかります。それと同時に、内部通報等の内部的な経緯によって不祥事を発見することがいかに重要であるかが理解できると思います。同じ不祥事が発生した時でも、会社がその端緒をつかむのが第一類型のように内部的契機による場合には、迅速かつ計画性をもって社内調査を実施することができる上、会社の自浄作用を発揮して先手先手で解決策を打ち出すことによって対外的なイメージの悪化を最小限にとどめることができるのです。むしろそのような会社の姿勢が、逆に会社の社会的評価を高めることすらあるのです。今回は、第一類型の社内調査に絞って以下に検討します。

2. 社内調査を実施するか否かに関するリスクについて

内部通報制度を設けると、様々な内部通報が寄せられます。中には、怪文書まがいの通報、上司や同僚への誹謗中傷、嫌がらせ、逆恨み、人事に対する報復としての虚偽通報などが持ち込まれることもあります。それらの、いわば「嫌疑性の薄い」通報全てについて、会社として正式な社内調査に移行させることは現実的ではありません。

嫌疑性そのものが小さい場合に、不用意に調査対象者にコンタクトしてヒアリングなどの調査を実施するならば、「犯人扱いされた」「被疑者扱いされた」などと抗議を受け、逆訴訟リスクが生じる可能性すらあります。訴訟に至らないまでも、仮にそうした内部通報が結果的に虚偽であった場合、当該従業員の会社に対する忠誠心は失われ、会社にとっても優秀な人材を失う可能性もあります。それだけに留まらず、調査を実施した法務部等の関連部署への風当たりも厳しくなって社内の人間関係も悪くなり、職場環境への悪影響も否定できません。

社内調査を開始する場合、これらの影響を十分に考慮し、通報事実の嫌疑性についてしっかりと見極めることが肝要です。

一方で、社内調査しないことのリスクも無視できません。調査しないことの最大のリスクは、被害の継続ないし二次被害です。例えば、無認可添加物が製造食品に含まれているとの内部通報があった場合、これを安易にガセネタ、虚偽通報と判断して何ら調査しなかった場合、健康被害等の継続、あるいは二次被害が発生して会社の立場をより深刻なものにさせることがあります。セクハラやパワハラ事例をとっても、第二、第三の被害者が出て、会社の綱紀が乱れ、大量従業員の退職など、取り返しのつかない職場への悪影響がもたらされることがあります。

これら被害者は、何もしないで放置している会社を訴えることもあります。また、せっかく内部通報者が勇気を出して通報したにも関わらず、会社がこれを完全に無視して調査を開始しなかった場合、内部通報者は会社の自浄作用を諦め、捜査機関やマスコミなどの外部機関へ告発する可能性があります。外部へ告発された場合には、上述の第二類型の問題が生じ、リスクは益々大きくなってしまいます。

特に、証拠隠滅リスクないし隠蔽リスクに直ちにつながることに注意すべきです。人間の行動心理として、事が小さいうちはその不祥事を隠蔽しようなどという動機付けは生じません。必要な調査を実施した上、厳正に対処し、社内の就業規則等にのっとり処分してガバナンスを回復させるものです。ところが、事が大きくなってしまうと、「これが公になったら大変なことになる」といった心理が働き、そこに「隠蔽」の動機付けが生まれるのです。この「隠蔽」というのは、調査しない、という不作為を通り越して、積極的な行為を伴います。例えば、関係書類のシュレッダーでの廃棄、監督官庁への虚偽報告書の提出、関係者間の口裏合わせ、下請企業への口止め工作などです。そして、もしこの「隠蔽」が暴露されたとき、当該企業は消滅への道をたどることになります。現実にそのようにして倒産に至った会社の例は非常に多いです。

3.社内調査を開始するか否かの判断基準について

第一類型の端緒、特に内部通報にあって社内調査を開始するか否かの判断は非常に重要です。そこで最初に行動すべきことは、内部通報者へのヒアリングの実施です。これは間を置かずに直ちに行うべきです。内部通報者は、通報後、会社がいつ調査を開始するか、今か今かと待っているものです。通報後に会社から何も連絡がないと、自分の内部通報が会社によって黙殺されたと考えがちです。それが外部への内部告発の動機となる場合があることは上述しました。

法務部やコンプライアンス部などの内部通報の受付担当部は、内部通報があった場合、直ちに内部通報者に連絡を取り、早い機会にヒアリングの場を設定する必要があります。この場合のヒアリングというのは、当該内部通報者によって指摘された特定の不祥事が果たして信ぴょう性あるものか、それとも人事等の逆恨みのための虚偽通報なのかを見極めるためのヒアリングであり、社内調査すべきか否かを判断するためのヒアリングで、社内調査そのもののヒアリングとは異なります。この初動ヒアリングを通じて、不正の懸念が具体的なものであり、抽象的な誹謗中傷などではないことが明らかになった場合には、本格的な社内調査を開始すべきです。

これに対し、内部通報にかかる事実が具体的な不祥事に関する事実ではなく、人間関係にまつわる誹謗中傷ないし逆恨み等であることが明らかになった場合には、それ以上社内調査を進める必要性は低いと言えます。この場合にあっても、通報者は会社がヒアリングを実施してくれて自分の言い分を聞いてくれたと感じるので、自分の「内部通報」が無視ないし黙殺されたとは感じないものです。つまり、外部への内部告発のリスクは低いうえ、仮に外部へ告発しても取り上げられることはない性質のものであり、やはり会社のリスクは低いと言えます。

問題は、いずれとも判断がつかない場合です。この場合には、次のようなルールに従います。

第1に、通報内容において現実に被害が継続し、二次被害発生の恐れがあるとの内容を含むものである時。こういう時は無条件で社内調査を開始します。調査を開始しないリスクは、取り返しのつかない深刻なリスクを会社にもたらします。

第2に、通報内容に被害の継続や二次被害の発生といった事実が含まれていない時。例えば、過去に一過性の被害が発生したのみで終息している、といった通報内容でも、当該不祥事が一般消費者の生命・健康に関連する、もしくは一般投資家・株式市場に関連する場合には社内調査を開始します。調査を開始しないで放置した場合の社会からのレピュテーション・リスクは非常に大きいからです。仮に一般消費者の生命・健康に関連していなくても、当該不祥事により被害が継続している場合、または二次被害発生の恐れがある場合には、無条件に調査を開始しなければなりません。つまり、上記の第1テーゼが第2テーゼに優先するのです。

第3に、被害継続も二次被害発生の恐れもなく、かつ一般消費者の生命・健康に関連せず、一般投資家や株式市場にも関連しない不祥事の時。例えば、従業員個人の非行行為などの場合には当該不祥事の職務関連性を基準とし、関連する場合には調査を実施すべきですが、職務関連性を有しない専ら勤務時間外の個人的な非行の場合、例えば「A従業員が休日中に痴漢で逮捕された」といった内部通報は、特に正式な社内調査はせずに当該問題社員に対し人事担当者への報告を求めるにとどめること場合が多いでしょう。

(了)