福和氏はいき過ぎた集中・効率化が災害に脆弱な社会を生んでいると警告した

安全に必要なもの削減の結果

11日、内閣府を中心とした政府の中央防災会議は南海トラフ沿いで地震など最初の異常が起こった場合の対応について報告書のとりまとめを行った。M(マグニチュード)8.0以上の地震が起こった際は、被害がなかったエリアでも続く地震に備えて津波の危険のあるエリアから1週間避難することなど、最初の異常があった際の大まかな方針をまとめた。このとりまとめを行ったワーキンググループ(WG)の主査である名古屋大学教授・減災連携研究センター長の福和伸夫氏が今年の災害を振り返った。

福和氏は今年の相次ぐ災害を振り返り、まず「集中・効率化を進めすぎている。大局観がなく、社会全体の安全をおろそかにしている」と現在の社会構造の問題点を指摘した。「都市部では鉄道の相互乗り入れや運行の広域化が進んでいるが、6月の大阪北部地震では鉄道の運休が広範囲に及んだ。また高層ビルやマンションが増加したが、この地震では約6万6000基のエレベーターが停止した。大阪には約7万6000基あるとされるので、ほとんどが止まった。首都直下地震であれば、東京の約16万基のうち大半が止まってしまうかもしれず、こうなると閉じ込めの際の救助は困難だろう」と大都市の脆弱性に懸念を示した。

関連して「地方も含めて都市化が進んでいるエリアでの土地利用がひどい」と福和氏は述べた。平成30年7月豪雨で洪水や土砂災害のあった場所、9月の北海道胆振東部地震で液状化や土砂崩れがあった場所はハザードマップで被害が予測できる場所だった。

また「本来必要なはずの人・時間・金をカットしすぎて、日本全体に余裕がなくなっている。組織の縦割りも進んでいることにより安全の全体像が見えてこない」と語った。北海道胆振東部地震では道内全体が停電するブラックアウトに見舞われたが、福和氏は「電力自由化などもあり、北海道電力が苫東厚真火力発電所で需要の半分強の発電をする集中化を行ったことが要因」と指摘した。さらにインフラについては「交通や電力など、相互依存が進みボトルネックとなる箇所が増えている。9月の台風21号での関空連絡橋の破損や平成30年7月豪雨での広島県呉市の孤立では、インフラ寸断への備えを改めて感じさせられた」と警鐘を鳴らした。

日本経済を支える中部地方の中心都市である名古屋市(出典:写真AC)

「JAPAN」と「3H」意識を

2016年度に約539兆円となった日本のGDP(国内総生産)を産業別にみると製造業が約2割を稼ぐ。製造業を中心とした愛知県の県内総生産は2015年度において約40兆円で東京都に次ぐ2位。隣接する静岡県も約17兆円ある。福和氏は政府の南海トラフ地震対応のWGで主査を務めていたが「もし南海トラフ地震が起こった場合、日本の産業の心臓部である中部地方を直撃することになる。自動車産業などは世界中に影響が及ぶことが必至だ」と指摘する。

大阪北部地震で946億円超という、1995年の阪神・淡路大震災の約783億円を大きく上回る地震保険金が支払われたことをふまえ、「南海トラフ地震の場合、地震保険の請求額は50兆円を超えると思われるが、減額支給することになる。そもそも、三大メガ損保の総資産を超えるような被害にどう対処するか。企業も保険に頼らず対策を進めるべきだ」と福和氏は語った。WGの報告書では企業に対し南海トラフ沿いで異常があった場合、被害のなかったエリアでも出火防止など施設の安全措置や従業員の避難などのほか、事前のデータのバックアップなどの対応を推奨している。また平常時からBCP(事業継続計画)の策定も呼びかけているが、事業継続のためにあらゆる備えをすべきだと福和氏は呼びかける。

さらに福和氏は「南海トラフ沿いで最初の異常としてM8クラスの地震による『半割れ』が起こった場合、被災地支援で手いっぱいで、その時点で被害のなかったエリアの支援まで手が回らない」と指摘。WGの報告書については「南海トラフ地震の臨時情報後の行動を示したものであるが、今やるべきことに多くの人が気づいてほしい。南海トラフ地震は日本が最貧国に落ちかねない危機である」と語り、メディアが国民に対して災害への備えの啓発を続けることも含め、意識改革を行うことが大事だとした。

福和氏は災害に強い国づくりで重要なこととして、次世代に社会を継承させるような長い視点を持つことを指摘。「過度の集中・効率化は短期的な利益は生むが、次世代につながる社会づくりにはつながらない。東京が地方から人を吸い上げる一極集中も好ましくない」と語り、中部の製造業が地元の人材に支えられていることを例に、現状の社会構造の改革を訴えた。「時間も空間も、遠近のバランスを持ってとらえることが大事。今はどちらも近くに焦点を当てすぎている」と福和氏は警告する。

さらに「私は日本には3つの『JAPAN』という考え方が必要だと思う」と述べる福和氏。その考え方は下記の通りだという。

Jは「地道」「自由」「地元」
Aは「頭を使う」「汗をかく」「愛を育む」
Pは「(いい)プラン」「(いい)プレーヤー」「(具体的)プロダクツ」
ANは「アナリシス」「アンテナ」「アンサー」

「これらを意識すれば日本をいい方向にもっていけるのではないか」と福和氏。さらに「災害対策に必要なのは『本音』で語り『本質』を知り『本気』で考え実践の3H」と語り、南海トラフ地震や首都直下地震に備えないとならない今、抜本的な構造改革も含めた「日本の3H」がまさに問われている旨を強調した。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介