多くの危険が存在する災害現場で災害対応活動の効率を高めるためには、チームとしての能力を向上させ、繰り返し訓練を行わなくてはならない。(写真はイメージです)

■チームビルディング

さて、いよいよこの章から最終章まで、一気に一般市民または組織の従業員がファーストレスポンダー※1として公設のプロのレスポンダーが現場へ到着するまでの数時間から数日間を繋ぎ、災害現場において真の自助・共助を実践するための具体的なノウハウの部分に入っていく。

※1 事故や災害が発生した時に初動対応に当たる公設の警察・消防・自衛隊・海保の職員を総称している呼び名。本シリーズでは“市民救助隊”Community First Responder(仮称)、または“民間事業者緊急対応チーム”Corporate Emergency Response Team (仮称)の意味を含む

我が国日本では災害対策基本法で各市町村管轄の下、自治体ごとに自主防災組織が作られている(米国のCERT:Community Emergency Response Teamはこれにヒントを得て組織されたと言われている)。また消防法のもと、全国の市町村に消防団が組織されていたり、一定規模以上の事業所には自衛消防組織がある。石油コンビナート等災害防止法や原子力災害特別措置法により、危険物質に対応する特別な自衛消防組織なども置かれている。このような自らの力による防災体制をあらかじめ備えていることは大事なことである。

しかし、その実態をクローズアップしてみると、様々な落とし穴があることに気付く。例えば自助~共助~公助への流れを円滑に行うための標準化された戦うルールがないこと、個々の対応レベルを示す基準がないこと、等々。それらの問題点を浮き彫りにしていくのはまた別の機会にするとして、本章では、いかにしてチームとして災害と闘っていけばよいのかを具体的に示していく。

その中で、市民救助隊(Community First Responder、以下CFR)、または民間事業者緊急対応チーム(Corporate Emergency Response Team、以下CERT)を組織として機動させるために必須なのが「インシデント・コマンド・システム」(以下ICSと呼ぶ)である。ICSは本誌でも何度も取り上げられている題材であり、読者の方にも馴染みのある言葉だとは思うが、本章ではこのICSを市民レベル・企業レベルの現場目線で解説していく。 

余談ではあるが、東京電力は2013年より正式にICSを組織として採用し、訓練を始め、2016年度からは体系的カリキュラム導入に向けての本格的な取り組みが始まっている。

【現場マネジメントの3大原則】

1.チームの安全  

CFR、CERTに限らず、あらゆる災害対応の組織において最も重要なのがチームの安全が第一ということである。そのため、CFR、CERTメンバーは最低でも必ずバディー(2人1組)で作業にあたらなければならないという前提は勿論のこと、対応能力に見合った”引き際”をしっかりと理解し実践することが最も重要な課題である。

2.明確なリーダーシップと組織構築  

現場指揮官(チームリーダー)は、災害現場での活動方針をチームの能力と訓練のレベルに基づいて決定しなければならない。チームメンバー一人ひとりの役割と責任を明確にし、機能的な組織にすることが求められる。したがってチームは、指揮命令系統(Chain of Command)を確立し、全てのメンバーの役割及び機能を共通の認識とする。スポーツで例えるとするなら、現場指揮官が監督で、チームメンバーが選手という事だ。監督は選手の能力に基づいて、そのポジションとフォーメーションを定め、試合に臨むという事である。 また、メンバーは一人の人間からのみ指示を受け、報告をする(指揮の一元性:Unity of Command)。指示又は報告しなければならない連絡系統が複数存在するということは、緊急時においては、単なる無駄でしかなく、時間的・経済的観点から鑑みても省略しなければならない非効率的なプロセスである。

3.災害対応活動の有効性向上 

多くの危険が存在する災害現場において、災害対応活動の効率を高めるためには、チームとしての能力を向上させ、繰り返し訓練を行わなくてはならない。チームリーダーはメンバーそれぞれのスキルと特性を掌握し、適材適所に人員を配置し機能的なチームとして災害対応活動が行えるように指揮を執る。このようなことからもお分かり頂けると思うが、本番でチームが力を発揮できるかは、日常的な訓練(練習)にすべてかかっている。 

以上、現場マネジメントの3大原則をサラッと記したが、第1章の「災害準備編」でも述べたように、一人でも多くの人の命を救い災害による被害を最小限度に抑えるためには、国民一人ひとりが個人のプロフィシェンシーレベル(対応能力)を高めて、公と融合し標準化されたルールのもと、臨機応変かつ効果的に一つのチームとして戦っていかなければならない。

そのためには、まず我々一人ひとりが良きチームの選手として、本番の試合でファインプレーができるように、普段から日常的に練習を重ねて個人のスキルを伸ばしていくしかないのである。ルールブックを見ているだけでは野球やラグビーは上手くならない。練習、練習、また練習である。そして、他の選手たちと調和し、監督の総指揮の下、チームとしての完成度を高めなければならないのだ。災害時においてよく起こりがちなことは、バットを振れない人が、いきなりバッターボックスに入りホームランを打とうと試み失敗するケースである。

1985年に発生したメキシコ大地震の時には、近隣住民を助けようとした一般市民の方々に多くの犠牲者が出てしまった。そのような悲劇を起こさないために、本シリーズでは、全体を通して個人練習のための基礎的知識とチームで戦うための実践的なノウハウを読者の皆さんに提供するのが目的であるということを、ここで改めて述べさせていただきたい。

【個人用保護具】
(PPE:Personal Protective Equipment)

さて、話が少し横道に逸れたが本題のICSに入る前に、ここで“チームの安全”について再確認したい。上記に述べたとおり救助者の安全が何よりの優先順位である。よって個人の装備や保護具について無視することはできない。PPE(個人用保護具:Personal Protective Equipment)の準備も無く災害現場で作業することは無謀な自殺行為に等しいと心得るべきである。 

下記が必要最低限の個人用保護具である。

必要最低限の個人用保護具(PPE)
1)ヘルメット
(2)ゴーグル
(3)マスクN95
(4)ノンラテックスグラブ
(5)皮手袋あるいは軍手
(6)安全靴
(7)耳栓
(8)救助者を示す蛍光ベストあるいはビブス
(9)長袖シャツ・長ズボン 

前回の連載でも少し触れたが、救助者の安全はもちろんのこと、これらのPPEは救助者としての存在を示し、生存者からの協力と理解を得る上でも重要な役割を果たしている。くどいようだがCFRまたはCERTのメンバーとして現場で活動するには最低限のPPEを装備しなければならない。

知識もなく、訓練(練習)の経験もない、PPEも準備していない人は危険な現場で災害対応(初動における初期消火活動、災害救護活動、簡易捜索救助活動など)に関わるべきでない。安全な場所で自分にできることだけをした方が良い。人を助けたいと思う善の心だけでは人は助けられないということを肝に銘じて欲しい。 

その他、個人用保護具以外にCFRまたはCERTメンバーが準備するべき装備品を一覧表にしたので参考にしてもらいたい。

CFRまたはCERTメンバーが準備すべき装備品

なぜこれらの資機材が必要になってくるかは次章以降、「火災防護」「災害救護」「簡易捜索救助」等の本編内で徐々に明らかにしていくが、個人用保護具(PPE)に関しては、改めて独立した章として、本Web版に展開する予定である。

【CFRまたはCERTとしての現場マネジメント】

CFRまたはCERTが組織として災害現場において機能的に活動するためには、次のようなプロトコール(手順)が必要となる:

・ 整備されたマネジメント体制を確立する(リーダーシップ、各機能別役割分担、報告系統、チームワーク)。

・ スパン・オブ・コントロール(監督限界):一人の監督者に対し5人以下のメンバーを置く原則に基づきチームを編成する。 

・ 使用する用語を平易なものにし効果的なコミュニケーションを図り理解を共有する。 

・ 無線やトランシーバーなどの通信機器で、チーム間あるいはプロのレスポンダーとの間で効果的なコミュニケーションを図る。

・ 戦略的ゴール、戦術目的、補足的活動等の行動計画を統合化する。 

・ 包括的資源管理により現場に必要な資源(人・モノ)を迅速に配備する。 

・ 常にチームメンバーの人員掌握ができる体制をとる。 


めまぐるしく状況が変化する災害現場においてCFRまたはCERTのチームメンバーは臨機応変に柔軟な体制で対応しなければならない。チームリーダーとメンバーは現場の状況を評価し、戦略を立て、チームを配備し、活動結果を必ず書面にする。CFRまたはCERTによる災害現場での活動基準は救助者の安全が第一であると共に、対応する人数が多ければ多いほど活動の成果は上がるのだが、前述の監督限界とチームメンバーの人員掌握体制を整えておかなければならない。

■インシデント・コマンド・システム(ICS)

インシデント・コマンド・システム(以下、ICS)とは、米国で開発された災害現場・事故現場などにおける標準化されたマネジメント・システムのことで、指揮命令系統や管理手法を標準化し、組織間連携・地域間連携を可能にする仕組み(ルール)である。1970年代に多発した森林火災の教訓により開発され、徐々に他の行政機関などで利用が拡大し、デファクトスタンダードになった。

2003年に制定された米国の国家事態管理システム(NIMS:National Incident Management System)では、米国で発生するあらゆる緊急災害・緊急事態にICSを適用することが定められており、災害・事件の種類を問わず、日常の事件・事故からテロ事件・ハリケーン災害などの危機管理まで、あらゆる緊急事態対応で使用されている(コンサートやフェスティバルなどの大規模なイベントでも活用されている)。

当然、欧米の公設レスポンダーはこの仕組みを活用し災害対応に当たっているが、前回の連載でも少し触れたように、ICSの原則では最初に現場に到着した第一現着隊の救助者が現場指揮官(チームリーダー)として現場の指揮を執ることになるため、CFRまたはCERTのメンバー(もしかしたら読者のあなた)もICSの仕組みを理解し、チームビルディングに取り入れてみたらどうだろうか。

現在、日本においては残念ながらICSの概念を取り入れている組織は少なく、学識者の中には、「日本にはなじまないシステムである」と主張している人もいる(現場活動を経験したことのない人の主張でしかないと筆者は思っている)。しかし2011年11月には、世界のディファクトスタンダードであるICSをモデルに国際標準化機構が危機対応システムのISO22320を発行し、さらに2013年10月には日本工業規格化(JISQ22320)されている。

これに伴い、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の林春男理事長が中心となり「ICS推進研究会」を発足させ、2020年の東京オリンピックを目指したICS推進普及ロードマップが動き出している。

また、昨年末から今年にかけて一部大手企業の中でも、大切な社員の命を守るために、BCPに機動力を持たせ、会社の災害対応能力を向上する目的でICSの概念を取り入れた訓練を始めている。

(詳しい訓練の内容に関しては、(株)日本防災デザインのウェブサイトよりお問合せ下さい:http://jerd.co.jp/contact/

【インシデント・コマンド・システム5つの機能】

 

上の図をご覧いただきたい。これがICSの基本的な組織構造である。インシデント・コマンダー(現場指揮官あるいはチームリーダー)をトップにオペレーション・セクション(実行部あるいは運用部)ロジスティクス・セクション、(後方支援部あるいは兵站部)、プランニング・セクション(計画情報部)、そしてファイナンス・アドミニストレーション・セクション(財務・総務部)というスタッフで構成される。 

ICSの説明をするときにいつも引用するのが工具箱の話で、必ずしも全ての機能を各人に振り分けるということではなくて、事案に応じて必要な工具を必要なだけ取り出して作業にあたればよい。例えば交通事故に対応している警察官は一人で現場指揮官の機能、実行部の機能を兼任しているかもしれない。このように組織は事案規模に応じていかようにも拡大縮小できる柔軟な体制であるということだ。 

通常市民レベルのCFRまたはCERTではチームリーダー以下、実行部、後方支援部、計画情報部の4つの機能で対応することになる。

【インシデント・コマンダー(チームリーダー)の役割】

具体的な活動内容を決める決定権者(リーダー)。

・災害対応にあたっての統括的なリーダーシップを提供する。
・安全管理を徹底する。
・災害対応の目的を明確にする。
・指揮権を委譲するまでの間各機能の責任者となる。
・情報を内部および外部に提供する。
・組織間連携のリエゾンを確立する(他の自主防災組織、ボランティア、警察、消防、土木などの組織)。
・指揮権を委譲した後の新たな指揮官の指揮下に入る。

【オペレーション・セクション(実行部)の役割】 

※下図参照 

リーダーが決めた事項を遂行する(ドゥアラー:やる人)。

・ 現場で実行される全ての戦術的な実務を行う(消火班、捜索救助班、救護班)。
・ 最初に任命される機能部署である。

【プランニング・セクション(計画・情報部)の役割】

現場で発生している状況を収集・編集・まとめる(シンカー:考える人)。

・ 資源のステータスをトラッキングする(何人のCFRまたはCERTメンバーが対応しているか?など)。
・ 事態のステータスをトラッキングする。
・ チームの活動方針をまとめる。
・ 活動の選択肢を検討する。
・ 書面化する。

【ロジスティックスセクション・(後方支援部)の役割】

現場に必要なヒト・モノを調達(ゲッター:得る人)。

・ コミュニケーション手段の提供(無線機、ラジオなど)。
・ CFRまたはCERTの為の食料や医薬品の提供。
・ 施設や物資の管理。

【ファイナンス・アドミニストレーション・セクション(財務・総務部)の役割】

必要経費を管理(レコーダー:記録する人)。

・ 外注する契約に対する管理。
・ 時間管理。
・ コスト分析。
・ 財産に対する損失の補償。
※一般的にCFRまたはCERTレベルでは限られた役割のみである。


しっかりとした(一元化された)指揮命令系統を保つことにより、災害対応に従事するチームの安全を守り、要救助者に対する活動をコントロールされたものにすることが可能となる。また、事前に決められたメンバーの集結拠点の隣接した場所に現場指揮所を設定し、そこに最初に到着したものが現場指揮を執り、適時、適任者が現場へ到着したら指揮権を委譲していく。各機能別セクションにもリーダーを置き、メンバーの活動状況を把握し報告を受ける任務を司る。 

このように市民レベルまたは事業所レベルによる災害対応チームを作る時にもICSの概念を用いたチームビルディングが有効なのである。

(後編へつづく)

参考文献:
•COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM. Basic Training Instructor Guide
.FEMA.DHS
•消防業務エッセンシャルズ第6改訂版日本語版
•晃洋書房「3.11以後の日本の危機管理を問う」(神奈川大学法学研究所業書)務台俊介著・小池貞利著・熊丸由布治著・レオ・ボスナー著


(了)