(出所)BCI / Emergency Communications Report 2019

BCMの専門家や実務者による非営利団体BCI(注1)は、緊急事態におけるコミュニケーションに関する実態調査を2014年以降毎年実施してその調査結果を公開しているが(注2)、つい先ごろ最新の調査結果が「Emergency Communications Report 2019」として発表されたので、本稿ではこちらを紹介したいと思う。なお、従来は毎年12月に発表されていたが今回は年をまたいで1月の発表となったため、「2018年版」が発表されずに2019年版となっている。

調査は主にBCI会員を対象として、Webサイトを用いたアンケートで行われている。回答総数650件のうち半数が欧州からの回答であり、次いで北米からが 15%、中南米からが10%、アジアからが9%などとなっている。

今回の報告書で最も注目されるのは、従来の調査と比べて調査項目が大幅に変更されたことである。2017年版まではこの調査は緊急連絡システム(注3)のプロバイダーであるEverbridge社と共同で行われていたが、今回からは調査のパートナーが緊急事態管理用ソフトウェアのプロバイダーであるF24社に変わっているので、恐らくその影響なのではないかと思われる。

新しく加わった調査項目のひとつが、緊急事態管理においてどのようなデバイスが用いられているかという調査である。まず本報告書の本文で最初に示されているデータは、緊急連絡システムや緊急事態管理用ソフトウェアを活用しているかどうかを尋ねた結果であるが、回答者の6割程度がこのようなシステムやソフトウェアを活用していると回答している。

さらに、これらを活用しているという回答者がどのようなデバイスを緊急事態管理に使っているかを尋ねた結果が、本稿の冒頭に掲載した図である。回答者の40 %がパソコン(ノートパソコンを含む)、37%がスマホ、19%がタブレットを使っていると回答している。近年では海外(特に欧米)においては緊急事態管理用ソフトウェアの普及が進んできているが、その半数程度がスマホやタブレットから利用されているようになってきているようである。

また、前回までの調査では「緊急事態コミュニケーション計画」(emergency communications plan)を持っているかどうかを調査した結果が掲載されていたが、今回はもはやそのような設問はなく(注4)、むしろ計画が実行された際の時間に注目している。

図1は緊急事態コミュニケーション計画が発動されるまでの平均的な所要時間を尋ねた結果である。実際には発生した事象にもよると思われるが、7割程度が30分以内と回答している。2017年版では30分以内という回答は半数程度であったから、かなり短縮されてきている状況が伺える。また何らかの事象が発生した後に、トップマネジメントに第一報を入れるまでの平均的な所要時間を尋ねた結果が図2であり、7割弱が1時間以内と回答している(この設問は2017年版には無かった)。

図1.緊急事態コミュニケーション計画が発動されるまでの所要時間(出所)BCI / Emergency Communications Report 2019


 

図2.危機に関する最初の一報をトップマネジメントに報告するまでの所要時間(出所)BCI / Emergency Communications Report 2019

読者の皆様もご承知の通り、日本では安否確認システムの普及が進んでいるため、緊急事態におけるコミュニケーションというと、大規模地震のような災害が発生した場合の安否確認を思い浮かべる方が多いのではないかと思われる。しかしながら本調査で対象としているのは地震のような突発的な災害だけではなく、気象災害、サイバーセキュリティに関する事案、事故や不祥事など様々な事象を幅広く対象とした、状況把握、従業員への警報、関係者どうしの連絡、危機管理広報などを含む、緊急事態における総合的なコミュニケーションである。

読者の皆様におかれても、自らの組織で様々な緊急事態を網羅的にカバーできる緊急事態コミュニケーションのための仕組みが用意されているか、それがどのくらいの時間で稼働するかなど、本報告書の内容と照らし合わせてレビューしてみてはいかがだろうか。

■報告書本文の入手先(PDF32ページ/約2.6MB)
https://www.thebci.org/resource/emergency-communications-report-2019.html

注1)BCIとはThe Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に8000名以上の会員を擁する。http://www.thebci.org/

注2)本報告書の2014年版については、紙媒体の『リスク対策.com』vol. 48(2015年3月発行)の連載記事「レジリエンスに関する世界の調査研究」第7回で紹介させていただいた。また2016年版については本連載の2017年6月27日掲載分(http://www.risktaisaku.com/articles/-/3158)で、2017年版については同じく2017年12月28日掲載分(http://www.risktaisaku.com/articles/-/4475)で、それぞれ紹介させていただいた。

注3) 英語ではemergency notification systemもしくはmass notification systemなどと呼ばれ、事故や災害などが発生したことを、多数の関係者にメールやSMSなどで自動通報するシステムの総称。機能としては日本で普及している安否確認システムに近いが、安否確認よりも、緊急事態が発生したことを多数の従業員に知らせたり、緊急対応チームを招集したりすることを主目的として開発されている。

注4)2017年版で「緊急事態コミュニケーション計画」を持っているという回答が既に86%に達しており、しかも2014年以降ほとんど変化がないため、調査する必要性が低いと判断されたのであろう。

(了)