コミ―の倉庫内の備蓄。矢印の順に1~7日目の日にち別に整理されている

この話は2014年7月にさかのぼります。わたしはある用事で埼玉県川口市にある鏡のメーカー、コミー株式会社を訪ねました。用事は30分で終わりました。すると社長さんが「あなた防災食の専門家ですよね」と話を持ちかけました。防災食を備蓄している部屋に案内され「コメントを!」とたたみかけてこられました。

応接室へ戻ると、「これから昼礼が始まりますが、ひとつ従業員に災害食の話をしてやってくれませんか」とおっしゃる。この社長さんはさぞかし女の人を口説くのもこんなふうに早いのだろうなあ、と一瞬たじろぎました。

間髪を入れず食堂兼集会所に社員が足早にやってきました。

たまたま私は災害食のパワーポイント資料を持ち歩いていたので、それを映しながらお話をしました。少し時間オーバーになりましたが、社長さんはビクともしません。どんどん話を続けるようにとのことでした。応接室に戻ると、災害食の備蓄係が私を取り囲み、質問攻めにあいました。

その後、「こんな具合になりましたよ」という備蓄の報告をいただきましたが、今までこのことはすっかり忘れていました。
 
さて、今回この原稿を考えている時ふとコミーのことを思いだしました。早速「お宅さまの会社の備蓄は最近どうなっていますか、ちょっと教えて下さい」と電話をしてみました。

備蓄係のNさんからすぐ返事がきました。その内容は示唆に富むもので啓発されました。ぜひ皆様にお知らせしたいと思います。以下の通りです。

■前のめりの社長のリーダーシップ、「押しの一手」が必要
リーダーのひと声、掛け声が必要。世のリーダーたちよ!居眠りをしている場合じゃあない。しっかり備蓄せよ!と叫びたい。
■どんな企業もヤル気さえあれば備蓄ができる。要は「ヤル気」
コミーには従業員が39名(30代以下9人、40~50代26人、60代以上4人)おられます。
■防災担当係が必要
Nさんは2004~18年まで4年間その任にあたり、基礎作りに励まれました。2018年からは1年ごとの交替制になりました。
■備蓄の分量は、従業員全員に昼食分として1日1食、7日分 
(余分をみて45人分×7=315食)
この昼食分のみというのが参考になります。災害時、昼ご飯を求めて各自が街に出ても食べ物は見つかりにくいからです。朝食と夕食は自己責任でしてください。いわゆる自助という発想が、目からうろこです。家庭での備蓄が当然必要です。もし家庭での備蓄がなかったら目も当てられません。このことについては後述しましょう。
■備蓄の内容は、主食、おかず(魚・肉系と野菜系―単独または混合系)
デザート、飲み物の4品を1食としています。なるべく日常に近い組み合わせで、心と体の双方のバランスがとれる提案がされています。肝心なのは1食分として分量、満腹感が得られる点も重視したとNさんは言っておられます。
■封を切った後、すぐ食べられるもの―特に災害発生後の3日間 
災害時にはライフラインが停止します。ですから災害の発生直後3日間は汚れた手さえ洗えない不自由な状態です。湯沸かし場はなんの役にもたちません。このことはしっかり念頭に置いておきましょう。
■備蓄の形態は1日分ごとにまとめて段ボールに入れて備蓄
これは次項のローリングストックと連動しています。取り出しやすく、管理しやすい工夫と言えましょう。
■会社でもローリングストックをしている。まさに仰天!!目からうろこ!
1年間に4回(1月、3月、5月、9月)防災の日を設けて、昼食時間に従業員全員で食べるとのことです。もし余れば社員に配付し、消費分をすぐさま購入し補充します。やる気まんまんの方法です。災害時の食事を身近に再現しています。こうすると、とっさの時に慌てないですみます。組み合わせなどよかったかどうか反省し、よりよい方向を探るだいじな機会です。
■特に7日分の備蓄食品の内容が飽きないように毎回違うことにお気づきでしょうか
いわゆる「バカの一つ覚え」ではない。これは注目に値します。すばらしい配慮です。食べる容器・用具として、紙皿、紙コップ、箸、スプーン、サランラップも備蓄しています。飲料は500mlペットボトル各自1本です。

写真左のおかずはホワイトシチュー。写真右の主食はパンもしくはおこげのうちどちらか1つ選ぶ。缶詰は2種類のうちどちらか1つを選ぶ(ウインナーと野菜のスープ煮もしくはぶり大根)

以上のことは、企業だけでなく、病院、学校、集客施設、福祉施設など大勢の人が昼間一緒に暮らす組織のすべてに当てはまります。災害が起こってから、食べ物をウロウロ探すようでは、冬に備えて食べ物をたくわえるアリなどに笑われます。

資料・写真をご提供いただいたコミー株式会社様に厚くお礼を申し上げます。

コミ―の1食分の食事内容。主食(パンもしくはおこげ)おかず(ブリ大根もしくはウインナーと野菜スープ煮)はどちらか1つ選ぶ

 

 

 

整理ダンスで主食とおかず、おやつを分けて収納

これまで、企業を主に見てきましたが、次に家庭はどうすればいいのか、考えてみましょう。

災害時に備えて―食べ物と飲み物の備蓄はどうするの?

これは私の提案です。こうしてみてはどうでしょう。洗濯物を取り込んだ時のように全体をまとめて置かないことです。

食品ごとにグループ分けして備蓄することを勧めます。たとえば整理ダンスをごらんなさい。靴下、下着、セーター、ズボン、シャツなど小分けして入れているでしょう。すると、取り出すとき便利で足りないものがひと目でわかります。

備蓄も同じことです。ではどのように小分けしますか。身体の健康にとつて欠かせないものを考えましょう。その1つずつにスペースをつくります。いわゆる優先座席です。さあ、なんでしょうか?

まず、「腹が減ると困るもの」はなんでしょう?主食と呼ばれているものです。

災害時は力仕事が待っています。「困難に遭遇したとき、お腹などすかないでしょ!」という人もいますが、やがてお腹はすきます。いわゆるご飯、おかゆ、パン、ビスケットの類です。

つぎは、おかずで2種類です。熊本地震で福祉施設を調査したとき、「おかずが要るとは考えてもみなかった」という回答がありました。冗談を言っているとしか思えません。おかずは魚・肉の缶詰が多いのはわかりますが、これは主にたんぱく質ですよね。もう一つ大切なおかずがあります。それは野菜(いも)などです。これも上記と同様に福祉施設の回答に「野菜は畑にある」というのがあり、あ然としました。確かに!ごもっとも!しかし、洗う水がないので、無理です。放射能汚染、火山の噴火も視野に入れたいものです。要するに野菜のおかずとして、缶詰やレトルト食品が必要です。食物繊維やビタミン、ミネラルをとるためです。

4つ目はおやつです。実は買い置きのおやつで空腹をしのいだ被災者が多いのです。1995年の阪神・淡路大震災の時、西宮市消防職員を調査した結果では「一番ものを食べた気がしたのは救急車においていたあめだった」という。おやつは封を切るとすぐ食べられるのでありがたいです。心が傷ついたとき、癒してくれるのは食べ物と飲み物です。好きな音楽も風呂もないそっけない痛々しい日々ですから。

5つ目は飲み物です。あなたは日頃何を飲んでいますか。好物の飲み物を備蓄しましょう。冷蔵庫に入れたいが、無理です。一塊にしておきましょう。あれもこれも欲張って…。

6つ目ですが、私はなぜかときどきお腹が痛くなるので、すりつぶした果物や野菜の災害食を備蓄しています。名付けてお・ら・が・治療食」です。これは補欠のようですが、一番大事かもしれません。なぜならストレスに襲われるとすぐお腹が痛くなるからです。

衣服のように物品ごとに分けて収納するといざという時に役立つ(出典:写真AC)

ご参考になりましたでしょうか。えっ?ご質問ですか。「家族の分はどうしましょうか」。ご家族が多い場合、各自の部屋に分けて置いてもいいですね。そのときは、各自好みのものを選ぶとご機嫌でしょうね。

ほかにご質問は?「もし会社に滞在中帰宅が難しくなったときや夜も災害の後片付けで居残るときの食事はどうしたらいいでしょうか」そうですね。いい質問ですね。

コミーの現在のしくみでは、個人用非常持ち出し袋を各自会社に持参して、自分の身の周りに置いておくという方法が確実です。まかり間違っても、お米など煮炊きの必要な食品は持参しないようにしましょう。家庭の備蓄品を一部選んで自分用として持参しておくといいでしょう。

今回は、企業と家庭の平時の備蓄について考えてみました。

今回のテーマの位置づけ

(了)