社会問題になっているハラスメントに迫ります(出典:写真AC)

人が集まればハラスメントも

はじめまして。株式会社プラネット代表取締役 根岸勢津子と申します。最近は右を向いても左を向いてもハラスメントばかり。職場で、部下とのコミュニケーションに不安を感じている人も少なくないのでは?

私は、多くの企業でハラスメント防止に関わってきたので、ここ数年の企業に対する目が異様に厳しくなってきたのを嫌でも感じるわけですが、官公庁でも学校でも、もはや人が集まる場所すべてにおいてハラスメントの可能性があるように思います。

企業の中に明確な基準が無いなか、事案をどうさばいていいのか悩む人事部門も多く、結局うやむやになって、嫌な雰囲気だけが職場に残る…そんなことが増えてきたようですね。

この連載では、毎回一つずつ、私が実際に見聞きした企業でのハラスメント事案を取り上げ、どうしてそうなってしまったのか、どうすればよかったのか、などについて考察してみたいと思います。

よくある事例「あー、それ自分で考えて!」

あるIT企業(東京・従業員数2000名)での出来事。中途入社で営業チームに配属されたAさん(32歳男性)は、即戦力として期待されていました。入社してすぐにB課長(35歳男性)と共に外回りをするようになりましたが、「もう大体コツはつかめたよね!」という課長の判断で翌週からは、独り立ちさせられました。

若干の不安はあったものの、もともと営業で実績を積んできたAさんは、何とか数字を出そう頑張っていました。しかし、なかなか結果は思うように出ません。そんな中、B課長から情報提供や指導を受けたかったのですが、いつ電話しても捕まらず、たまに電話に出たかと思うと、イライラした調子で、「あー、それ自分で考えて!」「そんなこともわからないの?新人じゃあるまいし。」という返事。結局、目標には遠く及ばず、3カ月後の営業会議でC部長(46歳男性)から「Aさん、なかなか調子が出ないようだね」と言われてしまいました。Aさんが返事に窮しているとB課長が「Aさんはずっと営業やってたんで、もうちょっとできると思ったんですが…僕も何度か手助けしようとしたんですが、なかなか話を聞いてくれなくて」と発言したのです。

びっくりしたAさんは反論しようとしましたが、C部長が「それは困ったねえ。Aさん、今後はもう少し課長の指示に従って動いてみてください」と言うので、何も言い返せませんでした。悔しさと納得いかない気持ちで夜も眠れなくなり、Aさんは体調を崩してしまい、休みがちになります。結局それから3カ月後、Aさんは退職してしまったのです。B課長は「最初っから根性のないヤツだったんだよ、あいつは」とうそぶいていましたが…。

情報を与えないのもハラスメント

さて皆さん、これはハラスメントでしょうか。厚生労働省のパワハラ6つの類型でも「業務情報を与えない」という項目がありますので、紛争などになれば、ハラスメントに認定されかねません。実は、こういったことは割とよく相談者(被害を受けたと言ってくる人)から聞く話です。つまり、上司の放任やうその発言で自分の立場が悪くなり、傷つけられた、という話。もしそこに、気軽に反論できないような関係(例えば上司と部下など)があるならば、かなり黒に近いグレーではないでしょうか。

このケースでは、B課長の思いもよらぬ言葉(Aさんから見れば事実に反する言葉)によってC部長からは、上司の言うことを聞かず、勝手な行動をした挙句、数字を出せない困った人、というらく印を押されたわけですから。

相談窓口に第三者から通報があったので、人事部門でB課長を面談したところ、自分も丁寧に教えてもらったことなどない、部下の教育より、自分の数字を出す方を優先してしまった、と反省の弁を述べたということです。

部下指導は管理職の必須業務

この事例のように、特に悪気が無くても、すべき指導をせずに部下を退職に追い込んでしまう例が後を絶ちません。これにはプレイングマネジャーという「名ばかり管理職」を生む構造的な問題もあるでしょう。また、チーム全体としての評価基準が無く、一人の数字にばかりフォーカスする人事制度にも問題がありそうです。多くの人は、意図してハラスメントをしようとしているわけではありませんが、結果としてハラスメントになってしまうことがほとんどです。

企業として、また部署として、部下指導を管理職の必須業務として位置づけ、そのための教育を行うことが必要です。そして、部下指導は管理職の大切な仕事として評価項目の中でも重点を置き、できなければ評価を下げることも厭わない、という態度で臨むべきです。そうしなければ、いつまでたっても部下指導は、優しい人・面倒見のいい人の仕事になってしまい、今回の事例のような悲劇が繰り返されるのです。

(了)