(出典:Resilience360 / Annual Risk Report 2018)

国際物流大手のDHLは、グループ企業のResilience360社を通じて「Resilience360」というサプライチェーン・リスクマネジメント関連サービスを提供している(注1)。そのサービスにおいて収集されたデータに基づいて、2018年のサプライチェーンに関するリスクの状況を総括した報告書が、「Resilience360 Annual Risk Report」としてResilience360社から公開された。

報告書は4つの部分に分かれており、Part1ではサプライチェーンリスクに関して 2019年に最も注目すべき10のトレンドが示されている。続くPart 2では2018年に発生した事象を7種類にまとめて総括している。Part3ではサプライチェーンに影響を与えたインシデントの状況が地域ごとにまとめられており、さらに Part4 ではサプライチェーンに関するリスクがそのインパクトの大きさと発生する可能性の高さとで整理されている。

まず、Part1で「2019 年に最も注目すべき10のトレンド」として示されているのは次のとおりである。本報告書本文にはこれらが選ばれた理由や背景、関連するデータも示されている。

1.貿易戦争が製造業のネットワークを再構築する(特に英国のEU離脱や、新しい関税の導入など)
2.需要の増加と供給の不安定さが深刻な原材料不足を招く(例えばリチウムやコバルトなどの希少金属など)
3.リコールや安全面の不安による品質の監視(特に製薬業界など)
4.気候変動によるインパクトが激化する
5.より厳しい環境規制によって汚染者による負担が増える
6.先行き不透明な経済や構造変化がサプライヤーに脅威をもたらす(中小サプライヤーの破産など)
7.貨物が労働者の不安に巻き込まれる(ストライキの影響など)
8.危険な貨物によるコンテナ船の火災(不十分な消火能力とコンテナ船の大型化による影響)
9.国境での待ち時間に関する戦い(米国・メキシコ間や英国・EU間の越境に関する待ち時間とコスト)
10.ドローンの衝突による航空機の安全性の低下

また上のようなトレンドは、これまでに発生した事象の結果から大きな影響を受けていることから、Part2では2018年に発生した事象を次の7種類にまとめて総括している。これらは今後のサプライチェーンにおけるリスクを考える上でも当然想定すべき事象といえるであろう。

1.貿易摩擦
2.サプライチェーンにおけるサイバー攻撃
3.気候変動
4.港の混雑(悪天候による港の閉鎖や、中国やベトナムの港での大量の廃棄物輸入による混雑など)
5.燃料価格の高騰
6.貨物の盗難
7.産業ゾーン(industrial zone)での操業停止(中国やインドで汚染物質の排出抑制などの理由から工場が操業停止させられた事例など)

Part3ではインシデントの状況が地域ごとにまとめられている。一例としてアジア太平洋地域の状況を見てみると、まず国別では、最もインシデントが多かったのがインド(16.1%)、ついでオーストラリア(13.0%)、日本(9.9%)の順となっている。中国は 6.7% で 5 位となっているが、中国(特に辺境地域)ではインシデントに関する信頼できるデータの入手が難しいという断り書きが付記されているため、実態としてはもう少し多いのかもしれない。ちなみに本稿のトップに掲載した図は、アジア太平洋地域におけるインシデントの発生状況を図(heatmap)にしたものである。

図1.アジア太平洋地域で発生したインシデントの内訳(出典:Resilience360 / Annual Risk Report 2018)

図1は発生原因別の比率である。陸上輸送(Ground Transportation)と市民の不安・暴動(Civil Unrest)が上位を占めているが、これらの背景として本文では、非常に多数のストライキや抗議行動が行われ、これらによって空港に至る主要な道路やハイウェイが封鎖されたことや、大気汚染や混雑の抑制のために地方政府によって自動車の通行がたびたび規制されたという背景が説明されている。また主要な例として、2018年4月にパキスタンで発生した大規模な抗議行動によってカラチやカシム港に向かうハイウェイが封鎖された例や、同年7月にインドで全国規模で発生したトラック運転手のストライキで陸上輸送と航空貨物が約8日間にわたって滞った例が紹介されている。

本文では他にも、1年間に8つもの大規模な熱帯低気圧に見舞われたことや、韓国や中国で発生した大規模な爆発事故、台湾の半導体メーカーでのコンピューターウィルスの侵入、米中間の貿易摩擦などが記載されているほか、この地域における各月ごとの注目すべき(notable)インシデントがまとめられている。ちなみに 8月はアジア大会の開催にともなうジャカルタでの交通規制、9月はタイフーン「Jebi」(2018年台風21号)による日本の関西・四国地域での被害が挙げられている。

Part4ではサプライチェーンに関するリスクがそのインパクトの大きさと発生する可能性とで整理されている。図2がその結果であり、縦軸にインパクト、横軸に発生する可能性をとったマトリックスとして整理されている。

字が小さくてわかりにくいと思われるが、図の右上部分(つまりインパクトが大きく、発生する可能性も高い)には、ストライキ(輸送業者、港湾、航空の3種類)、火災、台風、港湾の混雑、貿易に関する法規制、洪水などが挙げられている。右下部分(インパクトは比較的小さいが発生する可能性が高い)には道路の途絶や飛行機の遅延などがある。左上部分(インパクトは大きいが発生する可能性が比較的低い)にはランサムウェア(注2)、火山の噴火、津波、サプライヤーの破産などが挙げられている。

図2.Resilience360 のサプライチェーンリスク分類マトリックス(出典:Resilience360 / Annual Risk Report 2018)

サプライチェーンに関する調査報告書は多くの組織から発表されているが、本報告書は国際物流企業としての強みを生かして、世界規模で収集されたデータに基づいてインシデントの発生状況が分析されている点が特徴的である。サプライチェーン・リスクマネジメントや事業継続への取り組み方を検討する上で、読者の皆様にとっても参考になる情報が多いのではないだろうか。

■ 報告書本文の入手先(PDF45ページ/約6.4MB)
https://www.resilience360.dhl.com/resilienceinsights/resilience360-annual-risk-report-2018/

注1) 同社の Webサイトなどを通じて提供されるサービスで、サプライチェーンの可視化に役立つデータベースや、サプライチェーンの遅延や途絶に関係しうる情報の提供、地域ごとのリスクアセスメントなど、顧客のサプライチェーン・リスクマネジメントに役立つ各種情報やソリューションが含まれているという。 https://www.resilience360.dhl.com/

注2) ランサムウェアとは不正プログラムの一種で、コンピューターの操作をロックしたりデータを暗号化してデータへのアクセスができないようにし、これらの解除と引き換えに身代金を要求するもの。

(了)