特集:機能する災害対策本部

情報の流れを空間に落とし込め

京都大学防災研究所巨大災害センター准教授の牧紀男氏は「災害対策本部の役割は、社内外との状況認識の 統一を図り、危機状況から通常レベルへ可能な限り早く事態を収束にむかわせることにある」と説く。必要 な機能と役割、レイアウト上の注意点などを聞いた。

 

■本部会議と本部支援室
災害対策本部と一言でいっても、一般的には組織 の長(知事や市区町村長、社長)や各部門長が災害 情報を共有するために行う災害対策本部会議と、実 際に災害対応にあたる災害対策本部支援室のこと が、混合して使われているケースが多い。米国では 災害対策本部支援室のことを危機対応センター(Emergency Operation Center)と呼ぶそうだ。  

この危機対応センター、いわゆる災害対策本部支 援室をどうつくるかが、災害対応においては極めて 重要になる。一方の、災害対策本部会議は、1日に 数回、短い時間で組織全体の情報共有を図ることが ポイントになるが、これをスムーズに行えるか否か も災害対策本部支援室の活動次第と言っても過言ではない。  

牧教授は「災害時に行うべき業務を分析し、その 業務を行うための組織を明確にし、実際にその業務 を実施するために必要な情報の流れを空間に落とし 込んだものが機能する危機対応センター」と表現す る。

このうち、指揮調整者と、指揮調整者を支える情 報作戦、資源管理、庶務財務については、基本的に どのような組織でも、やるべきことは共通している と牧教授は説明する。  

一方、 「事案処理」は、組織によって対応する内 容が異なる。自治体なら当然、住民の生命・生活の 保護、住民サービスの継続など幅広い対応が求めら れるし、製造業なら、事業の継続・復旧に向け、取 引先との調整や、施設・設備類の復旧、顧客対応な どにあたる必要がある。  

この考え方は、 Incident Command System(ICS) といって、1970 年代に米国カリフォルニア州で発生 した森林火災の現場で、組織内外で連携がうまくい かなかったという反省から生まれたものだという。 ICS は、1980 年代には全米の森林火災の現場で採用 されるようになり、1990 年代以降は、他の災害やオ リンピックのような国際イベントでも採用され、事 実 上 の 世 界 標 準 と な っ て い る。 米 国 で は NIMS (National Incident Management System)という マネジメントシステムによって、全米の州政府、市 政府が、この ICS を根幹とした災害対策本部を設置 することが決められているという。

■災害対策本部の基本となる機能
災害時に必要となる業務は、当然、組織によって 異なるが、 牧教授は、 基本的な要素は「指揮調整者」 、「情報作戦部門」、「資源管理部門」、「庶務財務部門」、 そして「事案処理部門」の5つに大きく分けられる と説明する(図1) 。  

火災に例えると、指揮調整者は「火を消せ」と命 令をする人。情報作戦部門は、火がどこまで広がっ ているか状況を把握し、技術的にどうやって消すか 作戦を練り、どこまで消したか、いかに消したかを 情報収集し記録する。資源管理部門は火を消すため の消火器やホース車両などを用意する。庶務財務部 門は、火を消すためにかかる費用を積算したり、火 を消す人の安全を考えたり、 火災後の保険をはじく。 そして事案処理部門が実際の消火活動にあたること になる。もちろん組織の規模に応じて 100 人で災害 対応にあたるところもあれば、1人ですべてこなさ なくてはいけないところもあるだろうが、機能としては、これら5つに集約されるとする。

■連携できる仕組み
ICS の機能を、簡単な組織図として表したのが図2。自治体なら指揮調整者は首長。情報作戦、資源管理、庶務財務は、総務部や危機管理部 門が担当する。事案処理は土木、建築、環境、市民 生活、商工部などの各部、あるいは現地の出先機関 がこれに該当する。  

一般企業なら指揮調整者は社長か、あらかじめ決 められた災害対応のトップが就く。その他の機能は 危機対応における各部門の業務をあてはめて考えれ ばいい。例えば、人事部門が社員の安否を把握するのであれば資源管理に、生産部門が自社施設の生産 状況を把握するのであれば庶務財務に、施設部門が 工場が被害を受けた施設の復旧を行うのであれば事 案処理に̶̶といった具合だ。営業や製品開発、顧 客対応などの事業部、もしくは各支店、営業所は事 案処理に当てはめられる。

組織の規模や業種によっては、統一された状況認 識にもとづいて対外的に発表を行う広報担当や、外 部との連絡調整にあたる連絡調整担当者も必要にな るが、 これらは指揮調整者と各部門の間に位置する。

この仕組みさえ統一しておけば、広域災害におい て、本社と部局レベル、現場レベルで連携がとりやすくなる(図3) 。  

重要なことは、危機対応の基本はあくまで現場と いうこと。  牧教授は、 「現場だけでは資源が足りなくなるの で各部局レベルでの応援体制がとられ、さらに単一 の部局だけでは処理できない規模の危機になると、全組織で資源動員をして応援するという流れを頭に入れておく必要がある」と付け加える。

■機能するためには情報分析が不可欠
 こした5つの機能の実効性を高めるには、危機 発生時における情報の流れを明確にし、必要な情報 に基づいて対応がとれる体制を整えておかなくては いけないと牧教授は指摘する。  

最初のステップは情報の収集・分析だ。  

牧教授によると、危機対応に必要な情報は、①ど のような原因で危機が発生しているのか(例:地震 の規模など)というハザードの情報、②そのハザー ドにより組織の内部や関係する組織にどれだけの被 害が発生しているのかという被害情報、③発生した 被害に対してどのような対応を行っているのかとい う対応状況、④今後どのような方針で危機対処する のかという対処方針という 4 つの情報に分類できる とする。  

このうち、災害対策本部を機能させる上で、不可 欠となるのが、②の被害情報と、③の対応状況の2 つ。被害情報は、組織を取り巻く外的な状況と、組 織内における被害状況に分けられる(次ページ図 5) 。組織外の情報は、主にマスメディアや関係機 関などから入手することになる。ライフラインの状 況や、民間企業なら取引先の稼動状況など、各組織 の活動に影響を与える情報がこれにあたる。組織内 の被害状況は、安否確認はじめ自社施設、設備、顧客に関することなど、各部局や資源管理担当、庶務 財務担当などから情報収集をすることになる。同時 に各部局がどこまで対応したかを加えることが重要 になると牧教授は強調する。 「日本の場合、被害状 況の把握ばかりを意識し、どこまで対応したかを見 落としているケースが多いように思います。 しかし、 被災された人々にとっては、被害情報ではなく、ど のような対応が行われているのかという情報の方が 重要です」 (牧教授) 。  

もう1点、災害情報は、初期のうちは断片的な情 報しか入ってこなかったり、逆に時間が経つとデマ や風評などが増えるという特性があるため、使える 情報を見極めるという視点が求められるという。  

「日本語の情報という言葉には、Information と Intelligence と い う 2 つ の 意 味 が 含 ま れ ま す。 Information とは生の情報であり、その真偽の確認、 分析が行われて初めて Intelligence となります。危 機対応時には、真偽が未確認の情報や、場所、時間、 発信者が定かではない不完全な情報資料がたくさん 入ってきますから、こうした Information に基づい て危機対応を行うことは誤った判断を下す可能性が あります。不完全な Information を Intelligence に するための作業が危機対応における情報マネジメン トを行う上で不可欠となります」 (牧教授) 。

■活動計画の策定
こうした組織内、組織外の情報に基づき、情報作 戦部門は「当面の活動計画」を作成し、指揮調整者 の承認を得て、実際の対応にあたることになる(図 5) 。これをスムーズに行うためには指揮調整者は じめ組織全体が、一元的に情報を共有できる「状況 認識の統一」 (Common Operational Picture: COP)が重要になると牧教授は語る。  

「状況認識の統一」は、Word 文章で羅列していく方法もあるが、牧教授は、忙しいトップや幹部層 がその変化を直ぐに認識できるようにするために、 情報処理部門の中に総括班的な役割を持たせておく ことと、色的に被害状況と対応状況が一目で把握で きる仕組みをつくることを提案する。  

図6は、東日本大震災において、牧教授が岩手県 に提案した COP だ。どのような被害に対して、ど こまで対応をしたかが、1枚の紙ですべて説明できるようになっている。

 

■災害対策本部のレイアウト
機能する災害対策本部(危機対応センター)を作るには、こうした情報を有効に収集できるレイア ウトを考える必要がある。牧教授はその方法につ いて「なるべく大きな部屋で、危機対応にかかわ る人々が一緒に執務すればいいだけ」と語る。隣 の部署でどういう対応をしているのか、どこでど のような会話をしているのかがリアルタイムで共 有できる。ホワイトボードに大きく記入したり、 模造紙や地図に状況を記入して張り出すのも有効 な方法だ。  

さらに、牧教授は、 「一般の企業で、専用の災害 対策支援室など本格的な部屋がなくても、大きな会 議室を危機管理センターとして利用することは容易 ですし、わざわざ別の部屋に移らなくても、最初か ら皆が同じ部屋で仕事をしている会社や自治体な ら、そこで対応するというのでもいいと思います」 と話す。  具体的な配置については、先に紹介した①「指揮 調整者」 、②「情報作戦部門」 、③「資源管理部門」 、 ④「庶務財務部門」 、⑤「事案処理部門」の機能ご とに、さらに危機対応マニュアルの業務分析などに 基づいて行うことを牧教授は薦める。  

例えば指揮調整は、定期的に組織トップや幹部が話し合えるよう大きめの調整会議テーブルを用意し ておく。②情報作戦、③資源管理、④庶務財務は、 指揮調整者を支援する幕僚的な機能を担うため、指 揮調整の近くに配置する(図7) 。  


また、規模の大きな組織の場合、危機対応にかか わる全ての職員が同じ部屋に集まって対応するとい うのは現実的ではなく、各部局ごと、あるいは支局 ごと災害対策本部支援室を設置し、そこから情報連 絡員(リエゾン)を本部の危機対応センターに派遣 するという方法も取れる。ただし、この際、情報連 絡員は各部局のトップ、もしくはナンバー 2 である 必要があるとする。  

牧教授は、他の組織との連携を考える上では、例 えば機能部門ごとにチョッキの色を分けておくなど の工夫により、他組織が支援に入りやすくなるなど の効果が期待できるとする。実際、米国カリフォル ニア州では、情報作戦は黄色、指揮調整は紺色など、 チョッキの色が決められているそうだ。  

今回の東日本大震災でも、広域連携において「応 援に行っても、誰の指揮下に入っていいのか分から なくて困った」などの混乱が生じた。災害対策本部 では、支援する立場になることもあれば、支援され る立場になることも想定して、体制を考えておく必要がある。

■柔軟な対応
最後に、あらゆる状況に対して柔軟に対応できる 臨機応変さを兼ね備えた危機管理センターが望まし いと牧教授は指摘する。  

災害対応は、当初は人命救助→二次災害の防止→ 生活支援→生活再建など時間によって対応の優先度 がかわってくる。また、災害の種類によっても、例 えば地震や洪水などの自然災害だけでなく、IT 系 の故障だったり、新型インフルエンザのパンデミッ クなどで、中心となる部門は異なる。こうしたさま ざまな状況に柔軟に対応できるよう、例えば事案処 理部門の配置について、災害の性質や、発生時から の時間経過により、主要な部門を入れ替える、大き さを調整するなどの工夫も有効とする。そして何よ り大切なのは、 「仮にトップが意思決定を行えない 場合の代替順位を決めておくこと」と牧教授は強調 する。

日本では、災害対応チームが最初から最後まで頑 張り続けることが多い。が、牧教授によれば、米国 ではオペレーショナル・ピリオド (Operational Period:OP) といって、危機対応チームが 8 ∼ 10 時間 ごとに交代していくのが一般的だという。そのため にはメンバーが入れ替わっても、その都度、情報を 共有し、トップの方針にもとづいて対応できるよう にすることが大切と牧教授は話している。