写真(Shutterstock)

結核とは人型結核菌(結核菌)の感染が直接の原因となって起こる主として呼吸器系の慢性疾病です。新感染症法では二類感染症に分類されています。結核は、結核菌が侵入して増殖した臓器の炎症から始まります。結核菌は、飛沫感染あるいは空気感染により肺に侵入、増殖、結核特有の病巣形成する事例が多く(肺結核)、肺結核が全ての結核の約8割を占めます。一方、肺以外のいろいろな臓器でも結核菌は増殖して病巣を形成します。例えば、骨や関節でも菌が増殖して病巣ができますが、背骨にできるのが「脊椎カリエス」です。腎臓や膀胱にも病巣が形成されます。時として喉頭、腸、腹膜、眼、耳、皮膚、生殖器に病巣を作ることもあります。

結核菌に感染している人が高齢を迎えたとき、あるいは何らかの原因で強いストレスなどがかかったとき、もしくは免疫抑制剤を服用していたなどの理由により免疫不全に陥り、結核菌がリンパや血流を介して原発の病巣から全身に広がってしまうことがあります(粟粒結核)。その結果、最悪の場合、結核菌が脳まで到達して、脳を包んでいる膜(髄膜)に病巣を作ることによって結核性髄膜炎を引き起こすことがあります。このような場合、快復を期待することが困難になることが多いようです。

結核菌群には、人型結核菌(結核菌)の他、牛型結核菌など7種類の菌種が知られています。これらの結核菌群は人獣共通感染症を引き起こすと考えられていますが、人に対して最も強い病原性を示すのは人型結核菌、すなわち結核菌です。結核は人獣共通感染症の一つです。

国内:再び猛威を振るいだした結核


太平洋戦争直後まで、結核は日本では国民病あるいは亡国病といわれるほど猛威を振るった恐ろしい感染病でした。長い年月、多くの国民、特に青年層が結核に罹患して生命を失っていた事はよく知られています。例えば1943年の結核による死亡率は人口十万人当たり235人にも及んだという驚くべき高い数値が残っています。これは、2015年時の約150倍にも相当します。
戦後に国内に輸入され汎用されたストレプトマイシン等の抗生物質などの特効薬、法律の制定に基づく国を挙げての結核予防の取り組み、環境衛生の著しい向上など、さまざま々な努力がなされた結果、急速に結核罹患者は減少しました。その結果、結核は「過去の感染病」と言われる私たちには遠い存在の感染病になりました。    

ところが1996~1997年にかけて結核患者の発生は増加に転じ、国も「結核緊急事態宣言」を出し注意を呼び掛けました。その後、減少傾向に戻りましたが、結核は、警戒すべき再興感染症の一つとして注目されるようになり、現在に至っています。
2015年の日本の結核罹患率は、人口10万人につき14人という数値が出ています。この数値は欧米先進諸国のそれより数倍高く、そのため、日本は「結核中進国」と位置付けられています。

 

国外:2016年に130万人死亡

国外における結核の発生は非常に多く、現在でも最も防疫対策の必要な感染病の一つになっています。WHOによる2016年の結核疫学指標の推定値が出されています。要約すると、世界全体での結核罹患数は1040万 (人口10万対罹患率140)、エイズウイルス(HIV)感染の関与しない結核単独による死亡数は130万(人口10万対同死亡率17%)にも及んでいます。現在でも全世界に広がっており、人類の健康的な生活を脅かしているHIVは、感染者に免疫抑制をもたらすため、結核患者の症状をより重篤なものにさせる「危険因子」です。全世界の結核罹患者数1040万人のうち10%がHIV陽性であることが分かっています。なお、現行の死因統計では、エイズ合併結核死亡はエイズ死亡に分類されていますが、HIV陽性で結核で死亡したのは37万4000人と推定されています。
世界的には、結核は単一の病原体による感染症としては最大の死亡原因であることがWHOの調査により判明しています。WHOは、推定結核患者数・罹患率に基づき30の結核高負担国を設定しています。この30カ国で全世界の推定発生患者数・死亡数の85%以上を占めています。特にインドを筆頭に、次いで、インドネシア、中国、フィリピン、パキスタン、ナイジェリア、南アフリカ共和国の7カ国で、全体の64%を占めています。図1に2017年における結核多発国18カ国を示しています。

日本国での届け出は年間1.7万人

日本国内での、2016年に新たに届け出のあった結核患者数は1万7625人でした。患者の出生国が判明したのは1万6842人でした。そのうちの7.9%(1338人)だけが外国生まれであったことが分かっています。ヨーロッパの先進諸国と比較するとその割合はまだ小さいです。例えば、2010年のデータですが、ノルウェーでは85.3%、オランダでは73.5%、イギリスでは68.6%と外国生まれの人たちが過半数を超えており、フランスやドイツでもほぼ50%に近い割合になっています。


日本国内における新届出の結核患者総数における外国生まれの患者の比率は、近年、増加傾向にあります。国立感染症研究所においてまとめられたデータを図2に示しましたが、この図から、年齢階層別に見てみると全ての年齢階層において、年々、外国生まれの人の結核患者数の割合の増加していることが分かります。特に、15~24歳の若い年齢層の新届出結核患者における外国生まれの割合の増加の顕著であることが明白です。2016年には、ヨーロッパ先進諸国並みの過半数を超える58.6%(471/ 804)に達しているのです。

この事実は、外国生まれの若い世代に対する結核対策確立が、日本国内における結核患者を減らすための最優先課題の一つであることを示しています。特に、今後、国内における国外からの労働者、特に先ほどお示しした結核流行国からの若年層の人たちが、国内で急速に増加してゆくことは十分予測されます。そのような人たちを含めた国内における結核防疫対策の確立が不可欠です。

次回は、結核についてさらに説明を加え、他の抗酸菌感染症について紹介したいと考えています。

(了)