BCPはカスタマーセンターみたいに、取引先に安心感を与えます

■経営者にとっての目の上のたんこぶ

社長や経営者にとってコストは常に目の上のたんこぶである。一般従業員の場合、売上が増えたり業績が伸びたりすれば素直に喜ぶだろうけど社長や経営者はそうはいかない。「その売上はいったいいくらのコストがかかり、いくらの儲けが出ているのだ?」と。

利潤を追求するための日々の事業活動ですらこのようなものである。ましてやBCPのように、どこから見ても何も利益に貢献しない活動となれば、なんの魅力も価値も見いだせないと映るだろう。BCPに後ろ向きな経営者がBCPの策定および維持管理の過程で発生するに違いないと思いこんでいるコストは、例えば次のようなものである。

・BCPの策定を指導するコンサルタントへの報酬
・防災・減災対策(非常時備蓄品の購入なども含む)
・BCPの策定に関わることで失われる生産性(≒人件費の浪費)
・BCM(事業継続管理)のための人材育成

確かに原則論でいえば、これらは事業継続体制を社内に定着させるための必須要件だろう。しかし本当に必要なコストと言えるのは2つ目の「防災・減災対策」の支出ぐらいのものだ。ともあれ、BCPを取り巻く一連の活動は典型的な「コストセンター」とみなされることが多い。コストセンターとは直接利益を生まない事業部門のことである。全体業務に占める割合の小さいBCPやBCMの活動をセンターや部門と呼ぶには少し無理があるが、ここでは例え話としてとらえていただきたい。

■カスタマーサポート部門が抱える問題

ところで、一般にコストセンターとみなされる部門には経理や総務、カスタマーサポート、場合によっては工場なども含まれる場合がある。ここでカスタマーサポートを例にとろう。カスタマーサポートは、自社の製品やサービスを購入した顧客の不満や疑問の解決に応えるための一連の活動である。

カスタマーサポートは収益にならず、費用がかさむものとして敬遠する企業もあり、格好のコスト削減のターゲットとなっているところもある。コスト削減の方法としては人件費の削減やアウトソーシングがあるだろう。しかし数字だけをにらんだコスト管理は負の連鎖を招く。

サポートスタッフ一人あたりの負荷が増大する。賃金が安ければモチベーションの低下につながる。アウトソーシングを始めたとたんにサービス品質が落ちてクレームが増えたり、会社にとって必要なノウハウが蓄積されなかったり漏えいしたりといった話も聞く。

コスト削減の定石としてサポートスタッフが非正規社員であることも少なくない。加えて苦情対応などストレスのかかる業務が多いため離職率も高い。人材の流動が激しいということは、人員補充のコストもかさむということである。

もちろん、すべての会社のカスタマーサポート部門がこのようなものだという意味ではない。カスタマーサポートをコストセンターとしてではなく、プロフィットセンター(直接的、間接的に利益を生み出す部門)とみなし、顧客満足度やサービス品質向上のために積極的に取り組んでいる会社もある。

■長い目で見ることの大切さ

カスタマーサポート部門を持っている会社は、本来はその必要があって、つまり顧客満足や信頼性の向上を達成するために導入したはずである。ところがその活動の成果が見えないという理由でコストセンターのレッテルを貼ってしまったばかりに、まさに「コスト」しか見えなくなっているのだ。

BCPが抱えるコストの問題はカスタマーサポートの問題と似ている。BCPは災害から社員(およびその家族)を守り、事業への影響を最小化して顧客や取引先企業との信頼関係を維持するのが目的である。しかしBCPを作っても、すぐに災害が起こってその効果を確かめられるわけではない。経営者にとってすぐに結果の見えない活動はコストばかりかかる無意味な活動と映る。

しかしここに誤解がある。カスタマーサポートに話は戻るが、この時代、もしこの種の業務部門が存在しなかったら、あなたはその会社の製品やサービスを購入したいだろうか。問い合わせやクレームの受け付けができない会社はブラックボックスのようなものであり、とても安心して取引できるものではない。目には見えなくても直接利益の増加に貢献しなくても、カスタマーサポートはその会社に対する消費者やユーザーの信頼を確実なものにし、より多くの購買機会を醸成するために機能しているのである。

BCPがもたらす効果には3つある。一つは「社員の結束力を高める」こと。基本的な防災・減災対策ができており、社員(とくに中間管理層以上)がBCPに規定した各自の役割や部門間の有機的なつながりを認識しておくことで社員の結束意識が高まり、心置きなく日々の業務に専念できるだろう。二つ目は「顧客・取引先の信頼性向上」である。これはカスタマーサポートの信頼性と同じで、目には見えなくても「この会社となら安心して取引できる」という効果を生み出す。三つ目は「実際に災害が起こったときの会社の被害と事業への影響の軽減」。これはもはや説明を要しない。

いずれにしても、BCP/BCMの効果は中長期的に発揮されるものであり、目先のコストの対価としてその是非を判断するものではないのである。

(了)