コストをかけず 「発想」 を生かす
クレーンのバッテリーで停電対策など

川崎陸送

運送から流通までを請け負う物流業者にとって、停電は、在庫データの喪失や保管倉庫の空調の停止など、重要業務を脅かす重大な問題となり得る。川崎陸送(本社:東京都港区 代表取締役社長:樋口恵一)では、東日本大震災を機に、全事業所の電源・電話回線のバックアップ体制を構築。社内だけに留まらず、荷主企 業の停電対策にも力を入れている。同社の停電対策の取り組みを取材した。


■3つの重要業務


川崎陸送は、主に大手食品メーカーの物流業務の 葛西流通センターへ 全般を請け負い、関東地方から九州地方を中心に保 管倉庫や営業所など、多くの拠点を持つ。東日本大 震災では、幸いにも同社の施設そのものには、大き な被害はなかった。しかし、地震、津波、原発と、 これまでに類のない複合災害となったため、同社で は、業務への影響が長期間に及ぶと判断し、震災直 後から、事業継続体制の構築に向けて動き出した。  

まず初めに、川崎陸送として、止めてはいけない 最優先業務を大きく3つに分けた。顧客の製品の賞 味期限・出荷履歴などの「在庫のデータ」 、製品の 品質を維持する「倉庫の温度管理」 、最後は「従業 員の給与支払い」だ。  

これらの活動を継続するためには、電源の確保が 不可欠となる。原発事故の影響により、計画停電など長期にわたる電力不足が想定されたことから、同 社では、すぐに電力のバックアップ体制の構築に動 いた。

■フォークリフト用バッテリーを利用
電源供給の確保として、最初に取り組んだのが、 倉庫や物流センターにある約 130 台の電動フォーク リフトのバッテリーの活用だ。同社代表取締役社長 の樋口恵一氏は「フェイスブックを見ていたら、被 災地の方々が、プリウスのバッテリーを利用して、 パソコンを動かしていることを知った。手持ちのも のでなにができるか社員と相談した結果、フォーク リフトのバッテリーを利用するアイデアが生まれ た」と説明する。  

フォークリフト1台あたりのバッテリー容量は約 30 アンペア。試算すると、大体マンションの 1 戸分に相当する。電化製品などが使えるように交流電 気に変換するインバーターをつければ、事務所用の 停電対策として、パソコン7∼8台に加え、電話、 FAX、コピー機を使っても7∼8時間は維持でき るという。  

同社では、震災直後からすぐに、インバーターや 電源ケーブルなど、フォークリフトのバッテリーを 非常用電源として利用できるように、必要な部品を 調達した。  

バッテリー1台の価格は一般的に 60 万円程度、 一般的な自家発電装置と比較して安い。それでも、 事業所すべてに設置するとなると、自社にあるもの だけでは足りず多くの台数が必要となり、高額となる。そこで同社では、国産中古バッテリーのみ ならず、インド製のバッテリー(国産品と比較し て 20 ∼ 30%安い)を購入。インバーターやバッテ リーの充電器については、中国の企業向けのオンラ インマーケット「アリババ」 (http://www.alibaba. co.jp/)で探した。「日本で値引きしても 10 万円以 上する部品が、中国のオンラインマーケットでは、 半額以下で購入できる。海外製品は、日本製と比べ て信用性に欠けるかもしれないが、たくさん購入して使い捨てにすればいいと思った」と樋口氏は振り返る。  

最終的に、同社では、25 台のバッテリーを非常 用電源として確保した。これほど大量に調達した理 由は、単に自社で使うためだけではない。荷主企業 の事業活動も考慮し、計画停電時には、用意した フォークリフトのバッテリーをトラックに積み、相 手先の事務所まで運ぶ提案をした。実際に、荷主企 業の中には、非常時にバッテリーの設置ができるよ う、受発注に関わるフロアのレイアウト変更も提案 した。 「倉庫業は、出荷指図を受けて初めて事業が 成り立つ。自社だけでなく、顧客の事業継続も重要 だと思った」 (樋口氏) 。

■韓国製の自家発は軍事仕様

写真を拡大韓国の製造元での発電機(カバー固定時)

同社では、多くの食品を扱っているため、製品の 温度管理が切実な問題となる。そのため、重要拠点 となる東京、 埼玉、京都の3つの流通センターには、フォークリフトのバッテリーだけでなく、ディーゼ ル式の自家発電装置の設置を決めた。しかし、国内 メーカーが生産する自家発電装置は、震災直後から 需要が急激に高まり、手に入りにくい状況だった。

そこで、同社では、海外から取り寄せる方法を考え た。 「震災から4日後の 15 日に韓国大使館を訪問し、自家発電装置メーカーの調達先について相談しました」 (樋口氏) 。

韓国では、世界的な大手自動車メーカーのヒュン ダイなど、ディーゼルエンジンを製造している企業 が多い。必ず日本よりも安価に手に入ると思っての 判断だったという。  

実際、韓国には 100 社以上の発電機メーカーがあり、価格は日本製と比較して、ほとんどが 5 分の1 以下。 「日本製で 1200 万円の発電機に相当するスペックの製品が、韓国では日本までの運賃込で 440 万円。今年 4 月に京都の倉庫用に 120 万円で購入 した 60 キロワットの発電機は、日本で見積もると 1000 万円だった」 (樋口氏) 。さらに、そのほとん どが軍事仕様となっており、部品の多くは規格・汎 用品で、誰でも比較的簡単にメンテナンスができる ような設計になっているという。  

「危機管理はサバイバル。自分達で対処しなけれ ばならない。非常時に代理店やメンテナンスサービ スは来てくれない。全て完成品を購入するのではな く、できあいのものを組み合わせて対応することが 大事。その点、従業員でも直せる設計であることは 大きな利点だと思った」と樋口氏は話す。

昨年6月、樋口氏は、韓国大使館から紹介しても らったメーカーの製品が、日本の消防法の要求を満 たしているか確認するため、現地工場を視察。 「軍事用に設計された発電機は、十分すぎるほど堅牢に 作られていることが確認できた」という。  受注から日本に納品するまでのリードタイムは6 週間だった。夏の計画停電を見据え、380 キロワットの自家発電装置を 7 月に設置できるように手配し た。今年の6月には静岡県清水市にある倉庫にも設 置が決まっている。

■データセンターは沖縄

写真を拡大代表取締役社長 樋口恵一氏

物流を継続するためには、顧客データなどの確実 な保護も欠かすことができない。 製造業者の中には、 在庫の情報管理を、すべて物流業者に委ねている企業も少なくない。  

仮に、同社の在庫データが止まってしまうと、製造業者を含め、サプライチェーン全体の混乱が起きてしまうという。  

同社では、停電対策と同様に、本社のコンピュータや埼玉県のデータセンターが止まることを想定 し、情報システムのバックアップ体制にも力を入れている。  

具体的には、震災から3カ月後の6月には、沖縄 電力の敷地内にバックアップ用のデータセンターを 設置した。さらに、東京電力管内で計画停電が始ま ると、沖縄のデータセンターをメインにし、埼玉の データセンターをバックアップにするように切り替 えた。  

樋口氏は、「震災直前に沖縄県を訪問した際、インフラの整備が他県と比較して、しっかりしている 印象を持ったことから、すぐに決断した」とする。

■2 週に 1 度の停電訓練
同社の流通センターでは現在、2週間に1度、大 規模地震による停電を想定した避難訓練を実施して いる。  同社の倉庫には、多いときには100人以上のパート社員が働いている。5階建てで高さは 30 メート ルあり、一般の建物の 10 階の高さに相当する。突 然停電し、真っ暗になった状況になると、大きな事故になりかねない。暗闇の中でどう行動するのか、 センター長が不在の場合どう動くのかなど、さまざ まな想定で、しかも予告なしの訓練を繰り返すこと で、従業員の判断力が磨かれるのだという。  

現場からは様々なアイデアも生まれている。例えば避難時に従業員が迷子にならないよう、各現場 リーダーには鈴をつけるようにした。明かりがなくても、音により正しい避難方向へ誘導できるように するためのスタッフの提案によるものだった。 「1 カ月もすると、手順を忘れてしまうし、実際に停電 が発生したら、マニュアルを見ることもできない。 目をつむってもできるというのが最終目標」と樋口氏は話している。