写真を拡大  14日夜の前震の後、全社員が本社に集まり、顧客に安否確認の電話かけを行った。時計は0時30分。深夜だったが、余震が続いているため、引き 続き注意することや、住宅に不具合があればいつでも連絡してほしいことなどを呼び掛けた
台風を想定して災害対応力を強化してきたことで、熊本地震でも迅速に対応できた企業がある。熊本市内に本社を置く工務店だ。建設業や工務店のBCPは、災害発生時に自社の事業の継続・復旧を行うだけでなく、様々な社会インフラ設備や被災住宅の復旧に取り組むことが求められる。株式会社アネシス(熊本市東区)の地震後の対応を取材した。


4月14日の「前震」では、発生後1時間程度でほぼ全社員が会社に集まり、顧客の安否確認にあたったというアネシス(熊本市東区)。九州は台風の上陸が多く、住宅の被害も多く発生することから、同社では10数年前から災害対応マニュアルを作るなど対策に力を入れてきた。

社員約100人の中小企業だが、災害の発生時には災害対策室を立ち上げることが決められている。「住宅被害が発生しそうなレベル」というのが設置の基準だ。

写真を拡大  災害対策室のメンバーとして対応にあたった前田優氏(中央)、橋口直希氏(左)、
一戸紀見華氏(右)

災害対策室のメンバーは15人。社長や役員がいなくても迅速に対応にあたれるよう、予算を含め、ほぼすべての権限が災害対策室長となる前田優課長に与えられている。「もちろんその都度、社長と相談しますが、基本的には災害対応にかかる判断はすべて任されています」(前田氏)。

平時の業務と調整しながら災害対応にあたれるよう、対策室長および副室長の下に、各事業部長でつくる執行部を介して、情報班、指示班、緊急班、訪問班、積算班を置く。

災害発生時には、災害対策室が立ち上がるだけでなく、子供がいる母親などを除いて、全員が会社に集まるというのが同社のルール。14日夜に発生した熊本地震の前震でも、ほぼ全員が集まった。「参集の基準を明確に決めているわけではありませんが、毎年のように大きな台風が来るので、社員の心の準備もできていたのでしょう」(前田氏)。

緊急連絡は日常的にメールやLINE(ライン)を使っている。社員の安否を確認しながら、並行して約2100件にのぼる既存顧客(住宅オーナー)すべてに電話かけを実施した。

「お客様がご無事かどうかを確認するのが基本。翌日以降でも不具合があれば、遠慮なく連絡してほしいということを伝えました」と前田氏は説明する。

すべての業務を終了したのは夜中1時近く。翌15日は朝7時に再び全社員が会社に集まり、安否が確認できていない顧客に再度電話をかけるとともに、全顧客への訪問を実施した。

翌日未明に発生した本震では、熊本市内でも被害が大きく、自宅が被災した社員も発生した。会社の中も書棚が倒れたり、机や椅子が散乱するなど歩けない状況だったという。それでも、会社には20人ほどが集まり、夜が明けてからの対応を話し合い、朝7時には、再び全社員に集合をかけた。「避難所に行って、会社に来られない人もいましたが、それでも多くの社員が来てくれました」(前田氏)。駐車場で早朝のミーティングを行い、執行部のメンバーから「建築住宅会社は自衛隊や病院と同じように困っている人を助ける立場。被害者意識は捨てよう」と呼びかけた。

本震が起きた16日の朝7時に開催したミーティング。社内に入れないため、駐車場で行われた

再度、全顧客を訪問し、被害状況を確認。震源地である益城町にも100件近い顧客がいたが、倒壊した家屋はなかった。

台風では、瓦が飛ぶ被害が多く発生するが、水道管やガス管などライフラインが破損することは少ない。が、熊本地震では水道管が多く被災した。また、台風では翌日は晴れることが多く、すぐにブルーシートをかけられるが、熊本地震では余震が多く、危険で屋根に上れない状況が長く続いた。

こうした状況に対して、同社ではまず住宅の被害に応じて緊急性を優先順位付けして対応にあたることにした。最優先するのは水道管、ガス管、電気関係などライフラインが確保できない物件への対応。もちろん地域全体で供給が止まっている場合は除き、配管設備が壊れて水が出ないような物件は生活に支障を来すので優先的に直した。職人の数が足りないため、一般社員でも応急措置が行えるよう、水道管の修理に関するレクチャーも受けたという。

2番目の優先順位は屋根や窓など雨風を凌ぐ措置。屋根の被害件数は多いが、余震が多くて屋根に上ってブルーシートをかけることができないため、当初は状況確認にとどめ、余震が落ちついた段階を見はからって、外部の屋根職人にも手伝ってもらい、一気に作業を行った。「人命がかかってるので、そのタイミングにすごく悩みました」と前田氏は振り返る。自社の顧客以外からも修理に関する要請が多く寄せられたため、特別班を編成して対応にあたらせたという。

これまで経験もしたことがないような規模の被害に柔軟に対応できた理由は、日頃から社員一人ひとりが現場での対応力を高めていたためだ。同社では毎年2回、全社員がすべての顧客を手分けして訪問する「定期訪問」を実施している。普段、工具などを持たない社員も講習を受け簡単な不具合などは自分でも直せるようにした上で顧客と1対1で接する。訪問先では、修理やリフォーム、ちょっとした建具の不具合など、様々な相談が寄せられ、社員は内容に応じて、自分でその場で修理すべきか、メーカーや職人に依頼すべきか判断を迫られる。社長室の一戸紀見華氏は「熊本地震の対応についてマニュアルで事前に決めてあったことは、ほんの一部。ほとんどは地震後に状況を判断して行いました。混乱の中でも社員が一丸となって復旧にあたることができたのも、定期訪問で対応力を身に付けていたためだと思います」と語る。

前田氏は熊本地震の対応を経て「普段あまり一緒に働かない人がお客様の復興という同じ仕事に取り組むことでこれまで以上に社員の結束が強まったと思う」と話している。

(了)