本社で調整にあたったイオングループ総務部長の津末浩治氏
国内小売業最大手のイオンは、熊本地震で店舗が使えなくなりながらも屋外駐車場などで販売を続けるとともに、イオン九州、マックスバリュ九州、イオン本社からの迅速な支援により、早期に店舗での営業を再開させた。自治体からの要請に対しても、これまで積み重ねてきた訓練の経験を生かし、震災直後から物資を被災地に送り届けた。

 

地震発生後に店に駆けつけ対応にあたったイオン九州 中九州事業部長の野上尚良氏(右)と現地対策本部で収集にあたった社長室長の金内繁幸氏(左)

イオングループは、熊本県内に総合スーパー(GMS)7店、スーパーマーケット21店、ホームセンター2店、ワイドマート2店、イオンバイク3店を持つ。このうち県下最大のショッピングセンター「イオンモール熊本」内にあるイオン熊本店では、地震発生時、店舗は営業中で、商品が倒れるなどの被害が出たが、店長が中心となり顧客の安全確認と駐車場への避難誘導を行い、余震で帰れない顧客のために駐車場を開放するなどの対応をとった。地震発生後に店に駆けつけたイオン九州中九州事業部長の野上尚良氏は「落ちてきた物が肩に当たったというお客様が1人出ただけで、他にお客様にケガはありませんでした」と当時の状況を説明する。

一方、千葉市美浜区にある本社では、地震発生30分後には副社長をトップとするグループ全体の対策本部を立ち上げ、ほぼ同時に福岡市にあるイオン九州など九州のグループ会社3社が現地対策本部を立ち上げ、安否確認や被害状況の確認を進めた。テレビ会議を通じて状況はリアルタイムで共有された。

対象エリアに安否確認

イオングループでは、2011年の東日本大震災以降、全グループの社員、パートタイム、アルバイトなどを含む40万人以上が登録できる安否確認システムを独自に開発し、その運用方法について研究・訓練を積み重ねてきた。震度を基準にした安否確認メールの自動配信方式では、地震以外の災害や、今回の熊本地震のように余震が多いケースでは柔軟に対応できないことも考慮し、あくまで対策本部が対象エリアやタイミングを決定した上で、配信を実行することにしている。14日の前震では、対策本部が立ち上がってから約20分後に熊本と長崎を対象エリアに安否確認メールを配信することを本部・現地の対策本部間で決定し、同地域で働く約5500人に対して配信し、安否確認を行った。

イオン熊本店を含む県内の店舗には、大きな被害はなかったが、フェイスブックやツイッターなどのSNSで「イオンモール熊本が火災で燃えている」というデマが流れた。当時、イオン九州本社内の現地対策本部で情報収集にあたっていたイオン九州社長室長の金内繁幸氏は、「一瞬焦りはしたが、店舗はすぐに『そのような事実はない』という確認がとれ、冷静に対応が進められた」と振り返る。

ただし店内では、陳列棚が倒れたり、一部商品が崩れ落ちるなどの被害が出ていたため、イオン熊本店では、翌日は店を閉め、屋外の駐車場で食料品などの商品を中心に販売を継続させた。

そして、16日未明に本震となる揺れが再び熊本を襲った。市内全域が停電になる中、店長と野上氏はイオン熊本店に駆けつけた。「暗くて状況が確認できなかったが天井が落下し、スプリンクラーの配管が折れて床は水浸しになっていた」と野上氏。14日の前震とは比べものにならないほどの被害が出ていることは明らかだった。

千葉市の本社、福岡のイオン九州でも、再び夜中にもかかわらず対策本部要員が集まり、安否確認、被害状況の把握にあたった。

イオン本社に設置された災害対策本部の様子(写真提供:イオン)

本震では、熊本、大分、福岡を対象に約2万1000人に安否メールを配信。大きな揺れがあった地域では、多くの従業員が携帯電話を持たずに自宅から避難していたこともあり、40人の安否が確認できなかったが、翌日からイオン九州の労働組合が2人1組の5チーム体制で現地に入り、安否確認に奔走した。さらに、店舗に出勤できない約100人の社員の自宅や避難所を訪問し、水やレトルト食品などを届けた。「労使一体の支援だった」(野上氏)。

社員や家族に犠牲者は出なかったが、避難所生活や車中泊を余儀なくされた社員は多かったという。それでも、16日には半分以上のスタッフが店に集まっていた。「自分たちも被災者なのに、何か地域のためにやらなければいけないと思ってくれたのでしょう。本当にありがたいことです」と野上氏はスタッフへの感謝の想いを打ち明ける。

イオン熊本店。前震 発生後、余震で帰れない人のために広大な駐車場を開放し続けた
前震・本震後、屋外での販売を続けた(写真提供:イオン)

先遣隊が必要な支援をとりまとめ

イオン熊本店では、本震があった16日も屋外での販売を継続することを決めた。販売する商品の品目、陳列方法、値段、金銭のやり取りなどはすべて店長の判断。店長では判断できない店舗本体の改修などはイオン九州やイオングループ本社が対応にあたった。さらに、現地には17日の時点で先遣隊がイオン九州やイオン本社から送り込まれ、必要な支援を取りまとめ、本部との調整にあたった。「本社からの迅速な支援のおかげで助かった」と野上氏は話す。同様に、イオン宇城店、イオン熊本中央店でも屋外販売を行っている。

本社対策本部では、全国のグループ会社に支援スタッフの派遣を要請し、結果、5月8日までに総計約1100人の支援スタッフを現地に送り込んだ。店舗スタッフだけでなく、体調を崩した被災者のケアにあたれる薬剤師や、店舗の休憩所で小さな子供の面倒が見られる保育士の資格を持った人もいた。本社で調整にあたったイオングループ総務部長の津末浩治氏は「イオングループは、災害時でも被災地を復旧させるというミッションに対して1つになれる企業集団。過去の災害でもグループ全体が連携をして対応にあたってきた」と語る。

積み重ねてきた訓練が機能

迅速な対応ができた最大の理由は、大災害を想定した訓練を何度も積み重ねてきたことだろう。

イオンでは、東日本大震災より以前から、災害対策には力を入れてきた。45万人が参加する年2回のグループ全体の総合訓練に加え、エリアごとの訓練や、自衛隊や輸送会社など外部との連携訓練も行っている。今年3月には、日本航空と緊急支援物資の覚書も取り交わし、被災自治体や店舗に物資を迅速に運べる体制を築いてきた。

4月16日には熊本空港のターミナルが閉鎖されたが、緊急避難用大型テントを被災地に届けるため、長崎空港まで空輸し、空港から陸上自衛隊が熊本県上益城郡御船町まで運搬した。翌日から4月20日までに空輸は延べ49便に及び、陸送と合わせて計529万点の緊急支援物資および店舗販売用商品を被災地の自治体や各団体、店舗に送り届けた。「陸上自衛隊との物資輸送訓練を繰り返し実施していたことから、空港から避難所までのトラック輸送についても、現地の陸上自衛隊の方々にご担当いただくことができた」と津末氏は話す。

東日本大震災以降、イオングループでは、訓練の内容や、外部との連携について特に強化してきた。「グループ全体の訓練では、各社のボードメンバー全員に参加してもらっている。リアリティーのある訓練をやり続けなければいけないということで、従業員が犠牲になるような、これまでタブーとされた状況も想定し、かつ、ブラインド型(シナリオをあらかじめ公開しない方法)で実施をするなど、随時課題を洗い出し、あえて、対応が難しいシナリオにおいて訓練を実施することで、対応方法を改善してきた」(津末氏)。

熊本地震の被災者に向け、イオンでは、バルーンシルター2セットを熊本県御船町に届け広場に設置した。展張サイズは間口が22m、奥行き11.6m、高さ3mで1セット当たり約100人の収容が可能。御船町では最大50人程度がこのテントに一時的に避難した。写真は、6月23日に千葉市のイオンモール幕張新都心で行われたバルーンシェルター設置訓練時のもの

情報共有が機能

もう1つ、訓練とともに強化してきたのが情報共有の仕組みだ。「一番重要なのは、現地が正確に判断できる情報をいかに共有できるかということ。いろいろな判断をしなければいけない人たちが多数いるということで、IP無線をボードメンバーに渡したり、対策本部に入れなくてもiPadでテレビ会議に参加してもらうなどの仕組みを構築してきたことが今回の地震では奏功した」(津末氏)。

昨年からは、『イオンBCPポータルサイト』も立ち上げた。「東日本大震災では、支援物資の要請が来ても配送が遅れたがために商品が不必要になってしまったり、重複したりという事態が発生してしまった。こうした課題を解決していくために、必要な商品を必要なときに、必要な量、必要な場所に迅速に届けられる情報共有の仕組みを整えた」。ポータルサイトでは、必要な商品カテゴリーごとに、どのくらいの量が必要なのか、逆にどのくらいなら送れるのか、イオン側と商品を作るメーカー各社が画面上で相互に状況を確認することができる。さらに、これまでの災害における支援実績がデータベース化されているため、被災地からの要請がなくても現地で必要とされる商品を想定し、提案できる体制になっている。

現在同社では、情報共有をさらに強化するため、地図情報をベースに、災害情報や安否確認の結果、店舗施設の被災状況などがすべて一元化できる新システム『イオンBCM総合集約システム』を整備している。

「地震など災害があったエリアに我々のショッピングセンターがどのくらいあるのか、その状況が今現在どうなっているのかということがリアルタイムで把握できるシステム」(津末氏)。国内はもちろん海外までプロットされており、地図上の拠点をクリックすると、店舗の名称、住所、連絡先が出て、その次にライフライン、電気、ガス、水道の被災状況などが一目でわかる仕組みだ。今回の熊本地震では、通信が生きていたため、このシステムは使わなかったが、今後はグループ会社が同様のシステム環境下で、迅速に情報集約、共有する体制を作り上げていくとする。

イオングループBCM5カ年計画

同社は熊本地震発生前の今年2月29日、「情報インフラの整備」「施設における安全・安心対策の強化」「商品・物流におけるサプライチェーンの強化」「事業継続能力向上に向けた訓練計画の立案と実行」「外部連携の強化とシステム化」の5本を柱とする『イオングループBCM5カ年計画』をスタートさせた。

「我々一企業でできることは限られている。いろんな企業や行政の方々、団体、大学との連携をすることで、地域のお客様に初めてお役に立てる。この5カ年計画を着実に推進していくことで、地域のお客様にとって、なくてはならないショッピングセンターを作り上げていきたい」と津末氏は話している。

BCM5カ年計画に基づき、BCM総合集約システム(写真上)を拡充するとともに、施設面においても、地震で落下する可能性がある防煙垂壁をガラスから不燃性フィルムに変えたり(写真中)、防災拠点となる施設には貯水槽を設置(写真下)するなど安全対策を強化している。