写真を拡大 毎年開催されている岩岳感謝際には、震災後も多くの観光客が集まった

約1年半前に長野県白馬村で地震が起きました。その風評被害対策として何をしてどう感じたかを中心にお話しします。まず白馬村について。北アルプスの3000m級の山々が間近に見えてとても素晴らしい山岳景観を持っています。

そしてその麓に農産地帯が広がっていまして、そこに我々が住んでいるという状況です。私は移住者ですが、四季は4つではなくてもっともっと細かく分かれていると感じるほど、四季折々の魅力ある地域です。

一番の収入を見込める季節である本格的な冬を前にして起こったのが、2014年11月22日の神城断層地震です。この地震はマグニチュード6.7、最大震度6弱で幅広いエリアが揺れました。

長野県白馬村よりも1つ北側の小谷村や東側の小川村、長野市で最大震度が記録されました。白馬村は地盤が固いのか震度5強でした。ですが、信州大学の調査グループがその後に地盤などを調査して、「白馬村の堀之内地区は、震度6強であったであろう」と発表しています。

たくさんの倒壊家屋があり大きな被害が日本全国に流れ「白馬村は大変」ということが世の中に出回りました。倒壊したところもありますし、断層がズレて段差ができたところもあります。山も崩れました。

大きな被害が発生したのは堀之内地区、三日市場地区で、白馬村内でも東側の地区です。ところが、堀之内地区から西へ、直線距離で5kmも離れていないところに私の家はありますが、棚の上の瓶が1本倒れただけでした。

そのくらいこの地震は村の中で東側に被害が集中し西側はあまり被害が出なかったという特徴がありました。人的被害は重傷3人軽傷20人で、死者が出なかったことも大きなポイントです。家屋被害は、たった539棟でした。

写真を拡大 大きな被害が出た白馬村堀之内地区

様々な角度から情報を収集

白馬村観光局としてこの地震でとった対応はシンプルで、情報を収集してそれを正確に発信しようと心がけました。被害に遭われた方の対応などは行政が100%担っているので白馬村観光局という観光に特化した組織は、冬を目前に控えた時期に地震が起きたので、この状況下でも一人でも多くの人に白馬に来てもらえるよう力を尽くしました。

まず情報収集について話します。先ほど説明大きな被害が出た白馬村堀之内地区 した人的被害や建物の被害の他にも道路や電車など交通機関の被害、観光施設のスキー場、宿、飲食店、お土産物屋などの施設がどういう状況なのか、また実際に携わっている人たちがどういう状況なのかコミュニケーションを取りながらいろいろな情報を収集しました。

外部の情報にも注視していました。横浜にある私の実家に毎日のように電話をかけてニュースでどう取り上げられているのか確認していましたし、妻は名古屋近くの出身なので、妻の実家にも流れている情報を電話で確認していました。集めた情報を観光局で交換しながらずっと情報収集を進めていました。

そうしてる間に、インターネット上の情報で間違いを発見しました。Yahoo!のトップページに「JR大糸線運休」と表示されていました。大糸線は松本から糸魚川までの線で、実際の運休区間は白馬より先の一部分だけでしたが、けれどもYahoo!の表示だと全線不通だと思われると考え、Yahoo!に連絡して相談をしました。一例ですが、このように職員がいろんなところで様々な情報を集めていました。

3日以内の情報発信が重要

続いて情報発信について話します。情報発信の初期段階で重要なのは「スピード」「受け取り手の感情」「伝えたいイメージ」のバランスだと思います。

地震があったのは11月22日の夜。観光局として初めての情報発信は、地震3日後の25日にFacebookで「たくさんの温かい応援ありがとうございます。皆さんの応援は力となり、最高のリゾートを創り出すでしょう。ウィンターシーズンももうすぐです。さあ準備を始めましょう」とプラスなイメージで出しました。

実は25日にホームページの担当が気づいたのですが、観光局ホームページのアクセス数が、地震の翌日に多いときの3倍くらい、翌日にはガクンと減りましたがそれでも2倍以上の方がアクセスしてくれていました。担当者は「明日には、(通常レベルに)戻ってしまうのではないか」と考えて急いでプラスのイメージの情報を発信したのです。

ホームページを見る方は情報を取りに来てくれた方です。ということは私たちにとって一番正確な情報を伝えたいお客さまです。その方々がこんなにアクセスしてくれるのだから、どうにかプラスの情報を与えたいと。

可能ならば3日以内にある程度の情報を発信するといいと思います。スキー場のホームページも、3日間くらいはアクセス数が増えて、そこからは平常に戻ったそうです。

受け取り手の感情と伝えるイメージ

情報を発信するときに注意すべき「受け取り手の感情」と「伝えるイメージ」について話します。我々が一番伝えたかったのは「大丈夫だから白馬村に来てくれ」ということです。でも受け取り手が「地震があって被害に遭っている人たちがいるのに・・・・・・」と思ったらどうでしょうか。

実際の例です。26日に村内在住の方が、「村内の被害は一部だけでスキー場や宿泊施設は無事なのでぜひ来てウィンタースポーツを楽しんでほしい」という内容をFacebookに投稿しました。非常に多くシェアされましたが、被災された住民がこの投稿を見たらどう思うでしょうか。

ここで問題なのは「一部以外は大丈夫」と書かれた点です。もし、私や村長が地震の直後にテレビや新聞のインタビューでこう答えていたら「白馬村、ひどいところだね」と批判されたかもしれません。我々もプラスの情報を出したくて、投稿した方と同じ気持ちでしたが言葉選び一つで失敗する可能性があります。ですから受け取り手の感情をしっかり考えないといけません。

東側に被害があったけれどスキー場側(西側)は大丈夫だと伝えたい。そう考えてつくったのが被害マップです。言葉では言えないので視覚的に伝えたわけです。「さのさかスキー場」のすぐ近くの集落で倉庫の損壊や岩岳地区でも一部損壊がところどころでありました。

しかし、この情報をそのまま出すと「やっぱり危険だ」とイメージされます。我々の作った地図では住宅の全・半壊だけを載せて嘘偽りはないけれども倉庫のちょっとしたヒビなどの情報は掲載しませんでした。視覚的な情報で受け取り手にイメージしてもらえればよいという形です。嘘偽りはない中で、きちんと情報のイメージ戦略を実施した一例です。

他には地震の4日後には車載カメラでお客さんが集まるエリアや村内の道路、長野から入って来る道、被災した堀之内地区でも撮影し、何もコメントをつけずにYouTubeやFacebookで流しました。見ていただくとわかりますが、道路もガタガタではないし建物も崩れていない。これを感じてもらえればと思いました。


英語でも情報発信

もう1つの風評対策に白馬村の村長にメッセージを書いてもらいました。日本語で書いたものを要約すると「ご心配やご支援いただきありがとうございます。地震があって被害はありました。けれども大丈夫なところもあるのがこの地震の特徴。ご理解ご協力をお願いします」というような内容です。

英語版もつくりました。英語版はホームページに掲載しましたが、日本語版は旅行会社に郵送するだけにしました。それは、地震後まだ1週間でこの内容が白馬村内に知れ渡る影響を考えたからです。こうやって、伝えたいところにだけ情報を届けました。英語版はホームページに載せただけはなく、外国人を受け入れている旅行会社や宿泊施設を通じてお客さんにも届けられました。

余震情報は常にチェックし地震後1週間~ 10日ぐらいは余震情報を出し続け、その後は1週間単位で集計して「白馬ではこれぐらいの余震がありました」と発信しました。

12月に入るとほとんど余震も収まっていて、中旬に震度3の地震が1回あっただけ。その後は1月末まで地震は発生せず、余震の長引かない地震でした。こういった情報をしっかり発信することで風評被害をなるべく抑えようとしました。
 

修学旅行の影響を避ける

村長の言葉と余震集計を出した一番の理由は、修学旅行を考えてのことです。もし、保護者から「地震があったから、白馬村には行っては駄目」と意見が出ると、学校としては行き先を変更せざるをえません。そうすると200 ~ 300人が2、3泊する何百万円のお金が一気になくなります。しかも、行き先を変更してしまうと2、3年は戻ってきません。ですから子どもたちの保護者や旅行会社から聞かれる前に、こちらから情報をどんどん出そうと意識していました。
 

ライターを招聘

地震から1週間ほどは白馬村の被害がニュースで取り上げられましたが、やはり最も被害の大きい地域の様子を伝えるだけで、当然、他の地域は「大丈夫」だとはニュースバリューがないので報道してくれません。ニュースだけ見ていた人は「白馬は大変だった」というイメージを持ったまま止まってしまいます。ですから「今の白馬はこういう状況ですよ」と丁寧に伝える取り組みを始めました。

その一例がライター招聘事業です。白馬村とYahoo!はいい関係を築いていて、「こういう課題を持っているんですが、何かできないでしょうか」と担当者に相談したところYahoo! Japanのニュースチームの方から紹介していただいたのがこの事業です。3人のライターの方に来ていただき、見たままの白馬の現状を発信してもらう企画で特にこちらで情報を操作することはありませんでした。2月に実施しましたが、私の中には地震後2 ~ 3カ月がたちスキー場もしっかりと稼働し、お客さんにも来ていただいて自粛ムードにはなっていませんでした。ですからどういう形で取材されても観光にマイナスの情報を発信されることはないと考えていました。

他にも長野県と白馬村、隣の大町市、小谷村とのスキー場の共同プロジェクトを実施しました。お金を出し合って、多角的に風評被害をなくす取り組みです。新聞やラジオ広告をはじめ、ウェブではYahoo!と楽天の検索サイトへの広告や宿泊施設の予約サイト「じゃらん」へ広告を出しました。

首都圏ではメディア向けの記者発表もやりました。それぞれの自治体の首長が顔をそろえ、ゆるキャラも連れての会見です。「安心して来てください」というメッセージを伝えるためです。長野県の建物「銀座NAGANO」でPRイベントも行いました。旅行会社やメディアの方々に来て、実際の今の白馬を見てもらう取り組みもやりました。そういった多角的なことを総額1700万円かけてやりました。

マスコミ対応のポイント

様々な風評被害対策を講じた結果、白馬村のスキー場の利用者数は八方尾根スキー場が2%減、岩岳が2.1%減、五竜・47が8.4%減でした。やはり風評被害はあり、減少しましたが、対策が実を結んでこの程度の被害で収まったと思っています。というのも隣の小谷村のスキー場は12%減でした。このスキー場もほぼ同じ状況だったにもかかわらず違いが出ました。及第点なのかなと思っています。

風評被害対策で重要だと感じたのはマスコミとの付き合い方です。先ほど話しました小谷村はマスコミを完全にシャットアウトしました。被害のあった家屋も見せず、役場の人たちも地震のインタビューになるべく答えないようにしていたそうです。そのためか被害があったことを知らない人たちもいました。そうすると風評被害は抑えられたのかもしれませんが、協力者も少なくなったような気もします。

対して白馬村はマスコミを抑えられなかったというのもありますが、真摯に対応していたように思います。スキー場の話では、「(地震に関する)インタビューにも答えるし、スキー場の中をどれだけ報道してもらっても構わないけど、オープンしたときには取材に来てほしい」と伝えたら、100%取材に来てくれたようです。マスコミとの付き合い方もとても重要なのだと改めて感じました。

当たり前ですが組織が多くなると動きが鈍くなります。長野県と3市村とスキー場でお金を出し合ったときに、我々は3日で情報を取りに来る人がいなくなるのをわかっていましたのでどんどん発信したかったのですが、やはり調整に時間がかかりました。結局、一番初めにその共同体で実現できたのは12月に入ってからでした。ですから、避難訓練やリスク対策をするときに、風評被害の対策訓練も行うべきではないかと感じています。

白馬はスノーリゾートなのでプロスノーボーダーやプロスキーヤーが住んでいて、そういった方と雑誌社のつながりから連絡がきて「○○というライターから連絡が入って、白馬のことを雑誌で取り上げてくれと言われた」と特集ページを掲載していただいたり、無償でやってもらうこともありました。

良い風評、悪い風評があると思いますが、情報の良い面は伸ばして悪い面は最低限に抑える。これからも励んでいきたいと思います。

(了)