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私のいるエス・ピー・ネットワークの総合研究室は危機管理体制の構築のコンサルティングや緊急事態発生時に企業の対策本部に対する様々な対応を支援・助言しています。企業にとっては不祥事を起こすこと自体が評判を落とすことになります。その後、記者会見を含めて、緊急事態の対応を間違えてさらに評判を落とすことが一番まずいパターンです。皆さんも、日々のいろんなニュースや事例を見ていておわかりかと思います。

風評起因の4領域

風評の起因を便宜的に分けると4領域に分類できます。「企業活動の内実」「(企業活動の)アウトプットの品質」「統制環境レベル」「危機管理体制」になります。それぞれの領域で高・中・低とレベル判定ができます。危機管理体制だけでも高レベルになっていれば、不祥事は本来発生しないはずです。ただし、自分たちは高だと勘違いしていて(甘い自己査定)、実際には中や低レベルに留まっていると不祥事が発生しやすくなるのです。この4 領域すべてが企業の信頼性を決定します。各領域でレベルが低いままでいると、徐々に風評が形成(あるいは固定)され、続いて不祥事が発生し、さらに風評被害が出ると最悪の場合は倒産に至ります。企業としては、絶えずこの4つの領域で「高」判定を目指すべきです。


企業イメージの形成要因

次に各企業が持たれている企業イメージを、そのイメージ形成要因としての評判の良し悪しとその判断情報の信憑性の高低に分けて分析すると、良い評判が正しい情報と正しい判定基準に裏打ちされていれば、健全なレピュテーションマネジメントが機能していることになります(先の4 領域での「高」判定にも繋がります)。悪い評判の場合は、レピュテーション(reputation)よりルーモア(rumor)と表現したほうが正確ですが、これは、まさに風聞や流言を意味します。もし、企業にとってマイナスの風評(ルーモア)が広がっていても、その内容が正しく、事実であれば、リスクマネジメント自体が欠落していたことになります。

マイナス評価の元となった風評が根も葉もないものであれば、それはいわゆるデマです。このようなルーモアは悪意を持って意図的になされることも多く、信用毀損や業務妨害を受けることになり、まさにこれこそ風評被害です。また、この風評伝播のプロセスでは、意図的ではないにせよ出所や元情報を疑わずに無責任に拡散してしまうことがあり、これが現在のネット社会の危うさを増長しています。

一時(ある期間)のプラス風評がマイナスに転じる場合は、嘘がバレたり、メッキが剥がれたときです。不祥事発生に至れば、徐々に真実が暴露されてくるわけですから、もともとが欺瞞経営だったと言わざるを得ません。これは“想定外”でも何でもなく、起こるべくして起ったと言えるのです。そうなると、実損害が大きくなり、さらに不祥事発生後の対応のプロセスでミスを犯せば、さらに信用を失墜して実損害がより拡大してしまう。まさに企業存続の危機の局面に立たされます。このプロセスは、実損害と風評被害が表裏一体となってきりもみ状態で落下していくように形容できます。

さて、風評形成の場としては、従来の口コミと既存のマスメディア、そしてインターネット上の各メディア(ミドルメディア、パーソナルメディアを含む)があります。真偽入り乱れた情報がこれらの間を相互に乗り入れ、駆け巡って風評が形成されていきます。ネット上のみであれば“炎上”ですが、既存のマスメディアでも取り上げられ、延焼すると“大炎上”となります。いずれにしても、企業としては“炎上範囲”(即ち風評範囲)をできるだけ狭めて、早期の“鎮火”に努めなければなりません。

直近の熊本地震で問題になったのが「不謹慎バッシング」です。「こんな時期にそんなことをやるのは“不謹慎”だ」という類の批判です。これらのバッシングをしているのはノイジーマイノリティです。まるで大勢の人が言っているかのように思われますが、実はごく少数の人間が数多く投稿している。ここを見分けるリテラシーが重要です。

炎上だからといって、何も常に過剰反応する必要はありません。自社の評判に関わるので気になるのは当然ですが、この拡散範囲は結果として限定的なものに止まりますし、「いちいち、そんなことを言うほうが不謹慎ではないか」との声にかき消されることも少なくないのです。この辺りはしっかり見極める眼を養いましょう。

求められる危機管理

とは言うものの、風評の挙動や動態は複雑な動線を描きますので、あまりにも巨大不祥事になってしまうと企業側のコントロール(範囲・能力)の壁を突破してしまうことがあります。平時の危機管理でやるべきことをやっておき、各種潜在リスクの無軌道な成長を放置しないでおけば、仮にクライシスな局面になったとしても早めに収束できます。そして、危機管理体制をブラッシュアップするサイクルに繋げることができます。風評に関しては、平常時の活動は風評の常時チェックとその対応、緊急時は風評発生の認知と評価、ならびにその対応のステージに分かれます。これらをうまく回して継続的な経営活動の改善に資することこそ、危機管理そのものです。

そもそも企業不祥事の発生の要因と構造は、「制度・ルール上の問題」「経営方針・リーダーシップ上の問題」「ビジネスモデル・商慣習上の問題」「社風・価値観・統制環境上の問題」の4領域に分けられ、個々の領域に属する多様な要因
が因果や相関の関係で生起し、不祥事発生のカウントダウンが始まります。この負の連鎖を上手く断ち切らないと、風評はどんどん悪化していきます。それでもリスクマネジメント局面のうわさであれば、ある程度風評のマーケットサイズは小さいかもしれません。ただし、実際にクライシスにまで至ったら、事態の“拡大”を防止しなければならないと同時に、悪い風評の“拡大”も阻止しなければなりません。それらの“拡大”の要因と構造は、「情報収集上の問題」「組織態勢上の問題」「心構え上の問題」「対応実施上の問題」「開示・説明・会見上の問題」の5領域に分けられ、これまた各領域の要因が密接に関わり、循環していますので、全てに上手く対応しないとクライシス対応は失敗します。リスクマネジメ
ントとクライシスマネジメントの両プロセスにおける上掲9領域の各構成要因をチェックシートのようにご活用いただき、風評の発生とその拡大の阻止にお役立ていただければと思います。

なぜ不祥事が止まらない

そこで不祥事がなぜ止まらないかを考えてみたいと思います。時間軸で考えると各種制度や施策にも限界があると見ています。風評というものを超越した、単なる風評では片付けられない、その企業の体質的な問題です。例えば、ある企業で数年前に一度不祥事を起こした。その反省から再発防止対策も採り、ガバナンス、コンプライアンス、内部統制を整えた。それにしたがっていろんなルールや規定、マニュアルも作った。ところが、また新たな不祥事を起こしてしまう。そこで再度、ガバナンスの強化が足りなかった、コンプライアンスが徹底していなかった、内部統制が浸透していなかったと振り返るわけです。それでもまた、数年後に不祥事を起こすかもしれないのです。

本来クライシスマネジメントは被害・損害の拡大防止と事態の早期収束化を図るための管理手法です。しかし、何度も不祥事を繰り返していると反省と学習能力のない企業と見られ、「やはり体質的な問題があるのではないか」と見なされます。そうなると、ガバナンスやコンプライアンス、内部統制も表向きのPRに過ぎないのではないかという風評の固定化にまで至ります。つまり、体質は変わらないと。

これらの再発防止や改善の施策が組織に浸透せず、実効性を持たなかったため不祥事が起きる(再発する)。このプロセスを時系列で見ていくと、実は複数の“ある時点”で発見された問題やリスクが無視された、チェックが見逃された、内部監査が未報告だった、内部通報が等閑視された、報告が非共有だった、マニュアルが形骸化していた、ルールが無視された、事実確認していながらそれを隠蔽した等々と様々な、導入施策と正反対の対応をしてしまうケースが散見されるのです。タイミング的には何度も予兆を発見できたはずなのに、スルーされたり、タ
ブー視され、結局不祥事が発生してしまう。ここで「風評のダム」が決壊してしまうわけです。また、例えば、小火が頻発していた工場で爆発事故が起きたとなると、予兆を見逃していたので確実に人災です。事故ではあるけれども不祥事
です。このようにリスク情報が報告・共有されなかったり、内部通報制度が機能しないなどということになると内部告発に至ってしまいます。もう1つの問題はコンプライアンスの一社完結性という神話にあります。リスク分散やリスク回避
はリスクマネジメントの1つの手法ですが、それを親会社や子会社、主要な取り引き先に任せて、完全に移転(丸投げ)するのは無責任極まりありません。

クライシス局面に移行してからは、初動対応遅れは致命的です。また記者会見が必要なのに開催が遅れたり、会見の場で当事者意識の欠如、責任の転嫁や回避、不適切発言をすると事態はさらに拡大、長期化していきます。こうなると風評の悪化は止まりません。


緊急時における危機管理

なぜ、平時(リスクマネジメント)と緊急時(クライシスマネジメント)の連続性が担保されにくいのでしょうか。平時においても危機管理=経営管理と解すべきなので、優先順位は最も高いはずで、緊急時はなおさらです。ところが、緊急
時であるにもかかわらず、危機管理が一番下に追いやられる事例が見かけられます。この変化の背景には、無責任体系の圧力上昇があります。全ての機能部門管理が蔑ろにされます。一番大事なときに危機管理を最優先にした体制に移行しなければいけないのに、入れ替わってしまっているのです。これでは風評の悪化も防げるわけはありません。この変容は実に単純な構造です。

緊急時の対応には、初動対応が重要であることは先に述べた通りです。もし最初にボタンの掛け違いや見込み違いがあっても、風評は立ちますが、すぐに気づいて是正・軌道修正することが大事です。初動の情報収集が上手くいって、対策本部に業務を移管するときに対策本部内の役割分担と責任が明確にされていることも重要です。対策本部が機能不全を起こすと風評は間違いなく悪化します。さらに風評が悪化するパターンは対策が右往左往するだけでなく、その内容が不確実で不誠実で、また記者会見でも失敗など、様々な要因が重なっていく場合です。過去のいろいろな不祥事を見ていくと、問題点は明らかで、不祥事に対して真摯に対応しない、潔さがない、膿を出し切らない、準備不足や問題の先送りなど、必ずといっていいほど、そういうことをやってしまっている。下請け構造も含めた業界全体のリスクというのがありますので、一社単独の対策本部で責任が取り切れるかというと、現実面では結構難しい問題があります。ただし、そうだとしても事案対応の進捗の中で、複数の区切りをしっかり押さえて、あくまで自社の
責任範囲においては、可能な限りの対応をして、自社発の新たな、プラスαの悪い風評は極力抑えなければなりません。

クライシスコミュニケーションの重要性

そこで重要なのが対策本部全体のコミュニケーション活動、即ちクライシスコミュニケーションです。対策本部がカバーすべき様々なステークホルダーとの緊急時におけるコミュニケーション活動の総和を意味します。ただし、マスコミ対応やネット対応は、社会全体を対象にしますので、ステークホルダーのみならず、実は非ステークホルダーも含んでいるのです。この両者がともに風評発信源であることを是非押さえてください。

記者会見に関しては、特に緊急記者会見は、不祥事、緊急事態を何とか早期に収束させるための出口戦略です。新聞記者に「なるほどこれ以上この会社を批判することはできないな」と思わせるだけの情報開示を、説得性を持って終わるべきなのです。ところが説明責任を全く果たしていなかったり、経営陣が出席を渋ったりしてしていると2回目、3回目の会見を開かざるを得なくなります。出口戦略のはずなのに、火に油を注いでしまうのです。緊急事態発生時に守るべきは、社長ではなく、社員やステークホルダーです。そこを勘違いしてはいけません。

(了)