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1.はじめに

経済産業省の商業動態統計速報によれば、2015 年の小売業全体の売上高は140 兆6660 億円であった。そのうち、全体の12%にあたる16 兆7790 億円を自動車販売業が占めている。また、自動車販売業の業界団体である一般社団法人日本自動車販売協会連合会の2015 年12月時点での調査によれば、自動車販売業1302 社が1 万6075 事業所を保有しており、その従業員数は25 万人を超える。このように、わが国の社会における自動車販売業の存在感は大きい。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年7月25日号(Vol.56)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年10月13日)

現在、日本における一世帯あたりの乗用車保有数は1.069 台であり、統計によれば一世帯あたりの保有台数が1 を切るのは、東京・神奈川・京都・大阪・兵庫の5 都府県にすぎない。消費者が自動車保有から離れているという記事をメディア上で目にすることがあるが、このようにしてみると、乗用車は大半の地域に住む国民にとって必需品であるといえる。

今回は、このような生活必需品である乗用車の提供を通じて、国民生活の基礎を支える自動車販売業の事業継続を考える。

2.自動車販売業の特徴

事業継続の観点から考えると、自動車販売業には主に2 つの特徴がある。

1)自動車販売業とお客さまの関係は長いものになる

小売業が販売する商品は、2 種類に分かれる。一つは使用期間が短く、費用も比較的安い最寄り品であり、食料、生活雑貨などが代表例である。もう一つは使用期間が通常1年以上と長く、費用も高額になる買回り品であり、自動車販売業が販売する乗用車はこの買回り品(耐久消費財)の代表例である。

一般財団法人自動車検査登録情報協会の調査によれば、2015 年3月末現在の乗用車の平均使用年数は12.38 年である。この間、乗用車は2 年に1回(新車は3 年)、必要な点検整備を受け、自動車検査の登録をすることが義務付けられており、車検登録なしでは国内で自動車を運行することはできない。この仕組みを通じて自動車の安全性が担保されている。

自動車販売業は、乗用車を販売する小売業としての側面に加えて、このような長期にわたる使用にあたって必要とされる整備や点検を消費者に提供するサービス業としての側面を併せ持つ産業である。自動車販売業の各店では、運輸局の認証や指定を受けた工場が併設されていることが多く、販売後も定期的な整備や点検などをアフターサービスとして提供している。

この整備や点検は、お客さまのカーライフを金融面でサポートするクレジット・保険などとあわせて自動車販売業の重要な収益の柱であり、自動車販売業は、これらのサービスによる収益により、経営の安定化を図っている。このようなサービスを通じ、お客さまと自動車販売業は長期にわたる関係を築くことになるのが一つの特徴である。

2)保有在庫高が高額となる

もともと乗用車の単価が高いところに加え、自動車販売業には、保有在庫高が高額になりがちな事業上の仕組みが存在する。

まず、わが国の新車販売では、自動車メーカー各社が都道府県ごとに特約を締結した系列販売チェーンを通じて新車を販売することが商慣行として確立している。自動車メーカーが出荷した乗用車は、多くの場合、自動車メーカーの工場から出荷され、陸運局や軽自動車検査協会に登録・届出された段階で自動車販売店に所有権が移転することになっている。これはその後の手続きを円滑にするために必要な仕組みだが、販売業からすると店頭に並ぶかなり前から既に自社の在庫となっていることになり、保有在庫高が高額となる要因となっている。

次に中古車販売では、在庫を豊富に取り揃え、より多くの車から自由に車を選ぶことができることがマーケティング上重要な要素となっている。加えて、注文を受けたら可能な限り早急にお客さまへの納車を完了させることも重要になっていることなどの事情から、事業者側でも在庫車を多数保有しようとする傾向が強い。このようにして、自動車販売業では保有在庫高が高額になりがちであることが、事業継続を考える上で重要な特徴となる。

3.自動車販売業の応急対応

このような特徴を踏まえ、緊急事態における自動車販売業の応急対応での取組みポイントを考える。

1)店舗ごとの速やかな状況確認

新車販売店では同一都道府県内に複数の店舗を持つことが一般的であり、数十以上の店舗を持つ自動車販売業も珍しくない。また、中古車販売店は、近年全国チェーンの形成を指向する事業者が多数出てきており、最大手のA社は300 以上の店舗を同一ブランド下で直営している。

自動車販売業の場合、顧客は店舗ごとに管理していることが一般的であるから、まず店舗ごとの状況を確認し、従業員の勤務可否と、併設されている指定工場や認証工場の運用可否を早急に判断することがその後のお客さまの安否確認を実施する上で欠かせない。

このためには、各社において店舗運営上必要な電気、ガス、水道、圧縮空気用のコンプレッサーといったファシリティやジャッキ、検査台といった設備を列挙した上で、各店の状況を速やかに確認できるようなマトリックス表を作成しておくとよい。また、各店舗の所在地をプロットした地図も有効である。

緊急事態においては、被害の少ない店舗から報告が上がってくることが多い。このため、報告がなかなか上がってこない店舗に対しては、報告を待つだけではな
く、大きな被害が出た可能性があることを踏まえ、本部側から確認に向かわせるなどの対応が必要になる。

2)お客さまと乗用車の安否確認

自動車販売業に勤務する一人のセールスパーソンには、年間で数十台の乗用車を販売することが求められている。これを長年にわたり継続することにより、自動車販売業の各社には相当多数のお客さまがいることになる。緊急事態が発生した場合は、これらのお客さまの状況を確認し、必要な支援を行うことが対応の基本となる。

また、緊急事態では、お客さまの安否確認に加え、乗用車についても状況を確認する必要がある。被害が出ていれば、早急に工場への入庫を誘導する必要があるからである。

発生した緊急事態の内容によって、乗用車に対し求められる対応は異なる。例えば単に強い地震が発生した場合であれば、乗用車に対する被害はそれほど大きなものにはならない。乗用車には走行時の揺れなどを吸収する装置があるためである。

一方、洪水、高潮、津波といった地表面への冠水を伴う緊急事態では、各店舗からお客さまに対し連絡をとるだけではなく、新聞への広告や貼り紙などを通じて、水没した乗用車がある場合は、手を触れず、早急に販売店まで連絡するよう告知することが望ましい。

これは、水による災害の場合は、多数の乗用車に同時に被害が生じる上、水没した車に手を触れると、二次被害が生じる可能性があるからである。水害発生時に水没した車には手を触れず、販売店などに連絡するように呼びかける等の取組みは自動車販売業に期待される社会的責務の一部と考える。

実例として2000 年の東海豪雨と2011 年の東日本大震災での事例を紹介する。

まず、2000 年の東海豪雨の際は、現在の清須市や名古屋市天白区を中心に5 万8 千台に水没被害が生じ、国内損害保険会社の支払額は合計で545 億円に達した(株式会社レスキューナウの調査による)。

また、2011 年の東日本大震災では、津波により損傷・冠水したことにより乗用車約7 万台が自走不能や使用不能の状態となり、被災地の自治体により処分された(公益財団法人自動車リサイクル促進センター等の調査による)。

このように水による災害は、乗用車に大きな被害を与える傾向が強いため、自動車販売業各社が連携し、業界団体などを通じて社会に安全な処理方法などを伝えていく必要が強いと考える。

3)被災車の取扱いに対する必要なアドバイスの実施

過去の事例から分かることとして、いったん水没した乗用車を再度使用できる状態にすることは非常に難しく、多くのお客さまは廃車を選択せざるをえないことが挙げられる。

これは、車が水没すると、車内の至るところに泥が入り込むためである。泥が入り込んだシートなどの布製品は、臭気を発するため交換するほかない。また、乗用車に多数搭載された運転制御用の電子部品や電子機器は、水没の影響によりほとんどが通常に機能しなくなる。これらをすべて交換して乗り続けるのは経済的合理性に欠けるという結論になることが多いのである。

大規模な水害の後は、自動車販売店各社でも在庫が払底することもあることから、買い替えを検討するのであれば早い方が望ましいというアドバイスが必要になる。

発生した緊急事態の内容によっては、別のアドバイスが望ましいこともあるだろう。自動車販売店は、単に自動車を売るだけではなく、お客さまのカーライフを支えることが事業の柱である以上、発生した緊急事態の内容に応じて、適切なアドバイスをできる体制を作ることが社会から期待されていると考える。

4)市場変動の予測と適正在庫の確保

災害発生後、市場の様相は一変することがある。例えば先に紹介した2011 年の東日本大震災では、震災の影響を受けて中古車市場の在庫車が急減し、流通量は過去5 年で最低の330 万台弱まで落ち込んだ。

緊急事態が発生した場合は、保有する在庫車の状況を確認し、その販売可能性を確認したうえで、当該緊急事態が市場に与える影響を考慮し、必要に応じて在庫車を適正量に調整することが望ましい。市場は状況の変化を織り込んで変動するため、在庫量の調整は早いタイミングで開始する方が有利となる。

基本的には緊急事態、特に自然災害の発生は市場に対してネガティブな影響を与える。地震による被害が大きかった地域であれば、消費者心理の冷え込みを先読みして、在庫車を業者間転売に回すなどにより、在庫を削減し、キャッシュを確保するなどの対応が考えられる。一方、大規模水害が発生したのであれば、消費者心理は冷え込むとしても生活の足としての自動車のニーズは急増すると見込まれることから、低価格帯中心に在庫車を積み増すなどの対応が考えられる。

在庫量の適正管理は、自動車販売業の経営上非常に重要である。このため、緊急事態においては、なるべく早い段階で市場変動に関する予測を経営陣の間で交換し、一定の合意を形成しておくことが望まれる。この予測は、在庫車の確保量に関わる重要な意思決定である。

4.自動車販売業の事業継続対応

緊急事態において自動車販売業がまず目指すべき目標は、お客さまが車を使った生活を可能な限り早急に再開できることである。一方、近年の緊急事態における実績では、水による災害が発生しない限り、数多くの乗用車が同時に被災するということは考えにくいことも事実である。これらのことを踏まえ、自動車販売業の事業継続対応において取組むポイントを考える。

1)乗用車を失ったお客さまへの代替車の提供

乗用車を失ったお客さまには可能な限り早急に代替車を提案し、車を使った生活をなるべく早く再開いただくことが自動車販売業に求められる最大の優先継続業務である。提供といっても通常通り販売すれば足りる。緊急事態において企業に求められる社会貢献とは、本業を通じてお客さまの生活をより良いものにすることであり、緊急事態だからといって、販売活動を取りやめなければならないというものではない。

2)お客さまへの情報提供

大規模な自然災害が発生した場合、国土交通省の決定により車検証の有効期間が延長されることがある。例えば熊本地震では、2016 年4 月15 日~ 5 月14 日までに有効期間が終了する乗用車については、暫定的に5 月15日まで有効期間の延長が行われた。

また、特定非常災害特別措置法の制定により、大規模な自然災害の発生後には、被害者の権利や利益を保全するために様々な特定措置が実施されることがある。自動車関連での一例としては、自動車登録に必要な印鑑証明書、自動車保管場所証明書、自動車の使用者の住所を証する書類などの有効期間が延長されるようになったことが挙げられる。

このほか、乗用車関連では保険、ローン、税金等の取扱いに関する特例措置が実施されることがあり、お客さまの関心は高い。これらの情報は、国の通知文を読んだだけでは内容が分からないこともあるため、自動車販売業において内容を把握したうえで、必要な情報を提供することが行われることが望まれる。

加えて、発注を受けて納車待ちをされているお客さまに対しては、自動車メーカーと連携して、生産時期を確認し、納車日の目安を伝えることがトラブル防止の観点からも重要である。

3)自社の経営資源を踏まえた対応が重要

メーカー系の自動車販売業であれば、自動車メーカーが実施する販売店向け仕入れ代金の決済猶予期間開設による資金繰り支援、被災地に対する中古車の集中供給、受注済み顧客への車検費用負担など様々な支援を受けることができるため、自社の経営資源に制限があったとしても、自動車メーカーと連携することで対応を進めることができる。これも一つの経営資源といえる。

一方、メーカーの系列に属していない自動車販売業においては、自社の企業体力を踏まえ、在庫の積み増しなど攻めの営業政策をとるのか、それとも守りの営業政策をとるのか、自社の事業継続とその後の発展に向けて、真摯な検討を進めることが自社の存続を確保するうえで欠かせない。

(了)