7月27日に品川フロントビルで開催されたパブリックカンファレンス

TIEMS(国際危機管理学会)日本支部は2016年7月27日、「熊本地震の検証~「危機管理の予測・予防・対応」という観点から振り返る~」と題したパブリックカンファレンスを都内で開催した。

講演を行ったのは、国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長の林春男氏、東京大学地震研究所教授地震予知研究センター長の平田直氏、静岡大学情報学部講師の井ノ口宗成氏、そして名古屋工業大学大学院教授の渡辺研司氏。

林氏は「熊本地震の検証~危機管理の予測・予防・対応~」と題し、災害に強いレジリエンスな社会とは何か、回復力を向上させるための予測力、予防力、対応力について熊本地震を取り上げながら解説した。平田氏は「熊本地震は予測できたのか、今後の巨大地震にどう備える」と題し、地震予知研究の観点から今回の熊本地震について国はどのような予測を立てていたのか、今後の巨大災害にどう備えればいいのかについて話した。井ノ口氏は「熊本地震における生活再建」と題し、「被災者生活再建システム」を活用した「市町村で統一の基準に基づいた生活再建」について説明した。渡辺氏は、「熊本地震に伴う産業被害の状況把握と復旧活動の検証」として、現地取材による熊本地震に伴う企業や産業被害の概要や地域型のBCMについての重要性と課題について報告した。

続いて、林氏、平田氏、井ノ口氏、渡辺氏によるパネルディスカッションを行った。コーディネーターは京都大学防災研究所教授の牧紀男氏。

パネルディスカッションの様子

会場から出た熊本地震のリスク評価について、平田氏は「人が30年以内に交通事故に遭う確率は24%、火災に遭う確率は1.4%と言われており、それでも皆さん保険をかけている。『30年以内に地震の来る確率は0.9%』というのは、捉え方にもよるが非常に高い数字と考えてほしい」とした。

それに対し、林氏は「例えば人間は、100%の確率で1000円もらえる、50%の確率で2000円もらえると言われれば、皆さん1000円もらえる方をとる。ただし、逆に100%の確率で1000円を失い、50%の確率で2000円失うと言われたら、50%をとる人が多い。自分が得する時には慎重に、リスクにはチャレンジングになる傾向になる」と話した。

渡辺氏は、「RESAS(政府が各自治体に提供している地域経済分析システム)のデータをもっと企業に開放して、普段使いに活用すべきでは?」との質問に対し、「政府がRESASを民間に開放するのは、RESASのデータを提供している民間企業などのとの兼ね合いで難しいだろうが、例えば企業が『その地域の雇用を生むために必要』というスタンスであれば、ある程度のデータ共有はできるのではないか。宮城県など、企業立地に活用している例もある。普段から活用することで、災害時の産業支援にも役に立てられる」とした。

井ノ口氏は会場から出た「今回の熊本地震で自治体がコールセンターを作ったそうだが、FAQなどを作ってもいいのでは?」との質問に対し、「今回は自治体がどのような質問に対してどのような回答をしたか、全てデータベースとして残っている。次の災害に備えて、場合によってはガイドライン化やマニュアル化を進めていくべき」と回答した。

 

●熊本地震の検証 危機管理の予測・予防・対応

国立研究開発法人 防災科学技術研究所 理事長
林 春男氏

「レジリエンス」という観点から熊本地震を振り返りたいと思います。まず、レジリエンスを日本語に訳すると何なのでしょうか。民主党政権時代は「災害に強くしなやかな社会」と言っていましたし、自民党政権の現在は「国土強靭化」と呼んでいます。私は、レジリエンスはむしろ事業継続と捉えた方が分かりやすいと考えています。

私が防災の研究に関わり始めた30年前、防災は被害低減モデルでした。目標は被害を減らすための予防にあり、そのためのアプローチとして、ハザードと人々の住まい方であるばく露量、そして構造物の脆弱性をエンジニア中心に検討することが防災研究であったと認識しています。これを式にすると以下のようになります。D(被害)=f(H(ハザード),E(ばく露量),V(惰弱性))。

しかし阪神・淡路大震災以降も、繰り返しさまざまなハザードによる大規模な災害が発生し、被害抑止力(予防力)が不十分だと考えられるようになりました。すなわち、予防力だけを伸ばす防災ではなく、予防力に加えて災害が発生した後に社会がどう立ち直るかまで視野に入れた、予防力と回復力を合わせた力であるレジリエンスを高めるべきだと考えます。

先ほどに倣って、レジリエンスを高めることを目標とした方程式を考えてみると、R(レジリエンス)=f(D(被害),A(人間の行動),T(時間))です。Dは先ほど出てきました災害による被害です。そこから立ち直るために中心になる
のはアクション、すなわち人間の活動です。そして立ち直るのは一瞬でできるわけではなく、長い時間を必要とします。そのため時間を味方につけないといけないということで、どこにどのような被害が出るかを認識するDに、A,Tという回復力を加えています。

ここで1つ誤解しないでいただきたいのは、このレジリエンスモデルは旧来のエンジニアリングモデルを否定するものではなく、今までの予防力中心の研究成果もフルに活用し、それに人間の活動や時間の使われ方という側面を足していくということです。

言い換えれば、レジリエンスとは事業継続能力の向上とも言えます。事業継続とは、通常は社会に期待されていることの100%の機能を果たしていたものが、災害によってその機能を失い、機能を回復までに生ずる事業中断の影響を最小にすることです。その場合に、予防により被害を減らしつつ、同時に優先業務を決めるなど戦略的に事前の計画を定め、復旧時間を短くすることです。そのために必要なのはリスクを的確に評価する「予測力」、災害の発生を未然に防ぐ「予防力」、そして被害拡大を阻止し、早期の復旧・復興を実現する「対応力」です。この3つを総合したものが「リジリエンス」であり、これを向上させることで、どのようなリスクにも立ち向かえるようになるのです。

ここで注意が必要なのは、予防力はハザードごとに違うことです。例えばインフルエンザを予防しようとしたら手洗いをし、人ごみを避け、うがいをします。しかしそれは地震の予防にはなりません。ハザードに応じてとるべき対応が違うのがポイントで、そのため予防をするのは重大なリスクに限らざるを得ません。それでも自分たちが持っている予防力を超えるようなハザードに見舞われれば、当然被害が発生します。あもちろん、これまで予防するに値しないと考えていたリスクが実際に発生した場合にも被害は発生し、対応しなければなりません。いずれの場合にしろ、対応力がレジリエンスの最終のオプションとなります。

こうした観点から、熊本地震をどのように見るべきか。予測ができたのか、どこまで予防ができたのか、あるいはどんな対応がされたのかを、これから考えていきたいと思います。

 

●熊本地震は予測できたのか、今後の巨大地震にどう備える

東京大学地震研究所教授・地震予知研究センター長
一般社団法人防災教育普及協会会                 長
                平田直氏

タイトルは「熊本地震は予測できたのか」となっています。結論から言うと、私は「予測できた」と言いたいと思います。しかし世間的には予測されていませんでした。科学的な予測が一般社会には役立っていなかったというのが非常に残念です。さらに言うと、熊本で起きたことは、日本中でどこでも発生すると言っていいと思います。

もう1つ重要なのは、「首都直下地震」と「南海トラフ地震」はいずれも被害は大きいですが、タイプが違うということ。今日は、熊本地震と「巨大地震とは何か」について話します。

日本は阪神・淡路大震災の後に、法律に基づいて「地震調査研究推進本部」を設置。そこで日本中の地震が発生しやすい場所を調べ、「全国地震動予測地図」を完成させました。この製作には10年間、相当の予算と人員を投入し、「海域で発生する地震と、内陸の活断層で発生する地震」を調べたのです。

活断層というのは、過去にそこで大きな地震が発生したという動かぬ証拠です。しかし、この「過去」というのが問題で、例えば地質学者にとって100万年というのは「つい最近」の出来事です。日本は1500万年前に大陸アジアから離れてできたものです。日本列島の形と加わる力のバランスが落ち着いてからも300万年ほど経過しているので、10万年くらいでしたら地質学者にとっては「今」の出来事と言えます。反対に、「昔」と言えば1億年以上前のことです。中央構造線は1億年前にできましたが、これは地質学者にとっても「昔」の出来事です。

そのような状況のなかで、私たちは万年単位の「つい最近の過去」に地震が確かに発生し、すくなくとも数千年の将来にわたって地震が発生する可能性がある場所を活断層とよんでいます。それが日本におよそ2000本あり、そこで地震が発生するとマグニチュード7以上になる活断層を100本選びました。その100本のうちの2本が、今回熊本で発生した布田川断層と日奈久断層です。この100本選んだ中で今回の地震は確かに発生したので、調査委員会では胸を張って「予想が当たった」と言いたいところですが、なかなかそうはいかない。泥まみれになって地層を掘って、昔の地震が発生した情報を調べたところ、「30年以内にマグニチュード7の地震が発生する確率はほぼ0~0.9%である」ということが分かった。私たちは自信をもって出している数字なのですが、一般的に考えると「30年以内に地震が発生する可能性は1%」と言ったら、「これは起きないものだ」と受け取ら
れてしまう。現に熊本県、熊本市にはそう受け取った方もいた。これは私たちの考えていたこととは正反対です。

それではいけないということで、地震調査研究本部では、九州全体では30年以内にマグニチュード6.8以上の地震が発生する確率は30%~40%と評価しました。九州を北部、中部、南部に分けると、中部では20%くらいの確率で発生するということを2年前に発表した。1つひとつの活断層を見ると小さいが、全体を見るとそのような大きな数字になるので、そちらを信用してほしかった。

九州はこれまでにも大きな地震がたくさん発生していた。明治の熊本地震では、1889年から6年間でマグニチュード6クラスの地震が4回発生しているし、最近でも1916年、1975年にも連続して大きな地震が起きています。地震は、1度発生するとむしろ発生しやすくなるのです。これは貴重な教訓です。

マグニチュード7クラスの地震は、実は日本全土・海域をふくめると1年に1回か2回は必ず起きているのです。それが地下深いところで発生していれば災害にはなりませんが、東京の直下で発生すれば、強い揺れに見舞われる建物数や人口が多くなり、被害が大きくなる。それが重要なことなのです。

 

●熊本地震における生活再建

静岡大学情報学部講師
井ノ口宗成氏

熊本地震では、「生活再建支援先遣隊」というチームを作り、現地を支援させていただきました。被災者が生活を再建するためには、「り災証明書」の発行が重要です。り災証明書とは誰が、どこでどのような被害にあったのかを明確にし、その後の補助金などの支援に活用するものなのです。しかし、り災証明書の発行は大量の事務作業が必要で、さらに不整合のあるり災証明書を発行してしまうと、その後の支援が滞ったり混乱したりするので、現地では大きな課題になっていました。

私たちのチームでは、生活再建を迅速に遂行するため、「被災者台帳システム」や「被災者再建システム」と呼ばれるICTソリューションを作り、社会実装しています。阪神・淡路大震災でり災証明書の重要性がクローズアップされましたが、その後の中越沖地震や東日本大震災を経て、「このようなものが生活者再建には必要なのでは」と考えて作ってきたものです。

り災証明書の発行には、まず被災者家屋の被害がどの程度であるかを明らかにしなければいけません。そのために「建物被害認定調査」が必要です。これは国で定められた基準に基づいて作業するものですが、システムではその調査の手法を効率化し、その場で短時間で調査員を育成することができます。実際にこのシステムを導入してくれた市町村は16、今からでもやってみたいと言ってくれている市町村が4あります。被害が大きかった市町村はほとんどが導入しており、熊本県ではこれまでできなかった「統一基準に基づく生活再建」を実現しようとしています。

システムの概要を説明します。基本的にはクラウドシステムで、ログインすると「応急対応」「建物被害認定調査」「り災証明書・被災届出受理証発行」「被災者台帳」といったメニューが出てきます。まず、建物被害認定調査です。調査内容をパターンチャート化し、結果をデジタルデータとして取り込んでいきます。ざっくりと、県内全体で11万1000棟くらいを回らなければいけないということが分かりましたので、県全体で何日後に調査を終えたいのか、そのためには何人くらいの人出がいるのかを算出し、調査を開始しました。

しかし熊本ではうまくいかない現実もありました。これまでの経験から1班で1日およそ50棟を回ってもらおうと思ったのですが、実際にやってみると1日に回れたのは20~30棟。これは1つの市町だけではなく、熊本県全体でそうでした。今回の熊本地震では家屋に残られた被災者への対応と重なるなどの原因がありましたが、その後も外れた予測を修正し、新たに人員を確保しながら調査を進めていきました。

調査が終わったら、次はり災証明書の発行です。ここでも想定外がありました。益城町では庁舎や大きな建物が利用できなくなっていたので、急きょ駐車場にテントを張って対応することにしました。一言でいうと簡単ですが、野外ではテントに電気もネットワークも引かないといけません。晴れていればまだいいですが、雨の日は大変でした。しかし、現実問題としてこのような屋外業務の環境整備も今後考えていかなければいけないでしょう。証明書の発行もこれまでの経験から1件当たり5分くらいで済むだろうと考えて計算をしていたのですが、こちらも予想を超えました。実際には平均して15分くらいかかりました。益城町の例ですが、1人で10棟以上の家を持っている高齢の方がおられ、1件にかかる時間が想定を超えていました。このような地域の特性も、考えなければいけない要素の1つでした。

最後に、熊本では今、さまざまな生活再建が進んでいますが、長期化する避難所の実態分析や被災者生活再建の実態分析を通して、これから「被災地に求められること」を解明する必要があると考えています。

 

 

●熊本地震に伴う産業被害の状況把握と復旧活動の検証

企業・産業被害のサプライチェーンを経由した波及と地域型BCMの重要性

                                               名古屋工業大学教授
                                               渡辺研司氏

災害によって企業が深刻な被害を受け、雇用が失われ、その地域の経済も落ち込むというケースは阪神・淡路大震災からありました。その後の中越、中越沖地震や東日本大震災でも同様のケースがあり、「なぜここまでオールジャパンとして、これまでの経験値が生かせていないのか」と忸怩(じくじ)たる思いです。そのような思いを根底に流しながら、今回の地震のBCPにおいて感じたことを話します。

まず九州は自動車産業、半導体産業の集積地です。特に半導体に関しては、もともと水がきれいなこともあり「シリコンアイランド」という名前がついているくらい、半導体製造関連の工場がたくさんありました。今は台湾や中国に取られてしまったところもあり、一時のような業績ではないのですが、それでも日本のなかでは多い方だと思います。そうすると、サプライチェーン上の集中リスクが発生します。これをボトルネックと言います。ここが止まるとサプライチェーン
を経由して、その前後の工程も止まってしまうという状況です。東日本大震災では東北三県が同じような状況でしたが、また起こってしまいました。被災企業を起点としたサプライチェーン経由の非被災地への途絶の波及です。愛知県や宮城県の自動車産業が連鎖的に操業停止しました。

そして、とても気になったことは、地震発生から1週間くらいで「もう製造業は落ち着いた」というコメントを中央政府の複数の行政担当者から伺ったことです。国や大企業としては、オールジャパンで日本の基幹産業が再び動き始めればいいということですが、その裏には熊本県内にあった生産機能が代替生産などで他県に移っても関係ないという意識が見え、中央と地方とのギャップを強く感じました。

九州はもともと台風が多い地域ですので、事前に到来がわかっている台風の対応に関しては情報共有や関係者調整、意思決定のシステムは有効に機能していたようですが、突発的な地震には対応しきれていない部分もありました。それでも台風での経験は役に立っていると思います。

最後に、官民による情報共有体制の欠如と行政の事業継続支援体制の不足を挙げました。これは仕方ないと言えば仕方ありませんが、県の商工部門や産業部門の職員も全員住民対応に当たってしまい、企業をフォローしている姿はあまり見られませんでした。災害対策業務として、企業の安否確認や、どのように企業を救援すべきかを知事に進言するなどのフローが、災害対応業務として明文化されていなかったことが背景にあると思います。本来、企業担当の職員がやるべき企業の救援活動がとてもできるような状況ではありませんでした。

どの企業の業務が止まっているか、その影響が県内外にどのように波及しているのかを把握できれば、知事は県としてその企業を救援することが可能です。政府が各自治体に提供している地域経済分析システムで「RESAS」というシステムがあります。これは民間のデータを活用し、どの企業とどの企業が取引しているかがある程度可視化されているため、「意外な企業が県外とたくさん取引をしている」などのデータが読み取れるのです。ただやはり熊本県ではあまり活用されていなかったようで、使える人がいませんでした。こういうものを活用して、県職員は知事に企業支援を進言するような体制があっても良いと思います。

中京地区では現在、岐阜県で産官学によるBCPに対する意識が上がっています。「愛知を支える城下町」として、愛知県のメーカーから仕事を受注している重要な中小企業がたくさんあるため、大きな災害が発生した時のバックアップを県が後押ししています。平時から能動的企業の成長のための施策をうち、災害時には彼らの復旧を手助けができるような体制をあらかじめ定めておくことが重要です。

(了)