注目の記者会見があると、報道関係者から会見についての解説依頼が私に入ります。記者会見のプロがいることに彼らが気付き始めたからです。最近であれば、関西電力の記者会見について解説をしましたが、話の組み立てや回答から彼らはトレーニングを受けていないと感じました。皆さんは、メディアトレーニングという言葉を聞いたことがあるでしょうか。私はこのトレーニングのプロで20年近くの経験があります。一方、2015年、東証と金融庁は、コーポレートガバナンスコードの中に「取締役・監査役のトレーニング」の必要性を明記しました。私は取締役こそ、メディアトレーニングを含めるべきだと考えています。今回はトレーニングの必要性について解説します。

メディアトレーニングとは、記者からのどんな質問に対しても的確にメッセージを発信できる力を身に付ける訓練です。レクチャーは自分のペースで話を組み立てることができますが、インタビューや記者会見となると相手のペースにはまってしまうことで本来自分が伝えたかったことが伝えなくなってしまいがち。ここで失言や誤解を招くとネガティブな報道を引き起こします。その結果、イメージが悪化して信頼失墜、売上低下、経営陣の辞任にまで至ることもあります。平時にはイメージ向上、危機時にはダメージコントールとして機能させることができる大切な能力です。にもかかわらず、日本では重視されてこなかったといえます。

広報を重視する外資企業では、新役員は全員メディアトレーニングを受ける、あるいは、メディアトレーニングを受けていない人は取材対応をしてはいけないというルールを設けており、訓練は当たり前のこととして定着しています。日本では、2000年の食品会社の集団食中毒事件で社長が失言した内容がテレビで繰り返し報道されたことをきっかけにメディアトレーニングの必要性が認知されて導入する企業は増えましたが、全ての上場企業で定着するまでには至っていません。メディアトレーニングを受ければ余計な報道を防ぐことができ、ダメージを最小限に抑えることができることから、企業におけるリスクコントロールという意味では必要な訓練である、と私自身は2003年から自分のウェブサイトで訴えてきました。

ガバナンスコードに明記

ようやく2015年、東証と金融庁がとりまとめた「コーポレートガバナンスコード」では、下記のようにトレーニングの必要性が明記されました。

【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】 新任者をはじめとする取締役・監査役は、上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待される役割・責務を適切に果たすため、その役割・責務に係る理解を深めるとともに、必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に努めるべきである。このため、上場会社は、個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋やその費用の支援を行うべきであり、取締役会は、こうした対応が適切にとられているか否かを確認すべきである。

メディアトレーニングを受けろとまでは書いてありませんが、重要な統治機関の一翼を担うものとして期待される役割・責任を適切に果たせるように必要な知識の習得をしろというのですから、広報対応も含まれると私は考えます。

自分を客観視する訓練
メディアトレーニングは広報PR会社がサービスとして提供しています。内容は会社によってさまざまですが、動画撮影してレビューするという形式はどこも取り入れているでしょう。
なぜ、ビデオレビューをするのかというと、自分を客観的に見るためです。「自分はこう思われたいのに、ビデオの自分はそうではない」「きちんと向き合いたいのに目線は浮ついている」「下ばかり見えていて自信がなさそう」「嘘ついているように見える」「記者の質問に誘導されている」「苦笑いして誤魔化しているようにみえる」「声がこもって聞きとりにくい」など、多くの場合、自分の姿の悪いところばかりに目がいき、最後まで見られない、見たくない、と目を背けます。
しかし、どんな方にも魅力はあります。まずは自分の魅力を発見してから、誤解を招く癖を直していけばいいのです。
失言する人は、本音で語る魅力的な人であるのに誤解されてしまいがちですが、言い換える訓練や語彙力を高めることで確実に改善していきます。また、癖を直すのは時間が多少かかりますが、服装ならすぐに変えることができますから、きちんと感のある着こなしから挑戦する方法もあります。見た目成果がでるため自信につながります。人前で話す機会が増える役員の方々にはぜひ楽しんで受けていただきたい訓練です。

 

(了)