はじめに:受け身で使うことのデメリット

企業が風水害対応の際の判断基準として位置付けるのは、警報や避難勧告といった気象情報や防災情報ではないでしょうか。「気象情報や防災情報が出たら対応する」という仕組みは災害対応の現場でごく一般的です。しかし、この「情報発表を待つ」という意識が思わぬ問題を引き起こしかねないのをご存じでしょうか?

「情報の発表を待って行動を取る」という受け身的な姿勢の場合、災害が迫るときに次のような困った問題に直面する可能性があるのでよく注意しておかなければなりません。

・急速に事態が悪くなる場合は情報発表を待っていると意思決定や対応が間に合わなくなる

・情報を出す側の何らかの理由で情報発表が遅れたり見送られたりする場合、利用者側もそれに引きずられて判断や対応が遅れてしまう(または判断ができない)

受け身的に警報や避難勧告などを利用するだけではなく、もっと積極的・能動的に気象情報や防災情報を使いながら判断していくことができれば、こうした問題は避けられる可能性が出てきます。今回の記事ではまず、受動的に情報を利用することの問題点を詳しく見ていきましょう。

気象情報を使った体制判断の例

避難勧告などの情報を基にして受動的に体制を判断する例として、次の図をご覧ください。これは、国土交通省が作成した「要配慮者利用施設(医療施設等を除く)に係る避難確保計画作成の手引き(洪水・内水・高潮編)」から抜き出した災害対応の基準例です。

写真を拡大 (出典)国土交通省が作成の「要配慮者利用施設(医療施設等を除く)に係る避難確保計画作成の手引き(洪水・内水・高潮編)」より抜粋。http://www.mlit.go.jp/river/bousai/main/saigai/jouhou/jieisuibou/pdf/hinankakuho_tebiki_suibou201706.pdf

このマニュアルでは気象情報に応じて次のような体制が組まれることとなっています。

「注意体制」
洪水注意報や指定河川洪水予報のうち氾濫注意情報が発表された場合

「警戒体制」
避難準備・高齢者等避難開始、洪水警報、氾濫警戒情報などが発表された場合

「非常体制」
避難勧告または避難指示(緊急)や氾濫危険情報が発表された場合

これはまさに「公的な情報を受け取る。それを基に体制を判断する」というものです。この仕組みは今回取り上げたマニュアルに限らず一般的に見られるもので、ひょっとしたら皆さんの職場で用意した防災マニュアルでも同じ枠組みが利用されているかもしれません。

さて、どこに問題が隠れているのでしょうか?

気象情報を使った体制判断の盲点

この方法の最大の欠点は、実質的な判断を情報の発表機関に任せている点です。しかし、それらの機関に判断を任せておけばいつも安心というわけではありません。

災害の中には急激に状況が悪くなるものもあります。「1時間に最大60ミリ程度しか降らないと予測されていたのにふたを開けたら100ミリ近く降った」「比較的足早に雨域が抜けていくと思ったら1つの場所で何時間も降り続くような形になった」。こうした例は少なくありません。

短時間のうちに急速に状況が悪化したり、予測を上回る大雨や河川の出水となったりした場合などは後追い的に情報が発表されます。

例えば2019年台風19号の際、利根川上流部氾濫警戒情報は10月13日0時30分に発表されました。では、その一段上の情報に当たる利根川上流部氾濫危険情報が発表されたのはいつでしょうか?氾濫警戒情報は「氾濫発生に対する警戒を求める段階」であるのに対し、氾濫危険情報は、「いつ氾濫してもおかしくない状態」を意味します。この台風の場合、氾濫危険情報は氾濫警戒情報発表のわずか20分後の10月13日0時50分に発表されました。

先ほど取り上げた要配慮者利用施設のマニュアル通りに判断していれば、警戒体制としたその直後に非常体制へ切り替えて対応をしなければならない形となります(自治体から避難勧告などが発表されていない場合)。もし指定河川洪水予報だけを頼りに判断するつもりであったとしたら、急展開が起こったときに意思決定や対応が間に合わなくなっていた可能性もあります。

また、情報を出す側がいつでもタイムリーに避難勧告などの情報を出せるわけではないことも念頭に置いておかなければなりません。避難勧告などの遅れや未発表は多くの災害で見られることで珍しいことではないのです。2019年台風19号の場合でも国の手が回らず那珂川では氾濫発生情報(レベル5相当)が発表されないという事態もありました。

展開が早い事例では情報発表を待っていると意思決定や対応が間に合いません。情報を出す側が遅れた場合、利用者側もそれに引きずられて判断や対応が遅れます。では私たちはこれらのリスクを減らすため、どうしたら良いのでしょうか?

意思決定に使える豊富な情報を生かす

気象情報や防災情報を利用して自ら判断できる力を磨いていくのが最大の近道です。そもそも避難勧告や河川の水位に関する情報などは防災情報や気象情報の中のごく一部です。限られた情報だけを使って意思決定をしようとしているところに実は問題があります。

避難勧告や水位に関する情報など以外にも自ら危険性を判断するために使うことができる情報は次のようにいくつもあります。

・気象ニュースや気象庁の記者発表などで伝えられる雨量の見込み
・これまでに降った雨の量や今後の雨の量に関する情報
・気象レーダーに映る雨雲の様子や今後の雨域の見込み
・河川水位の上昇具合
・内水氾濫や中小河川の外水氾濫が起こる可能性を示す情報
・土砂災害が起こる可能性を示す情報 
・暴風のピークに関する情報 など

これらの情報の多くは気象庁のホームページなどを利用して入手することができます。ただし、受け身的に情報を待つのではなく、自分から積極的に取りに行くという主体性が必須です。

危険性を把握するための情報として例に挙げた情報の中には意思決定や体制判断の基準に組み込むことが難しい情報もあるかもしれません。読み取るのに多少の習熟がいる情報もあるでしょう。しかし、だからと言って自ら情報にアクセスすることなく意思決定をするのは目隠しをしながら判断するようなものでお勧めできません。

さまざまな気象情報を通じて迫り来る危険を察知できるようになると、避難勧告や警報などといった「伝えられた情報」のみをただ使う場合に比べて、大局的な判断や、確信を持った判断ができるようになります。危機管理の担当者として、ぜひそうしたレベルで情報を使ってもらいたいと願っています。

まとめ:災害の危険性を見抜くために積極的・能動的に気象情報を使おう

今回の記事ではまずは気象情報との向き合い方についてテーマにしてきました。ぜひ覚えておいてほしいことは、「伝えられる情報を使うだけが防災対策ではない」ということです。受け身的に情報を利用する限り、手持ちの判断材料が非常に限られた中で意思決定をしなければならない状況に自らを追い込んでしまいます。また、情報の出し手側の成否にあなたの対応も引きずられてしまいます。気象情報や防災情報を積極的・能動的に使っていくことで、このような制約をぜひ打ち破っていってください。

気象情報を積極的・能動的に使うための具体的な方法については今後の記事の中で随時ご紹介していきます。

(了)