■はじめに:雨量を意思決定に生かす

「犬も歩けば棒に当たる」ということわざのように、気象情報を見ると様々なところで「雨量」という情報が出てきます。「多いところで○ミリの予想」といった表現などは台風や大雨の季節の報道にはつきものとも言えるでしょう。しかしごくありふれた情報である反面、雨量を意思決定に生かす方法はあまり知られていないのではないでしょうか。

雨量の情報は様々な場面で「使える情報」です。雨量の情報は、この先まずい事態が起こりそうだということを早めに伝えてくれます。また、今まさにとんでもない事が起こっているということも雨量の情報から分かります。そのような雨量情報を有効利用しない手はありません。

今回の記事では雨量情報を意思決定に生かしていく取り掛かりとして、まずはどのような使い道があるのかということをご紹介してみたいと思います。結論を先に言うと、雨量情報には少なくとも次の3つの使い道があります。

(1)雨量情報は心の準備情報として使える
(2)雨量情報は非常ベルとして使える
(3)雨量情報は答え合わせと行動補正の道具として使える

ひょっとしたら中にはピンとこない使い方もあるかもしれませんが、それぞれ具体例を見ていきましょう。

(1)雨量情報は心の準備情報として使える

気象情報には雨量の見込みが頻繁に現れることは冒頭でも述べました。水害の場合は、「何か大きな災害を引き起こしかねない量の大雨が降るかもしれない」という情報がある程度事前に伝えられます。特に、台風や前線が停滞するといった場合、比較的早い段階から雨量の見込みに関する情報が提供されます。そうした雨量は、例えば「災害発生への警戒を高める」、「すぐに動けるように心の準備や事前の準備を行っておく」、「継続的な情報収集ができる体制を構築する」などに利用できます。

雨量の見込みに関する情報の例として、令和元年の台風19号が接近していた時に出された資料を振り返ってみましょう。次の図は台風19号接近に先立って10月11日に行われた気象庁の報道発表資料からの抜粋です。

写真を拡大 令和元年の台風19号接近前に伝えられた「大雨の見通し」 出典:気象庁の報道発表資料から抜粋 http://www.jma.go.jp/jma/press/1910/11b/20191011_1100.pdf

この気象庁の資料では、「東日本を中心に、狩野川台風に匹敵する、記録的な大雨」となる見込みが伝えられ、12日正午・13日正午までの24時間雨量の予測がそれぞれの地域ごとに提供されていました。雨量を示した表(図の下部)の一部はわざわざ赤色で示されています(北陸、関東甲信、東海の13日12時までの24時間雨量の部分)。これは、その雨量の深刻さを強調したかったからだと思います。こうした雨量によって示された情報が持つ意味を理解できるようになると、早めに心の準備を行っておくことができるのです。

(2)雨量情報は非常ベルとして使える

雨量の情報は、一刻を争うような事態が起こっているということを示す非常ベルとしても利用できます。「これまでに何ミリを観測したか」という雨量のデータはもちろん、「今後さらに何ミリ見込まれるか」などの雨量の予測も非常ベルの役割を果たします。

また、観測された雨量を基に発表される情報も非常ベルになります。一つの例は、大雨の際に気象関連のニュースなどで出てくる「観測史上1位の雨」といった表現です。実例として次の動画をご覧になってみてください。後に西日本豪雨と呼ばれるようになった雨を伝える当時の報道です。このニュースの中でも、観測史上最大を記録した地点が紹介されていました。

テレビ朝日ANNnewsCH、「大雨特別警報発表中 記録的大雨に最大級の警戒を(18/07/07)」
https://www.youtube.com/watch?v=hTYt7zIUYvk

地域で観測史上最大の雨となっているという情報は単なる記録更新を伝えるニュースではありません。観測史上の上位に食い込んでくるような雨量に見舞われると、一般的に言ってその地域で何らかの被害が発生している可能性があります。観測史上と比較して雨量が伝えられる場合も、非常ベルが鳴っているものと受け止めて対応していく事が望まれます。

(3)雨量情報は答え合わせと行動補正の道具として使える

雨量に関する3つ目の使い方を簡単に言うと、「予測と実況に食い違いがないか雨量情報で答えを合わせ、もし食い違っているのであれば実況に基づいて行動を変えていく」というものになります。雨雲の動きをチェックするツールも使うとより確実ですが、予測されていない事態や予測よりも悪い事態が起こっていないか監視するために雨量の情報を使っていきましょうと言うものです。

この使い方はあまり一般的ではないかもしれません。私も民間気象会社に入って気象情報を自治体などに提供する側に立った時に初めて体験的に学んだ使い方です。

予報を出す側の内輪話のようなものですが、量的な予測は時に大きく外れます。1時間に多くても50-60ミリ程度だろうと事前に予測していていても、実際には倍程度降ることも決して珍しいことではありません。場合によっては数ミリ程度しか降らないとピンポイントな天気予報で表示されているのに、蓋を開けたら100ミリを超える大雨になったということもあり得る話です。気象庁も大雨注意報や大雨警報などの情報の中で1時間最大雨量の見込みを伝えますが、その見込みを上回るような雨量になることもよく目にします。

インターネットを使えば、気象庁のアメダスで観測された雨量や都道府県などの雨量計で観測された雨量を容易に確認できます。そうして得た情報で予測どおりに事が運んでいるか答え合わせを行い、悪くなる兆しが見えた段階で必要に応じて行動を変えたり、体制を強化したりすることが求められます。

心の準備用、非常ベル用、答え合わせ・行動補正用

今回の記事では、「心の準備用」、「非常ベル用」、「答え合わせ・行動補正用」という3つの切り口で雨量の使い方をご紹介してきました。もちろん、ある雨量に対してどれか一つだけの使い方しかできないというわけではありません。例えば観測された雨量などは、非常ベルとしても、答え合わせ・行動補正用としても使える情報です。何れにせよ、雨量の情報を漠然と見ているだけではせっかくの情報を役立てる事ができないため、「この雨量はどう使えば良いか」ということについて考えながら雨量の情報をぜひ見ていただければと思います。

(了)