名古屋でのワークショップ風景(写真提供:東京大学 廣井氏)

巨大災害による被災後を見据えた街の復興の姿を、市町村の境界を超えた地域(リージョン)単位であらかじめ考えておく事前復興のためのワークショップ手法の研究が、東京大学大学院准教授の廣井悠氏らにより進められている。

東日本大震災からの復興では、壊滅的な被害を受けた自治体が、各々復興計画を策定し事業化を進めたことから、広域的な視点での全体最適性が不足していることが課題とされた。

例えば、堤防の高さを決める際に、自治体によって被災想定が異なり県境をまたぐと堤防の高さが変わったり、高台への移転についても同じ自治体の中だけで考えることで、山を切り崩したり、集落の分散を広げてしまうことなどが各地で散見されてきた。

こうしたことから廣井氏は、歴史や自然環境、産業構造、人口推移などを踏まえた街づくりの基本方針を、周辺地域を含めた広域圏の関係者らであらかじめ話し合っておくワークショップ手法について研究を進めている。大災害の影響をなるべく受けない、あるいは影響を受けても早期に復興できるレジリエントな街づくりに結び付けていくことを目指す。

東京大学工学系研究科都市工学専攻 准教授 廣井 悠氏

名古屋圏ではじまったワークショップ手法

ワークショップは3年ほど前に、名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授が中心となって、居住機能配置や産業の持続性に焦点を当てた名古屋大都市圏(名古屋市を中心とするおおむね50km 圏)における都市計画のあり方を、産学官の関係者のもとで議論する際に初めて導入された。

市町村を超えた概ね50㎞圏程度の地図上に、南海トラフ地震の津波による浸水地域や液状化地域、その他、土砂災害や洪水など自然災害の危険地域をプロジェクターで重ね合わせるように映し出し、危険地域にある住宅地や産業集積地をどこに移転させるべきかを都市計画の専門家や、市区町村の担当者、ライフラインや民間企業の担当者などで議論した。

その際、自然環境や交通計画にも配慮し、緑地保全地域や歴史的な街並みの保存地域については、移転候補地から外し、また少子高齢化などの人口推移も視野に入れ、持続可能なコンパクトシティの方向性を確認した。その結果は、2014年3月に名古屋都市センター減災まちづくり研究会によって「ナゴヤ減災まちづくりビジョン」としてまとめられている。
http://www.nup.or.jp/nui/user/media/document/investigation/h25/vision.pdf

ワークショップで出された意見をもとにまとめたまちづくり構想

市街地を撤退させる方法

廣井氏は現在、この手法を南海トラフ巨大地震で大規模な被害が予想される西日本の太平洋側の地域や、首都圏を流れる荒川や利根川の流域などを対象とした街づくりに応用できないか研究を進めている。

「危険な場所に住んでいる人たちを、危険じゃない場所に移動させるためにどうすればいいかということが、実は日本の都市計画の中でこれまで議論されてこなかった。現状の都市計画は、基本的には開発規制の方法ばかりを定めており、どのように市街地を撤退させるか、撤退させる時にどういう人をどこにどう動かすかという方法論がない」と廣井氏は指摘する。

その上で、人口減少を踏まえコンパクトな街づくりを目指すとすると、市町村単位だけで解決できる話ではなく、周辺市町村や場合によっては県境を越えた地域での議論が不可欠になるとする。

一方で、こうした広域の議論だけでは、住民は参加しずらく、参加しても合意形成を得ることはなかなかできないため、廣井氏は広域のワークショップと併せて、市町村より小さな地区単位でも、同じようなワークショップにより事前復興の議論を進めることを新たな研究テーマに据える。

地区防災計画と連携させる

2014年4月に創設された地区防災計画制度では、地域コミュニティにおける共助の防災活動を推進していく観点から、市町村内の一定の地区の居住者および事業者(地区居住者等)が行う自発的な防災活動を地区防災計画として規定することができるようになった。

「地区単位で事前復興の議論を進めていくことで、その地区内では解決できないことがあぶりだされ、そのことにより広域で解決すべきこと、地区で解決できるもののすみわけができるようになるはず」と廣井氏は語る。

廣井氏は「これまでの防災は建物の耐震化や家具類の転倒防止など、目先の対策が多く、数十年先という長期的な対策はあまり考えられてこなかったが、長期的な街づくりを考えてもらう場を提供する、皆で考えられるツールを開発するためのワークショップ手法を研究していきたい」と抱負を語る。

(了)