世界に誇れるサプライチェーンのリスク管理

共存共栄のための SCRM
ディスコ

 

半導体製造装置を製造するディスコは 2008 年から本格的なサプライチェーンのリスクマネジメント(SCRM) に取り組んできた。しかし東日本大震災では、主要取引先 20 社程度から部品などの調達が困難な状況になり、 同社では現在、5 次サプライヤーまでの所在地を把握するなど、SCRM を強化している。

購買本部が入る桑原工場(広島県呉市)

ディスコは、2003 年から事業継続計画(BCP) の策定に着手し、今年5月には事業継続マネジメン トシステム(BCMS)の国際規格である ISO22301 を国内で一早く認証取得するなど、事業継続体制の 確保に先駆的に取り組んできた。

主力事業は、半導体や電子部品の素材を切断・研削・研磨する装置の製造。仮に同社製品の供給が途 絶えれば、顧客である半導体や電子部品メーカーは それぞれの製品の製造が困難な状況になり、最終的 には数多くの電気製品や IT 機器の生産ができなく なるなど社会的にも大きな影響を及ぼす。特に同社 の装置の命とも言える加工部に使われている砥石は消耗品であるため、顧客に対して供給をし続けなくてはならない。

そこで、同社では 2008 年から、砥石製品の供給 を BCM の重要業務

と位置づけ、本社や主力工場が 被災しても顧客には影響を与えないよう、広島県呉 市にある免震による最新工場の中に自動倉庫を設け、主要原材料を6カ月分備蓄するなどの対策を講じてきた(写真) 。

砥石以外の製品についても、1次サプライヤーについては、所在地はもちろん、被災時における担当 者の連絡先、 BCM への取り組み体制などをアンケー ト調査で把握し、同一地域にある会社からは重複し た調達を避ける、あるいは1社だけから調達をして いる単一供給源については相手先に製造拠点の分散 や備蓄を求めるなど、サプライヤーのリスク管理に 力を入れてきた(図表) 。

■上流で途絶したサプライチェーン
しかし、3.11 では、こうした対策があったにもか かわらず、20 数社のサプライヤーから一時的に部 材の調達が見込めなくなるなどの危機に直面した。 理由は、電子装置などに使われる電解コンデンサー を製造する会社が、そのサプライヤーである電解液 を供給する会社の被災により製造ができなくなった り、同社の装置に使われている半導体が、素材会社 の被災により製造できなくなるなど、いずれも1次サプライヤーより上流の、これまで考えていなかっ た企業の被災によるものだった。

同社購買本部長の関家薫氏は、 「危機発生後の事 業継続体制は何度も訓練していたため冷静に対応は できました。調達が難しくなった部品についても、 結果的に事業再開した企業から優先的に供給しても らうことなどで、お客様に迷惑をかける事態は避け ることができましたが、今まで以上にサプライヤー のリスクマネジメントを強化しなくてはいけないことを実感しました」と話す。

そこで、同社では3カ年計画で、サプライチェー ンのリスクマネジメント手法について、継続的に管 理できるマネジメントシステムを独自に構築するこ とを決定。 「誰か1人の想いだけで一時期やってい た、ということでは意味が無いので、会社の中で、 継続的に維持できる1つの仕組みとして標準化させ るものを目指しています」 (関家氏)とする。

■5次サプライヤーまでの所在地を把握
手はじめとして、製品製造に必要なすべての調達 部品、原材料などに対して、5次サプライヤーまで遡って企業所在地を洗い出す作業を開始した。具体 的には、1次サプライヤーに対して、2次サプライ ヤーより上流にある企業の情報をアンケート調査す る。1次サプライヤーが2次サプライヤーより上流 の情報をつかんでいなければ、2次サプライヤーに 対して、それより上流の企業の情報を調べてもらう ように依頼する。同様に2次が3次に、3次が4次 にと5次まで遡ることで、サプライチェーンの全貌 を可能な限り明確にするねらいがある。

「会社名は開示したくないというケースもありま すので、最低限、所在地だけは答えていただくよう にお願いしています。今回は地震リスクを回避することが目的ですので、それぞれのサプライヤーが、 政府の長期地震予測地図と照らし合わせ、どれだけ危険性の高い所にあるのか認識してもらいたいという目的もあります」 (関家氏) 。

同社がこれほどサプライチェーンのリスク対策に 力を入れる理由は、グローバル企業として生き抜い ていく上で、日本に会社や工場があること自体が、 海外企業にはリスクとして映りかねないという懸念 があるからだ。

「世界のお客様と取り引きさせていただいている 我々にとっては、日本でやっていることが大きなデ メリットに見られる可能性があるので、最低限、そ こは担保していると言えるようにすることが大事だ と考えています」 (同) 。

■供給継続の対策を模索


同社のサプライヤーは、主力の半導体製造装置関連と、そこに取り付ける砥石製品(切断・研削・研磨)関連の大きく2つに分けられる。

製品装置のサプライヤーは装置の組立に必要な電 子部品や半導体デバイス、ネジや電線、金属加工部 品などを供給する会社が主で、1次だけで 250 ~300 社ある。砥石製品は原材料や化学薬品が主で 50 ~100 社。5次サプライヤーまで遡ると、サプライ ヤーの数は軽く1万社を超えるという。

5次サプライヤーまでを把握することで、リスク は本当に回避できるのか? こんな質問に関家氏は「できないと言うことは簡 単ですが、どうできるかを探りながらやっていく中 で何か見えてくるのでは、というのが正直なところ です」と、前向きな姿勢で答える。

最終的には、これらの企業のリスク管理や BCM 体制の現状まで把握し、仮に大地震が発生しても安 定した調達が可能なシステムを構築したい考えだ。

「対策のオプションを何種類か考えて、サプライ ヤーごとにオプションを適用していくようなことを イメージしています。例えば、1社だけから購入を している単一供給源については備蓄を依頼するかも しれませんし、あるいは物流のリスクも大きいので あればディスコ側が備蓄をするケースもあるでしょ う。これまでと同じように生産を分散化していただ くようお願いすることもあるかもしれません。ある いは、その部品を使わないようにする、調達先を二 重化するなど、さまざまなケースが考えられます」 (同) 。

■サプライヤーをファンにする
最も懸念するのはサプライヤーの反応だ。サプラ イヤーの立場からしてみれば、自社より上流のサプライヤーを調査することは手間がかかるし、情報を 開示することでリスクが露呈すれば、取引を断られることにもつながりかねないという懸念もあるだろう。

購買本部の西本雄一氏は「我々が一番大切にして いることはサプライヤーを自社のファンにすること です。 しっかりリスクマネジメントができていても、 ディスコがサプライヤーの皆様にとって大切な存在 だと思っていただけなければ、 機能しないでしょう。 3.11 で 20 数社ものサプライヤーが製品を供給でき ない状況に陥りながらも、事業を継続できたのは、 サプライヤーの皆さんが事業再開後、他より優先してうちに製品を供給してくれたから。ですから、調査をするという上からの目線ではなく、共存共栄の ために、一緒に強いサプライチェーンを築き上げる ために協力してくださいという立場でお願いをして います」と話す。

 ■2001 年から満足度調査


同社は、サプライヤーとの関係を強化するため 2001 年度からサプライヤー満足度調査を行っている。

具体的には、◇担当者のビジネスマナーに失礼は ないか◇担当者の能力・知識は十分か◇不足している能力は何か◇信頼できるプロフェッショナルな存 在になっているか◇受注プロセス(価格決定プロセス、注文書発行スピード、受入検査対応)の満足度 はどれくらいか◇技術者との打ち合わせ頻度は十分 か、などについて毎年調査し、グラフで可視化し公 表している。結果は、寄せられた要望などと合わせ て購買本部はじめ全社に通知され、改善につなげている。

調査対象は1次サプライヤーの 80%に相当する250社におよぶ。

西本氏は「今回のサプラ イチェーン調査は正直なと ころ、サプライヤーさん からは嫌がられています(笑) 。それでも大震災の影響もあり、以前と比べれば
随分抵抗感がなくなりましたし、今回もすでに 80% のサプライヤーさんから回 答をいただいています。サプライチェーンは生き物のように、どんどん変化しま す。それでも常にパート ナーとして、一緒になって 地道に情報収集しながら、 強い関係を築いていくことが大切だと思います」と話している。