東京医科大学病院渡航者医療センター部長/東京医科大学教授
濱田篤郎氏

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。2月10日時点で中国国内の感染者は4万人超、死亡者は900人を超え、2003年のSARSを上まわった。WHO(世界保健機関)は緊急事態を宣言し、日本政府も水際対策に躍起。乗客に感染者がみつかった大型クルーズ船は現在なお停泊中だ。いま何が起きているのか、これからどうなるのか。東京医科大学病院渡航者医療センター部長で東京医科大学教授の濱田篤郎氏は「局面は次のフェーズへと移行しつつある」と説く。※インタビュー本文は2月6日取材時点の情報にもとづいています。

感染力・致死率ともインフルエンザ並みに

Q1 新型コロナウイルスの感染はいまどのような状況になっているのですか?

厚生労働省の発表をもとに作成(2月10日時点)

昨年12月、動物から人へ感染が始まった当初はほとんどのケースが重症でした。12月いっぱいはそれほど広がっていなかったと思われますが、1月にはすでに人から人へうつるようになっていたと考えられます。

最初は呼吸器の下の方に感染し、肺炎を起こしたりするウイルスでしたが、その後、呼吸器の上の方に感染するようになってきたようです。つまり鼻水や咳の症状がメインになってきた。ウイルスにある程度の変化があったのかもしれません。

肺炎の場合、咳をしてもなかなかウイルスは出てきません。しかし普通の風邪と変わりない症状になると、咳やくしゃみでよく飛び散るわけです。結果、感染しやすくなる。また重症な肺炎は寝ていないといけませんが、症状が軽いと結構動きまわる。それが感染力に拍車をかけたのではないかと思います。

厚生労働省の資料をもとに作成(2月10日時点)

実際、感染者数は1月に入ってから急増し、中国では湖北省を中心に2万8000人くらい(2月6日時点)。実際はその10倍くらいはいるのではないかといわれています。死亡者は500数10人(同)、うち95%が湖北省、武漢ですね※。

湖北省は封鎖されているうえ、もともと医療インフラが整っている場所ではありません。患者が激増し、外にも出られず、かつ医療インフラがよくないとなると、医療を受けようにも受けられない。崩壊状態に近いと思います。

逆にいうと中国のほかの都市、また日本を含むほかの国で亡くなる方の割合は0.1%~0.2%。これは毎年流行する季節性インフルエンザと変わりません。

こうした状況からいえることは、いまのウイルスの状態は、感染力は結構高い。インフルエンザ並みで、1人から3人程度にかかるくらいでしょう。一方重症度という点では、致死率はそれほど高くない。普通の医療が受けられる場所で発病したのであれば、こちらもインフルエンザ並みで、風邪のような症状で終わることが多いか、あるいは無症状で過ごしてしまう人もいる。それがいまの状況です。

※2月10日時点で感染者は4万人超、死亡者は900人超となっている

Q2 無症状または潜伏期間中の人から知らずに感染が広がるおそれはありますか?

ウイルスが広がるメカニズムは、もちろん感染者からうつるのですが、飛沫感染と接触感染が主なルートになります。飛沫感染は、咳やくしゃみをしたとき唾や鼻水にウイルスが入っていて、それを周囲の人が吸い込むわけですね。

しかし実際は、飛んできたウイルスを直接吸い込むことはあまり多くありません。むしろ多いのは、飛び散ったウイルスが机などにくっつく、それを手で触り、鼻や口に運んで、気道に入るという感染経路です。

確かに、無症状であってもウイルスを持っている人はいると思います。しかし無症状だったり、潜伏期間中だったりする場合は、それほど積極的にウイルスを飛び散らせない。やはり発症して咳やくしゃみをしたときに飛び散るわけですから、風邪や肺炎の症状がある人から飛沫感染、接触感染すると考えるのがよいと思います。

3月をピークに収束へと向かう?

Q3 2009年に大流行した新型インフルエンザは、最終的に、普通の季節性インフルエンザのような扱いになりました。今回もそのような経過をたどるのですか?

それに関しては、少し違うイメージをもっています。今回参考になるのは、むしろ2003年のSARS(サーズ)かと思います。

SARSも同じコロナウイルスで、02年11月頃に広東省で始まりました。実際に流行が確認されたのは、翌03年の2月末。春節を経て中国国内で流行り始め、香港に到達してそこから世界流行になり、4月~5月をピークとして収まっていったわけです。

これに対し今回の新型コロナウイルスは、SARSより重症度は低いのですが、感染力が強い。そのためいまの状況からすると、SARSのときより少し早い時期にピークになる可能性があります。

人に感染するコロナウイルスは現時点で6種知られています。うち2つがSARS、MERS(マーズ)で、あとの4つは軽い風邪を起こす程度のウイルス。今回のウイルスは構造がSARSに似ているといわれていますが、感染力と重症度をみると、いまは普通の風邪を起こすウイルスに近いものになっていると思われます。

一般的なコロナウイルスは、屋内で人と人の距離が密接な寒い時期に流行します。普通の流れでいけば、3月頃をピークに、4月頃には減っていくかたちをとると考えられます。

懸念は「新型であること」と「隣国の大流行」

Q4 心配しなくてもよさそうな気がしてきますが、懸念はないのでしょうか?

今後の不確定要素は多い。パンデミックの可能性も消えていない(写真:写真AC)

あります。確かに過剰な心配は必要ないと思いますが、いくつか不確定要素があることには留意しなければなりません。

一つは、ウイルスが新型だという点。いままでのコロナウイルスと同じように流行するかどうかは、正直、わからないところなのです。あたたかくなってなお流行する可能性も否定できません。

もう一つは、中国であれだけの感染者が出ている点。湖北省を中心に、現在、1日1000人~2000人のペースで増え続けています(2月6日時点)。中国は日本の隣国ですから、3月をピークに収まってくるというのは、楽観的過ぎるという見方も当然あるでしょう。

私は、日本で大流行になることはおそらくないと思います。しかしこの後、流行が完全に消えることなくジワジワ続くことはあり得ると思っています。どのくらい続くかはわかりませんが、5月あるいは6月、初夏の頃までいってしまう可能性もあるでしょう。

最後にもう一つ、WHO(世界保健機関)が非常事態を宣言した際、ゲブレイェスス事務局長が医療体制の脆弱な国への拡散を懸念していましたね。実際、もしアフリカに流行が広がれば、アフリカ大陸全体が湖北省のようになってしまうおそれがあります。

そうなると、本当のパンデミックです。非常に多くの方が亡くなりかねない。WHOが最も危惧しているのはそこで、大きな懸念要素です。

Q5 日本国内では東京五輪の開催が控えています。流行が長引くことで影響は出ますか?

東京五輪への影響が懸念される(写真:写真AC)

日本では、3月下旬には聖火リレーが始まります。その頃までに収束のめどが立たなければ、何らかの影響は出るでしょう。このことが、国全体の焦燥感により拍車をかけているように感じます。オリンピック開催国でなければ、重症化を防ぎながら様子をみようという対応でよいかもしれません。その意味で、日本は世界の中でも特殊な状況に置かれているといえます。

3月下旬には聖火リレーが始まる(写真:写真AC)

また仮に、開催までに流行が沈静化したとしても、オリンピック・パラリンピックのような国際的な大会は、マスギャザリングといって、人と人との接触機会が増大します。飛沫感染が起きやすい環境になりますから、そのタイミングでまた流行が広がらないよう十分に注意をしなければなりません。

重点は水際対策から国内の診療体制に移行

Q6 グローバル化の進展にともない、世界中で人の動きが活発化しています。感染症対策にも変化が求められるのですか?

そのとおりで、感染症に対する注意の仕方は大きく変わってきています。17年前のSARS流行のときと比べてもだいぶ違う。この20年間だけで、中国から日本に入ってくる人は20倍に増えていますから。

逆にいえば、人の流れを止めるという方法で感染の拡大を防ぐことはできるわけです。アメリカをはじめイギリス、フランスなどが、いまその方法を取っているわけですね。

では日本はどうかというと、中国との関係を考えれば、人の流れを完全に止めることは難しいと思う。もしアメリカ並みのことを行えば、かなりの経済損失を覚悟しなければなりません。もちろん大事なのは国民の生命ですから、SARS並みの致死率であればまた話は違います。しかしいまの致死率であれば、人の動きを完全に制限する必要はないと思います。

Q7 では、どのようにして感染拡大を防ぐのですか?

水際対策をメインとする第1フェーズから第2フェーズへの移行期(写真:写真AC)

海外からの感染拡大を抑制するうえで、我々は常に2つのフェーズを考えます。第一のフェーズは、要するにいまの状況ですが、水際対策でできるだけ国内に入ってくる感染者を少なくする。人の流れを止めないまでも、入ってくる感染者を極力減らすということです。

これについては「ザルだ」という批判もあります。しかし、このフェーズで何を目指しているのかというと、次のフェーズでやるべきことの準備なのです。すなわち、国内で流行が広がり始めた際、適切に対応できる体制を整えることです。

鼻水や咳を発症している人が実は新型コロナウイルスの感染者だったという状況になってくれば、それが次のフェーズへの転換点です。いまは誰からうつったのかがわかりますが、次のフェーズではわからなくなる。こうなると、国内の医療機関が重症者に対していかに対応するかがポイントになってきます。

新型インフルエンザのときもそうでしたが、最初に水際対策をして流行の時期を遅らせ、その間に次のフェーズへの準備をする。いまが、まさにその時期です。そして、感染経路をはっきり追えなくなってきているようなら、厚生労働省はフェーズの移行を宣言するべきです。

高齢者や慢性疾患の患者を守ることが重要

Q8 第2フェーズに向けた準備を早急に進める必要があると?

写真を拡大 自治体に医療体制の整備を要請する厚生労働省の通知

もちろん、水際対策は続けていく必要があります。しかし、いま何よりも大事なのは、重症化している人を国内の医療機関で適切に診療できるよう準備することです。

国は「帰国者・接触者外来」と、そこにつなげる相談センターの設置を都道府県に要請していますが、これを早急に整備し、いつでも次のフェーズに入れる体制にしておく必要があります。

現時点で新型コロナウイルス肺炎の患者は、国内に約400カ所ある指定医療機関で診療を受けることになっています。これに対し「帰国者・接触者外来」は、どこかは決まっていませんが(※都道府県によってはすでに整備している)、2次医療圏に一つです。今後は診療できるところが増えてくるでしょう。

医療体制の整備にあたっては高齢者や慢性疾患を持つ人の安全確保が重要(写真:写真AC)

ここで注意すべきは、高齢者や慢性疾患を持った人を守ることです。新型コロナウイルスの致死率は高くないといいましたが、高齢者や慢性疾患を持った人は重症化しやすい。「帰国者・接触者外来」を置く病院は、すでにそうした患者を多く抱えています。受診動線を変えることもちろん、そうした患者の診療を周囲の医療機関がサポートするやり方も必要かもしれません。

当面1カ月は中国国内の動きを避けるべき

Q9 海外の人と日常的に接触するビジネスやサービスも多数存在します。企業としてはどう対策をとればよいですか?

まず従業員の海外派遣ですが、中国国内の動きは避けたほうがよいと思います。どのくらいの期間かは難しいところですが、向こう1カ月はできるだけ出張を控えたほうがよい。また中国の駐在員も動き回らないほうがよいでしょう。

なぜかというと、いまは事態が急激に変化しています。湖北省以外の感染者がどう増えるかわからず、中国国内の社会不安が増幅してくるおそれもある。飛行機がいつ止められるかわかりませんし、暴動が起きる可能性も否定できません。

ただ、中国からの駐在員の退避は、湖北省以外の都市で死亡者が増えくれば話は別ですが、いまの状況では、必要ないと思います。

新型ウイルス肺炎が世界に拡大 武漢市を封鎖(写真:Featurechina/アフロ)

あとは中国から帰って来られた方への対応ですね。湖北省からの帰国者は検疫からの指示に従ってください。それ以外の中国から帰国者は、自宅待機にすることはないけれど、2週間は毎朝晩検温し、熱があるようなら早めに保健所などへ連絡し受診いただく。そしてマスクが手に入れば、人ごみの中に入るときはつけてもらう。それくらいの注意で、2週間は自主的な健康管理をしていただけばよいでしょう。

Q10 旅行客と常に接するサービス業や観光業はどうすればよいですか?

観光業など感染リスクの高い業種はとくに注意が必要(写真:写真AC)

そうした業種の方々がほかの人より感染リスクが高いのは確実で、もちろん、注意していただく必要があります。しかしビジネスを停止するわけにはいかないでしょうから、たとえば観光ツアーであれば、スタート前に「体調の悪い人はいませんか?」と尋ね、もしいれば申し出てもらうような対応が必要だと思います。

観光客の方々にマスクをしてもらうのは難しいかもしれませんが「手洗いをよくしてください」と呼びかける分には問題ないでしょう。スタッフの方々が手洗いやうがいを励行することはいうまでもありません。

接客スタッフがマスクをする・しないも、一概にはいえませんが、高齢者や慢性疾患を持っている方は、したほうがよいと思います。こうした状況ですから、事前にきちんと理由を説明してから着用すれば問題ないでしょう。

 

プロフィール
濱田篤郎(はまだ・あつお)
1981年東京慈恵会医科大学医学部卒業。84年米国Case Western Reserve大学に留学し熱帯感染症、渡航医学を習得。帰国後、東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室講師を経て2004年から海外勤務健康管理センターのセンター長に。10年から東京医科大学教授、東京医科大学病院渡航者医療センター部長に就き、海外の勤務者や旅行者の診療にあたっている。

(リスク対策.com 竹内美樹)