防災ずきんは何のためにある?(出典:Wikipedia)

災害が起こると、被災地に折り鶴を送る事の是非が問題になるそうです。ネット上では賛否両論の激論になりやすいように書かれていますが、みなさんはどう思われますか?

■「被災地に千羽鶴はいらない」が議論巻き起こす 被災者を「傲慢」と怒る人たちの理由とは(出典:J-CASTニュース)
http://www.j-cast.com/2016/04/27265506.html?p=all

賛成する側の主要な論調は 真心を込めた贈り物に対する敬意であり、反対する側の論調は、実際に不必要なものという事実重視かなと理解しています。

私としては、賛成か反対かの激論はともあれ、支援したい気持ちと支援を求める気持ちのニーズのミスマッチがとても残念です。なんとかマッチングできる方法はないのかなと思うのです。

実は、折り鶴と同じようにこれはミスマッチになってしまうのでは・・と感じている問題があります。あまり書くと激論になって火に油を注ぐ事になってしまうのではないかとそれも危惧しているのですが・・。対立をあおりたいのではなく、どうしたらマッチングできるか、みなさんのお知恵を拝借できればなと思っている、なんともなさけない今回の記事なのです。

その問題というのは「手作り防災ずきん」のことです。全国で講演させていただくと、とても熱心に手作りで防災ずきんを作成されているところがあります。子どもたちの命を少しでも守ろうと、心を込めて、プレゼント用に手作りされています。ずきんの中にポケットを作って、母子手帳や防災グッズを入れられるように工夫されているものもあります。先日は、千人針のように多くの人にひと針ずつ縫っていただき、想いと安全を伝えたいと活動されている地域のお話もお聞きしました。

ここで、知っておいていただきたいことがあります。折り鶴は人を傷つけることはありませんが、防災ずきんは防災グッズとしてプレゼントされるわけですから、生死に関わる場面で使われる可能性があるということです。

防災ずきんは命を守る防災グッズなのに・・

手作り製品の材料は、不用品の布であったり、子どもが使っていた毛布を再利用するというものや、新しいバスタオルというケースをお聞きしたことがあります。

いずれにせよ布製なので、残念ながらヘルメットと同様の耐衝撃性能はありません。耐用年数は不明になります。

また、これも残念な事実なのですが、防炎性能もありません。独立行政法人国民生活センター 2010年9月1日 報道資料「子ども用防災頭巾の安全性 」に詳しく書かれていますが、手作りではなく、市販の難燃性をうたっているものの中でも、(財)日本防炎協会の認定品以外のものは、燃焼実験で燃焼してしまったことが記載されています。洗濯すると、燃焼しやすくなったという報告も記載されています。

防炎性能のないものは、市販品であっても着火後4分で燃えてしまっている。「子ども用防災頭巾の安全性」(動画)(出典:独立行政法人国民生活センター http://www.kokusen.go.jp/douga/20100901_1_news/n-20100901_1_high.html )
「子ども用防災頭巾の安全性 」(出典:独立行政法人 国民生活センター 平成22年9月1日 報道発表資料http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20100901_1.pdf

防災ずきんの中には市販品であっても耐衝撃性能と防炎性能がないものがあることについて、国民生活センターは以下のように記載しています。

7.消費者へのアドバイス

(1)防災頭巾の性能を理解すること


アンケートの結果から、6 割近い保護者の方は、防災頭巾に対して「衝撃吸収性能」を望ん でいた。しかし、災害時の過度な衝撃には対応しきれない場合もあるため、防災頭巾の性能を理解し、備えていても、日頃から、学校や家庭で避難経路の安全確保などの避難行動を認識し、防災に対する意識を高めるとよい。

(2)防災頭巾を購入する際は、詰物が使用によって偏らない構造や劣化しにくい素材か、また、 (財)日本防炎協会の認定品を購入の目安にするとよい。また、手入れ方法などの表示をよ く確認すること 


詰物が偏ったり、劣化しては防災頭巾の性能が発揮されないことから、詰物の偏らない縫製になっていることや、ウレタンのような劣化しやすい素材を使用していないかなどを確認し、購入の目安にするとよい。また、防炎や難燃加工を謳(うた)っていても、その性能が発揮され ず、接炎を止めても燃焼が続き、焼失してしまうものがあった。中には外観が銀色で、消費者がいかにも燃えにくいと印象を持ちそうなものであっても、燃焼、焼失が見られた。火災などに備えるためには、防炎性能が確保されている(財)日本防炎協会の認定品を購入の目安にするとよい。さらに、洗濯の可否や手入れ方法などの表示も確認するとよい。

「子ども用防災頭巾の安全性 」(出典:独立行政法人 国民生活センター 平成22年9月1日 報道発表資料http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20100901_1.pdf

耐衝撃性能や防炎性能だけではなく、近年、こども用品にはもう一つ動きがあります。2015年12月21日に、子ども用衣料(ひもの安全基準)の JIS が制定公示されました。

年少のこどもの場合、頭部や頸部にはひもが付いたデザインを製造、供給してはならないとなっています。

これについて、アウトドア製品は海外の規格の方が厳格だったこともあり、早い段階から、首回りなどの安全対策がとられていました。

アメリカ 
1997年米国材料試験協会(ASTM)引きヒモに関する安全規格制定
2歳~12歳のアウターウエアに、フード及びネック部分に引きヒモをつけない

EU
2004年欧州標準化委員会(CEN)コードヒモと引きヒモについて規格制定
7歳未満 フードや襟首にヒモを付けるのを禁止
7歳~14歳 ヒモを付けてもいいが、長さ等の安全規格あり


経済産業省の啓発動画にもあるように、首まわりのヒモやフード自体が子どもにとって危険になりうるということがわかります。


経済産業省 「子ども服を選ぶ新基準!」(出典:Youtube)

フードについてはJISの対象外とされましたが、力が加わった時はすぐに外れることが望ましいとされたり、保育園などによってはフードつきの服を禁止とするところもあります。首回りは危険が伴うという認識に変わってきています。

防災ずきんを手作りする場合であっても、災害時は日常時よりも障害物が多い事が考えられます。JIS規格を満たしていないと子どもの避難時にかえって危険な道具になってしまうかもしれません。

こんな事実を知ると、PL保険にも加入していない防災ずきんをプレゼントすることは、贈った人が後日責任を負わされることにならないか、心配にもなってしまいます。そのため、「手作り品は、耐衝撃性能と防炎性能そして、JIS規格を満たさないと思われますが」・・とお話するようにはしているのです。

実際、受け取る側はどんな風に思っているの?アンケートを取りました!

ただ、防災ずきんというものは、きっととても想い入れが強い作品なのだろうなと思っています。上記3つを説明してもなお、どうしても作りたいとおっしゃるグループに複数お会いしています。地域によっては、防災の関心がとても薄いところも多く、手作りずきんを手にすることで防災についてもっと考えてもらいたいという想いもわかります。火事も想定されず、落下物も少ないので、カバンがわりに手作りずきんを作っている所もありました。

というわけで、それ以上強く言及する事はせずにきたわけなのですが、折り鶴問題が話題になった事もあって、ちょっと比べて考えてみました。

折り鶴では、贈る側の純粋な願いと、受け取る側の要望のミスマッチがあったのですが、手作り防災ずきんについては受け取る側の気持ちについて、聞いたことがありませんでした。
 
実際のところ、受け取る側はどう考えているのか、ニーズは調査されているのかな?と思ったので、アンケートを実施してみることにしました。対象は子育て中の方で防災ずきんを贈られるであろう年齢のお子さんを育てていらっしゃる方です。私の講演後では、私と同じご意見の方が多くなってもいけないので、複数の地域の異なる子育て関連のグループの方に、広くお願いしました。防災に関心がない人も答えてもらえるよう、公開のGoogleフォームでの簡単なアンケートにしました。アンケート期間は3月9日から20日までの11日間で104名の方から回答をいただきました。

その結果がこちらで読めます。

■手作り防災用品に関するアンケート結果(あんどうりす調べ)
https://drive.google.com/file/d/0B7YzA8Z7H4_vQmU5dFdXb21VRUU/view?usp=sharing

以下は分析というより私の感想ですが、どんな防災グッズでも、いったんはありがたくいただいてその後考えるという方が半数近くを占めます。

手作り防災用品に関するアンケート結果より(あんどうりす調べ)

渡した時に喜んでもらったので、いい事をしたと思えても、もしかすると、あとで困っているという場合もあるかもしれません。受け取った時の相手の反応よりも、相手のニーズを知ることの方が喜ばれているかを判断するためには重要といえそうです。 

手作り防災用品に関するアンケート結果より(あんどうりす調べ)

ニーズについては、耐衝撃性能や防炎性能を満たすもののほうが、手作りか否かに関わらず、「受け取る」が多くなっています。

手作り防災用品に関するアンケート結果より(あんどうりす調べ)

命を守る道具であるだけに性能が求められているのは当然の結果のように思います。また、特に、想いが込められている事例である「千人針」の防災ずきんについては、どのように思うか記述回答をお願いしてみました。

「喜んで協力したい」
「素晴らしい!」
「手作りの温かさが感じられていいと思う」
「皆さんの気で守られそう」
「時間と手間をかけることが可能であれば素敵な暖かい取り組みかと思います」
「想いがこもってて素敵だと思います」
「関わった方の愛に守られそう。また、関わった人たちの輪がでることもよい」


という賛同の声がある一方で、

「ハッキリ言うと、気持ち悪いです。渡す側の満足感のためのプレゼントに感じます。」
「千人針は戦時中を連想させて少し怖いです。」
「正直、気持ち悪いです。時間もかかるだろうし、作り手の自己満足に思えます。」
「色々な念が入ってそうであまり素直には喜べない」
「心がこもりすぎて、逆に受け取りにくい。手縫いだと、耐久性も心配。」
「とても多く困るもののひとつ。贈る側の善意の押し付け。」
「怖い。使えない」
「多数の人の手に触れたものは気持ち悪くて使いたくないかも…」


と、「重い」「気持ちが悪い」「怖い」などの言葉を使って否定されている方が25%ありました。

想いが強いものは、強く共感する方がいる一方で、強い否定も生みやすいといえるかもしれません。子どもたちの命を守りたいという共通の願いであるにもかかわらず、せっかくの想いが対立を招くものになってしまうようになっては残念です。

その他、こんなご意見もありました。

「価値観は色々あると思いますが、プレゼント自体を希望しない人もいると思います。押し付けにならないスタイルを望みます」

「手作りは良いが他人にプレゼントするなら、しっかり規格にあったものでお願いしたい。特に安全面」

「正直言うと、そこに情とか想いとかを込める必要性はなく、早急にできる支援をすべきと考えます。想いとかは、別の形で伝えていくことはできないでしょうか」


と、いろいろご意見いただきました。長々とご紹介したのは、たくさんの意見を書いてくださったことがありがたくて!

日本人は合意形成が苦手?

子どもがいつぐずりだすかわからない、マルチタスクとかワンオペ育児なんて呼ばれるまとまった時間のとれない中で、紙&項目の多いアンケートだと回答率がとても低い子育て世代が、1、2分で回答可能なグーグルフォームアンケートだと、意見まで書いてくれたこと、まずそこにとても感動しました♪

これだけ、多様な意見があるのですから、当事者に意見を聞かないのはもったいないと思うのです。

これは、あくまで今回お聞きしたご意見ですが、手作りずきんを作っている地域の方のまわりで、受け取り側の意見を匿名で、当事者が回答しやすい形で集めてみるのもよいかもしれません。

また、集めても、自分と違う意見がでてきたら、やる気がなくなってしまうかもしれません。せっかく頑張っている事が否定されると悲しいですよね。

そんな問題について、解決方法を示すワークショップが3月3日、東京大学 福武ホールで開催されました。

国立研究開発法人科学技術振興機構(RISTEX)主催、リスク対策.comも協賛のこのワークショップのタイトルは、「コミュニティレジリエンスを高める社会技術 防災・減災を目指す地域の『参画』と『我がこと意識』」でした。

どこが解決方法かというと、国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED)理事長の林春男先生の当日資料のこの言葉をみてください。

「広い意味での“合意形成”とその技術」

・合意形成には、共通認識もある。理解を促すのもその一部
-誰かが、何か1つをみんなでやることを合意というのではない
-1人1人の納得のプロセス
-人々の間の共通了解の成立、状況認識の統一
-同じような状況認識に基づいて、それぞれの責任で、行動を起こすというのも、合意と言える。

・わが国では「合意形成」技術が低いのではないか?
-西欧近代では利害対決を合理的に解決する技術を開発してきた
-例)アメリカの議会で用いられる『ロバート議事規則』
   「どうやって合意形成するのか」についての合意の形成
-例)イギリス王立国際問題研究所「チャタムハウスルール」
    会議参加者が自身の立場・役職に縛られずに自由に意見を述べる


※防災科学技術研究所理事長の林春男先生発表資料(科学技術振興機構(RISTEX)主催「コミュニティレジリエンスを高める社会技術 防災・減災を目指す地域の『参画』と『我がこと意識』」ワークショップ資料より)

「わが国は、合意形成技術が低いのではないか?」

そう!それ!と思わず叫びたくなってしまいました。もう一度繰り返していいですか?

「わが国は、合意形成技術が低いのではないか?」

「3つの意思決定方式」

1、「満場一致」モデル(村の寄合モデル)
全員一致するまで寄合を重ねる→昔の良き伝統?いつでも可能とは限らない

2、「技術官僚」モデル
行政が原案を作り、住民の同意を得る→一般的にやられている。必ずしも完ぺきではない。

3、「市民参画」モデル
短時間で合理的なソリューションに至りうる。みんなが納得できる。1人1人が判断できるようになる→依然として弱い

いずれも、全体として人々の“合意”を形成するための方法


※防災科学技術研究所理事長の林春男先生発表資料(科学技術振興機構(RISTEX)主催「コミュニティレジリエンスを高める社会技術 防災・減災を目指す地域の『参画』と『我がこと意識』」ワークショップ資料より)


全く異なる意見の人も地域には存在するわけです。違う意見に出会った際、どうすれば合意形成できるか。その技術がないと、対立したままで終わったり、防災について地域のやる気が下がるだけになってしまいますよね。合意形成技術の低さは、防災・減災の場面だけでなく、復興の場面でも問題になっています。

逃げ地図ワークショップ

こちらで紹介されたワークショップは 

逃げ地図
LODE
減災まちづくりワークショップ


でした。今回は詳しいご紹介はしませんが、ワークショップ形式では、子育て世代が高齢者に、会社員はこども役に、など、全く違う人になって、意見を考えてみたりできるのです。そうすることで、他人の意見を聞きやすくなったり、自分とは違うけど、こんな風に思う人もいるのだなと気づく方も出てきます。違う意見があるからこそ、議論を深めたり、合意形成に至れるという経験を積む事ができます。そして、何より、他人になりきって考えると楽しいです!

これからは、こんなワークショップが増えてくるといいなと思っています。ニーズのミスマッチが放置されたままでいると、気づいた時には対立だけが生み出され、激論になって終わり。あとには消耗だけが残り、市民参画型の合意形成に至らなかった。そんな残念な事態を避けるためにもワークショップなどの合意形成スキルアップに期待しているのですが、どうなのでしょうか・・。

ということで、みなさんのお知恵を拝借したい今回の話題でした。

(了)