■ハザードマップと防災マップ 
噴火の影響は広範囲に及ぶため、火山災害の軽減のためには国や複数の自治体が連携した広域的な防災体制の確保が必要になる。しかし、自治体間の連携の取り組みは、なかなか進んでいないのが現状だ。最も対策が進んでいる富士山を例に、広域的な防災計画のあり方を探った。 ハザードマップは、噴火の履歴や災害事象を検証し、典型的な噴火活動などによる火山災害を地図上に示したもので、それに避難場所などの防災情報も含めて「防災マップ」としているものも多い。火山防災マップは、地方自治体が災害対策基本法に基づいて策定する地域防災計画で、予防対策や応急・復旧対策をまとめるための基礎資料となる。


しかし、火山は複数の自治体にまたがって分布することが多いため、個々の自治体が計画を策定しても、実際の災害時には、複数の自治体との連携が不可欠となる。例えば、気象庁が噴火警報を出しても、実際の対応は災害対策基本法に基づき個々の自治体に委ねられるため、その火山の周辺にある複数の自治体が同じタイミングで入山規制を行わなくては意味がない。現在の地域防災計画では、そもそもの前提として、自治体間の連携を視野に入れた指示命令系統による防災体制には・なっていないのだ。「火山被害は規模が小さくても複数の自治体にまたがるケースがほとんど。複数の自治体が防災マップや防災計画の策定時から連携を進めることで、減災効果の高い連携のとれた防災計画ができる。そのためには常設の協議会で検討していくことが必要」と宇都宮大学の中村洋一教授は指摘する。 

こうした課題に対して、政府では2001年7月に国の防災機関と、関係する地方自治体による富士山火山防災協議会と富士山ハザードマップ検討委員会(委員長:荒牧重雄東大名誉教授)を立ち上げ、広範囲な火山防災対策の検討と、それらの基礎となる火山ハザードマップの作成に着手した。 

2004年に検討委員会がまとめた報告書には、過去3200年間の噴火活動に基づいて、将来起こり得る噴火の可能性についての評価をもとに、危険区域図や、被害想定、自治体が策定すべき地域防災計画の参考となる避難計画の立て方、情報の流れなどがまとめられている。

委員会では、この期間に活動した火口の位置や噴出物の量、噴火様式などのデータベースを作成し、これに基づき、噴火の規模を小規模、中規模、大規模に大別し、それぞれに対応した噴火シナリオを検討した。 富士山ハザードマップでは、溶岩流、噴石、火砕流などの個々の火山現象について、数値シミュレーションなどを用いて、噴火規模ごと分布図に示した(図1)この図を用いれば、。個々の事象ごとに、影響範囲の推定が可能になるため、自治体担当者にとって噴火時の応急対策を検討する際の演習資料としても有効になる。 

 

 

 

その一方で、当該地域で特定の期間に発現するすべての事象を類型的に表現した可能性マップも作成し、それぞれの事象についての予測範囲を重ねて表示した火山防災マップを作成した(図3)降灰の可能性マップ。(図2)では、宝永規模の噴火が起きた場合の降灰の分布を分かりやすく示している。防災マップは、火砕流の到達範囲や、火口から投げ出される噴石の到達範囲、融雪時に発生する泥流の到達範囲、溶岩流が3時間以内に到達する範囲を1枚の図に示すことで、地域住民などの避難計画を策定する際の参考基準になることが期待される。 関係自治体が連携して、こうしたハザードマップを作成することで、それぞれの認識レベルは同一化し、地域防災計画も広域的な視点に立って策定できるようになる。昨年6月には、静岡県、山梨県、神奈川県の3県による防災協議会が誕生した。現在、各県が主導して、各市町村ごと具体的な避難計画の作成が行われている。 

 

山梨県環境科学研究所所長で、富士山ハザードマップ検討委員会の委員長を務めた荒牧重雄氏(東大名誉教授)「世界的にも、富士山ハザードマップ検討委員会の報告書のような、火山災害を総合的に見た事例はほとんどないが、これで終わってしまってはいけない。最終的には、自治体担当者が見て分かるように、具体的なリスクシナリオを示して、各担当部ごとに何をすべきか検討できるぐらいまで落とし込んでいかなくてはいけない」と話している。

 

 

■被害想定は2兆5000億円 
富士山ハザードマップ検討委員会の報告書では、噴火が宝永噴火と同じ16日間継続した場合、2兆5000億円もの被害が出ると算出している。しかし、ここにはサプライチェーンの途絶に伴う企業活動の停止や、風評による被害などは含まれてはおらず、さらに大きな被害になることは考えられる。一方、噴石などに伴う人的な被害は出ないとしている。