災害救護の原則は、最短の時間で最大数の要救助者の命を救うこと。短時間で多くの要救助者を正しく評価していかなければならない。(出典:Wikimedia Commons/FEMA - 31649 - Rescue worker carries boy to safety from boat.

 

 

※前編はこちらから 第5章 災害救護 1(前編)

【ショックについて】

ショックとは血液の循環が悪く、体中の細胞へ十分な酸素と栄養が行き渡らない状態を指し、この状態が長引くと死に至ることがある。しかし、このショック症状は見逃しやすいので注意深く要救助者を観察する必要がある。

■ショックの主なサイン

•浅く、早い呼吸
•毛細血管再充満時間2秒以上
•単純な指示に従えない 


浅く、早い呼吸とは一体どの位の回数を表しているのだろう。通常成人の1分間の呼吸数は毎分12~20回程であるので、毎分30回以上の呼吸数をショックの兆候と判断する。しかし、プロの医者でさえ要救助者の呼吸数を冷静・正確に数えるのは至難の技である。ましてや、それが暗闇の中の災害現場ではなおさらのことだ。繰り返しになるが、普段の訓練がいかに大事なのかご理解いただけるだろう。

次に確認したいのが循環のチェックである。2通りの方法を紹介しよう。まずは毛細血管再充満時間を測る方法だ。これはブランチテストと呼ばれ、手のひらや爪を指先で強く押して、さっと離した時に通常の皮膚(爪)の色に2秒以内で戻るかどうかを見るやり方である。これも暗闇で行うのは困難であるが、LEDライトなどを用いて行えば不可能ではない。

もう1つの循環のチェックのやり方に、橈骨動脈拍(とうこつどうみゃくはく)即確認法という手法がある。これは暗闇の中でライトがない場合や極寒の環境下においてブランチテストができない状況の際に用いる二義的な手法である。やり方は橈骨動脈拍を触知できる正しい部位に指を置き、2秒以上測っても脈が感じられなければショックの兆候と判断するやり方である。 

ショックの確認で最後に行うのが要救助者へのメンタルチェックである。これは要救助者の意識レベルを図る方法で、「大丈夫ですか?」などの呼びかけに対して反応するのか、または要救助者に対し単純な指示を出し、その指示に従えるかどうかを見るやり方である。例えば要救助者の手を握りながら「私の手を握り返してください」というような指示を出し、それに対し、要救助者が的確に反応するかどうかを見るやり方である。呼びかけて反応がなかったり、単純な指示に従えなければショックの兆候と判断する。

■ショックへの対処 

繰り返しになるが、ショックの兆候は極めて見逃しやすいので、CFR、CERTメンバーとして災害救護活動に携わる者は前述の方法を用いてショックの兆候をいち早く見つけられる知識と技術を身につけていただきたい。さて、ショック症状が確認された要救助者に対しては次の3ステップで対処しよう。

 Step1:気道確保
 Step2:止血(出血がある場合)
 Step3:体温保持 


ステップ1と2は前述したとおりだが、ステップ3の体温保持は毛布や保温シートなどを用いて要救助者の上下に使おう。地面からの冷たい温度や熱い温度は要救助者の体温コントロールに影響しやすいので、しっかりと下に敷き、上からも外気からの影響を直接受けないよう上下から保護してあげたい。また、足を若干高い位置に持っていき、心臓に血液が戻りやすい状態を作ってあげよう。

※意識のレベルダウンがあったときに嘔吐し窒息などの危険があるため、ショックの兆候がある要救助者には食料は与えないこと。

さあ、それでは呼吸の確認、循環の確認、意識レベルの確認の練習をしてみよう。

【圧挫症候群(又は挫滅症候群)“クラッシュシンドローム”】 

身体の一部、特に四肢が長時間圧迫を受けると、筋肉が損傷を受け、組織の一部が壊死する。その後、圧迫された状態から解放されると、壊死した筋細胞からカリウム、ミオグロビン、乳酸などの毒素が血液中に大量に漏出する。発症すると意識の混濁、チアノーゼ、失禁などの症状が見られる他、高カリウム血症により心室細動、心停止が引き起こされたり、ミオグロビンにより腎臓の尿細管が壊死し急性腎不全を起こしたりする。阪神・淡路大震災でも327例の発症事例があり50人が死亡している。このことから、家屋倒壊などで長時間挟まれている要救助者を救助するには細心の注意が必要となる。

災害救護の現場では挟まれている時間が2時間以上経っている場合を1つの目安として考えているが、数十分挟まれているだけでも発症している例もあるのでさらなるエビデンスベースに基づいた議論が必要とされる分野である(※英国では15分以上挟まれている要救助者を無理に開放しないよう推奨している)。

ここでは次に掲げる3点をしっかり確認し医療機関へ情報を伝達することを推奨する。また麻痺がある場合や尿が赤黒い場合もクラッシュを疑ったほうがよい。

 1. 挟まれている部位
 2. 挟まれていた時間
 3. どれくらいの重量のものに挟まれていたか

■クラッシュシンドロームへの対処 

圧挫症候群(又は挫滅症候群)への処置は原則として医師が行うのが一番である。しかし、現実的に災害現場において必ず医師や救急救命士がいるとは限らない。まず要救助者へどれくらいの時間挟まれていたのかを確認しよう。もし2時間以挟まれていたらI(赤)タグとなる。医師がすぐ現場に来られない場合、状況が許せば下記の処置を行う(某市での方針)。

•大量の水を飲ませる。
•挟まれた部位より心臓に近い、腕や足の付け根を縛る。
•救出後に麻痺を確認する。


クラッシュシンドロームはトリアージでの判定分類がI(赤)となるため迅速に医療機関への搬送が必要になるが、搬送先の病院も人工透析のできるところを選定しなければならない。現場に十分な量の飲み水があるのか?また、挟まれた部位より心臓に近い部位を縛ることにより駆血が悪い方に働くリスクはないのか?(※オーストラリアでは駆血帯の使用は推奨しておらず、重量物からの開放は早いほどいいと述べている)など、いずれにせよクラッシュシンドロームの判断と処置については更なる検証と実地訓練が必要であるのは確かである。

【状況判断について】 

前回の連載(第4章 火災防護編)でも現場でのサイズアップ(状況判断)の9ステップとその重要性を述べたが、災害救護の現場でもそれは例外ではない。まず、CFR、CERTメンバーとして多数傷病者発生事案に対するプランはあるのか? それを運用するためのルールはあるのか?などだ。そして状況判断は継続的に行うプロセスであるということも覚えておいてほしい。

【市民レベルによる簡易トリアージについて】 

 

 

さて、いよいよ第5章の肝である「市民レベルによる簡易トリアージ」について説明しよう。まずトリアージの語源であるが、これはもともとフランス語で「ソートする」という意味である。ソートするとは、類別するということで、戦場において限られた人員と資源の中で、多くの負傷兵を限られた時間の中で効率よく助けるために治療の優先順位をつけたところから始まった。医学的必要性に基づく要救助者の類別の方法がトリアージである。

 

■判定分類

Immediate(I):赤タグ生命危機の要救助者(気道閉塞、出血多量、ショックの兆候、または圧挫症候群)。一刻も早い高度な医療処置を必要とする。

Delayed(D):黄色タグ生命危機には至らない要救助者。処置の優先順位は下がるが、早期の医療処置が必要。時間の経過によっては赤に変わるケースもあるので、継続的な評価を必要とする。

Minor(M):緑タグ歩行可能な軽傷の要救助者。

Dead(DEAD):黒タグ気道確保2回後呼吸が確認できない要救助者。 


ここで説明しているトリアージは、あくまでも医療関係者が病院内で行う2次的な高度なトリアージとは異なり市民レベルが救出現場や病院外で初期的に行う簡易的な分類法として理解して欲しい。阪神・淡路大震災での教訓からも分かるように、市民により現場で正しいトリアージが行われ、医療機関との適切な連携がとれれば、より多くの要救助者の命をつなげることが可能である。

■トリアージの手順 

くどいようだが、トリアージする際もCFR、CERTメンバーは個人用保護具を装着していなければならない。また、救助者の安全第一の観点から危険物・テロ災害現場においてはCFR、CERTメンバーはトリアージは行わないことをルールとして明文化するべきである。

PPE(個人用保護具)もOK、現場の安全も確認できたなら次に示すステップに従いトリアージを行う。

 Step1:止まる、見る、聞く、そして考える
 Step2:ボイストリアージ
 Step3:あなたの立っている場所から効率のいいルートで始める
 Step4:要救助者の評価とタグ付け
 Step5:“I”の要救助者から処置
 Step6:トリアージの結果を記録に残す 


まず、あなたの立場を考えよう。現場の状態は安全なのか?あなた自身とチームの能力や技術レベルで対応が可能なのか?限界点や引き際を理解しているか?などについて考えがまとまったら、決断し、即行動に移す。次に、大声で「救助隊です!もし歩けるのなら私の声のするところまで来てください!!」とボイストリアージを行う。

 

指示に従う事が出来て、誘導する場所まで自力で来た人はM(緑)タグとして分類し、指定の場所へ誘導する。ボイストリアージの指示に従えない残った要救助者に対しては、自分が立っている一番近くにいる要救助者からアセスメント(要救助者の評価)を開始する。

一番効率のよいルートを考え、無駄な動きが出ないよう素早く(一人の要救助者に対し15秒から30秒で)分類していく。そして前述の判定分類を実施していく。評価の手順は呼吸、出血、循環、クラッシュシンドロームの確認を行い(トリアージフローチャート参照)、一つでも評価基準を満たしていなければI(赤)タグを付け、必要な処置を行う。そして、トリアージ記録を書面に記入していく(右記簡易トリアージ記録表参照)。

元気な人ほど、騒いだり、大袈裟に助けを求める傾向にあるが、そういう要救助者は状況に応じて後回しにする選択肢もあるだろう。本当に重症な人は声すら出せないものである。救助者として、“声なき声”を探す配慮も必要だ。

さあ、それではトリアージの練習をしてみよう。

【まとめ】 

今回は災害救護1の後半について解説した。その中でも市民レベルによる簡易トリアージの手法について触れたが、トリアージの盲点をいくつか追記して本章のまとめとしたい。

まず、災害救護の原則は最短の時間で最大数の要救助者の命を救うことだ。つまり短時間で多くの要救助者を正しく評価していかなければならない。文字通り時間との戦いである。それを確実に実践に移すためには繰り返し訓練を行う必要があることは言うまでもないだろう。是非、読者の皆様には1人の要救助者に対し15~30秒以内で正しいアセスメントが実行できるようになるまで練習を繰り返して欲しい。

また、とかくありがちなのがチームとして動くためのプランがしっかりとしていないことだ。この部分についても読者の皆様は第3章「チームの安全を守るICS」の章で学んでいるので、チームとしての機動力を意識した訓練を行っていただきたい。市民レベルといえども、当然現場では強いリーダーシップがなければチームの機動力を発揮することは難しいだろう。

次号は災害救護2として、トリアージエリアの設定方法や記録の方法など今回の続編的な内容と、生命危機状態以外の要救助者に対する処置方法など、よりファーストエイドに近い内容を紹介する。

参考文献: 
•COMMUNITY EMERGENCY RESPONSE TEAM.Basic Training Instructor Guide.FEMA.DHS
•内閣府防災情報のページ(教訓情報資料集)
•災害とクラッシュ症候群、安田清 小林一郎著、発行:アサヒカコー株式会社
•市民救助隊養成講座テキストブック

(了)