鈴与グループ140社の事業継続

 

 

信頼というブランドを生む

 

 

静岡市に本拠地を置く鈴与グループは、総合物流業の鈴与株式会社を中心に商流事業、建設・ビルメンテナンス事業、航空事業など、多岐にわたって事業展開している、国内外に140社の関連会社を持ち、南海トラフ企業の巨大地震・津波を想定し、グループ全体でBCPに取り組むことで信頼というブランド力を生み出している。

 

グループで方針を共有 

 

鈴与グループが、BCPへの取り組みを開始したのは7年前にさかのぼる。2005年3月に経済産業省が発表した「事業継続策定ガイドライン」を受けて、これまで整えてきた防災対策を見直し、本社で「事業継続プロジェクト」を立ち上げた。現在の鈴与の危機管理室は、このプロジェクトから誕生した。さらに、グループ全体の取り組みとして、本社社長をトップとする危機管理委員会を発足(図1)。 

 

危機管理委員会は、社長を委員長とし、物流事業、商流事業、建設・ビルメンテナンス事業、食品事業、情報事業、航空事業、その他など140社に及ぶ関連会社を15のブロックに分け、それぞれの事業の代表者15人と役員代表を含めて、16人のメンバーで構成している。 

委員会では、毎月1回会議を実施し、意見交換と施策を決めることでグループ全体の危機管理体制の意思の統一を強化している。グループの事業領域が多種多様なため、まずはグループ全体で共通する大きな方針を決め、それに従って各社が個別のBCPを策定している。日頃、会う機会が少ない他社の担当者が集うことで、団結力が強まっている。そのことがグループ全体のブランド力を高め、組織の活性化戦略にもつながる。 

同社危機管理室の後藤大輔室長は「共有する方針は、『人命第一』、『ステークホルダーとの信頼関係』、『地域社会との共助』の3つ。グループ会社にはこの方針を基にBCPを策定してもらっている」と話す。

 

多種多様な訓練を実施 
鈴与グループでは、安否確認から、避難訓練、図上演習など多くのBCP訓練を定期的に実施している。 まず安否確認訓練については、グループ会社各社で、定期的に2カ月に1度、安否確認システムを利用して実施している。これだけ頻繁に実施するのは、返信に慣れる事と習慣づけるためだという。後藤室長は「定期的に実施することで、最近では訓練開始から数時間以内にほぼ100%に近い返信率となるなど、着実に訓練の成果が表れている」と話す。また訓練は、(災害用伝言ダイヤル)171の体験利用日である毎月1日に合わせて行われるため、必ず家族の安否も確認するように指導している。 

同様に、情報交換に必要な通信機器の操作に慣れるという目的で、MCA無線や衛星電話を使用した通信訓練も実施している。この通信訓練は、有事の際に実際に鈴与グループ対策本部で勤務する鈴与株式会社本社の対策本部要員と、現地関連会社の各拠点の従業員が、無線で交話をするものである。東日本大震災では、衛星電話を装備していたものの、使い方が分からなかったという事例が報告されている。鈴与グループでは、非常時にグループ全体で情報の連携が確実にとれるように訓練で徹底している。 

災害図上訓練のDIG (Disaster Imagination Game)については、各関連会社の支店長会議などの時間を活用し、本社だけでなく各社の管理職も含めて実施している。具体的には「例えば、3つの支店から社員が集まっていた場合、地域別の想定と地図を用意し、自分たちの会社ではどの場所、地域が危険なのか地図上に記入してもらう。これにより災害の状況を可視化して、避難経路や避難場所などが、参加者の間で共有することができ、対策を考えることができる」と後藤室長は話す。 鈴与の図上訓練のもう1つの取り組みとして、イメージトレーニングがある。この演習では、できるだけ簡単な想定しか参加者に提供しないことが特徴となる。例えば「地面に立っていられないほどの大きな地震が発生した」という想定の場合、参加者は何をすればいいのか、気がついたことを紙に書いてもらう。余震があるのか、津波があるのか、2次的な状況付与はあえてせず、情報が無い中、人に指示されなくても従業員1人ひとりが自分で行動できるようにすることを目的としている。 

最後に避難訓練では、社員だけの訓練に留まらず、近隣の住民にも参加をしてもらっている。清水港の近くに位置する本社建物は、海から近いため、津波避難の際に住民にも避難場所として利用してもらうためだ。訓練には、常時数十人ほどの住民が参加している。 

こうした取り組みが、地域住民からの信頼を作りだしている。

 

グループを利用した備蓄体制 
備蓄体制にも力を入れている。鈴与グループでは、食品事業の強みを生かし、グループ全社に従業員3日分の食料、水などを備蓄。消費期限についてもグループ会社である鈴与マテリアル株式会社が管理し、各企業に備蓄交換の時期の連絡をする仕組みを整えている。 

電源確保については、停電を想定し、ディーゼル発電機、ソーラーやプロパンガスを利用した燃料電池など2重3重のバックアップ体制を完備している。

また、燃料についてはエネルギー関連会社を持つことから、災害時でも給油可能な「災害対応型給油所」を展開するほか、電気自動車など次世代自動車の本格普及を見据え、給電設備を一部SS(サービスステーション)で配置している。さらに重機やトラックなどについてはできるだけこまめに燃料を入れるようにしているという徹底ぶりだ。

東海地域初の新「DBJ格付」取得 
こうしたグループ全体でのBCPの取り組みから、昨年、日本政策投資銀行(以下、DBJ)「BCP防災格付の新け」を東海地域で初めて取得し、最高ランクの格付けが付与された。同制度は、DBJが開発した独自の評価システムにより防災への取組みの優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定するという「防災格付」の専門手法を導入した世界で初めての融資制度だ。 

同制度の先駆けとなる防災格付け融資を最初に受けた安田倉庫(株)は、古い倉庫の建て替えのための融資を受け、記者発表後、株価が相対的に高値を維持した。防災への取り組みから社会的な評価を受け、企業の価値そのものを高めた好事例といえる。

日本政策投資銀行では、今回の評価として、①グループ全体の防災および事業継続に関する体制を構築している点、②本社および主要事業所の耐震面新対策や重要施設の地理的分散が図られるなど、事業継続の基盤となるハード面での抗堪性を実装している点、③グループの総合力を生かすべく統合的な指揮命令系統の整備とBCPを有する点、④現場への浸透と有事の実効性を強く意識した教育や各種演習が継続的になされている点などを高く評価した。 鈴与グループでは、大災害時の荷役・輸送体制の構築など、物流・商流などの各事業分野においても事業継続性の強化をさらにはかっていくとしている。グループ全体の取り組みが信頼というブランド力を生み企業の活性化につながっている。