出張者把握システム

当社は造船の技術をコアに、産業用機械、プラントなどを製造しています。2004年に社長直轄組織として環境安全管理室が発足しました。私は環境管理と海外安全管理を担当しています。

当社の海外安全は、まず海外勤務者の動向を「海外出張者把握システム」で把握します。海外出張申請を行うと、自動的に出張者の情報がダウンロードされ、リストを出力することができます。1日1回更新され、毎朝このリストをチェックします。

次に情報収集と予防と回避に重点を置いた注意喚起の発信です。新聞は1紙、ネット情報としてYahooニュース、MSNニュース、新聞社3社、NHKなどを見ています。官公庁は外務省、厚生労働省検疫所、気象庁のホームページとコンサルタント2社から送られてくるメールを毎朝チェックし、当社の海外勤務者に危機が迫っていると考えたときには注意喚起を発信します。必要があれば、ISILの機関紙ダービク(Dabiq)、英国外務省の邦人トラベルアドバイス、CIAのWorld Factbook、アメリカの空母の配置状況が分かるGONAVYなどのホームページを見ています。

そして海外出張の自粛あるいは禁止などの指示です。外務省危険情報のレベル1~2の地域への出張は、事業本部長の決済が必要です。レベル3の地域は原則禁止です。やむを得ず出張する場合は、副社長への特別申請が必要になります。レベル4は出張禁止です。出張の決済基準に関して、社長から「決済基準を厳格に守れ。特別申請をする際は、決済までの日程を考えてから申請させろ。渡航間際の申請は、客先との打ち合わせ日程、宿泊先、フライトが決まっていても許可するな」と指示が出ています。

海外医療アシスタンスですが、一部門で実施していたアシスタンスの契約を2015年に全社に拡大しています。

緊急事態発生時の安否確認などの初期対応や注意喚起の発信は、当社の海外安全緊急事態対応管理体制に従って行っています。緊急事態対策本部の設置は環境安全担当役員の判断です。当社は幸運にも、緊急事態対策本部の設置を今まで経験しておりません。

啓発活動も行っています。海外安全コンサルタントによる出張者向けの海外安全講習、支社長向けの海外安全講習や新任の駐在員向けの社内研修を行い、自分自身の安全は自分で守るということを強調しています。2016年7月1日、日本人が巻き込まれたバングラデシュ・ダッカのレストラン襲撃人質テロ事件を受け、対処法を指示してほしいと社内から問われました。フランス政府のホームページに「テロに遭遇した場合の対応」について説明がありました。まず頭を低くして逃げる、逃げられなかったら隠れる、ドアをロックしソファなど置き簡単に侵入できないようにする、テレビ・蛍光灯・スマホの電源を切る、治安部隊に近づくときはゆっくり近づくなどの内容がA4用紙1枚で分かるようになっているので、日本語に訳して今年から配信しています。

当社が対応してきた過去の事案を紹介します。

2013年9月2日、シリア政府の化学兵器使用に対し米国が空爆開始かと考え、米空母の動きを見ていました。米国が攻撃に踏み切れば日本は米国を支持すると考えられ、テロなどの報復攻撃の標的になる可能性がありました。もし攻撃の兆候があるならば、トルクメニスタンを含む中東地域の出張者、全社員に退避を連絡するつもりでした。しかし、米軍は空母を北アラビア海から地中海に移動させましたが、シリアを攻撃しませんでした。

2014年5月22日、タイ陸軍司令部がクーデターを宣言。戦闘状態にはなっていないということから様子を見ることとしました。翌朝の朝刊の写真から、兵士が乗っているジープの機関銃に銃弾が装填されていないこと、兵士が持っている銃には銃弾が入っている弾倉が装着されていないことがわかり、すぐに戦闘になる状況ではないと判断し、タイへの出張は禁止しない、タイからの帰国も指示しないこととし、注意喚起のみを発信しました。

2015年8月17日、タイの首都バンコクの繁華街で爆発。このような爆発事案が続けばタイの渡航を止めなければならないと考えていました。しかし、18日に川の水中で爆発、けが人はゼロでした。これまでの爆発に比べて規模が大きく、ウイグル族の中国への強制送還があったことから、イスラム教徒(ウイグル族)の関与を考えました。中国人観光客の多い場所で17日に爆発させたにも関わらず、イスラムの同胞であるマレーシア人の犠牲が多かったことが犯人はショックが大きく、18日の爆発は爆弾を捨てたのではと直感で思いました。そこでタイの渡航は止めないこととし、全社には注意喚起の発信だけとしました。

ISILやタイに注意

2015年11月13日、パリ同時多発テロ事件。この前から当社ではSSDというシステムの導入が始まり、自宅から会社のパソコンを操作できるようになっていました。事件が起こったのは現地13日金曜日夜、日本時間で14日の朝でした。安否確認の作業は自宅のパソコンから行いました。2015年1月7日のシャルリ―・エブド襲撃事件以降、フランスの警備は強化されていたにも関わらず、テロ事件が発生したことから、さらに警備は強化される。また、14日の追悼に集まったパリ市民へのテロはなかったことから、テログループにも戦力に余裕がないのではと考え、フランスへの出張は止めないと判断しました。

2016年1月14日、ジャカルタ爆破事件。第一報はジャカルタ事務所から入りました。事件の発生場所は事務所から800メートルの地点で、爆破されたスターバックスは駐在員が利用しているところでした。ジャカルタ事務所から国外退避の指示要請はなかったことと、テロリストの写真と映像から訓練されていない様子がわかり、ジャカルタへの渡航は継続、注意喚起のみで終わりにしました。

2016年6月28日、イスタンブール国際空港での自爆テロ。第一報は出張者からでした。異変に気付いて素早く避難し、自分の安全を確保してから第一報を発信してくれました。トルコの出張者と、乗り換えの可能性のある出張者の安否を確認。トルコの出張を止めないこととし、29日に注意喚起を発信しました。止めない理由は、テロリストがセキュリティーゲートを突破できなかったこと。私服で駆け付けた警備員の能力が高く見えたことと、日本時間の29日正午過ぎには空港は通常営業を再開したことからでした。

2016年7月15日、トルコのクーデター。テレビ放送の映像とネットの画像と動画を見て、クーデター側の戦車の砲身が上に向けられていること、乗員が戦車の外に体を出していることから、戦うつもりがないと判断、すぐに終息すると見込みました。一方、出張者はすでにホテルで待機していたことから、出張者の帰国と出張中止の指示はせず、注意喚起もしませんでした。

2017年1月6日、トルコイズミル爆弾テロ。3名が出張中でした。裁判所前で爆発したことと、日本人に被害者はないということで、注意喚起のみとしました。出張予定者には出張中止の指示はしませんでした。しかし、テロ事件が西側にある地方都市で起こったということから、出張者派遣部署からトルコへの出張可否を検討するよう要請がありました。現在は出張を止めないこととしています。

2017年1月31日、ブラジルにおける黄熱病の流行。2月6日から11日、1名がリオデジャネイロへ出張予定でした。リオデジャネイロの北側の隣接する州で黄熱病が流行。リオデジャネイロは、黄熱病予防接種の推奨地域にはなっていません。予防接種は接種した10日後から有効なので今からでは間に合いませんが、出張者に黄熱病流行の情報を伝えることが重要と考え、虫よけを体に塗る、ホテルに入室したらすぐに蚊取り線香を探し作動させるなどの注意喚起を発信しました。

最後に今年注目している国と地域は、私の私見ですが、トルコからヨーロッパ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ミャンマー、バングラデシュ、中国、タイです。

トルコからヨーロッパ、インドネシア、シンガポールはISIL関連。現在ISILは、シリアのラッカと、イラクのモスルで包囲されています。ISILの戦闘員の一部はラッカやモスルの住民にまぎれて包囲網から脱出し、トルコからヨーロッパに移動、インドネシア、シンガポール、中国に帰国してテロを起こすのではないかと考えています。

ミャンマーにはロヒンギャというイスラム教の少数民族がいます。バングラデシュとの国境地域に住んでいて、ミャンマーの圧政でマレーシアに難民として避難しています。この難民が一部帰還しており、テロリストがまぎれこんでいると言われています。昨年11月にミャンマーで爆弾事件がありました。2月18日発信の在バングラデシュ日本大使館からのメールで、17日頃に当地在留邦人に対して、SMSにて仏教徒であることを理由とする殺害予告があったとの連絡を受けたことから、テロの危機が迫っていると考えています。

タイはワチラロンコン国王の問題です。この国王は前の首相のタクシン氏と結びつきが深く、何が起こるか分からないと言われています。タイには不敬罪があり王室のことを悪く言えないので、メールで駐在員や出張者に伝えることはできません。そこで駐在員が日本に帰ってきたときにつかまえて、このことを話しています。タイで国王に関連する事案が起こりそうな場合には退避させることを考えています。

(了)