(イメージ:写真AC)

次の写真は閲覧注意のスクショです。「被災して大変なときにこんな人がいるなんて許せない」「絶望的不快感を感じる」という感想から、人によってはPTSDも心配されます。掲載は悩みましたが、こんな事が書き込まれるような社会はまずいのではという思いから掲載します。飛ばして読むなど注意して閲覧いただければと思います。

問題のスクショは、昨年(2019年)の10月12日、台風19号で避難所が開設されるという話題の時にTwitterに書かれていた内容だそうです。「こんなひどいことを言っている人がいる(激おこ!)」と、読者の方から教えていただきました。

こんな卑劣な人がいて、そして、それを公開のTwitterに書き込めるという状況に強い嫌悪感を覚えます。

とはいえ、現実問題として、避難所や避難場所では、性犯罪や性暴力も起こっています。残念ながら問題はこれを書き込んだ人だけにとどまらないのです。

内閣府の男女共同参画局が2020年5月に公開した「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画視点からの防災・復興ガイドライン」には、過去の災害で、

●支援をする見返りとして性的な行為を要求される
●トイレなどが暗い場所にあり、そこで暴力を受ける
●見知らぬ男性が知らぬ間に隣にきて体を触る

という事例があったことが書かれています。

これは一例に過ぎません。以下も気分が悪くなる方もいる情報なので注意してみていただければと思いますが、東日本大震災「災害・復興時における女性と子どもへの暴力」に関する調査報告書 東日本大震災女性支援ネットワーク・調査チーム報告書 IIには、以下の事例が報告されています。

●避難所に更衣する場所がないので更衣室をダンボールで作ったところ上からのぞかれた。その更衣室を使うときは見張りを立てるようにした。(13〜16歳女子)
●避難所で成人男性からキスしてと言われた。トイレまでついてくる。着替えをのぞかれる。母親を含めて誰にも知られたくない。加害者が避難所にいられなくしてほしい。(6 〜12 歳女子)
●授乳しているのを男性にじっと見られる。警察に連絡したら巡回の回数が増やされた。その後、授乳スペースが設けられた。(30 代女性)

ここに掲載するのはためらわれる事例も書かれていますので各自でご確認いただければと思います。

性暴力が起こり得る避難所に対し、私たちはどうすればいいのでしょうか?

先のTwitterでは「男の子の格好で避難させよう」とか「派手な服で避難してはいけない」という趣旨のコメントとともに、「子どもがいたら避難所(避難場所)に行かない方がいい」というコメントもありました。

順番に検討してみます。

「男の子の格好で避難させよう」とか「派手な服で避難してはいけない」というコメントについては、以前も記事を書きました。

3.11と刑法改正前の今だから考えたい「災害と性暴力」
https://www.risktaisaku.com/articles/-/2472

被害者の服装と性暴力については、統計上の有意な因果関係がないといわれているものです(データによっては、学校の制服の被害件数は有意差ありとするものもあります)。内閣府の「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画視点からの防災・復興ガイドライン」にも、

「性暴力は、若い女性だけでなく、高齢者や子供(男児を含む)、男性も被害に遭うことがわかっています」と指摘されています。

先のTwitterは女児を対象にしたものではありましたが、一般論として、男の子の格好をする、派手な格好をしないということはエビデンスがないことだと情報をアップデートしていただければと思います。

二次被害を起こさない

警視庁の中高生向けの性暴力対策の啓発資料も、男性の被害のことが触れられています。

「性被害にあっているのは女子だけではありません」
「男子も被害に! 男子中学生は、共通の趣味の大人と会い、趣味に関するレアなアイテムをくれると約束してくれたので、相手が望むままに男性器を触られたり性的な行為をされた」

写真を拡大 警視庁 なくそうこどもの性被害 中高生用「あなたは悪くない 相談窓口 支援の案内」より引用 http://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/uploads/shien_soudan.pdf

小学生向け資料にも男の子の被害について書かれています。男性のほうが被害を言い出しにくかったり、それが被害であることに気付いていない状況があるので、統計にも出ない「暗数」が多く、悩みを抱えているケースがあることも現場では知られています(下記の「2」のマンガはそういうケースです)。前述の東日本大震災にあった事例集にも「男子が同じ避難所にいる男性にわいせつな行為をされた。ほかの男子数名も被害に遭った。家族が、避難所の宿直だった役場職員 に相談し(中略)、加害者には避難所から出てもらうことにきまったが、その前に加害者は避難所を出た。(6〜12歳男子) 」と報告されています。

写真を拡大 警視庁 なくそうこどもの性被害 小学生用「あなたは気づいていないかも」より引用 http://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/uploads/shien_soudan_elementary.pdf

さらに、服装と性暴力は因果関係が証明されていないだけでなく、派手な格好をしていたから襲われたのだという、被害者に落ち度があるように責任を転嫁させる問題も引き起こします。そのため性暴力対策として服装のことについて述べるのは、被害者には二次被害をもたらし、加害者は認知の歪みを助長させることにつながるので、国際社会では忌避される方向にアップデートされています。

例えば世界最先端といわれる性暴力に対する刑法を持つスウェーデンでは、刑事裁判で、加害者に弁護人がつくだけでなく、被害者にも弁護人がつきます。なぜ被害者に弁護人をつけるかというと、「その人の服装が派手だったから」などの誤った言動が裁判で発せられると被害者への二次被害となるので、そのような事態を避けるため、わざわざ弁護人をつけているのです。

当然、日本でも被害者に二次被害をもたらすエビデンスのない性暴力対策はとられていません。先日発表されたばかりの 内閣府 男女共同参画局「性犯罪・性暴力対策の強化の方針(令和2年6月11日決定)」でも、

写真を拡大 内閣府 男女共同参画局「性犯罪・性暴力対策の強化の方針(令和2年6月11日決定)」 http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/pdf/policy_03.pdf

「『性暴力はあってはならないものであり、悪いのは加害者である』という社会の意識の醸成が大切」と説明されています。被害者に責任を転嫁させないための、とても重要な指摘だと思います。

また、「捜査段階における二次的被害の防止」を強化する方針が出されています。警視庁の中高生向けポスター表紙も「あなたは悪くない」ということを前面にだして、被害者を追い詰める事のないよう配慮しています。

写真を拡大 警視庁 なくそうこどもの性被害 中高生用「あなたは悪くない 相談窓口 支援の案内」より引用 http://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/uploads/shien_soudan.pdf

 

紹介した東日本大震災の事例でも更衣室や授乳がのぞかれたり、トイレにつきまとわれた事例をみても、その人がどんな服装で避難したとしても着替えやトイレにいかざるを得ない以上、性暴力が起きうることがわかります。被害者のせいではなく、加害ができない避難所運営や、加害者対策が求められることを理解いただければ嬉しいです。

最新の内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画視点からの防災・復興ガイドライン~」の避難所チェックリスト例にも

写真を拡大 「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~(概要)」より引用

□配偶者からの暴力の被害者等の避難者名簿の作成と情報管理が徹底されている
□男女一緒に行う防犯体制がある
□就寝場所や女性専用スペース等へ巡回警備が行われている
□避難所の工程など、敷地内に車中泊がいる場合は、車中泊エリアの巡回警備が行われている
□暴力を許さない環境づくりが整備されている
(啓発ポスターの掲示、相談カードの設置、照明の増設、女性や子供は2人以上で行動する、移動する際はまわりの人に声を掛け合う)
□防犯ブザーやホイッスルが配布されている
▶︎不安や悩み、女性に対する暴力等に対する相談窓口、男性相談窓口が周知されている

過去の事例をもとに具体的な方策が書かれています。

さらに、内閣府 男女共同参画局「性犯罪・性暴力対策の強化の方針(令和2年6月11日決定)」は、「教育・啓発のための方針」として「生命の尊さを学び生命を大切にする教育、自分や相手、一人一人を尊重する教育をさらに推進。加えて以下の取り組みを推進」について触れられています。


例えば、プライベートゾーンを他人に触られないところという教育は今まで実施されていなかったので、とても重要なことであることは言うまでもありません。また、電車の痴漢の加害者の大学生が「車内で体を押しつけられたから誘われていると思った」という言い訳をしていた事例が過去にありました。「満員電車だっただけでしょ」としか思わないのですが、加害者の言い訳は時に、認知が歪んだファンタジーに満ちています。性暴力は魂の殺人であることに気づいてもらうために「生命の尊さを学ぶ教育」は本当に重要だと思います。ただそうはいっても、「生命の尊さを学ぶ教育」は地味で地道な対策なので、すぐその場で効果が出るわけではありません。

そのため、避難しなければいけない状況で、単に服を選びさえすれば性暴力が防げるかのような簡単に実行できそうな解決策にすがりたくなるからなのか、潜在意識が古い常識のままでいるからなのか、因果関係がなく二次被害の悪影響があるにもかかわらず、呪術のような性暴力対策が拡散されることがよくあります。防災に関わる方は、掲載した内閣府 男女共同参画局の資料を読み込み、日頃から情報をアップデートしておいてほしいと願います。

とはいえ、繰り返しますが、地味で地道な対策は時間がかかります。今、避難しなければならないときに、呪術系ではない即効性のある性暴力対策はないのでしょうか?

また、服装情報もそうなのですが、世の中、性暴力の被害に遭わないように頑張ろう系の自衛情報は多いです。でも、「性暴力はあってはならないものであり、悪いのは加害者であるという社会の意識の醸成」に効果的な、加害を抑制する性暴力対策ってないのでしょうか?

自衛以外の対策

防災講座で「自衛以外の対策について何か思いつきますか?」とグループワークで話し合ってもらうことがあるのですが、自衛以外の情報が一つも思いつかないというグループも少なくないのです。今までの人生で一度も加害者に対する抑制情報を目にしたことがないから、全く思いつかないという声もありました。

そんななか、即効性があり、自衛で頑張ろうだけの対策ではない、すてきなツールが登場したので注目しています。

それは、痴漢被害や盗撮行為、嫌がらせなどがあった場所が分かるアプリ(ウェブ上でも動作します)「Rader-z(旧名称は痴漢レーダー)」です。

写真を拡大 https://chikan.radar-z.com/

このアプリを使うと、被害に遭った人や被害を見た人がマッピングを通じて被害データを収集できます。

こちらは、Rader-zアプリで収集した2020年1月の被害状況。新型コロナウイルスの影響を受ける前は、1時間に数件被害が発生する状況で首都圏情報が多かったです。

3月に確認した際は、首都圏情報よりも関西の情報が目につきました。

緊急事態宣言中(解除は2020年5月25日)は、5月10日の報告は1件、11日は3件のみと、1月とは報告件数が格段に減っていました。新型コロナウイルス期には、痴漢や迷惑行為の加害者も自分の身を守るために自粛していたということでしょうか? データになっていることで、今後いろいろと解析できる貴重な資料になっています。

傍観者にさせない

残念ながら「CHIKAN」は世界で通じる日本語です。そして、実際に被害届を出すのは1割に過ぎないといわれています。泣き寝入りが9割なのです。

このアプリを開発したRadarLab株式会社のチーフプロダクトオフィサー片山玲文さんが、大学生に聞いた話が印象的でした。痴漢の被害に遭ってもなぜ泣き寝入りしているか聞いたところ、「学校に遅刻するから」という答えがあったそうです。どんなに不快な思いをしても、遅刻しないことを優先せざるを得ない現状に、「黙っていたら問題は改善しない」「次の世代にこのような問題を残してはいけない」「痴漢っていうのが昔はあったらしいよと言える、そんな世界を作りたい」との思いから、このアプリは開発されました。

お話を聞いていて、共感しまくりの取材でした。

さらに、このアプリがすごいなと私が思うのは、被害に遭った人だけが報告するシステムではないことです。「被害を見た」人がポチッと報告できる項目があります。周りにいる男性を含めて全ての人が、痴漢を許さないという行動を気軽に示せるのです。

また、被害を「レポート」すると偽電話がかかってきます。車内で電話をしている様子は目立つので加害者が去っていくなど空気を変えることができるかもしれません。さらに被害のレポートと同時に30メートル至近の(概ね一車両くらい)アプリを導入している人に、近距離通信の技術を使って、通知が発せられます。通知を受けた人は、あたりをキョロキョロ見回したりしますよね。それによって見守り効果もありま す。 偽電話を受信してる人に「気分が悪いですか?」と声をかけたり、少し大きな音で咳払いするなどそれぞれの方法で、被害者を救うための行動がとれると良いですね。

これこそが、内閣府の「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」がいう「性暴力はあってはならないものであり、悪いのは加害者であるという社会の意識の醸成」に役立ち、「傍観者にさせない取り組み」となるツールだと思うのです。

東日本大震災では

●避難所で夜になると男の人が毛布に入ってくる。周りの女性も「若いからしかたないね」と見て見ぬふりをして助けてくれない (20代女性)

という被害事例がありました。傍観者が加害者の加害を助長しています。傍観者にさせない、ならない取り組みは、いますぐ多くの人が実行すべき性暴力対策ではないかと思います。

写真を拡大 内閣府 男女共同参画局 性犯罪・性暴力対策の強化の方針(令和2年6月11日決定)概要より引用。加害者・被害者にさせないというだけでなく、傍観者にさせないための取り組みについても記載されている http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/pdf/policy_03.pdf

このアプリは電車内だけで使うものではありません。私は避難所(避難場所)でこそ使ってほしいと思うのです。

最新の内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点 男女共同参画視点からの防災・復興ガイドライン」の避難所チェックリストにも「暴力を許さない環境整備がなされている」という項目に、啓発ポスターの提示というものがあります。

避難所(避難場所)にぜひ、大きく「痴漢・性暴力対策アプリ導入中」ということと、「通報があれば、アプリを入れているすべての人に注意メッセージが発信されます」と事前に掲示しておいてほしいと思います。そして、避難してきた人にはアプリの活用を促していただければと思います。(注 今後、避難所(避難場所)でのWi-Fi環境の維持は重要になってくると思います)

避難所(避難場所)でこのアプリが使われていると、誰でも通報でき、傍観者とならない雰囲気になりますので、性暴力が起こりにくくなる効果を期待します。万が一、被害があっても、被害ランキングに上がってきて可視化されます。そうすると、警察などの巡回にもつながりやすくなります。

ということで、Twitterのコメントに「子どもがいたら避難所(避難場所)に行かない方がいい」というのがあった件ですが、避難所(避難場所)に行かなくて済む安全な場所にいるのであれば、もちろんそうしてください。

でも、どんなに自宅や職場を安全にしても、地震の後に地域で火災が起こった場合など、安全な場所に避難せざるを得ない場面も出てきます。避難所(避難場所)で性暴力が起こらない取り組みをすることは必ず必要なことなのです。

現在、新型コロナウイルス感染症対策と避難所ということに注目が集まっていますが、同時に、内閣府が出した性暴力対策や防災・復興ガイドライン、そして実効性の高いアプリを活用して性暴力のない避難所対策も検討していただければと思っています。

痴漢? 避難所の性暴力? なにそれ。昔そんなひどいことがあったの? そう言える社会を目指したいです。避難所で起こった事例は、残念ながら日常でも起こっていることの延長です。2次被害が起こらない、そして実効性のある性暴力対策にみなさまと日常から取り組んでいきたいです。