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リスク対策.comをご覧の皆さん、こんにちは! 元刑事の榎本澄雄です。

『元刑事も夢中になる防災訓練のゲーミフィケーション』へ、ようこそ。この連載では「モチベーションが上がりづらく、成果が見えづらい」防災訓練を「夢中になって参加し、行動が変化する」防災訓練へゲーム化するプロセスを解説します。

前回は、ゲームシナリオについてお話ししました。

【前回の振り返り】
□ ゲームシナリオとは、防災訓練に夢中になる「冒険の地図」
□ ゲームシナリオのメリットは、参加者に「影響力の行使」ができること
□ 簡単なゲームシナリオの創り方は、「最大の試練」を一つだけ、用意すること

※詳しくは、「第4回 ゲームシナリオを創りましょう!」をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/33062

いよいよ、最終回です。

【最初の問い】
有事即応人材が育成できる「卒業式」六つのステップとは?

「有事即応人材って、どんな人?」
「卒業式って、厳粛な式典が必要なの?」
「訓練の準備だけでも大変なんだけど、六つもやらなきゃいけないの?」

ご意見、ありがとうございます! この卒業式が「最後の仕上げ」となりますので、どうぞ忘れずにお読みください。

有事即応人材とは、「有事に頼りになる人材」です。皆さんの会社では、防災訓練を通じて、企業リスクやクライシス、災害発生など「有事に頼りになる人材」が育っているでしょうか? この記事を読むと、あなたは有事即応人材が育成できる「最後の儀式」を知ることができます。

宝を持って帰還

最終回ですから、ゴールをイメージしてみましょう。あなたが無事に防災訓練を終えたと想像してみてください。

……あなたは無事、防災訓練を実施できました……
……会場には、堂々とした行進曲が流れています……
……参加者の皆さんは、誇らしげな表情で会場に集っています……
……あなた自身も準備から修了まで、たくさんご苦労されてきました……
……参加者は、一人ずつ今後の抱負を語り、声援や拍手でお互いを讃え合っています……
……あなたは訓練担当者として、参加者に一人ずつ労いの言葉を掛け、修了証を手渡しています……

振り返りの効果

人が何かを体験・学習する過程では、最初と最後が印象に残り、真ん中は忘れやすいといわれています。これを、「初頭効果」「親近効果」と呼ぶそうです。
そこで、今までの連載を振り返って、私たちが防災訓練をゲーム化してきたプロセスを思い出してみましょう。

第1回 アイスブレイクから始めましょう!

防災訓練で必要と思うものは何ですか?

□ アイスブレイクは、氷のように強張った心や身体の「殻」を砕いて、緊張をほぐすイントロ
□ アイスブレイクのメリットは、参加者の嫌悪感を和らげて「自発的な参加」を促すこと
□ 簡単なアイスブレイクは、ネームキャッチボール(名前を呼んで、柔らかいボールを回す)、Good & New(24時間以内に起こった「良かったこと」や「新しかったこと」を一人ずつ話して、拍手)、ペリフェラル(音楽、空調、香り、映像などリラックスできる環境を事前に作る)など

アイスブレイクは、「やりたくないのに、やらされている感覚」「聞きたくない」「参加したくない」「行動したくない」という嫌悪感を和らげて、参加者の「自発的な参加」を促すことが可能です。とても簡単ですので、今すぐ、訓練のスタートに導入してみてください。

※詳しくは、「第1回 アイスブレイクから始めましょう!」をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/24674

第2回 訓練前にヒアリングしましょう!

あなたの「協力者」は誰ですか?

□ ヒアリングとは、相手の「困りごと」を聞き出して、感情を理解すること
□ ヒアリングのメリットは、防災訓練や災害時の「協力者」を探し出せること
□ 簡単なヒアリングは、3人ぐらいにどんな防災訓練が望ましいか「生の声」を聞き出すこと

訓練前のヒアリングは、防災訓練や災害時の「協力者」を探し出すのに有効です。非常時の「協力者」は、日常の仕事でもきっと心強い「パートナー」になってくれます。今すぐ、話しかけてみましょう。

※詳しくは、「第2回 訓練前にヒアリングしましょう!」をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/26782

第3回 グラウンドルールを作りましょう!

信頼の土台、ありますか?

□ グラウンドルールとは、参加者の生理的安全と心理的安全を確保する「信頼の土台」
□ グラウンドルールのメリットは、全員参加の場所を作り出せること
□ 簡単にグラウンドルールを作るには、「どんなグラウンドルールがあれば、私たちが安心して訓練できるか?」を3分くらい話し合ってもらう

防災訓練のグラウンドルールは、参加者の生理的安全と心理的安全を確保する「信頼の土台」です。全員参加の場所を作り出すのにとても有効なので、今すぐ、紙とペンを用意して、あなたのアイデアを書き出してみましょう。

※詳しくは、「第3回 グラウンドルールを作りましょう!」をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/30275

第4回 ゲームシナリオを創りましょう!

日常をひっくり返す方法は?

□ ゲームシナリオとは、防災訓練に夢中になる「冒険の地図」
□ ゲームシナリオのメリットは、参加者に「影響力の行使」ができること
□ 簡単なゲームシナリオの創り方は、「最大の試練」を一つだけ、用意すること

ゲームシナリオは、参加者が日常の世界から旅立ち、異世界の試練を乗り越え、再び日常の世界へ帰還する「冒険の地図」です。「行動の変化」を促すのにとても有効ですので、今すぐ紙とペンを用意して、「最大の試練」を書き出してみましょう。

※詳しくは、「第4回 ゲームシナリオを創りましょう!」をご覧ください。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/33062

ガントレットウォークとはどんな卒業式なのか?

振り返ってみていかがでしたか? 連載を通じて、あなたにはどのような「変化」が起きたでしょうか?

このように訓練の最後に「振り返りの時間」を持つことはとても大切です。そして最終回では、有事即応人材を育成するための「ガントレットウォーク」をお教えします。ガントレットとは、甲冑の籠手。ガントレットウォークとは、最後の通過儀礼として「訓練参加者を祝福する卒業式」です。

ステップは六つあります。

1. 参加者は、2列に並びます
2. 音楽を流します(“Pomp and Circumstance(威風堂々)”など)
3. 先頭に並んでいる人が中央に進み出て、訓練を振り返り、抱負を話します
4. 振り返りと抱負を話し終わった人は、2列の間を通って最後尾に並びます
5. 列を通る間、他の参加者は歓声を上げたり、拍手をしたり、背中を軽く叩いて激励します
6. 訓練担当者は列の最後尾で待ち受けて、到達した参加者に労いの言葉を掛けて、修了証を渡します

なぜ、ガントレットウォークが必要なのか?

皆さんが仕事でプロジェクトが終わった時、ひと段落した時、皆さんも打ち上げ、懇親会、お祝いなど「労い」の席を設けるのではないでしょうか。

ガントレットウォークが必要な理由は三つあります。

1. ゴールに到達したことを明確化できるから
2. 参加者にスポットライトを当てて、変化を後押しできるから
3. 訓練に参加してくれたことを感謝し、また集う時のために労う場となるから

一つずつ説明します。

1. ゴールに到達したことを明確化できるから
ゲームには、ゴールがあります。前回の記事でも、「ゲーム固有の四つの特徴」をご紹介しましたね。防災訓練という「非日常」を体験した皆さんは、神経が昂って興奮状態にあります。

ここで「日常へ帰還」して、興奮を沈静化させる必要があります。ご自宅へ帰られた後に、リラックスして、ゆっくりとお休みいただきたいのです。「あなたは無事、ゴールへ到達しました!」と明確化してあげると、参加者も安心して日常へ戻れるでしょう。

また訓練担当者のメリットは、最後の成功イメージとして、ガントレットウォーク(卒業式)をしているゴールイメージを訓練前に明確化することで、防災訓練を準備する推進力が生まれることです。

2. 参加者にスポットライトを当てて、変化を後押しできるから
祝い事にはパワーがあります。「変化を後押し」するための突破力があります。それは、火山が爆発するかのような「お祭り」のエネルギーです。

ヒーローズジャーニー(英雄の旅)という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 参加者の皆さんは、防災訓練という冒険(ゲーム)を成し遂げた「英雄」です。参加者にスポットライトを当てて、その成功を祝うことで、それぞれが、真のヒーロー、ヒロイン(有事即応人材)へと変身を遂げるのです。

3. 訓練に参加してくれたことを感謝し、また集う時のために労う場となるから
今、リモートワークの影響で、会社や組織のリアルな人間関係がますます希薄になっています。
一人の力は限られているので、災害時だけでなく、平時でも仲間とともにチームでプロジェクトを推進していく必要があります。そこで大切にしたい価値観が、パートナーシップです。

防災訓練に参加してくれた仲間に感謝し、労いの気持ちを表現することで、再び「冒険に出発する」ときに仲間を募集しやすくなります。あなたの協力者を獲得できるのです。

もしも労いがなかった場合、次回の参加協力は困難かもしれませんので、くれぐれも忘れないようにしましょう。

ガントレットウォークとは「行動の変化」

連載では、「人質立てこもり事件の説得交渉術」もご紹介してきました。最終回で紹介する第五関門は、「行動の変化」です。

前回の第四関門「影響力の行使」は、相手に自分の存在を強調したり、注意を引きつけたり、抑制したり、実質的な説得交渉をしました。このシーンは、緊迫した「クライシス」でした。

それに対して、第五関門「行動の変化」は「クライマックス」です。相手の怒り、恐怖、プライドなど負の感情をケアして、恨み・つらみを浄化して、「人質の無事解放」「犯人の投降」へと「行動の変化」が起こる最後の仕上げとなります。

刑事とガントレットウォーク

私が刑事をやっていた頃の話です。捜査本部や事件解決の打ち上げ(けじめ)、宿直事件のお清め、同僚の栄転祝いなど、祝いや労いの席は頻繁にありました。

中でも記憶に残っているのは、関東管区警察学校・警部補任用科の卒業式です。刑事課程だった私たちは、団結を深めるために同期や教官と頻繁に飲み会を開いていました。

卒業式では、最後のクライマックスで学級ごとに校内を行進するパフォーマンスがありました。2カ月間ご指導いただいた刑事教官室からの歓声、声援は、他のどの部門の教官たちよりもひときわ大きく、当時の私も大変感動して、署に出たら捜査係長として「絶対にいい事件をやろう! 刑事教官たちの期待に応えよう!」と決意を新たにしたのでした。

【最後の問い】

□ あなたがこの連載から学んだこと、気付いたこと、あなたに起きた変化は何ですか?
□ 新たに生まれた疑問や不安はありますか? それを解消するために、どんな行動に挑戦しますか?
□ 学び、気付き、あなたに起きた変化を生かすために、24時間以内にできそうな「小さな一歩」は何ですか?

【簡単なガントレットウォークのやり方】

□ 参加者が2列に並ぶ
□ 音楽(行進曲など)を流して、先頭の人が振り返りと抱負を話す
□ 参加者は歓声が起こる列の間を通って最後尾に並び、訓練担当者が修了証を授与する

【今回のまとめ】

ガントレットウォークは、有事即応人材を育成するための「最後の儀式」です。防災訓練修了後、「行動の変化」を後押しするのにとても有効ですので、今すぐ、インターネットで行進曲を探してみましょう。

防災訓練担当の皆さまへ

5回の連載を通じて、あなたとお話しできたことを本当に光栄に思います。ぜひ、御社の防災訓練をゲーム化して、参加者を夢中にしてあげてください。あなたからのご意見・ご感想、お待ちしております。

……防災訓練担当のあなたへ、敬礼!

防災訓練のゲーミフィケーションに役立つ12の参考文献・URL

1. 『幸せな未来は「ゲーム」が創る』ジェイン・マクゴニガル=著(早川書房)
2. 『ゲームシナリオ創作指南』川邊一外=著(新紀元社)
3. 『神話の法則』クリストファー・ボグラー=著(ストーリーアーツ&サイエンス研究所)
4. 『英雄の旅』キャロル・S・ピアソン=著(実務教育出版)
5. 『マーケティング・ジャーニー』神田昌典=著(日本経済新聞出版)
6. 『エブリデイ・ジーニアス』ピーター・クライン=著(フォレスト出版)
7. 『アイスブレイク入門』今村光章=著(解放出版社)
8. 『逆転交渉術』クリス・ヴォス+タール・ラズ=著(早川書房)
9. 『シリコンバレーの交渉術』オーレン・クラフ=著(ダイレクト出版)
10. 『元刑事が見た発達障害』榎本澄雄=著(花風社)
11. NPO法人 学修デザイナー協会 https://learning-designer.org
12. 一般社団法人 リードフォーアクション https://www.read4action.com