子どもの目線で日常的に対話

株式会社シーエーシー シニアコンサルタント
川村丹美

 

災害時に家族の安否がわからないことがいかに不安を呼び起こすか、東日本大震災が発生したときに痛感した方は少なくないはずだ。家族全員が一緒にいるときに大規模災害が発生するとは限らない。平日の時間の大半は職場や学校などで過ごしていると想定すると、自分が家族と一緒にいない可能性のほうがはるかに高い。「そのときに」どうやって家族の安全を確認するのか、その方法がない場合は実際に自分の目で確かめるまで安心できないというのは、当然の心理だ。

 

家族と話し合い、決めておくこと 
災害が発生した際に取るべき行動については、日ごろから家族間で十分に話し合い認識を合わせておく必要がある。子どもに対して話す場合は、必要以上に脅かすと子どもだけで対処することが恐怖心につながるため、具体的な場面を想定しながら「もしもこうだったら、こうしなさい」「なぜかというとね」というように理由も添え、事象のみについて冷静に教えるようにするとよい。 

きちんと理解できれば、小学校の低学年程度の年齢であっても子どもだけで的確に対応できる。また、家族の一員として子どもを信頼する態度を示すと本人が自覚を持って対応するようになるため、子どもに任せる気持ちを親が持つことが必要である。話し合う際には子どもの意見も尊重し、子どもが自分の力で対応する意欲を育てることを意識する。家族全員で一緒に考え、それぞれの家族なりの対応方法を決めることが大切なのである。

いずれの対応も事前に実際に一緒に体験し、いざというときに家族が迷わず行動できるように馴れさせておくことが重要である。体験する際には小学生などに対しては「ごっこ遊び」なども取り入れるとよい。また、一度だけではなく、日常的に話題にするなど、日ごろから何度か繰り返して教えることが効果的だ。 

日常的に家族で確認しておいた方がいいポイントを以下にまとめた。

①災害発生時に必要な心構えと行動 
下記のように様々な状況を想定して具体的な対処方法や行動様式について認識を合わせておく。
・落下物を避け、などで頭を保護しながら安全な場所に移動する
・揺れが収まるまで窓の近くや倒れそうな家具の近くには行かない
・自宅に子どもだけでいる場合にガスの匂いがしたら(子どもにはあらかじめガスの匂いをかがせて教えておく)大、声で近隣の大人に知らせる
・室内の食器などが割れたらスリッパを履く
・テレビやラジオをつけて災害情報を確認し、津波の発生などが報道されたら高い場所に逃げる
・窓をあけて、地域の防災無線を聞く
・携帯電話などを持っている場合は手元に置いておく

②家族との連絡手段 
地震発生後、数分しか電話で連絡するチャンスはない。電話またはメールなどでできるだけ早く家族間の安否を連絡しあう。電話が通じない場合は複数ある手段を順番に試す。
・携帯電話や自宅電話
・会社の固定電話
・携帯電話からのショートメール
・携帯電話からのEメール
・LINEやSNS
・会社PCから家族の携帯や自宅PCへのメール送信
・フリーメールからのメール送信(PC/携帯経由でWebにアクセスする)
・周辺の公衆電話(停電時も公衆電話本体が内蔵するバッテリーが続く限り通話できる)
・コンビニが災害時に用意する災害時優先電話

③安否確認の方法


家族間で前項の手段で連絡が取れなかった場合に備えて、下記のような安否確認手段を共有する。これらのツールは定期的(毎月1日など)に訓練ができるよう開放しているものもあるので、事前に実際に家族間で試しておく。連絡が取れない場合はどうするのかも決めておく。


・会社が準備する従業員の安否確認ツールに付属する家族との安否確認機能


・NTTが提供する災害時伝言サービス(171)→暗証番号は自宅の電話番号を使うため、子どもに自宅の番号を覚えさせておく


・携帯キャリア(プロバイダ)が提供する安否確認ツール


・Googleなどが提供する安否確認ツール

④避難場所や手順の共有 
どのような場合に避難場所に移動するのか、その際の家族間の連絡はどのように行なうのかを決めておく。家族がバラバラになってしまった場合を想定し、避難予定場所は複数決めておき、一次避難所など最初に向かう場所や優先順位を申し合わせておく。避難所となる公園や公共施設は通称で呼ばれることも多く、家族間で同じ場所を指しているつもりで、それぞれ違う場所を想起していることも多いため、決めた場所には必ず実際に一緒に足を運んでお互いに認識を合わせておく。 

また、そこで会えなかった場合は、どうやってメッセージを残し、次はいつどこで会うのかなどを決めておく。

⑤身の安全を確保するための防御策 
災害が発生した際にどのようにして自分の身を守るのかを、起きる事象を想定しながら話し合い、いざというときにそれぞれが自力で自分の身を守れるよう準備しておく。 

停電時の対応は「停電ごっこ」で休日の夜、家中の電気を消して、暗い中での対応を習得させるとよい。「電気が使えないときってどんなことが困るかな?」「懐中電灯をどこにしまってあるか、知ってる?」「本当にやってみようか」などと導入してゲーム感覚で教える。 

特にロウソクやマッチなど火の扱いはこの機会に徹底させる。家庭に仏壇があるとそこにロウソクがあることを子どもも知っているが、ろうそくが倒れると危険であることを教え、小学生などには子どもだけで使わないよう徹底させる。マッチも同様に子どもだけのときにはできるだけ使わせないように教え、最悪の場合は台所用の着火器具を使わせる。最近は災害時用に長時間連続して点灯しておける持ち運び照明器具もよいものが出ているので、この機会に調達し、火災など二次災害のリスクを減らすようにしたい。 

子どもだけで食事をする際はできれば電子レンジを使うなど、火力を必要としない調理方法がベストだ。お湯が調達できればカップ麺を自分で作れるように教えておく。子どもが小さく、3分を計れない場合は、3分程度かかる歌を決め、その歌を歌い終わるまで待つよう教える。

⑥トラブルが起きた場合のリカバリー策
災害時には思わぬトラブルが発生することがある。このような場合にどう対応するか家族間で話し合い、いざというときに冷静に対応できるよう準備しておく。
・携帯電話をなくした場合の対応
・携帯電話の電源が切れた場合の対応
・親の携帯電話の番号は暗記させる
・遠くに住む親戚を伝言版代わりに活用する

⑦その他の留意点
家族の常用薬、持病、治療中の病気、アレルギー等の確認 
家族の健康状態や薬、アレルギーの情報は常に携帯できるよう、名刺大のカードにメモ書きしたものを準備する。定期入れなどにテレホンカードなどと一緒に入れておくとよい。また、常用薬、持病、治療中の病気、アレルギーなどの情報は家族間で共有しておくことが望ましい。

 

BCPに不可欠な家族の安全確保


東日本大震災発生直後、首都圏では交通機関がことごとく停止している中、たくさんの人が徒歩で自宅を目指した。多くの職場で、地震がおさまって従業員の安否確認を行った後、帰れる者は帰宅してもよいという通知を社内に出したことだろう。 

災害時の帰宅可否の判断基準については、個人(従業員)の基準と会社(職場)の基準とは必ずしも一致するとは限らない。従業員個人が自分は帰宅しなくてもよいと考える基準は、「家族が無事で安全な場所にいることがわかっている」「自分が帰宅しなくても家族の安全が保障されている」という点であり、この確信があるから自分は帰宅せず現在いる場所にとどまってもよいのだと、冷静に判断できることが必要なのである。 

このため被災時にお互いの安否を知るための連絡方法や、連絡がつかなくても避難先で落ち会えるための移動ルールを作り、日ごろから徹底しておく必要がある。また、特に子どもが危険な目に合わないよう、子どもが自分自身で安全を管理できるような指導をしておくことが重要である。家族の安全が確保できなくては業務につくことなど到底できない。BCPの成功には、従業員の家族の安全確保、安否情報の確保が必須である。 

一方、組織としての災害対応の視点では、まず「従業員が安全に帰宅できるかどうか」がポイントとなる。交通機関の復旧など、帰宅する手段が確保できているか、万が一徒歩帰宅することになったら日没までに帰宅できるか、などがチェックポイントとなり、その条件を満たさない者は極力職場にとどまらせることとなる。 

さらに、BCPの観点から言えば「帰宅できる従業員とできない従業員」ではなく、「帰宅させてもよい従業員と帰宅させてはいけない従業員」がいることを、改めて提言したい。BCPの判断基準は災害対応で求められる視点とは少し異なることを意識する必要がある。具体的には「その従業員を帰宅させることで、業務継続に支障がでないかどうか」が確認すべきポイントとなる。 

仮に、一時的に帰宅をさせることが事業継続上、特に問題がないと判断しても、翌日はどうか。交通機関は確実に復旧しているだろうか。交通機関が復旧していなかったら、その従業員は帰宅したときと同じ距離を再び歩いて出社するだろうか。その従業員が出社できないことで自社の重要な業務は影響を受けることはないだろうか。
東日本大震災は金曜日の午後に発生したため、翌日の業務について心配する必要がなかった企業は多かったかもしれない。では、翌日が営業日である場合はどうか。機能を止めるわけにはいかない業務に従事している従業員については、翌日の営業時間に間に合うように出社できるという確証が得られないかぎり、帰宅させるべきではないケースも発生するのではないか。  

このように、個人と会社の帰宅判断の基準が違うとしても、実際には双方が納得できる合意点を見いだせなければ、家族の生活継続も会社の事業継続も達成することはできない。組織が事業継続力を高めるためには、従業員個人の家族が災害時に心配なく生活が継続できるよう安否確認手段の確保を含めたファミリーBCPを築くべきであろう。