既存街並みの高効率化と事業継続性強化

清水建設株式会社

 

地域内にある複数の企業が連携して、BCPに取り組むことで他の地域との差別化を図る取り組みが東京都京橋地区で始まっている。清水建設が中心となり、事業継続マネジメントシステムの国際規格であるISO22301を活用して被災時における生活水の供給など地域の安全性を確保するとともに、エネルギーマネジメントシステムのISO50001を使って地域全体のエネルギー効率を高め環境と防災の両立を目指す。

 

東京都中央区京橋地区。江戸時代には日本橋と並び商いの町として栄え、東海道を日本橋から上方へ上る際の最初の橋として重要な意味を持っていた地域だ。銀座に近く歴史を感じる町並みは戦後の文化人たちに愛され、現在でも小さなアートギャラリーや骨董屋が立ち並ぶ地域である。「京橋地区は、近くに日本橋、銀座、八重洲といった日本有数のブランド地域があり、それらの地域に負けないためにも地域全体でBCP性能や環境性能を上げていくことで、地域全体の競争力を強化したい」と語るのは清水建設ecoBCP事業推進室の那須原和良室長。清水建設本社がある中央区京橋1・2丁目界隈も、多くの既存街区と同様、築年数が古いビルや中小規模の施設が多い地域で、それらが単体でそれぞれ防災力や環境性能を高めるのは現実的にコストや施設の面で難しい。しかし那須原氏は「例えば地域で役割を分担し片方のビルは水を、もう片方は食料をそれぞれ備蓄しあうなど“共助関係”を築ければ、防災力は向上するはず」と話す。その実現のために発足したのが清水建設をリーダーに、地域の熱供給を行う東京都市サービス、建物の保守管理会社のシミズ・ビルライフケアの3社で構成する「京橋スマートコミュニティ協議会(以下、協議会)」だ。3社は13年6月、経済産業省の公募事業である「事業継続等の新たなマネジメントシステム規格とその活用などによる事業競争力強化モデル事業(グループ単位による事業競争力強化モデル事業)に京橋1・2丁目地域を対象にした「既存都市域での段階的な地域連携における高効率化並びに事業継続性強化計画」を提案し、採択された。

 

3段階の目標設定


協議会では環境と防災を両立した新たな街づくりを推進するために、まず3つのフェーズを想定したロードマップを作成した(図1参照)。現在のフェーズ1は地域熱供給事業が行われている地域が中心だが、将来的にフェーズ3では協議会参加連携・企業を増やすなどして京橋1・2丁目すべてをカバーする考えだ。 地域熱供給事業とは、熱供給プラントから地域導管を通して複数のオフィスビルやホテルなどの建物に冷水・温水(蒸気)を供給することで、設備の効率化を図り供給エリア全体の空調エネルギーを削減するシステムだ。一つひとつのビルでボイラーなどの熱源を利用して館内空調を調整する従来の「個別熱源方式」よりもイニシャルコストやメンテナンスコストを抑えられるメリットがあるが、地域ぐるみで初期設備を整えなければいけないため、比較的大規模な都市開発に向いている。現在では晴海アイランド地区や幕張新都心ビジネス地区などでも導入されている。 

協議会は昨年11月に、事業継続マネジメントシステムの国際規格であるISO22301の認証を地域単位としては国内で初めて取得した。地域連携という多岐にわたる事業形態を巻き込んだ取り組みをスピーディにこなしていくにはISOの手法を利用するのが合理的であることと、将来的には地域に国際競争力をつけるのが狙いだ。週に1度、3社の担当者が顔を合わせ、2時間徹底的に議論を重ね、PDCAを回す体制を作り上げた。協議会には今後、京橋地域に本社がある企業や賃貸ビルを手掛ける企業が参加に前向きの姿勢であるという。 

BCPは、組織にとって最も継続すべき重要な事業を絞り込み、不測の事態に対してもそれを達成できるように事前計画を定めるものだが、地域単位であっても基本的に考え方は同じ。近隣への説明時にヒアリングした協議会への期待や要望をまとめ、利害関係者分析を展開したところ、被災時に一番必要になってくるのは水だった。「もちろん飲料水も大事ですが、これはコンビニや備蓄でなんとかなります。一番足りないのはトイレなどの生活用水という結論になりました」(那須原氏)。そのため、まず熱供給で使用する蓄熱槽に貯められた4000トンの水を近隣施設のトイレなどの生活用水として12時間以内に提供することを決めた。そのほか周辺にある帰宅困難者の一時待機施設に対する12時間以内の熱の供給と、清水建設本社一階などでの帰宅困難者や地域住民を対象とした災害情報に関する2時間以内の情報提供も可能にした。清水建設本社ビルは2000人の帰宅困難者や地域住民を中央区と連携して収容できる設計になっており、地下鉄の駅とも直結しているため震災時に駅に滞留する帰宅困難者の誘導がしやすいためだ。 

こうした活動について昨年10月に、協議会で大規模なシミュレーション演習を行ったところ、数々の問題点が浮き彫りになった。

例えば緊急生活用水を提供するためには地下3階から18リットル入りのポリタンクを人力で運ばなければならない。停電でエレベーターが使用停止になったことを想定しているので階段を使用するため、若手男子社員でも1、2回往復するのが精一杯だったという。停電時でも使用できるような設備の設置が今後の課題として浮上した。熱供給についても、作業員が停電中に高所でバルブ操作をしなければいけないが、1人では非常に困難な作業であることが分かった。他にも熱供給プラントの作業においては地下3階の常駐拠点においては携帯が圏外だった…など、洗い出してみたところ、45も改善点が見つかったという。「紙の計画だけでなく、実際に訓練してみることがいかに大切か分かりました」(那須原氏)。これらの改善点に関しては随時改善していくとともに、今後はその他の会社とも協働した防災訓練を実施していきたい考えだ。

 

エネルギーの見える化 
協議会では、エネルギーマネジメント規格の国際標準であるISO50001の認証も2月に国内で初めて地域として取得した。現在同じ熱源供給を受容している企業同士にとっては、「エネルギーの見える化」が今後は必須条件となる。3社のエネルギーパフォーマンスを分析したところ、地域で使っているエネルギーの69%が電気であることが分かった。協議会では2020年までに協議会会員が所有、または使用するすべての建物の年間1次エネルギー使用量(MJ/㎡)をベンチマーク比30%削減することを目標にしている。京橋地区の企業には、本社機能としてのビル所有者、テナントビルのオーナー、テナント、地域熱供給会社など様々な業態が存在するが、今後はそれぞれの立場で高効率化のノウハウを取得し、行動計画実績表による省エネルギー活動を確認していくとともに、地域熱供給の還り冷水の再利用など協議会会員同士が協働した省エネルギー対策を実施していきたいという。

 

行政の理解と今後の課題 
地域全体で防災・環境に取り組んでいくためには行政への働きかけも重要だ。現在、公営の公園や駐車場に防災用品などの備蓄を配備する活動が進められているが、例えば同時に分散型エネルギーシステム(コジェネレーションシステムなど)を公共空間に整備すれば、エネルギーの供給源がさらに分散化され、高効率化が可能になる。エネルギーを分散することにより既存ビルでも停電時の非常用電源として活用することもできる。最終的には現在の熱源を共有しているフェーズ1の対象地域はもとより、既存ビルや公共施設の様々なエネルギーと物資に対して、あたかも1つの組織体のように情報をクラウドで吸出し、「ecoBCPクラウド(CEMS)」として見える化していきたいという(図2)。 

協議会の今後の一番の課題は、参加企業を増やすことだ。京橋地区はもちろんだが、他の都市への水平展開も視野に入れる。そのためにはホームページでの情報発信や、地域イベントなどでのPR活動が重要になってくる。地域のブランド力向上はもちろんだが、一番伝えたい情報は協議会への参加がさまざまな事業に直結するメリットになる可能性がある点だ。省エネによる経費削減はもちろんだが、建て替え時の容積率の割増や規制緩和などの効果も期待できる。清水建設本社ビルでは駅の改札をビルの地下に造ることや災害時に2000人の帰宅困難者受け入れ態勢を整えることで容積率が割増されているという。同じように、ビルオーナーも新しくビルを建てる際には協議会と連携し高効率化や災害対策の地域貢献、環境貢献をすることで、少ないコストで容積率割増や規制緩和などの直結のメリットを受けられる可能性がある。事業継続マネジメントやエネルギーマネジメントの効果はもともと目に見えにくいものだが、こらからも地域のさまざまなステークホルダーとの対話を強化していくとともに、世界に向けてアピールしていきたい考えだ。