成熟した日本の諸課題を産業創出に

工学博士、プラチナ構想ネットワーク会長、三菱総合研究所理事長、元東京大学総長(第28代)
小宮山宏氏

 

人類史の転換期にいる現代人
いま、人類は大きな節目の只中にいると思います。したがって、東北の復興というのは、ただ復旧する=昔に戻すだけでは不十分で、新しいもの、価値ある社会を創造することが必要ではないかと思います。 

世界の1人当たりGDPの推移を見ると、1000年前には国家間でほとんど差が無く、皆、等しく食うや食わずの時代でした。それがどこで変わったかというと産業革命によってです。今は世界の200人のうち1人が農業をやれば、人が食べる穀物ぐらいは作れるようになりました。   

その高い生産性をいち早く手にしたのが、英国をはじめ、日本を含めた先進国です。それ以外は植民地になってしまいました。それが20世紀の終わりからのこの20年で、途上国が先進国に急激に接近してきています。

貧しかった途上国が工業化を果たし豊かさを獲得していくことで、再び世界は、かつてよりも非常に高い水準で、均質化の時代に向かっています。このことをよく考えないと、今後、何を目指すべきかが分からなくなってしまうと思います。


充足したモノ経済とその飽和
いま、先進国を中心に産業革命の飽和が起こっています。これは、人工物が飽和していくという現象で読み取れます。例えば、日本における人工物の飽和のさきがけは住宅です。既存ストック5800万件のうち800万件が空き家になっているのです。また、日本をはじめ、主要先進国では、車は2人に1台という保有率です。つまり、そこまで持つと、飽和するということです。国内の自動車台数は5800万台。日本の車の平均更新年数は12年なので、国内の年間自動車内需は480万台となります。この数は増えません。以上のように、先進国は、人工物が飽和することで需要の不足に苦しんでいるわけです。 

もう一つは“寿命”という視点です。1000年以上前の人類の平均寿命は24~25歳で、今から見れば非常に短命でした。そうした短命な時代が長期にわたり、ようやく20世紀の初めに31歳になります。そして3年前の世界の平均寿命は70歳にまで達しました。つまり、この100年ほどで40歳も平均寿命が延び、急激に人類が長寿化しているのです。ところで、かつての短命な時代であっても、徳川家康は75歳、ジュリアス・シーザーは56歳、聖徳太子は48歳と、私たちが知っている有名人は平均よりもかなり長生きです。しかし、それはごく一部の豊かな人であったということです。 

一方で、世界の平均寿命が70歳にまで達したということは、世界の9割の人が食べられるようになった、一般市民が衣食住等の物量的な豊かさをかなりのレベルで手にできるようになったことを意味しています。途上国もすぐそれを追いかけてくる。アフリカの中央部や北朝鮮などがどうなるかは分かりませんが、21世紀の前半、地球上のマジョリティが物質的な豊かさを享受するのはほとんど確実だと思います。

 

自然の再構築と一次産業の変革 
まずは、自然の再構築です。半世紀以上前の四日市は、現在の北京のようでした。北九州、川崎もそうですし、多くの川や海が汚染されましたが、日本は公害問題を解決して、美しい自然を取り戻しました。これは世界に誇るべきことです。これからは、生物多様性や快適性といった視点も踏まえて、自然の再構築を進めていくことが必要です。また、林業の再生が山の再生につながるように、自然の再構築を加速させるためにも、一次産業が大規模に競争力のある産業として変革することが必要なのです。

 

QOLを求めるプラチナ社会へ 
量的に満ちたりた時、次に何を目指すか。それは“質”ではないでしょうか。生活や人生の質を追求するということです。自立、健康、誇りある人生などクオリティ・オブ・ライフ(QOL)と言われるものが、これからの社会の目標になっていく。そうした社会の実現に向けて新しい産業が生まれていく。私は、高いQOLを実現する社会のことを“プラチナ社会”と定義しています。 

アベノミクスなどで、少し経済に明るさが見えていると言いますが、実質的な成長が本当に果たせるでしょうか。現代日本には、経済成長を阻む大きな要因が潜んでいます。その一つが“飽和型の需要”という問題です。自動車産業に代表される製造・輸出産業がそれですが、ASEANと仲良くして外需をとりこもうとか、TPPに加盟しようとか言っておりますが、日本の大手メーカーが海外で稼いでくるだけでは、日本経済を維持することはできません。

創造型需要とプラチナ産業創出 
世界の若年失業率は、例えばギリシャが60%、スペインとイタリアが50%、フランスが40%という状況で、西欧の大国で雇用がきちんとしているのはドイツだけです。やはり、国内の需要を中心にしっかりと雇用創出をしないといけません。そのためには、国内で、飽和型需要ではなく、QOLを高めていく欲求に基づいた創造型需要やそれに対応するための産業を創っていくべきだと考えています。例えば、健康産業とか再生可能エネルギー産業、スマートシティなどです。私はこれらを“プラチナ産業”と呼んでいます。 

私も宮城県のお手伝いをさせていただいておりますが、ただ元に戻す=復旧するだけではなくて、新しいものを創ろうと考えています。125の自治体が集まった「プラチナ構想ネットワーク」はそのために組織したものです。良いまちづくりをしたい。それには、中央や霞が関だけでは無理でしょう。地域には多様性がある。市民が中心になって、どういうものを作りたいという意志とアイデアがあり、そこに産官学と政治がサポートして、新しいものを創っていく。創造型需要を掘り起こすためには、地域起点のイノベーションが不可欠なのです。中央集権の日本と地方分権の流れの中で、道州制というカタチもあると思いますが、地域が実質的に強くなっていくことをやっていかなければ、明るさは見えてこないと思います。そのために地域発でアクションを起こすことに取り組んでおります。 

それでは、創造型需要の具体的内容はどのようなものなのか。地域固有の問題もありますが、ここでは共通する面、プラチナ社会の必要条件という視点から見ていきたいと思います。

 

QOLを高める省エネ住宅 
エネルギーで一番大事なのは、エネルギー効率の向上です。自動車は走るものであって、ガソリンを燃やすためのものではありません。住宅も快適に住まいたいのであって、無駄に暖房したいわけではないでしょう。快適かつ省エネの住まいが本来意図するところです。 

エネルギーの18%は家庭で消費されています。これが上手くするとゼロになります。私が11年前につくった家は、高気密・高断熱の省エネ住宅です。二重ガラスを入れて、断熱をしっかりとやりました。世界で一番エネルギーを消費しているのは、暖房と自動車です。暖房というのは、寒いから熱を入れているとお思いでしょう。部屋の中が暖たかいのに、どうしてどんどん熱を入れても我々はゆだらないのでしょう。それは、熱が外に逃げていく分だけ熱を入れているからです。暖房は、部屋の中を暖めていると思っているのに、実は家の外を暖めているのです。焚き火と同じですよ。断熱を良くすると、暖房費は3分の1に抑えられます。 

私の家は、断熱と気密化などによって、消費エネルギーが58%減って、太陽光発電で電気を23%自給しているので、外部から供給するエネルギーが以前の19%にまで低減しています。ハウスメーカーが現在販売している住宅は、消費エネルギーがゼロになるのが当たり前です。太陽電池で発電するエネルギーと消費エネルギーがトントンで、中には発電量が消費量を上回る住宅もどんどん売り出されています。

 

エネルギー政策は大きな転換期に 
太陽電池は、どんどん価格が下がっています。20年の期間で見ると、太陽電池は決して高くありません。太陽電池は50年もちます。奈良県の壷阪寺というところに31年前に設置された国内初の太陽電池がありますが、いまもピカピカです。何のメンテナンスも無しに、そうした状況なのです。太陽電池、風力、バイオマス、地熱、小水力が各地で導入され、電力需給の過不足の情報をインターネットで制御してやりくりする時代になるのは必定です。この分野で早く世界をリードしたい。 

「2050年にエネルギーの自給国家を目指そう」が私の持論です。なぜ、できるのか。例えば、車の数は一定なのに、毎年、年前の燃費の悪い古い車が燃12費の良い新しい車に更新されていくので、ガソリンの消費量は減っていきます。つまり、自動車や住宅などの人工物が量的に飽和する一方、エネルギー効率の上昇により、全体のエネルギー消費が減るのです。ここが極めて重要な時代感覚です。 

私の試算によると、相当控えめにみても、日本のエネルギー消費量は55%ぐらい縮まる。現行ベースで進んだとしても、再生可能エネルギーは30%ぐらいを占めることは可能なことから、2050年に7割ぐらいの自給率というのは極めて合理的な目標であると私は確信しています。人類史の転換期にあって、日本のエネルギー政策も戦略の転換をしなければいけないタイミングに来ています。

 

鉱物資源はリサイクルで 
鉱物資源の自給は“リサイクル”です。リサイクルは、新規に発掘してくるよりエネルギー消費量がはるかに少ないのです。例えばアルミニウは空気中においておくと、酸化してしまいます。ボーキサイトが原材料ですが、これは酸化アルミニウムです。ここから酸素を切り離すのに電気分解するのですが、リサイクルのスクラップは酸素の付いてないアルミニウムで、これは溶かすともう1回使えます。電気分解のエネルギー消費量は、溶かす場合の83倍です。現実の工場も30倍も大きい。理論的にはリサイクルにより、圧倒的にエネルギー消費が減るわけです。

レアメタルは、自動車も家電もリサイクルされていますが、もっと小さいものもちゃんとやりましょうよ。南アフリカの金鉱山には、1トンの鉱石の中にたった5グラムしか、金が含まれていません。携帯電話を1トン集めると250~300グラム入っていると言われています。南アフリカの鉱山の50倍です。鉱山から掘るよりもリサイクルの方が相当効率的であることが理解できるかと思います。メタルはリサイクルが主流になってくるのが必定です。そうしますと、鉱物資源も70%がリサイクルになります。 後は、食料と木材です。木材は25%しか自給しておらず、75%は輸入です。 

日本は森林破壊の元凶と言われていますが、私もそう思います。日本もきちんと木材を自給する国になるべきです。先端的な林業をやれば、それは実現できます。オーストリアはアルプスという峻険な山々を有していますが、林業は同国で最大の雇用創出産業なのです。ちゃんと取り組めば、日本もそうしたことが実現できます。木材を自給し、山も再生していくという循環を創るべきなのです。

世界最速の高齢化社会を逆手に 
もう一つ重要なのが長寿です。これは人類、社会のチャレンジと言えます。 

IPS細胞の山中伸弥さんなどの研究成果も凄いけれど、秋山弘子さん(東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)が、6000人の高齢者を20数年追いかけて、どうやって自立性を失っていくか調べたデータもそれに匹敵するぐらい凄いです。それによると、7割の人は70代の後半になって落ちていく。階段を登れなくなるとか、歩くのが億劫になり、最後に動けなくというふうに徐々に落ちていくのです。また11%の人は、お医者さんの日野原重明さんのように高齢になっても元気で落ちない。つまり、およそ8割の人たちは長期の介護にならないということです。だから、高齢社会は介護社会というふうに括るのは間違いです。 

要介護者の多くは、脳溢血や脳梗塞などによるものです。それは断熱の悪い家が1つの原因なのです。お勝手やトイレが寒く、そこに行き来するたびに心臓がバクバクするからです。そこで冬に倒れる。東京の救急車の出動回数とその原因を調べると大体その原因は明らかです。そういう人たちが長期の介護になっています。だから、先ほどの断熱住宅は、エネルギー的側面からも重要ですが、QOLの面からも極めて重要です。


誇りある人生のための支援と自立促進 
要介護となった場合の支援と自立促進も重要です。脳のニューロンは、パルス状の電気信号を出しています。筑波大学山海研究室が開発したHALというロボットは、人体の表面に漏れてくる電流を検知して身体の動きを支援します。目が見えるのは、カメラのフィルムのような役割をする網膜に映った情報を神経がキャッチしているからです。 

この原理を応用すると、目が見えない人でも、特殊なメガネをかければ見えるようになる時代が来ます。そうした技術を本気で開発している研究者が慶応大学にいて、かつては明るさの認識しかできなかったのが、もう形まで認識できる技術が開発されています。この技術の方が、山中先生のIPS細胞を使った再生医療より早いと思います。人間は、頭が機能している限り、自立できます。そのためのテクノロジーは必ず開発できます。 

人間の尊厳という点からみても、これは非常に重要なことなのです。

 

医療も変わるビッグデータの活用も 
これから、医療は随分変わっていくと思います。最近は原因不明の病気が多い。腰痛とか、うつ病とか、アトピーとか、膝痛とか。腰痛なんて8割の原因が不明です。夏樹静子の小説「椅子が怖い」では、最終的に腰痛緩和にうつ病の薬が一番効いたとありますが、8割の原因不明の腰痛の相当部分が脳にあるという話もあります。お医者さんに行っても、原因が分からないものが増えてきています。 

こうした問題にこそ、人工知能やビッグデータの活用が必要だと思います。そのためには、情報提供に関して、皆さん個々人の協力が必要になります。自分は腰痛だけど、こういうことをしたら、こんなものを食べたら、症状がこんなふうに改善されたとか、運動したらいいと言うので、やってみたら逆に悪化したといった情報が必要なのです。そうした情報を個人から大量に集めることに協力していただきたいのです。収集した膨大なデータをビッグデータとして活用することで、食事や運動療法サービス、保険など、多様な新しいビジネスが生まれくるはずです。

 

創発型のまちづくりを 
これからの復興に求められるのは、創発型のまちづくということではないりでしょうか。産業革命から、私の言葉で言うとプラチナ革命へ。物量の充足からクオリティ追求へ。規格化から多様化へ。供給側が決めるのではなく、需要側が決めるモノづくりやサービス創造へ。そして、そうした変革と連動したまちづくりには、ベンチャーをどんどん起こしていくことが必要です。大きな企業が残ってくれるのは有難いけれども、QOL追求による新しい需要を創っていくには、ベンチャーのような発想力や機動力が必要です。加えて、市民、産官学という連携が働くカタチではないかと思います。そういうものの萌芽が全国各地で出てきています。 

宮城県の岩沼市では、建幸サイエンスパークという概念のまちづくりを進めています。住民が参画して健康医療データを集積し、健康医療産業のクラスターをつくっていこうとしています。 

釜石市では、サステナブル釜石復興プランに基づいて、多様な再生可能エネルギーを使った分散型発電網を創っていこうとしています。太陽光、風力、小水力とバイオマスに地熱が加わると完璧です。 

岩手県の葛巻町では、成長速度が非常に早い微細草類を培養して、バイオ燃料や健康食品、医薬品を開発するなど、新しいビジネスを創ろうとしています。 

福島県南相馬市のソーラー・アグリパークは、津波被災地を使った太陽光発電所と植物工場を舞台に、子どもの体験学習を組み合わせて、非常に贅沢なまちづくりの試みにチャレンジしています。  

東日本大震災からの復興を21世紀の世界の課題解決につなげたいと思います。その象徴として、プラチナ社会という考えを申し上げました。 

地域コミュニティーや地域医療、観光、農林水産業の再生にしても、被災前の復興にとどまらず、医療で言えば健康や自立、農業であれば、大規模化や自然再生といった21世紀の諸課題の解決の視点を踏まえたより付加価値の高い復興につなげて行きましょう。 

宮城県内には今度、世界一価格の安い太陽光発電のパネル工場が建設されます。これにより、21世紀に向けた地域づくりの象徴にもなることを期待します。 

これからは、美しい松島湾、素晴らしい温泉、それらに加えて、21世紀の工場を見たい、21世紀の地域の人たちの暮らし方を見たい。復興を契機とした21世紀のまちづくりは、世界に発信できる観光の最高の魅力にもなっていくはずです。

 

---東北4県が2月14日に、東京商工会議所で開催した東日本大震災フォーラムの基調講演「復興から日本再生へ復興が先導するプラチナ社会づくりより