巨大津波に備え13社が連携

霞コンビナート

伊勢湾霞ヶ浦に突き出る人工島の南側、約253haを占めるのが霞コンビナートだ。三重県四日市市内に3つある石油化学コンビナートで最も北に位置している。1971年に操業を開始した東ソーのエチレンプラントを中心に13社の企業がBCP連携に取り組み始めた。

 

きっかけは3年前に四日市市が設置した四日市市臨海部工業地帯競争力検討会。コンビナート立地企業と行政が一体となり企業間連携事業等について協議を進め、付加価値の高い製品への転換や研究開発機能の強化、従業員の教育などを行い、地域を活性化し競争力を高めようというもの。ちょうど、昨年6月からは経産省の「事業継続等新たなマネジメントシステムを活用したグループ単位による事業競争力強化モデル事業」が開始されたことから、同事業に参加し、大規模災害に備え13社が共同でBCP連携に取り組むことにした。 

想定した大規模災害は南海トラフ地震だ。想定震度は6強。埋め立て地では避けて通れない液状化が発生し、泥が地面から噴出する。地震から90分後には約5m、埋立地の地面から1〜2mの高さの津波が霞コンビナートを襲う。昭和40年代に造成され老朽化した出島の南側護岸は破損され、北部にある巨大コンテナターミナルからはコンテナ貨物荷物や車が大量に流れてくる。そのため、建物や設備だけでなく、唯一の経路である霞大橋がダメージを受け、交通は著しく制限される。各プラントは安全停止しても、桟橋や配管の破損、建物の倒壊などの被害が予想される。

 

共通インフラに依存 
工業団地内でのBCPの連携は「運命共同体型」とも言える。同じ社会インフラに依存し、ほぼ同じ場所に位置しているため、初動から復旧まで足並みをそろえなければ、事業が再開できないばかりか、従業員の安全も脅かされる。 

霞コンビナートはエチレンプラントを中心とした巨大施設だ。粗製ガソリンであるナフサを用いてエチレンを精製する。このエチレンを原料にプラスチック(合成樹脂)や合成ゴム、合成繊維、合成洗剤など多種多様な石油化学製品が生産される。自動車、家電、衣類、日用品などあらゆるところで使われている石油化学製品は、日常生活に欠かせない。石油化学工業協会によると石油化学工業と石油化学製品などを合わせた平成22年の出荷額は約27兆円と日本の製造品出荷額の約1割を占める基幹産業でもある。 

エチレンプラントを中心につながる各社は、出島という地理的に運命を共にするだけではなく、産業的にも運命共同体といえる。エチレンプラントから伸びる配管を通る原材料や反応物、石油化学製品だけでなく、電力、排水などで各社が有機的に結ばれている。そのため1社でトラブルが起きると影響は各社に波及し、連動して施設を止めなくてはならない。定期点検のためエチレンプラントを停止させると、1カ月は他社の施設も止ま約る。また、同様に霞コンビナート内の排水処理施設が止まっても各社の施設は稼働できない。まさに川上から川下までが流れるようにつながり、13社は地理的にも産業的にも強固に結びついている。

 

避難経路の確保も困難 
「以前から非常食の融通など協力体制はありましたが、今回の取り組みにより安全に避難するための具体的な問題点が分かってきました」と語るのは東ソー四日市営業所・総務課課長代理の服部正明氏だ。協議会での検討を積み重ねる中で、避難所は不測の事態に備え、複数箇所を設定する案があがった。また、液状化を避けて逃げるため過去の地質調査をもとにした液状化マップの作成も進めている。

従業員の安全確保については議論が比較的スムーズに進んでいるが、広大な石油化学コンビナートでは、避難経路の確保1つ考えても、出島からの唯一の出口となる霞大橋までの避難距離は2〜3キロにも及ぶため簡単にはいかない。1社の専有面積が広く、隣り合う施設やコンビナート内を縦横に貫く道路が少ないために動線はかなり限られている。加えて、各社の施設内を通り抜け、最短距離を進もうにも様々なプラントがあり、安全確保のために普段はフェンスで仕切られているため、直進できない。 

大量の可燃物を高圧で扱う石油化学コンビナートは石油コンビナート等災害防止法により自分たちで消防施設を設ける必要があり、災害後の事業再開時にも同様に消防車の保有が必須となる。そのため今回は地震から90分後に津波が襲う想定で、共同消防隊の3台の消防車は火災が起こると60分間は消火を続け、事業再開をにらみ30分で避難する仮定としたが、避難先も経路も決まっていないのが現状。液状化が進めばさらに過酷な状況が予想される。

 

事業復旧に向けた新たな課題
事業復旧のためには、エチレンプラントをはじめ、各施設を安全に停止させても、点検を含めて再稼働に1カ月以上はかかる。また、緊急停止により、各施設で行われている原料の蒸留と加圧、減圧、冷却、加熱などの工程が多大な影響を受け配管やプラント内に製品の中間物が滞留することもあり、洗浄に時間を要することが懸念される。 

「連携して事業再開にあたることは、現状ではまだ課題が洗い出された段階。問題は山積しています」と話すのは霞コンビナートの排水処理を一手に引き受け、配管などの共同施設や消防車の管理運営も行う霞共同事業・総務部長の後藤義彦氏だ。問題を解決するには、LNGやLPGの海上輸送に欠かせない桟橋やコンビナート内に張り巡らされた配管、道路などのインフラの安全確認や被害確認と点検を13社が連携していかに行っていくのか、作業員が避難し減少した中でどう進めるのかなど、問題を1つずつ協議しながら決めていくことが求められる。 

東ソー四日市事業所総務課長の坂井貴雄氏は「この霞コンビナートにある企業は、本社でなく事業所なので権限は限られています。災害が起これば1社の中でも他の事業所との関わり合いでどのようにプラントを動かし、どの製品を作るのか変わってきます。自社や他社との駆け引きの中で優先順位を決めることすら簡単ではありません。BCPでの連携を協議するには、まだ時間が足りていない」と語る。

現状で霞コンビナート内の事業所としてBCPを構築しているのは2社で、霞共同事業の個社BCPがまもなく完成する予定だ。今後、BCPの主要事項を13社で共有化できれば、糸口は見えてくる。 

連携を支援した一般社団法人地域問題研究所・主任研究員の押谷茂敏氏は「今は研修を通して理解が進んだ段階。BCP構築と連携の必要性を前向きに捉えられたと思う」と今後の発展に期待する。霞共同事業の後藤氏も「複雑な問題が多いが、1つでも問題解決に踏み出したい」と語る。 

霞コンビナートの13社は2008年からバスによるエコ通勤デーを独自に設け、CO2の削減に協働で取り組み、また環境ボランティアとして森林保全や地域の清掃活動にも協力し、日常的に連携を深めている。「運河で区切られているので、運命共同体としてまとまりやすい」と東ソーの坂井氏は13社による連携の強みを説明する。 

BCPの連携はまだ始まったばかりだが、今後も継続的に話し合いを進め、必要に応じて枠組みを広げ、本社を含めた調整が求められるだろう。