被害状況、対応状況をリアルタイムで管理

 

昨年は桂川が大雨による水害で氾濫し、観光地である渡月橋付近が大きな被害を受けた京都府。人口260万人で日本有数の観光地を擁し、毎年国内外から数多くの観光客が訪れる。また、福井県の高浜、大飯原発に近接し、UPZ(緊急時防護措置を準備する区域:原発から概ね30km圏内)に8市町が含まれる。府では今年1月、5市10町1村の26市町村をはじめ消防、警察、自衛隊などの災害対応における関係機関がリアルタイムで被災状況や対応状況を共有できるシステムを構築し、4月から運用を開始した。

 

京都府はここ2年、連続して大きな水害に見舞われている。昨年9月には台風第18号により、由良川、桂川の水源地帯に豪雨が発生し、観光地である京都市嵐山や福知山市などで多数の床上、床下浸水が発生した。災害情報を市町村と一体となって情報共有し、府民に被害情報や避難情報をいち早く知らせることは、京都府の大きな課題だった。 

京都府の災害時の体制は、風水害などの場合、注意報が出ればまず災害警戒本部を立ち上げる。災害警戒本部と災害対策本部を使い分けており、警戒本部は被害が発生する恐れがある段階で設置。相当の被害が予想される時や実際に被害が発生した場合に災害対策本部に移行する。事務局となる府民生活部防災・原子力安全課では、気象庁から大雨注意報が発表された段階で最低2人、警報が発表されたら最低6人が本部に詰める。さらに、台風直撃などの場合には10人以上が詰める。このほか土木事務所など現地事務所に職員が参集し、警戒体制をとることになっている。注意報、警報、特別警報と、状況に応じて警戒態勢を強化していく仕組みだ。地震などの突発災害の場合は、最初から災害対策本部を立ち上げることになる。

一方、市町村については、それぞれが状況に応じて対策本部を立ち上げることになるが、警報が出れば被害が発生する可能性が高まるため、府との連携を強化し、被害が発生すれば即座に府に連絡。府は、連絡を受け直ちに対応できる体制を整えることになっている。 

ただし、このような体制を確実に実行に移すためには、府と市町村がリアルタイムで情報を共有できるシステムが不可欠になる。そこで昨年、市町村と研究会を設置。災害対応の専門家である京都大学防災研究所の林春男教授の助言を受け、新しい情報共有システムについて議論を重ね、半年間の開発期間を経て、今年1月から新たなシステムの稼働に漕ぎ着けた。

取りまとめの時間を節約 
従来は、災害が起きれば市町村の現場担当者がそれぞれの自治体の災害対策本部に現況を報告し、各災害対策本部が状況を取りまとめた上で府内の地域機関である4つの広域振興局に連絡。さらに広域振興局が管轄市町村の情報を取りまとめ、本庁に連絡するというステップを踏んでいたため、現況確認と府への報告に大きなタイムラグが生じていた。

府と各市町村の災害対策本部は専用回線で結ばれ、市町村の担当者は専用回線に接続されている特定のパソコンから状況を打ち込んでいたが、パソコンの台数が限られている上に、災害が大きくなればなるほど担当者が現場対応に追われてしまい、入力が遅れる傾向にあった。また、専用回線を介さずにいくつかの情報は断片的に電話やファックスで入り、報告される内容が矛盾していることもあったため、それらの情報を一つひとつ電話で確認するなどのやり取りが発生し、結果としてシステムに入力する時間がますます遅れていくなど悪循環に陥っていた。広域振興局でも上がってきた報告の内容を点検する作業があり、いくつもの階層をクリアしないと情報が本庁まで上がらない仕組みになっていたという。 

また、各現場からの情報を一元集約するだけでなく、全ての現場で共有できる仕組みも必要とされた。災害対応の情報が共有されなければ、同じ被害現場に別々の組織が重複して対応にあたるなどの無駄が生じかねない。理想としては、現場から、それも防災担当課ではなく、それぞれの所管の職員が道路や河川の状況などを直接入力し、それらへの対応状況についても全て府や市町村、関係機関が共有できればいい。そうすれば途中の段階で取りまとめるような手間や人も要らなくなり、災害の現場対応にあたる人員を増やすことができる。そのような発想から、今年度新しく構築されたのが「京都府防災情報府民共有システム」だ。

 

知事の思いで市民にも情報提供

 


今回のシステムに防災情報「府民」共有システムという名前が付いているのは、実は山田啓二知事の強い思いがあった。京都府府民生活部理事の前川二郎氏は「情報共有は関係する機関だけでなく、府民とも共有できなければならない。災害はいち早く府民と共有してこそ価値があるとの知事の信念から、システムは情報共有する対象をさらに増やしていくことになりました」と説明する。 

新しいシステムの概要は図1の通り。まず災害現場から、防災担当者もしくは現場担当者が現場の状況を報告する。システムはインターネット経由で情報を収集するためIDとパスワードがあればスマートフォンからでも入力することができる。入力された情報は、直接中央のコントロールシステム(サーバー)に送られ、WebEOCという災害情報収集共有システムと共有される。従来の「市町村が災害状況を取りまとめ、さらに広域振興局に報告し…」という段階を全て短縮し、担当者が直接データベースに入力し、その情報が府、市町村はじめ関係各機関に全て共有されるのが大きな特長だ。 

災害の現場状況のほかにも、気象庁からの気象予警報、土砂災害警戒情報、地震情報、総務省消防庁からのJアラート(国民保護情報)、市町村からの避難勧告など必要なデータは上流下流問わずすべて中央のコントロールシステムを通じてWebEOCに集約される。避難勧告や災害情報などは、一般財団法人マルチメディア振興センターが運営する「公共情報コモンズ」(※)を通じて報道機関へも自動的に配信される。さらに登録制のメールシステムを通じて府民にも情報が配信される。

※公共情報コモンズ…2008年の総務省「地域の安心・安全情報基盤に関する研究会」による「安心・安全公共コモンズ」構築についての提言が具 体化したシステム。従来であれば市民への情報伝達者である新聞やテレビなどの報道機関は、災害時は個別に自治体やライフライン会社などに被害情報を取材し て報道にする。やり取りはFAXや電話を中心に行われるため、情報の漏れや数字の間違いなどが発生し、市民への均一で正確な情報提供ができない場面もあっ た。そのような事態を防ぐため、自治体やライフライン会社が情報をある程度均一のフォーマットで公共情報コモンズに入力し、それを自動的に報道機関などに 配信することで、報道の正確性を上げるとともに、取材する側、される側の作業簡略化を図る。4月25日現在で、18の都道府県が運用を開始し、16都道府 県が準備・試験中だ。2015年度中には全都道府県の参加を目標にしている。

 

避難勧告前から情報提供 
従来は、市町村長が避難勧告の発令を決定した段階で、それを住民に知らせる仕組みだったが、新しいシステムでは、市町村の避難勧告の発令前から、河川の水位情報や雨量情報など避難の判断材料になる情報を府民と共有できるため、府民一人ひとりが勧告の前から避難準備などに取り掛かることができる。府では平時から地域の防犯情報や気象情報を府民に配信しており、現在約5万通を配信しているという。また、携帯キャリアのエリアメール機能を使えば、観光客などの一時的な滞在者にも配信できる。

市町村だけでなく、自衛隊や警察、消防など府や市町村と連携して災害対応にあたる関係機関にもIDとパスワードを配布している。自衛隊に関しては、注意報や警報段階からどこで何が起こっているかという情報を共有できれば、災害派遣要請時の協議時間を短縮することが可能になる。 

現在、陸上自衛隊は福知山市にある第七普通科連隊が京都府との窓口を担当しているが、海上自衛隊や京都地方協力本部などとも情報を共有しているという。ただし、今のところ国とはシステム連携はできていない。都道府県ごとに情報共有の仕組みやシステムが異なっているため、システム的な連携は難しい課題があるという。


第1報は災害発生から30分以内に
実際のシステムを見てみよう。システムの画面は大きく「トピックスボード」「連絡ボード」とに分かれる。トピックスボードには気象情報や警報、一定のしきい値を超えた場合の河川の水位や、各担当者から上がる情報が自動的にリアルタイムで入ってくる。市町村からの避難勧告や指示が出た場合もこちらに表示される。 

トピックスが速報的な情報を取り扱うのに対し、連絡ボードは、指示やそれに対する対応など担当者間のやり取りが掲示される。まず、災害が発生すると府から市町村へ「連絡ボード」により「現況確認」を依頼する(図2)。市町村は依頼を確認した後、現況確認のテンプレートに入力する(図3)。テンプレートには、人的被害(死者)、人的被害(負傷者)、住家被害、建物被害などの項目ごと、被害の「あり」「なし」「未確認」のチェックボックスがある。備考などを書き込む欄も設けている。ここまでの対応を災害発生から30分以内に市町村に行ってもらう。もし報告がなければ、役所が被災している可能性もあるので府からの人員派遣も検討する。各市町村からの現況確認報告は、一覧となって表示される(図4)。


現況報告の結果はGISと連携させることで、「人的被害(死者)があり」のところは赤、「人的被害(死者)がなし」のところは緑と色分けをすることによって、府内の被害状況が視覚的に一覧できる地図が自動的に作成できる。いわゆる情報共有地図(COP:Common Operational Picture)にもなるというわけだ。 

被害が発生している場合は、建物名や損傷具合など具体的な災害概況をテンプレートに入力してもらう。GIS上で地図を呼び出して場所をチェックすれば緯度経度を割り出し、地点を自動的に登録できる。災害概況の情報はトピックスボードに表示されるため、本部ではトピックスボードだけを見ていれば災害の発生状況や市町村の対応状況が分かる仕組みだ。被害の詳細を確認したければ、該当のテンプレートをクリックすれば詳細が把握できる。地図上に写真情報などを載せることもできる(図5)。

 

市町村も活用できるシステムへ
一連の情報はシステム上で集約・集計され「とりまとめ報」が自動的に作成される。各市町村が入力した災害概況のうち、主要な被害は自動的に集約され、人的被害と住家被害は自動集計される。避難指示の状況などはエクセル上での加工も可能だ(図6)。 

作成されたとりまとめ報は、対策本部会議や報道機関への資料になる。とりまとめ報を作成する手間が簡略化され、時間が大幅に短縮できるため、災害対応への時間をより有効に使えることができるようになる。 

システムは、市町村が主体的に使うことも可能で、市町村単位でのとりまとめ報の作成も可能。府が導入したシステムを各市町村が災害対応に活用できるため、市町村のシステム導入負担も軽減される。 

システムの開発にあたっては、市町村との研究会とワーキンググループを立ち上げ、現場担当者の意見などを反映させる形で進めていった。操作研修も兼ねてWebEOC上で意見を交換しながら、入力画面に使うテンプレートなども同時に作成していったという。 

市町村からの意見としては、「ワーキンググループなどにおいて他の市町村の動向が分かるのが非常に良かった」「自分の市町村が無事でも、隣の市町村が被災していれば応援に駆けつけることができる」「河川に関しては上流地域の被害状況がリアルタイムで分かることは自分の地域の対策を練る上で大きなアドバンテージになる」などの声があった。 

システムは今年1月から稼働を開始し、3回の訓練を経て若干の修正をしたのち、4月から正式運用を始めた。システム開発費用は、アプリ開発を含め総額約3億2000万円で、このうち約8000万円は、国の補助金を活用したという。 

1月からの稼働で、課題もいくつか上がってきた。例えばトピックスボードは大規模災害が発生し、複数の団体からほぼ同時に多くの情報が入力されると、古い情報がどんどん下にスクロールされてしまうため見ている方が追い付けないことが考えられる。これに関しては今後も改善していきたいという。 

Twitterなどの市民が発する情報を取り入れることも検討しているが、情報の正確性などの障壁をいかにクリアしていくかは今後の課題となっている。技術的には可能とのことだが、今のところ民間のサイトに入力される住民からの情報を参考にする方針にとどまっている。ただ、東日本大震災や近年の災害対応におけるTwitterなどの情報の有効性なども報告されていることから、住民情報の活用については、今後も検討していきたいと考えている。