気候変動、廃棄物、生物多様性、健康な暮らしなどに配慮

 

インタビュー▶ BSI Groupサステナビリティ規格パブリッシングマネージャー


アマンダ・カイリー氏

 

2012年に開催されたロンドンオリンピックには204の国と地域から選手、スタッフ、ボランティア合わせて約20万人が参加した。「持続可能なイベント」をビジョンに掲げ、「気候変動」「廃棄物」「生物多様性」「社会的一体性」「健康的な暮らし」を取り組むべき5大テーマとして設定した。両大会を運営したロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会(The London Organising Committee of the Olympic and Paralympic Games=LOCOG)は、持続可能なイベントのためのマネジメント国際規格であるISO20121を2012年6月に取得し、大会運営に臨んだ。2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックは、ロンドンから何を学ぶべきか。LOCOGのサステナビリティ・プロジェクトマネージャーを務めたアマンダ・カイリー氏(現BSIGroupサステナビリティ規格パブリッシングマネージャー)に、ロンドンオリンピック・パラリンピックにおけるISO20121と持続可能な取り組みについて聞いた。

 

ISO20121:イベント運営における環境影響の管理に加えて、その経済的、社会的影響についても管理することで、イベント産業の持続可能性(サステナビリティ)をサポートするためのマネジメトシステム。オリンピックのような国際イベンントから地方のお祭りまで、あらゆるタイプのイベントに適用が可能で、イベントに関わるすべてのステークホルダー(利害関係者)によって活用される。イベントの主催者はもちろんのこと、イベント会場(ホテル、会議場、競技場など)、イベントに関わる施工業者、サプライヤーにとってもこの規格を活用するメッリトがある。英国においてロンドンオリンピックを見据え、BSI(英国規格協会)が開発に関わったBS8901に基づき策定された。

 

Q01. LOCOGがISO20121をどのように活用したのか教えてください。
LOCOGは、持続可能な取り組みを必要不可欠なアプローチとして、資材やサービス、労働力の調達に至るまで、環境や社会的な影響、経済的な評価などを徹底して行いました。持続可能性とは、単に環境への配慮だけを指す言葉ではありません。経済的な成功を求めつつ、社会的な責任を果たしながら、継続的に取り組めることが重要なポイントになります。 

LOCOGは100カ所を超える会場と約20万カ所にものぼる現場の管理と運営を行い、そのすべてに持続可能性を追求しました。その予算は20億ポンド(約2500億円)になります。 

2006年のLOCOG発足当初から、ISO20121の元となった英国規格のBS8901を導入し、持続可能な大会の運営に力を注いできました。最も重要なのは持続可能性の共通理解でした。LOCOGと直接関わったのは54のスポンサーと60のライセンシー、約600のサプライヤーです。NPOやNGO、地域コミュニティなども含め、参加したステークホルダー間のコミュニケーションを円滑に進め、持続可能性の共通理解のもと、具体的な目標を設定する点でISO20121は非常に有効でした。

 

Q02. 具体的な取り組みについて教えてください。
調達部門の「見える化」を実現しました。例えば食料部門では商品をどこで誰が生産し、加工、包装したのか、また選手に授与されるメダルも原料の採掘から製造までの全てのプロセスを追跡できるようにしました。サプライヤーが不法労働者を雇用していないか、障害者に対する取り組みや性別、人種や属性などの多様性を尊重しているかなどの点も調べました。 

温室効果ガスの排出抑制のための取り組みとしては、観戦チケットに公共交通機関のフリーチケットをつけて利用を促し、表彰式で手渡された花束も、地域のサプライヤーが冷蔵せずに運ぶことでエネルギーの輸送コストを抑えました。生花ですから冷蔵なしの運搬には非常に苦労しました。オリンピックの象徴となる聖火台も北京オリンピックの5%ほどの重量、約16トンで作成し、大会中の燃焼も抑えていました。最大レベルで燃焼したのは開会式の45分間だけです。公式グッズのバッグもリサイクル原料を主としてつくられ、リサイクル、リユースを表記しました。ボランティアスタッフのユニフォームにも高い割合でリサイクル原料を使い、オリンピックとパラリンピックの両方で使えるリバーシブルデザインを採用し、障害のある方にもフィットするように工夫をこらしました。

 

Q03. LOCOGのほかにISO20121の認証を取得している機関や企業などを教えてください。
オリンピックで競技場や交通機関などの建設を担ったODAトランスポートが取得しています。また、ロンドンオリンピックの際にはセーリングの競技場にもなったウェイマス・アンド・ポートランド・ナショナルセイリングアカデミー、コカ・コーラや香川真司選手が所属するサッカーチームのマンチェスターユナイテッドなどが取得しています。

Q04. サプライヤーの中でISO20121の認証を取得したのはコカ・コーラのみです。LOCOGの物資やサービスなどの調達に関して、ISO20121の取得は入札条件に入っていなかったのでしょうか。
ISO20121は2012年に発行されたため、入札条件に入れられませんでした。しかし、持続可能な大会という目標にかなう調達のために、次のプロセスを経て入札を行いました。まず、「Kick-Off Project」では関係者を集めて購入する備品や新たに製作する商品を伝えました。「Gather Info」ではサプライヤーを調査しました。良質な製品やサービスを提供できるかだけでなく、雇用環境やフェアトレードの有無、各社のサプライヤーの状況まで詳しく調べます。「Develop Strategy」では、トラブルが起きたときの対応能力など、サプライヤーの選定基準を具体的に決めました。 

LOCOGでは「責任ある調達」「二次原料の使用」「環境負荷の最小化」「人や環境に害のない素材の利用」という4点を原則にしたサステナブル・ソーシング・コードを作成しました。調達に関わる企業にこのような指針を示し、実際の調達において持続可能な取組みであるかを部門別に分け数値化し評価しました。

 

Q05. LOCOGの取り組みは、どう審査されたのですか?
ロンドンオリンピックのために設立された独立した外部機関であるCommission for a Sustainable London 2012による審査が毎年行われました。同機関のWebサイト(http://www.cslondon.org/)で報告や評価の全てが閲覧できるようになっています。内部監査はコンサルティング会社のKPMGに依頼しました。国際オリンピック委員会(IOC)は進捗状況などの全般的な運営をチェックしていました。

 

Q06. LOCOGの持続可能な取り組みの成果を教えてください。
LOCOGは廃棄物を極力減らすために「Zero Waste Games Vision」を提示しました。デザインの段階で無駄を省き、高品質で長持ちし、リユースやリサイクルしやすい備品などを用意しました。風力発電など再生可能エネルギーを利用し、競技会場のエネルギー効率も高め、競技会場や設備の一部を一時的な仮設で対応しました。LOCOGの取り組みで排出される温室効果ガスを二酸化炭素に換算して40万トン抑制でき、廃棄物のうち62%をリユース、リサイクルし、埋め立て処分場への廃棄物の持ち込みをゼロにできました。また、全会場で合計1600万食を提供しましたが、安全で品質の高い食品であり、かつフェアトレードで取引された商品を選び社会的な責任を果たすよう努めました。 

持続可能な取り組みとスポンサーからの提供などを含めた直接的な効果は、LOCOGと他の機関を含めると約3000万ポンドを超えました。一般的にサステナビリティはコストアップにつながると批判されますが、経済的な有効性も示せたと思います。

 

Q07. 2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックへのアドバイスをお願いします。
できるだけ早くISO20121の取得に向けて動くことをお勧めします。既存の施設を生かすなど、東京は持続可能な大会にできる環境にあると思っています。2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックを含めてこれまでに数多くの取り組みが蓄積されています。いままでの知見を生かし、未来に開かれた東京ならではの大会を期待しています。

 

Q08. 会場の建設に関わる企業や関係するサプライヤーはどのような準備をすればよいでしょうか。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が強力なリーダーシップを発揮してビジョンを示す必要があります。ロンドンオリンピック・パラリンピックでは持続可能性を掲げ、「気候変動」「廃棄物」「生物多様性」「社会的一体性」「健康的な暮らし」を5大テーマとして設定するだけでなく、準備段階から当日の運営、撤収に至るあらゆる行動について、規格の達成状況を可視化したサステナブル・ソーシング・コードを作成してビジョンと現状を示し続けました。組織委員会が中心となり、サプライヤーとライセンサーなど関係する企業を牽引する必要があると思います。