防災やBCP(事業継続計画)担当者の頭を悩ますのが、従業員の危機意識を高める方法だ。どんなに重要性を説明しても聞き流されてしまうのはよくあること。しかし、ひょっとしたら、「伝え方」を変えるだけで、社員の防災意識が変わるかもしれない。

『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)『カイジ「命より重いお金の話』!」(サンマーク出版)などを執筆し、難解な経済の理論をわかりやすく届けているベストセラー作家・木暮太一氏に、人を動かすことができる「伝え方」について聞いた。

(編集部注:この記事は「リスク対策.com」VOL.49 2015年5月25日掲載記事をWeb記事として再掲したものです。)

・従業員の防災意識を高めるには、どのような説明の仕方が求められるのでしょうか?
防災に限らず、物事を分かりやすく説明するには、3つのポイントがあります。1つ目は、伝えたいことを相手が理解しやすいように順序立てて整理して伝えるということ。説明がバラバラで散らばっていたら相手は何を言われているのか整理できないので、目的と対策を箇条書きにしてみるなどの工夫をしてみる。2つ目は、相手が分かる言葉で伝えるということ。

いきなり、新入社員に専門用語で「BCPが大切」などと伝えても、当然理解されません。「BCPって何ですか」と聞き返せない人もいるはず。理解できていないことが、行動に移せるはずがありません。ですから、相手が分かる言葉に置き換え、かみ砕いて伝えることが大切です。

3つ目が一番重要で、興味を持ってもらうように説明するということです。どんなに整理して、分かりやすい言葉で伝えても、そもそも興味を持たないことを、人は聞き入れようとはしません。

例えば、既婚の中高年の方に対して、ウェディングの話題を分かりやすく説明したところで、聞いてくれる人は少ないでしょう。興味を持ってもらうためには、「自分にその事がどのように関係してくるのか」ということを理解してもらう必要があります。

中高年にウェディングの話を聞かせるなら、子どもや孫が結婚する場合をイメージさせるような手法が有効でしょう。同じように、防災についても、あなたがどのように関係しているのかを示してあげる必要があります。これら3つのポイントを満たすことが大切です。

・この3つを順序立てて伝えればいいのでしょうか。
いいえ、違います。「伝えたい」対象によって、順番も重きも異なります。相手に応じて、課題となっているポイントを見極め、伝え方を変えてください。例えば、ある程度防災の知識を既に持っている人に対して伝えるなら、3番の「興味を持たせる方法」が特に求められるでしょうし、小さなお子様を持つ母親で防災の意識はとても高いのだけれども、何をやっていいのか理解できていないような方に対しては、1番の「整理して伝える」や2番の「分かりやすい言葉を使う」ことを重視して伝えるべきでしょう。

・特に3番は難問のように思います。 
理由は2つあるように思います。1つは、防災の定義が広すぎて、何を指しているかよく分からない。東日本大震災のような大災害をイメージしているのか、ちょっとした火事なのか、もしくは電車が止まったときの社内対応なのか、説明を聞いている立場からすると、何に備えろと言われているかが理解しづらいのです。 

もう1つは、今の話に聞こえないということです。特に大災害をイメージしろと言われても、「今でしょ」ではなく、「今じゃなくていいでしょ」ということになってしまう。 

「災害は忘れたころにやってくる」とはよく言ったもので、“災害に備えるのが大事です”と言われて反論する人はいませんが、では、いつ来るかと問われれば、たぶん「今じゃない」と皆が思っている。防災対策が必要なことは、誰でも理解できるでしょうが、今の問題と受け止めてもらえなければ、結局、自分とは関係のない、興味の持てないことにされてしまいます。

・具体的にどう工夫したらいいのでしょうか。
個人的な意見になりますが、今のこととして、受け止めやすいことから伝える工夫が必要だと思います。 

極論かもしれませんが、ビジネスマンなら「生命の危機」「ビジネよりスの危機」のほうが、時系列で考えれば、自分に関係があると受け止められやすいかもしれません。防災で命が大切ということは当然ですし、そのことは誰も否定しません。

しかし、例えばパソコンを机の上に出しっぱなしで帰宅して、地震の際、落下物でパソコンが壊れ、すべてのデータを失ってしまい、それが理由でお客様に提案書が出せなくなり売り上げを落としたということを考えてもらった方が、対策に移しやすい。

この方が「今起きそうな問題として、自分に関係がある」と感じやすいのです。そう感じれば「毎日電源を落としてから帰ろう」「データはバックアップしよう」ということになります。これも防災対策の中では重要なことでしょう。

おそらく、東日本大震災でも首都圏では、自分の生命に危機を覚えた人は少ないのが実態ではないでしょうか。

あれだけ大きな地震が起きたにもかかわらず首都圏の被害は限定的だった。それが一般的な感覚だと思います。もちろん次も同じ状況で済まさせるとは限りません。ですから、災害に対する危機管理を推進する方法としては「今やらなくてはビジネスマンとして死にますよ」と教える。そこから少しずつ危機意識をステップアップさせていく長期的な視点が重要になると思います。

・まず、身近なビジネス的な視点で興味を持たせて、その後、危機意識をさらに高めさせていくということでしょうか?

私が勧めるのは長期の状態目標と短期の行動目標を設定する方法です。長期の状態目標とは、期間を限定して、社内をこうしたいという目標を定める。例えば、すべての社員が家庭でも耐震や家具の転倒防止、備蓄をして、家族とはいつでも連絡が取り合える体制が整っているというような目標です。

多くの人はこうした設定が大好きです。“1年の計は元旦にあり”で、今年こそは英語を身につけるとか、ダイエットするとか、誰にでも身に覚えがありますよね。でも達成できない。なぜなら今日何をやるのか、具体的な行動目標がないからです。ですから、短期の行動目標として小さな目標をつくって確実に達成して進めるのがコツです。 

10㎏痩せますと目標を立てても、うまくダイエットできないのは、日々の成果が見えないから。毎月1㎏ずつ痩せる目標なら継続しやすいと思いますが、結局、ゴールが遠くて止めてしまう。 

防災でもスモールステップをつくって、実行させることが大事ではないでしょうか。例えば、まずは全員がパソコンの電源を落として帰宅するところから始める。それが徹底できたら、どれだけ社内状況が変わったのか取り組み前後の変化を確認して成果を認識してもらい、その次に、家庭での備蓄をするなど、ステップ・バイ・ステップで進めていくことが大事だと思うのです。

・なぜスモールステップが重要なのでしょうか。

私は「やる気」というものは有限だと考えています。実際、目に見えないものですし、多くの人はそんなイメージは持たないと思いますが、本当は「使ったらなくなる」んです。3日坊主というのは、やる気を使い果たした結果起きる現象です。東日本大震災の直後なら、まだ防災に取り組むやる気があったかもしれませんが、それも時間経過とともに少なくなり、今では意識が薄れてやる気もなくなっている。 

やる気が持続しないのなら、燃え尽きないうちに習慣化させることが重要です。やる気のあるうちに小さなことからコツコツと積み重ね、習慣化させるのです。こんな些細なことなのかと思うくらいでもいい。やる気が「0」でも当たり前のこととしてできるように習慣化できれば、対策のレベルは上がったことになります。できたら次の行動をプラスする。その積み重ねでやる気を消費せず習慣化させ、継続した取り組みにしていくのです。

・組織というものを考えれば、命令というのも有効な方法でしょうか?
トップダウンの命令で実行させることも、「伝え方」としては有効です。災害時の連絡手段の確保が目的なら、上司の命令で、全員に対して一斉にTwitterのアカウントを取得させるようなこともできるはずです。組織のコミュニケーションのあり方としては、上意下達のような命令は極めて効果があるのです。ただし、これに頼りすぎると、社員が疲弊し、一時的に整備された防災の仕組みも、知らず知らずのうちに形骸化するなんてことにもなりかねません。上からの命令と、下からの意識を変える、両方をうまく組み合わせることがポイントになるでしょう。

・説明する担当者が陥りやすいポイントはありますか?
タイプ別にみると、①専門用語を多用して話す学者タイプ、②説明する順序がバラバラで伝わらないタイプ、③アキバのオタクみたいに自分の話は面白いと思って熱中して話し、相手を置いていくタイプ、④自信がないからぐちゃぐちゃと話して、結論から言えない「迷える子羊タイプ」がいます。

それぞれに課題が違うので一概にここを直せばいいとは言えないのですが、元をたどれば冒頭に話した3つが抑えられていない。そこから派生していると思います。

木暮太一(こぐれ・たいち)
経済ジャーナリスト、一般社団法人教育コミュニケーション協会代表理事
慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、大学時代に自作した経済学の解説本が学内で爆発的にヒット。現在も経済学部の必読書としてロングセラーに。相手の目線に立った話し方・伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・団体向けに「説明力養成講座(わかりやすく伝える方法)」を実施している。フジテレビ「とくダネ!」、関西テレビ「ゆうがたLIVEワンダー」レギュラーコメンテーター、NHK「ニッポンのジレンマ」、Eテレ「テストの花道」などメディア出演多数。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ、「命より重い」!お金の話』など著書多数、、累計120万部。