海外出張時にトラブルに巻き込まれたときの強い味方が、現地駐在の日本大使館だ。特に従業員が誘拐されるなどの深刻な事態に陥った場合に

は、どこよりも先に大使館に連絡を取ったほうが良いという。しかし、誘拐などの危険状態に陥る前に、自分で危機を予防できる部分も多い。在フィリピン日本大使館一等書記官兼領事で邦人保護などを務める松永直樹氏に、海外滞在時の危機管理術について話を聞いた。

 

 

まず一番大切なことは「警戒すること」 
在フィリピン日本大使館一等書記官兼領事の松永直樹氏は、出張者の誘拐やトラブル予防策として、「警戒すること」まずを挙げる。具体的には、危険な場所を避けること、常に周囲の人の目を見ながら行動することだという。
「日本人は、人とすれ違う時に目を合わせることはないが、海外では常に周りの人の目を見た方がよい。自分の前後左右、道にしゃがみこんでいる人、全ていつも警戒しながら目を見て行動する。そこで目があった人は、自分を狙っている人かもしれない」と松永氏は話す。 

日本国内では、すれ違う人の目を見る行為は失礼とみなされ、場合によってはトラブルに発生する可能性もあるが、海外ではそういうことはない。 

「窃盗犯や強盗も同じだが、顔を見られたということは向こうにとって大きなプレッシャーになるため、抑止効果がある。逆に、歩きながらのスマートフォンの操作は論外。まったく周囲に警戒していないとみなされる。危険な場所を避け、周囲に隙を見せないことが、海外での危機管理の第一歩だ」。

 

「目立たない」「行動を予知されない」
華美な服装を避け、周囲に溶け込むことで「目立たない」こともトラブルに巻き込まれない重大な要素の1つだ。松永氏は、できれば渡航時もスーツでなく軽装を勧めている。「お金持ちの日本人」と見られると、例えば税関や空港からのタクシーなどでのトラブルの危険性が高まるからだ。 

また、毎朝のジョギングなど行動を習慣化しないことや、通勤ルートを毎日変えるなど、「行動を予知されない」ことも大事だ。金銭目的の誘拐の場合、最低でも1週間、犯人グループは標的の行動を監視するため、少なくとも通勤する車のルートを3パターンは考えておいたほうが良いとする。さらに、フィリピンの場合は自邸のメイドや運転手からその日の行動予定が漏洩する可能性もある。運転手などにも事前の連絡をすることなく、乗車してからルートを変えるなどの工夫も必要だ。 

考えた3つのルートも、しっかり自分の目で確認するようにしたい。地図で確認し、役所、警察、病院などをあらかじめ調べておくことで、何かあった場合にはそれらに逃げ込むことができる。また、誘拐で特に狙われるのは「チョークポイント」と呼ばれる「止まらざるを得ない場所」。誘拐は、車が止まったところで発生する。袋小路は言うまでもないが、例えば、検問も国家による検問ではない場合もある。信号待ち1つでも誘拐の危険性は高まる。通勤ルートは、なるべく車が止まる可能性の少ない道を選ぶのが妥当だという。 

また、フェイスブックなどのソーシャルメディアからの個人情報や行動予定の流出を避けるのは当然として、例えば公共料金の領収書をゴミ袋に入れて捨てるだけで、ゴミ袋を漁られて生活水準や、ひいては誘拐した場合の身代金の支払額まで推測されてしまう恐れもある。個人情報が書かれている領収書や請求書などは、可能な限り焼却するか、シュレッダーにかけてから破棄したほうが良いだろう。

 

有事の際の大使館の活用 
実際に社員が誘拐事件に遭ってしまった場合、企業はまず何をどこに連絡すればいいのだろうか?実際にマニラでは2013年に日本人が誘拐されているほか、2014年にはフィリピン全土でドイツ人、中国人、韓国人などが被害に遭っている。 松永氏は「実際に誘拐事件が発生した場合には、事案の性格上きわめて慎重かつ専門的な対応が必要とされるため、真っ先に日本大使館に連絡してほしい。情報管理の観点からは、所轄の警察に連絡するのは得策とは言えない場合もある」と話す。大使館から、警察の中の誘拐専門部署に話を通じることができる場合もあり、対策もスムーズに進めることができるからだ。誘拐事件発生時に、メディア対応は大変重要な要素になる。新聞に掲載されたばかりに、人質が殺されないとも限らない。フィリピン警察の誘拐専門部署は、誘拐対策のプロ集団なので不用意にメディアに情報が流れることはない。

 

外務省HPの「安全対策基礎データ」をチェックせよ
外務省の海外安全ホームページは有用な情報が豊富に掲載されているサイトだが、海外危機管理に必要な情報を収集する場合、「危険スポット・広域情報」に目がいきがちだ。しかし松永氏は、併せて「安全対策基礎データ」も確認してほしいと話す。 

実際に同データを見てみると、犯罪発生状況や具体的な防犯対策からはじまり、テロや反政府活動の状況、強盗や窃盗のその国における特徴、タクシーや飛行場でのトラブルや、警察や公共職員がどのくらい信用できるかといったことまで、具体的な事例を盛り込みながら現地の様子を解説している。 

「海外出張に来る場合、外務省のホームページや現地の駐在員などからさまざまな情報を収集し、まずリスクを回避・予防するための『自分の身は自分で守る』行動を徹底してほしい」と松永氏は注意を呼びかけている。

 

以下、外務省 海外安全ホームページ フィリピン「安全対策基礎データ」より抜粋
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure.asp?id=13

『日本人が巻き込まれやすいトラブル』 
フィピンにおいては次のような例も報告されていますので、リ一層の注意が必要です。

(1)美人局(つつもたせ) 
フィリピンにおいては,日本人を含む外国人を狙った買春絡みの恐喝,いわゆる美人局が発生しています。これは,誘いに乗らなければ未然に防ぐことができるトラブルです。なお,買春は違法行為であり,状況によっては最高で終身刑が科される重大犯罪となります。

(2)麻薬等違法薬物の押し売り 
繁 華街等を散策中,路上で麻薬等違法薬物の押し売りに遭い,興味を示した結果,何らかの薬物を手渡されたところに突然警察官が現れ,逮捕されるといった例が 報告されています。フィリピンにおいても麻薬等違法薬物に係る規制は非常に厳しく,外国人も例外ではありません。警察により前述のような“おとり捜査”が 行われたり,密告者に報奨金が払われたりする場合もあり,中には報奨金目当てで外国人観光客を陥れようと声をかける密売人もいるようです。

(3)いかさま賭博 
マ ニラ首都圏やセブにおいては,いかさま賭博事案の発生が報告されています。ショッピング・モールや繁華街等を散策中,見知らぬ男女から「妹が日本に留学す るので,日本の事情を話してあげてほしい。」等親しげに声をかけられ,自宅と称する建物に巧みに案内されてお茶などをごちそうになっていると,カジノの ディーラーをしているという家族の一員が現れ,「トランプゲームに必ず勝てる方法を教えてやる」等と言われ,話に乗ってゲームを始めると,最初は少額を賭 けて勝ち続けるものの,徐々に高額を賭けることになり,最終的には多額の現金を巻き上げられてしまうというものです。途中でゲームを止めようとすると,ナ イフや銃器で脅されたり,監禁されて多額の現金を巻き上げられたりする例もあります。このような事案でも,当事者が自主的に賭博に応じたと当局が判断すれ ば,場合によっては被害者とはみなされず,逆に違法な賭博を行ったとして罪に問われることもありますので,儲け話には乗らないようにする等の注意が必要で す。