正しいマスクの装着方法を指導するスリーエムジャパン安全衛生製品学術部の片岡克己主任

 

新型インフルエンザ感染対策にマスクを備蓄する企業は多いが、マスクの種類や正しい装着方法をしっかりと伝えている企業はどのくらいあるだろうか。

用途と違うマスクを使用したり、しっかり顔にフィットしていなければその効果は半減するという。欧米では、マスクのフィットテストを企業に義務化し、マスクを装着する従業員には毎年マスクの正しい装着方法に関する講習会などを義務付けている国が多い。

1960年代に世界で初めて現在のマスクの原型を開発したスリーエム社日本法人に、正しいマスクの使用方法について話を聞いた。

編集部注:「リスク対策.com」本誌2015年9月25日号(Vol.51)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年10月23日)

 

現在、一般に使用されているマスクが開発されたのは1960年代の米国。当時、マスクといえば今でいうガスマスクのような、重く、苦しく、会話のしづらいものしかなかった。当時の米国スリーエムの技術者が、マスクに吸水性の高い不織布を利用することを思い立ち、主に工事現場で発生する粉じんなどから呼吸器官を防護するために開発したのが、現在のマスクの原型だ。 

 

「一般的に日本で『マスク』と呼ばれているものはサージカルマスク、フェイスマスクと呼ばれるもの。組織内で重要な業務に携わり、インフルエンザなどの感染リスクを少しでも減らす必要がある場合には「N95」と呼ばれる粉じんマスクが有効です」と話すのは、スリーエムジャパン安全衛生製品学術部の片岡克己主任。 

インフルエンザなどの感染の第一歩は、感染者からの“くしゃみ”“せき”や“会話”による飛沫感染だ。感染者から出される飛沫を吸い込んだり、あるいは飛沫が何かの物体に付着し、それを誰かが運ぶことによって感染は広がっていく。片岡氏は、「まず大事なことは、発生源である感染者にサージカルマスクを着用してもらい、周囲への感染スピードを遅らせること」と話す。インフルエンザなどの感染症が流行る兆しがあれば、感染しているか、していないかに関わらずマスクをした方がより安全といえる。

マスクの役割 

マスクにはいくつかの種類がある。現在、日本国内でマスクと呼ばれて安価で市販されているものはほとんどが「サージカルマスク」や「フェイスマスク」と呼ばれるものだ。サージカルとは、外科・手術という意味。もともとは、手術中に外科医の唾液などが患者の手術部位に付着しないように開発されたものだ。不意な患者の出血が、医者の口や鼻などに入り込まないよう防御する役割もある。 

一般に、感染者の口から飛び出すウイルスをふくんだ飛沫は、直径5μm〜180μm程度。くしゃみなどの場合、口から2m程度放出され、1秒間に30〜80㎝という速さで落下するという。サージカルマスクやフェイスマスクの目的は、このウイルスをふくんだ飛沫をできる限り食い止める事だという。 

では、患者の口から放出したウイルスを吸い込まないようにするにはどうすればいいか。もちろんサージカルマスクやフェイスマスクでも一定の効果は見込めるが、組織のなかで特に重要な業務に携わり、感染症リスクを減らす必要がある場合に有効なのは、「N95」と呼ばれるタイプの高性能マスクだ。

必要に応じて高性能マスクを 
「N95」とは、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)で定められたマスクに対する性能区分の1つ。N・R・Pの3段階で95、99、100の3区分、計9クラスに分けられたもので、そのなかでもN95は最低クラスの規格だ。それでもNIOSHの認定基準では、空気力学的中位径0.3μmの微粒子を95%以上カットすることを求めており、効果は高い。実は0.3μmは不織布では最も捕集しにくい大きさで、それ以上でもそれ以下でも捕集は容易になると言われている*。また、N95は鼻からあごの下まですっぽりと覆う形になっているいわゆる「半面形状」。正しく装着し、隙間を可能な限りなくすことでウイルスなどのハザードから呼吸器を保護することが可能になった。 

もう1つ、同社がBCPにN95を推奨する理由は、P100などの超高性能のマスクは1枚2000円ほどと高価なのに対し、N95は1枚100円〜300円と安価で、しかも高い予防効果が期待できるからだという。

*それ以下の場合、比重が軽くまっすぐに飛べないため、いわゆるブラウン運動により拡散して繊維の表面に捕集される

フィットテストを怠るな!

最近では、化学物質を扱う工場や企業の感染症対策などのBCP(事業継続計画)の備蓄品としてN95を使用するケースが増えている。しかし、片岡氏は「フィットテストをするなど、正しい装着方法ができなければN95の効果は半減する」と話す。冒頭既述したように、欧米では従業員に対するフィットテストは企業の義務になっており、年に一度正しいマスクの装着に関する講習会を開くなど、非常に厳しい労働安全衛生行政を施している。「例えば、マスクを外す時もマスク本体には触らずに、ひもだけを指先でひっかけながら外すように指導している。マスク表面にはウイルスが付着していることが考えられるので、そこを手で触ってしまえば2次感染の可能性が出てくる」(片岡氏)。

スリーエムでは、マスクの正しい装着訓練やフィットテストの普及活動を広く展開しているという。N95の正しい装着の仕方を、ここに記載した(ダウンロード可能)。企業のBCP担当者はぜひ一度自分で装着し、その違いを確かめてほしい。

(了)