一般財団法人海上災害防止センター
石油コンビナートなど自衛消防の能力向上が目的

石油コンビナートや危険物を取り扱う工場を持つ企業の自衛防災組織らを対象にした消防能力向上のための自主基準がこのほど策定された。米国防火協会(NFPA)基準に準拠したもので、基準の策定にあたっては、石油、石化、電気、ガス、鉄鋼など各種団体の関係者をメンバーとした「危険物火災に対する消防能力向上に関する検討会」(委員長:東京理科大学小林恭一教授 事務局:危険物保安技術協会)が、国内で発生した危険物火災の事例や課題、海外の教育訓練の手法、訓練施設のあり方などを検討してきた。 

 

検討会では、今後発生が予想される大規模災害に対する備えとして、自衛消防組織が協力して円滑な消火活動を実行するためには、①(消防能力に関する)自主基準の策定、②必要な訓練施設の整備、③習得した技能の維持―が必要であるとし、①~③の具体的なイメージを報告書に盛り込んだ。これを受け、一般財団法人海上災害防止センター(以下、海災防)では、今後、既存の訓練施設を拡充するとともに、自主基準にそった災害対応基礎コース、コンビナート火災実習コース、コンビナート火災指揮者コース(いずれも仮称)の合計3つの訓練コースを開設していくしている。 

海災防は、船舶の海難事故などによる油や有害液体物質の排出、船舶火災などによる海上災害が発生した場合、油などの防除や消火活動にあたる災害対応のプロフェッショナル集団である。東日本大震災でも、千葉県市原市の製油所で発生した爆発火災に対し、海災防所有の2隻の大型化学消防船「おおたき」「きよたき」をすぐに派遣し、同製油所の自衛消防組織や周辺事業者で構成する共同防災組織、市原市消防局、東京消防庁らと共に、10日間におよぶ消火活動にあたった。現在、海災防では全国85港湾の防災事業者(162社)と排出油等防除措置の実施に関する契約を結び、全国ネットの防災体制を確立しているほか、東京湾に浮かぶ離れ小島にある海災防所有の実火災を再現できる本格的な消防訓練施設を活用し、民間・公設の消防隊への教育訓練を実施している。 

海災防は、横浜市の本部、神戸市の西日本支所の他、全国6カ所に駐在所を設け、さらに全国45カ所に油回収装置などの資機材も配備している。

 

NFPA472、600、1081の概要


今回、検討会により策定された自主基準においてモデルになったのがNFPA基準だ。NFPAは1896年に創設された国際非営利団体。火災をはじめ、さまざまな災害から人命と財産、環境を守るため300以上の規定と基準を作成し国内外に普及させている。 

今回の自主基準には、以下3つの規格を採用した。
①特殊な防護服を着用し資機材を使って危険物の流出をコントロールし、人と環境を保護するためのNFPA472
②火災の際に防衛線となる一次対応者にとって必要最小限の体制や作戦や訓練、装備、消火方法や消防士の労働安全衛生の確保について示したNFPA600
③NFPA472と600を満たした産業施設消防隊員にとって、より高度な専門基準であるNFPA1081 

これらに基づき、①NFPA472に準拠した「災害対応ベーシックレベル」(3日間程度)、②NFPA600に準拠した「災害対応テクニシャンレベル」(3日間程度)、③NFPA1081に準拠した「災害対応プロフェッショナルレベル」(5日間程度)に体系化し、海災防ではそれぞれのレベル(基準)に対応した①災害対応基礎コース、②コンビナート火災実習コース、③コンビナート火災指揮者コース(いずれも仮称)を設定していく考えだ。 

各コースで具体的に身に付ける知識・技能は以下の通り。それぞれ、習得すべき知識および技能・能力の証明方法、能力評価の基準も示されている。

【災害対応基礎コース】
▼危険物事故対応のための情報収集(安全データシート)の活用、▼各種ガス検知器の概要、選定および取扱い、▼各種呼吸用保護具の概要、選定および取扱い、▼各種防護服の概要、選定および取扱い、▼危険範囲の設定、▼汚染拡大防止策および危険物漏えい防止策、▼除染作業、▼事故対応計画の策定▽火災爆発のメカニズム▼消火剤

【コンビナート火災実習コース】
▼基本消火戦術、▼各消火隊指揮要領(ハンドホースを主体)、▼消火器による消火、▼消火ホース・ハンドリング・コマンドの習得、▼危険物施設火災消火戦術、▼ガス火災基本消火戦術、▼タンクローリー火災消火戦術、▼防油堤内火災消火戦術

【コンビナート火災指揮者コース】
▼火災事故事例研究、▼輻射熱に対する危険距離、▼火災消火設備(大型油貯蔵タンク、LNG・LPGタンク等)、▼応用消火戦術(大型油貯蔵タンク、LNG・LPGタンク等)、▼危機管理、▼自衛消防隊指揮運用要領、▼ICS、▼大型油貯蔵タンク火災消火戦術、▼大型プラント施設火災消火戦術、▼可搬式放水砲による消火活動、▼危険物施設消火机上演習

 

認定者にワッペン
上記コースを修了し、消防能力の認定を受けると、技能・能力が他からもわかるようワッペン、またはシールが授与される。一定能力・技能を有することが認められたという個人のモチベーションの向上につながるほか、火災事故発生時において、外部から消火活動に加わる公設消防、共同防災などがその者の能力・技能のレベルが一目でわかり、連携のとれた効果的な消火活動が行いやすくなるという狙いがある。 

さらに、これらのコースにより習得した技能を維持・向上させていくためリフレッシュコースを設置。5年ごとの再講習も促していく。

 

訓練施設の整備が課題
課題としては、コンビナート火災指揮者コースの実施が難しいことが挙げられている。現状の訓練施設では、炎を使った大型高所放水車による消火訓練ができないからだ。「日本で唯一、大きな炎を使って消火訓練ができる第二海堡でも車体の大きい高所放水車を動かして消火訓練するほどのスペースが確保できない」(防災訓練所次長の大森春生氏)。そのためにも、今後、既存の訓練施設を拡大させ、本格的な自主基準に基づいた訓練を開始したい意向だ。 

防災訓練所長の池田耕治氏は「東日本大震災で問題になったのは隊員の技能と組織間の連携です。大規模災害で自衛消防組織が効果的な消火活動を行うためには、消防隊員一人ひとりがこの基準に合わせて技術を磨き、一体となった消火活動がどうしても必要です。そのためにも今回策定されたような自主基準は必要であり、実火災を再現できる本格的な消防消火訓練施設を有する海災防としては、我々の責務としてこの自主基準に基づく訓練を提供していきたい。また、炎は風向きの変化に合わせて生き物のように動く。現場での素早い状況判断が消火スピードを左右します。実際に炎を目の前にしない訓練にはこの点に限界がある。なんとかして大型高所放水車で使える訓練所を第二海堡において整備したい」と意気込みを話している。 

今回策定された基準はあくまでも自主基準で、海災防が計画している各種訓練コースについても、その受講は各企業の自主性に委ねられている。しかし、池田氏は「昨今の民間事業者のコンプライアンスや企業の社会的責任への意識の高まりや国民の関心からも、各企業における積極的な取り組みに期待したい」としている。