株式会社日立物流では、東日本大震災での燃料不足を教訓に「燃料調達BCP」を策定した。災害時に同社所有のトラックや外注協力会社のトラックが3日間は運行できる燃料を平時から燃料会社に備蓄してもうとらともに、災害時には専属のタンクローリーが同社の要請に応じて各備蓄拠点から燃料を必要とする営業所に向けて出動できる体制を整えている。

編集部注:この記事は「リスク対策.com」本誌2016年1月25日号(Vol.53)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年11月28日)

東日本大震災で、同社は茨城県日立市などを中心に深刻な燃料不足に直面した。同社安全管理本部リスクマネジメント部の沖山雅彦部長は「震災直後は、トラックなどに給油する燃料の確保が困難な状況に陥り、震災後1~2週間は、当社が調達した燃料を地元の外注協力会社の自家給油所(インタンク)に給油し、共同で利用する場面もありました」と振り返る。ようやく落ち着きが戻ったのは震災から3週間ほどが経った時期だった。

同社では、医薬品や食品など、災害時に途切れさせることが許されない商品も多く扱うことから、震災後、BCPを策定するとともに、燃料調達を確実に行うための「燃料調達BCP」の検討を別途開始し、昨年3月までに体制を固め運用を開始した。内容は、災害時に同社所有のトラックや外注協力会社のトラックが3日間は運行できる燃料を平時から燃料会社に備蓄してもらうとともに、災害時には専属のタンクローリーが同社の要請に応じて各備蓄拠点から燃料を必要とする営業所に向けて出動できる体制を構築するというもの。

具体的なスキームを策定するにあたり最も苦労した点について沖山氏は「備蓄数量をどう見積もればいいかに悩みました」と振り返る。同社は、国内に大小合わせて364の事業所を持つが、すべての事業拠点を対象にするのか、絞り込むとすれば条件はどうするのか、自社の所有するトラック燃料だけを対象にすればいいのか、外注協力会社の車両までを含めるのか、自社で備蓄するのか、燃料会社に委託するのかなど検討すべき項目は多かったという。

 

メリット・デメリットを比較

結局、対象とする事業所については、政府が発表している全国の地震動予測地図を参考に、今後30年以内に震度6弱以上の揺れが発生する可能性が50%以上の地域にある事業所を中心に選定した。さらに自社の所有するトラックのウエイトが少なくなってきていることから外注協力会社の分も含めて燃料を確保することにした。

自社のインタンクで備蓄するか、燃料会社のタンクを借りて備蓄をするかについては、それぞれの長所短所を比較検討した結果、燃料会社に委託することにした。インタンクなら融通がきくし、安心感・安定感も高まるが、タンクを作るとなると、費用だけではなく時間がかかる上に空きスペースを確保しなくてはならない。

一方、燃料会社に委託する場合は、契約通りに災害時に履行できるかという不安は残るが、この点は貯蔵契約・配送契約で非常時を意識した内容を盛り込んだ。また実務面においても、連絡体制・訓練などを通して、自社で新たにタンクを作り備蓄するよりも、燃料会社に委託した方が備蓄の数量に応じてコストが設定できることや設備投資・維持管理が不要になることなどのメリットを重視した。

燃料の運搬については、トラックにドラム缶を積んで取りにいくのか、タンクローリーを使うのかを検討した結果、積み下ろしの手間が少なく一度に大量に運べるタンクローリーにすることを決定した。

最終的には、対象地域の営業所が配送で消費する通常時の軽油数量に対して、災害時における営業所の操業度を50%と設定し、3日分の必要燃料を算出。ここから、インタンクの備蓄数量を差し引いて、災害時に新たに調達が必要となる軽油数量を計算し、それを燃料会社に平時から備蓄しておいてもらうことにした。

「7日分、10日分を備蓄するケースもシミュレーションしてみましたが、膨大な量になることから、コストとの関係も考慮し、まずは3日分から行うことにしました」と沖山氏は説明する。対象車両は、同社グループの自家所有トラックおよび、運送を委託している外注協力会社のトラックも加え、備蓄数量は大型トラック約1800台分になる。

燃料会社との契約
一方の燃料会社は、主幹事会社が中心となり協力提携先の燃料業者と連携して対応にあたる。主幹事会社は関東地区の3県(埼玉県、千葉県、神奈川県)、中部地区(愛知県)、関西地区(大阪府)に専用の貯蔵タンクを確保し、必要燃料を常時備蓄する。災害時には、日立物流からの要請に応じて、必要量を即座に調達できるようにする。燃料会社の貯蔵タンク(営業拠点)がないエリアにおいては、地元の燃料会社との間で災害時燃料の貯蔵配送の相互協力・体制を構築し、こうした各地の燃料会社の貯蔵タンクなどを拠点として活用する。

東日本大震災では、タンクローリーの需要が高まり車両を手配できなかった業者が多かったことから、同社では、あらかじめタンクローリーとドライバーを専属で確保。車両は車番を特定し、各県に対し災害時緊急通行車両の事前届け出も行っているという。

このスキームを実現するための契約については、燃料会社の与信リスクを回避するため、同社の窓口である「燃料商社」との間で業務委託契約を締結し、商社と主幹事となる燃料会社が別途、業務委託契約を締結する方式をとっている。

今回のBCPは、3日間という限られた期間における燃料調達を実現するものだが、同社では、災害発生直後から動けるようにすることで、病院向けの医療用医薬品の配送やスーパーマーケット向けの食料品などの配送、社会インフラを担う日立グループへの配送など、大規模災害時に優先させる社会機能維持や人命に関わる緊急・配送用を見込んでいるとする。

 

毎月300万円のコスト 
これらの対策にかかるコストとしては、燃料の備蓄・維持、専属配送車両やドライバーの事前確保などで月額約300万円、さらに災害時には軽油代金(供給量に応じて課金)や配送費(主にドライバーの人件費)が掛かるとする。  

沖山氏は「平時に生じるランニングコストについては、大規模災害が発生して初めてその効力が発揮されるという点から、事業継続・社会機能維持のための必要経費であり、大規模災害に備えた保険料という性格も持っていると考えています」と話す。  

また、災害時にかかる軽油代金については、毎月頭に燃料商社から当月の軽油代金の見積書が提示され、災害時に燃料が急騰したとしても、その月内で備蓄燃料の供給を受けた場合は、見積書記載の軽油単価が適用される仕組みだ。

在庫証明書を提出
現在、同社が特に力を入れているのが実効性の確保だ。「毎月、数百万円というお金を支払っているわけですから、万が一の際でも機能しなかったというわけにはいきません」(沖山氏)。

まず、備蓄燃料を確実に把握するために、主幹事の燃料会社には、毎月、在庫証明書を提出させている。備蓄燃料の劣化対策としては「流通在庫備蓄」方式を採用。貯蔵タンク内の燃料のキープ&リフレッシュを図っている。さらに、災害用燃料を備蓄する拠点が、被災により、稼動不能となったときは、他のバックアップ拠点から燃料供給が行えるよう備蓄拠点間には定期的に連携体制を確認するようにしている。  

専属となるタンクローリーは、車両側面にその旨のステッカーを貼付。当該車両のドライバーは正・副2人を登録し、バックアップ体制も確保する。日常的な教育により、災害時には専属配送ドライバーとなる認識を持たせているという。  

このほか、災害時に相互に連絡を取り合う担当者を特定するとともに、燃料会社や各備蓄拠点の責任者、専属配送ドライバーなども含めた「緊急連絡体制表」を作成。人事異動などにより登録内容に変更が生じた際には、すみやかにその旨を連絡し、体制表の更新を行い、常に最新の状態に保つよう努めているとする。「タンクローリーによる模擬給油訓練」など、各種対応訓練を実施することにより、燃料会社との間の災害時対応力の向上も図る。

年2回の実地監査を実施
こうした活動が継続的に取り組まれていることを確認するため、同社と燃料商社では合同で、備蓄拠点に対する実地監査を毎年5月と11月の2回実施することにしている。災害時の通信機器の設置状況、非常用自家発電機の設置・稼動状況、災害用備蓄品の備蓄状況など、災害時の拠点として機能するかどうかも含め、監査する。 

今後の課題は、九州や北陸などへの備蓄拠点の展開と、従業員のマイカーなどの燃料となるガソリンの確保、さらには情報通信システムなどを支える施設の非常用発電の燃料となるA重油の確保だという。 

沖山氏は、「本社が使えなくなったときの対応、災害対策本部要員の確保、BCP体制移行後の対応など、まだ課題はいくつかありますが、事業の現実的な継続に向け、当面できることを解決しいていくことが大切だと思っています」と話している。

(了)