佐川急便を中核に物流インフラを担うSGホールディングスでは、事業継続マネジメントと環境マネジメントの取り組みを併せて行うことで、平時から燃料への依存度を低くするとともに、災害時にも確実に事業が継続できる体制を構築している。環境負荷低減に加え、企業としてのエネルギーセキュリティの観点から天然ガス車を積極的に導入するなど、事業の効率化に加えて車両そのものを減らすことで有事の燃料調達をできる限り避ける。これまでの成果を聞いた。

編集部注:この記事は「リスク対策.com」本誌2016年1月25日号(Vol.53)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年11月28日)

国土交通省の調べによると、全国の企業や個人間における宅配便の取扱個数(1個口30㎏以下)は年間36億1400万個にのぼる。

このうち、同社が取り扱うのは約12億個と全体の3分の1に相当する。このデリバリー事業を支えるのがグループ全体で約2万5560台ある貨物車両だ。車両の燃料を確保することは、同社の事業においては欠かすことができない。 

しかし、燃料確保に関する方針は近年変化してきているという。同社リスクマネジメント・コンプライアンスユニットの幡谷剛シニアマネジャーは「BCPの観点から軽油、ガソリンなどの燃料を備蓄確保することに注力してきましたが、一方で、物流会社として、エネルギー使用の抑制など、環境への負荷低減が社会から求められていることもあり、今ではBCPと環境を切り離して考えることはできません」と語る。

京都に本社を持つ同社は、1997年の気候変動枠組条約(京都議定書)の合意以来、全社をあげてCO2の削減に取り組んできた。これらを別々に考えるのではなく、一体的に取り組むことで相乗効果を出すというのが、同社の方針だ。

震災翌日に200人を派遣

2011年3月の東日本大震災では、佐川急便の石巻や気仙沼などの営業拠点が被災する中、翌日から救援物資の輸送を開始し、3月13日には、ドライバー200人とトラック100台を東北エリアに向け派遣した。

そして震災6日後の17日からは、地域住民が営業所まで行き本人確認ができれば、荷物が受け取れる体制を整えた。

東日本大震災での対応について、幡谷氏は「物流は社会のインフラであり、被災地においては生命線であることを再認識しました」と振り返る。

インタンクで燃料不足を乗り切った
全国的にガソリンや軽油の不足が深刻化する中、同社も、震災1週間後ぐらいから車両燃料が不足し始めたが、あらかじめインタンクを整備して燃料を備蓄していたことから大きな影響は避けることができた。 

さらに、ガソリンや軽油に頼らない天然ガストラックを4019台導入し、全国22カ所に専用の天然ガススタンドを自社設置するなど、車両と燃料を効果的にミックスし、分散配備していたことも功を奏した。この数は、国内の天然ガストラックの普及台数の約21%に達し、トラックの保有台数としては世界一に認定されている(2011年9月国際天然ガス自動車協会調べ)。こうした燃料マネジメントが同社の災害対応を支えた。

BCPの再構築
震災後、傘下の佐川急便は災害対策基本法で定める指定公共機関に指定された。有事が発生した際は国の指定に基づいて救援物資などの緊急輸送をしなければならない。世間からも震災後は、災害時における物流事業者への期待が高まった。こうした状況を受け、同社では、2011年からグループ事業会社単体のBCP構築はもとより、社会インフラとしての責任を果たすため、デリバリー、ロジスティクス、情報システム、物流不動産といった事業会社各社が受け持つリソースを融合させた「グループ連結型BCP」の構築に踏み切った。 

グループ全体のBCPの目標は、原則としてデリバリー事業を中断させないこと。万が一止まるようなことがあっても1日以内で復旧させる。そして甚大な被害をもたらす大規模災害が発生した場合は、被災地においては1週間以内の営業所受取サービスの再開を目指す。営業所が被災したら他の営業所が業務をカバーするなどの代替戦略を柱に据える。 

燃料戦略については、全国127カ所のインタンクの運用を見直し、事業所ごとに異なっていた備蓄量を常時70%以上確保しておくことに改めた。インタンクの大きさにより異なるが、1週間程度の車両燃料は賄うことができる体制を整えている。

リソースベースで計画策定
同社のBCPは、地震や火災、新型インフルエンザなど、災害の事象別に対応計画を考えるのではなく、自社の建物や設備、IT・情報システム、人的資源など、優先業務に影響を及ぼすリソースが使えなくなることを想定した内容になっている。建物なら代替拠点の確保、設備なら早期の代替品の確保、システムならデータセンターの二重化などにより、いかなる事象でも柔軟に対応できる。「危機管理に関する文書体系が一元化できるうえ、想定外のリスクや、想定外の罹災度合いになることも防げる」(幡谷氏)。また、BCPの上位概念としてリスクマネジメント規程を整え、自然災害をはじめ、さまざまなリスクについても、発生前と発生後の手順を定めたマニュアルを整備した。

「事象が発生する前は何をしておくべきなのか、起きてからは何をすればいいのかが一目でわかるようにした」と幡谷氏は説明する。

 

30年間改善してきた災害対応
同社が災害時の対応について本格的な検討を開始したのが1982年に発生した長崎の大水害だ。トラックを使って救援物資を被災地へ運んだが「主要な道路が寸断されていて渋滞して動けない」「全国から到着する膨大な救援物資を迅速に仕分け処理しなければならない」「必要な物資を必要な分だけ被災者へ届けなければならない」などの課題に直面した。これらの課題を教訓に、災害対応の改善に取り組んだ結果、1995年の阪神・淡路大震災では、多くの困難を克服することができたという。

道路交通網の多くが寸断したが、震災翌日には、滋賀県の琵琶湖近くにある保養所の運動場に全国から集まる物資を集積し、そこからヘリコプターに積み替えて神戸に運び、さらにそこから現地の車両に荷物を移して避難所に送り届けた。がれきで通れない道は、台車で運ぶなど人力で届けた。 

長崎の大水害で2つ目の課題であった、全国から到着する膨大な物資の仕分けについては、神戸の営業所が液状化により使用不可となったことから新幹線の新神戸駅ターミナル下を代替拠点にして神戸市内への救援物資輸送の対応にあたった。膨大な物量を仕分けるためには、荷物の積み降ろし場が設置できる屋根つきの広いスペースが必要となり、搬入・搬出の車両動線も考慮しなくてはならない。新神戸駅はこうした条件をすべて満たしていた。その後も、代替拠点を拡大させるとともに、仕分け作業を効率化させた。「災害時のデリバリー事業において代替拠点の早期確保は最も重要」と幡谷氏は説く。 

そして、必要な物資を必要な分だけ被災者に届けるという課題については、避難所への配送時に、次の配送で何がどのくらい必要かを聞き取り連絡票で管理するいわば「災害時の御用聞き」の取り組みを行うことで解決した。 

阪神・淡路大震災における救援活動では、延べ1万1000人のドライバーと6200台のトラックを使った。

こうした過去の災害対応の経験と燃料マネジメントに象徴される環境への取り組みが同社のBCPの根底にある。

燃料の使用量を減らす
燃料マネジメントでは、常時から使用量を減らすことで、災害時など緊急調達に頼らなくても事業が継続できる仕組みを目指している。自社が使う軽油の使用量を減らせば、現行の備蓄量にもプラスアルファが生まれるというわけだ。 

その象徴とも言える取り組みが、幹線輸送をトラックから鉄道や船舶へ転換する「モーダルシフト」だ。2004年からは、日本貨物鉄道(JR貨物)と共同開発した世界初の電車型特急コンテナ列車「スーパーレールカーゴ」を運行している。東京と大阪を6時間で結び、積載量は上下各1運行で、10トンの大型車56台分に相当するという。スーパーレールカーゴ、それ以外の鉄道輸送、海上輸送を合わせた年間のトラック削減台数は、10トントラック8万5447台に達する。環境負荷の低減だけではなく燃料問題の解消、さらには、交通事故防止や長距離運転による労務問題の解決にもつながる。

もう1つは、大規模な荷物の集約施設であるハブセンターの整備だ。行き先ごとに荷物を集約して仕分けることで輸送を効率化し、トラックの使用便数を減少させている。これまでに全国で25カ所整備した。 

2014年には、東京都心部にゼロエミッションの商用電気自動車(EV)を導入した。燃料を使わないだけでなく、災害時には、走る蓄電池にもなる。 

さらに、燃料備蓄に頼らない仕組みとして、東京、大阪、名古屋、福岡の都市部を中心に340カ所のサービスセンターを設置。台車や自転車を用いた人力での集荷配達により、車両1500台相当の抑制につながっているという。

 

このほか、ソフト面では全車でアイドリングストップを推進する。「宅配荷物の取扱い個数がひと昔前に比べ格段に増えているということを考慮すれば、燃料の備蓄体制の維持と、緊急調達の確実性を上げるという施策だけではいずれ限界がくるでしょう」と幡谷氏は使用量削減の重要性を補足する。 

これらの取り組みにより、環境面では年間16万2000トンのCO2削減を達成しているほか、燃料費などの大幅なコスト削減にもつながっており、BCP、環境、経済の一挙三得を実現している。

(了)