「スーパー堤防事業」廃止を批判
ゲリラ豪雨と洪水の危機

 

東京都や企業の危機管理担当者らでつくる「危機管理に関する勉強会」(塾長:東京都総合防災部情報統括課長齋藤實氏)は10月27日、「ゲリラ豪雨と洪水の危機―水災害の知識―」をテーマに開き、水災害に立ち向かうチーム水・日本「海抜ゼロメートル地帯防衛計画チーム」メンバーをゲストに招き、洪水による被害や、海抜ゼロメートル地帯が区の面積の7割を超える江戸川区における取り組みなどについて学んだ。

勉強会では、江戸川区土木部長の土屋信行氏が、江戸時代以降の関東平野における河川改修事業などについて説明し、「人口河川である江戸川や荒川ではいつ洪水被害が起きてもおかしくない」と指摘。都心側の堤防は厚く高く、逆の江戸川区側の堤防は薄く低くなっているため、洪水が発生すれば、確実に江戸川区側に大きな被害が出ると対策の重要性を訴えた。

その上で土屋氏は、民主党の事業仕分けにより廃止が決まったスーパー堤防事業について、「リスクについて発生確率が下がったのか、被害総額が下がったのか、そこに何も言及しないで、いきなり金がかかる、時間がかかる、この2つだけで国民の命を守る治水事業切り捨てようとしている」と批判した。

冒頭、齋藤塾長は「今年は水災害を考える元年。4月には内閣府が(大規模水害対策に関する)専門家会議の報告を出し、9月1日にはNHKスペシャルで都市洪水が取り上げられ、さらにこれまで地震と新型インフルエンザ対策として考えられてきた企業のBCP(事業継続計画)についても、豪雨対策が必要だという認識になってきた」とあいさつ。このほか勉強会では、チーム水・日本のメンバーが、その活動内容や水災害の被害と対策などについて報告した。発表者は以下の通り。

【チーム水・日本「海抜ゼロメートル地帯防衛計画チーム」】
・江守商事㈱ 山内格氏
・国際航業㈱ 佐伯博人氏
・日本上下水道設計㈱ 山下三男氏

勉強会への問い合わせ、申し込みは事務局(sjuku1@gmail.com幹事代表:上田悦久氏)まで。

 

 


 

講演録

江戸川区土木部長 土屋信行氏

洪水は必ず起きる
1兆円の工事費か、34兆円の被害か

 

私どもが取り組んでいるのはリスクマネジメントだ。発生確率と影響度から洪水被害のリスクを保有領域までいかに下げるかを考えている。スーパー堤防事業が廃止にされた議論には、発生確率が下がったのか、被害を低減することができたのか、という点がまったく言及されていない。金がかかる、時間がかるという2つの理由だけで、国民の命を守る治水事業を切り捨てようとしている。

江戸時代に東遷事業により、東京湾に注いでいた利根川は、太平洋側の銚子に付け替えられた。水は低い方にしか流れない。大きな洪水がくれば、もともとあった河川の河道にしたがって流れる。江戸時代には250回の洪水が起きた。明治43年には東京大洪水が発生し、これを機に明治政府は約25㎞におよぶ荒川放水路を整備した。

その際、都心を守るため都心側の堤防は高く、反対の江戸川区側は低く作られた。洪水が来れば必ず江戸川区側が先に崩れる。都市をつくる上で都心側を高くすることは常識だが、反対側に現在120万人の市民が暮らしている。さらに、地下鉄が通り、共同溝もつながった。これによって、江戸川区側に洪水が起きれば、地下鉄・共同溝を通じて、都心も水没することになる。

台風の被害はさらに深刻だ。低気圧が海水を吸い上げ半径10㎞とか20㎞という水の固まりとなって、そのまま上陸してくる。大正6年には高潮により1800人が亡くなり、その後も昭和22年(カスリーン台風)、24年(キティ台風)と相次いで大きな被害を及ぼした。

地震が起きればさらに被害が複合的に甚大になる。阪神淡路大震災では淀川の堤防が壊れた。1カ所でも堤防が壊れたら、たちまち水が入ってくる。

洪水は必ず起きる。50㎜以上の雨は、30年前は10年間に206回だったが、ここ10年間では318回も発生している。100㎜以上の雨は、1.9回から4.8回へと極端に増えた。総雨量が変わったわけではない。降る時は集中的に降り、降らないときは降らない状況が続いている。さらに、地球温暖化で海面は上昇しているし、台風は確実に大型化している。東京は近年大きな洪水が無かったが、それは、たまたま雨が降っていないからにすぎない。

50年間雨が降っていないから大丈夫、60年間洪水起こっていないから、もう治水事業は十分だというのは間違い。地球上で洪水を起こす熱帯性低気圧は3つしかない。インド洋で起こるのがサイクロン、大西洋で起こるのがハリケーン、太平洋で起こるのがタイフーン。そしてタイフーンの限られた進路の中に、日本があることを認識しなくてはならない。

ハリケーン・カトリーナでは2000人以上の命が失われた。この洪水が起きる1年前にナショナル・ジオグラフィックが、ミシシッピー川の堤防は補強しないと大変なことになると警鐘を鳴らしていた。工事に必要とされた費用は20億ドル。ブッシュ政権は無視し、結果的に1250億ドルの被害が発生した。

今、利根川水系は洪水の発生で34兆円の被害出ると言われている。廃止の方向性が示されているスーパー堤防事業と八ツ場ダムの事業費を全部あわせてもせいぜい1兆円ぐらいだ。1兆円惜しんで34兆円の被害を受けとめるか。内閣府が出した死者の予想数は都心部で2600人、利根川の上流域まで含めると6300人にのぼる。そこまで分かっていて、なぜ対策を講じないのか。(講演より抜粋)