東京首都圏の高層ビル群(出典:写真AC)

巨大地震のあとに高層ビルの揺れを増幅させて長時間揺れ続ける「長周期震動」。高層になるほど揺れ幅や継続時間が大きい。高さ60メートル以上のオフィスビルやタワーマンションなど超高層ビルは全国に約2500棟あり、その9割が首都圏、大阪、名古屋に立地する。高層ビルの管理者はもちろん、テナントとしてオフィスを構える企業やマンション住民にも十分な知識と対策が求められている。長周期地震動の研究が専門の工学院大学建築学部・久田嘉章教授に伺った。
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「長周期地震動」という脅威

 
東日本大震災が起きた2011年3月11日午後2時46分頃。工学院大学・久田嘉章教授は、新宿超高層ビル群の一角にある大学新宿校舎25階の研究室にいた。校舎は高さ143メートル、全28階建ての高層ビル。高層階では、ガタガタとした短周期の揺れの1~2分後からゆっくりと横揺れが始まり、時間が経つにしたがって揺れが大きくなった。「屋上階で約40 cmに達した」という大きな揺れにより、書棚にあった本や書類など不安定なものが床に散乱し、キャスターの付いたイスやコピー機が移動した。しばらくして揺れは小さくなっていったが、あわせて10数分間以上はゆっくりと不気味に揺れ続けた。「倒れやすい本棚は固定していたので被害は少なかったが、中層から高層階では間仕切壁が変形したり、天井の石膏ボードが落下するなど被害になったところもある。私や研究室の学生は長周期震動と超高層ビルの揺れを理解していたので落ち着いて対処できたが、『このままビルごと倒れるかもしれない』とパニックになる人がいてもおかしくない」と久田教授は当時の様子を振り返る。

「長周期地震動」とは、大規模な地震によって発生する長周期の表面波が震源から数百キロも離れた場所まで伝播し、地質的に柔らかく厚い堆積層がある平野・盆地内で増幅する現象。長周期の超高層ビルや石油タンクなどを共振させて長時間で揺れ続け、大きな被害が出る場合がある。数分間以上も長い時間揺れ続けることを強調して最近では「長周期・長時間地震動」とも呼ばれている。その存在は古くは1923年関東大震災当時から知られていたが、1985年のメキシコ地震の際、震源から400 km以上も離れたメキシコ市で中高層マンションが多数倒壊したことをきっかけに世界中の研究者や専門家のあいだで認知された。日本でも2003年十勝沖地震では震央から約250キロメートル離れた苫小牧市の石油タンクの大規模な火災や、2011年東日本大震災では高層ビルの事例がメディアで取り上げられた。とくに震源地から770キロ離れた大阪府咲洲庁舎(55階建て/高さ256メートル)で、地上階ではほとんど感じない揺れでも、最上階で最大1.3メートルを超える大きな振幅の揺れが約10分間揺れ続け、深刻な室内被害が生じたことが、一般の方にも知られるようになった。

気象庁は2013年に「長周期地震動階級」として4区分をつくり、観測結果を報告している。これによると周期(1往復の揺れにかかる時間)が1.6秒から7.8秒において、速度の揺れ幅が5cm/秒以上、15cm/秒未満(階級1)ではブラインドなど吊り下げたものが揺れる。揺れ幅50cm/秒未満(階級2)ではキャスター付きの家具が動き、揺れ幅100cm/秒未満(階級3)では立っていることが困難で、固定していない家具が動くことがある。揺れ幅100cm以上(階級4)になると這わないと動けず、固定していない家具の大半が移動・転倒する。高層ビルのエレベーターは、階級2程度でも停止する可能性が高い。

2013年気象庁が公表した「長周期地震動階級区分」

超高層ビルに深刻な構造的被害が現れる傾斜レベルは1/100程度とされている。これは高さ100メートルの高層ビルの最上階で揺れ幅1メートル程度。これまで高層ビルで観測されている長周期地震動は1/400〜1/200以下に収まっているが、その範囲でも高さ200メートル前後の超高層ビルの最上階付近では等級2から3程度の揺れが起きている。さらに今後はより大きな長周期地震動の発生が予測されている南海トラフ巨大地震などに対して、このまま安心していられる状況ではない。

長周期地震動の再現映像(出典:気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/choshuki/index.html

求められる建物構造とは


日本では高さ60m以上の超高層ビルが全国に約2500棟あり、その9割が首都圏、大阪、名古屋に集中している。今後予想される「南海トラフ大地震」「相模トラフ大地震」のような海溝型の巨大地震に備えて、事前の対策が求められている。

内閣府は2015年12月、国土交通省は2016年6月に、それぞれ南海トラフ巨大地震による超高層建築等の長周期地震動対策を公表している。特に後者では大きな影響が見込まれる大阪・中京・静岡地域で、高層ビルを新築する際には長周期地震動を考慮した建物の安全対策の実施を求めている。また既存の高層ビルに対しても、南海トラフ巨大地震で想定するM8~9クラスの巨大地震が設計当時の想定を上回る場合には、自主的な検証や必要に応じた補強等の措置を促している。「さらに今後、内閣府による『相模トラフ巨大地震』の長周期地震動の想定結果がまとまれば、首都圏の高層ビルにも同様な対策が求められるはず」と、久田教授は今後対策強化の範囲が広がると予測する。

長周期地震動対策の対象エリア(出典:国土交通省 2016年6月24日報道発表資料 http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_fr_000080.html
 

高層ビルを所有・管理する側では、長周期地震動への荷重負荷を踏まえた耐震診断を行い、必要に応じた耐震補強工事を早急に実施することが望ましい。有効な方法として①長時間地震動による梁端部の繰り返し変形による破断などの可能性の検証を行い、破断の可能性があれば補強する。できれば②制振ダンバーを設置すること。これにより長周期地震動による共振時の大きな振幅を大幅に低減できる。さらに新築であれば③法規上求められる最低基準の耐震性能より数割程度以上は余裕を持たせる耐震性能を施すことが、確実な対処法といえる。

あまり知られていないが、大規模な活断層の近くでは「長周期パルス」、あるいは「フリングステップ/パルス(Fling Step/Pulse)」と呼ばれている大振幅のパルス的な地震動が生じることがある。2016年熊本地震の断層の近くの地震観測でも確認されている。この場合「断層ズレにより活断層直上のビルが短時間で大きく変形するため、制振ダンバーではあまり効果が期待できず、建物変形が起きないよう十分な余裕を持たせた耐震構造にする以外に対策がない」(久田教授)。周辺地盤の状況を踏まえて適切な構造補強を選択する必要がある。

今すでに高層ビルに入居するテナント企業であれば、まずはその建物の直下や周辺に公表されている活断層がないか、ある場合は地震調査研究推進本部や国土地理院、地元自治体等が公表している活断層の危険度(発生確率や断層ズレの大きさ、地震被害想定など)を確認すること。危険性の高い大規模な活断層があれば移転を含めて詳細に検討したほうがいい。どうしてもその建物に入居する必要がある場合は、その建物の耐震性を十分に確認すること。例えば、1981年以降の新耐震基準の建物、さらには2000年以降の建物であれば、仮に活断層の地震が生じても倒壊する可能性は低い。オフィスを移転するなどのタイミングで、移転先周辺の活断層分布とともに、建物の築年数、長周期地震動を踏まえた耐震補強の有無を確認しておきたい。

おさえておきたい5つの対策


被害を最小限に留めるには建物だけの対応だけでは限界がある。室内の安全対策や備蓄、自助・共助などのソフト対策を久田教授に紹介頂いた。
 

①「長周期地震動」の知識と揺れ固定
長周期地震動では大きな揺れが長時間続く。まずは超高層ビルの利用者全員が「長周期地震動と超高層ビルの揺れ」に対して正しい知識を持っていること。超高層ビルが1、2メートルの揺れ幅で揺れても倒壊することはない。だがその知識がないと「このまま倒れるのではないか」と勘違いし、一斉にパニックに陥ってしまう。これにより避難階段に大勢が殺到して将棋倒しになったり、慌てて外に飛び出して落下物にぶつかる方がはるかに危険である。室内では、まずは倒れやすい棚や、落ちやすい重い物、動きやすいキャスター付きの什器、複写機などはしっかり固定し、出来る限り天井落下の補強も施すこと。揺れが収まるまで一人ひとりが事前に確認した安全な場所で待機することが求められる。気象庁では「長周期地震動」の特集サイトをつくり、周知を促している(http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/choshuki/index.html)。
 

  • ② 「孤立化」に対応した訓練
    長周期地震動の場合、一般に高層階ほど揺れが大きくなる。だが防災センターは1階のみ。エレベーターも止まって、通信も輻輳などで途絶し、誰も助けに来てくれない。高層ビル内の高層階では各フロアの入居者が孤立化したまま、同時多発の様々な被害に直面することが想定される。まずは同じ階の入居者が協同し、身の回りにある道具を使って、自分たちだけで直面する事故に対処する対策と訓練が求められる。通常の火災を想定した防災訓練では「避難訓練」を行うが、震災を想定した場合は目の前で起こりうる様々な事故に対応すること「発災対応型訓練」が有効である。地震による長周期地震動で各フロアに孤立した状況を想定し、消火器や屋内消火栓で初期消火する、閉じ込めや家具等の下敷きになった人をバール等で救出する、負傷者の応急手当や担架搬送する、防災センター(災害対策本部)への状況報告といった訓練もあわせて行いたい。(以下サイトでは、工学院大学新宿キャンパスでの「発災対応型訓練」の実例を紹介しているhttps://www.nhk.or.jp/sonae/column/20160637.html)。

工学院大学25階に配備された災害救助品。ケガ人を応急処置をする救急箱、布製タンカー、閉じ込められた人を救出するバールなど。各フロアで「孤立化」することを想定して、自助・共助に必要な道具が揃う


③「高度利用者向け緊急地震速報(予報)」を活用する
また緊急地震速報も有効に活用すべきである。室内にいる人が冷静に対応するには、的確な情報が必要になる。緊急地震速報には、単にテレビ・携帯電話など不特定多数に大まかな情報を提供する「一般利用者向けの緊急地震速報(警報)」と、専用の受信端末等を利用した「高度利用者向けの緊急地震速報(予報)」の2種類があり、後者では許可業者と契約すれば当該建物への予測震度や地震到達時間など詳細な情報が得られる。遠方の巨大地震の場合、高層ビルの管理者であれば緊急地震速報(予報)を活用して、揺れが来る前に初動体制を整え、館内放送で「大きな揺れが来る可能性があり、長く大きく揺れるが、建物は十分耐えられるので、近くの安全な場所で待機してください」などの内容を伝えれば、事前に落ち着いて対応できる。

工学院大学新宿キャンパスが利用している「高度利用向け緊急地震速報」のモニタ画面。左奥の通報システム(白いボックス)で災害対策本部に緊急連絡できる


④地震計で建物挙動をモニタリングする
さらに地震計を活用した建物の「即時被災度判定システム(ヘルスモニタリングシステムなど)」も非常に有効。少なくとも地上1階と最上階に1カ所ずつ、超高層であれば中間階にも設置したい。大きな地震が起きたときは、防災センターや施設担当者が全階の被災状況を調査し終えるだけで数時間以上はかかる。被災度判定システムがあれば即時に建物の構造や室内被害の概要が把握でき、より的確な被災情報を館内放送で伝達できる。大災害時には、救助を求める連絡が来ている階よりも、被害が甚大で連絡さえできない階がある、ということが往々にして起きる。このシステムがあれば甚大な被害が出ている可能性がある階が瞬時に把握できるため、対応の優先順位の判断などにも役立つ。

このほか地震計は、日常的な小さな揺れの建物挙動をデータ解析することで、構造的な疲労破壊の度合いを把握できるため、効果的な修繕計画の策定にも有効に活用できる。将来的には長周期地震動の耐震設計のための貴重な財産にもなる。超高層ビルのような重要構造物であれば、火災報知器が義務化されているのと同じように地震計の設置を義務化するべきである。

工学院新宿キャンパス25階に設置された震度計。最上階のセンサーにより建物の揺れをオレンジの波形でモニタリングしている。モニタ画面の外円の半径が1cm。平時は5ミリ以内の揺れ幅に収まっているのが分かる


⑤将来は長周期地震「速報」に期待
気象庁は2013年3月から、長周期地震動階級の観測情報をサイトで公表している(http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/ltpgm/eq_list.html)。現段階では地震発生の10分〜20分後でしか見られないが、これを緊急地震速報のようにプッシュ型で揺れが来る前に配信通知しようという試みを行う予定である。通常の地震動よりも長周期地震動は遠方にまで伝わるが、ゆっくりと到達するため、十分な時間的余裕もある。運用を開始すれば、都市部の高層オフィスビル・タワーマンションでも非常に有用な情報となり、正しい知識と事前の対策と併せて、余裕をもって対応行動が行えるはずである。

都市型「建物に留まる対策」を


東日本大震災の際、数百万人の帰宅困難者が一斉に帰宅しようとして、都心部では大渋滞・大混乱となり、緊急車両が全く動けない危険な状況となった。このため内閣府や東京都では地震時の際、都心の事業者には建物・室内の安全性の確保や3日以上の備蓄などにより、一斉帰宅の抑制を求めている。ポイントは事態が収束するまでいかに室内に留まり、被害が発生した場合に自助・共助で乗り切ることができるか。

工学院大学新宿キャンパスは28階建て、高さ143メートルの高層ビル。新宿区や地元事業者と連携して「新宿駅周辺防災対策協議会」を結成し、地震時の対応計画や訓練法を毎年繰り返しており、講習会や訓練会場として提供している。特に新宿駅周辺エリアでの人口密集地域に位置するため、帰宅困難者などの混乱防止や2次災害の抑制が大きな課題となる。

協議会では地震時の行動指針を策定し、高層ビル等に留まるための自助の対策、行き場のない来街者への避難場所への誘導、現地本部を中心とする公共交通や一時滞在施設などの情報提供、多数傷病者が出た場合の共助の対応法など、様々な実践的な対策を推進し、毎年、講習・訓練・検証・改善のサイクルを実施している。目指すのは「逃げない、留まれる建物・エリア」。工学院大学では私立大学研究ブランディング事業(文部科学省)の一環として、様々な対策や訓練を実践できるパッケージツールを開発している。年内にも協議会の公式サイト(http://kouzou.cc.kogakuin.ac.jp/ssa_bousai/index.html)等で公開する予定だ。(了)

インタビューに応えて頂いた工学院大学建築学部・久田嘉章教授